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御呪い

この世界には魔力というエネルギーはあるが、それを自在に操る“魔法”という術を使用できる者が存在しない。


その日はいつものように朝がやってきた。

レイはリビングに行くと、壁にかけられた絵画の中でセリシィがあくびしている。

セリシィと暮らし始めて早くも一ヶ月が経とうとしていたが、今になっても絵があくびをするのは少し驚いてしまう。


「セリシィがあくびするのやっぱまだびっくりするかも。」

『あら、いたのね。別に絵があくびしたっていいでしょ。』

「絵ってどうやって寝るんだよ。」

『そりゃ、眠くなったら目を瞑って寝るのよ。』


セリシィと話すことは生活の日課になっていた。

そして、セリシィは度々家電などの動き方を聞いてくる。

何を糧に動くのかとか、どうしたら動くのかとか。

家電は魔力で動く。

そんな当たり前のことをセリシィに伝えれば、簡単に下がってくれるのがセリシィのいいところ。


『ねえレイ、これも家電?』


セリシィはレイがいじるスマホを興味津々に見つめる


「うーん。正確に言えば家電っていうより通信機器かも。」

『そうなのね。』


セリシィが、またひとつ詳しくなった。とでもいいたげに満足そうな表情を浮かべる。


『300年の間にこんなに世界は変わったのね!』

「300年あって変わらない方がおかしいだろ」

『はっ!?そういうところはもっとこう、共感?とかするべきじゃないの!?』

「300年も生きてねーし共感なんてできねえよ。」


セリシィが黙り込んだ。正論パンチが意外と効いてしまったようだ。

セリシィが少しむっとした顔のまま、レイを睨む。


『ほんと、そういうところよ。』

「なんだよ。」


レイは肩をすくめて、スマホに視線を戻す。

その様子を見て、セリシィは少しだけ口を尖らせた。


『ねえ、それ。さっきからずっと触ってるけどさ、楽しいの?』

「まあ、暇つぶしにはなるな。」

『ふーん…』

セリシィはじっとスマホを見つめる。

『私と話すのは楽しくないんだ』

「なんでそうなるんだよ。」

『でも、スマホいじってばっかで私と話すのはどうなの。』

「今も話してるじゃん。」


言い返せず、セリシィは悔しそうに黙り込む。

少しの沈黙。


『……ずるい。』

「またそれかよ。」

『だってそうじゃない。そのスマホはレイに触れてもらえるのに私は触れるどころか絵から外に出ることすら許されない。』

「は?そこ?」

『まあ、別にレイに触れることができなくたっていいのよ』

「本音は?」


ほんの少しの間。


『ちょっとだけ、触れてみたい...』

「思ってんじゃん」

『いや、ちょっとって言ったでしょ!』


セリシィはむっとしたまま、レイを睨む。

沈黙。



『…ねえ』

「なんだよ」

『ちょっとだけ試してみてもいい?』

「なにを?」

『触れるかどうかよ』

「無理だろ」

『やってみないとわからないじゃない』


セリシィはそういって手を伸ばす。


絵の中からゆっくりと、

レイも仕方なく半信半疑で手を出す。

指先が近づく。

ほんの数センチ。


『……』

「……」


あと少しで触れそうで―

触れることはできなかった。


『……っ』

「だよな」


セリシィはそのまま手を引っ込める。

悔しそうに。


『…別にいいし』

「拗ねてんじゃん」

『拗ねてない!』


『でも、まだ私あの約束わすれてないから。』

「セリシィを外に出してあげるやつね。約束したんだし、たとえ一瞬でも出してあげる。」


セリシィが恥ずかしそうに微笑んだ。

魔力しかないせいで、こんなおかしな現象が起きています。

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