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システムソフトウェアの日常譚  作者: ありぺい
第1章 「ガーランドと星の少女」
13/14

敗走

久々の投稿ですが、今回は戦闘シーンがあります。

「ごめんね……。本当にごめんね……。助けてあげられなくてごめんね……」


ガーランドの死体の傍で、ステラは膝を抱えて震えていた。

俺もピアもスタットも、誰一人としてステラの涙の訳を知らなかった。

涙を流す理由がない。命のかかった戦いを、全て作戦通りに遂行し、あまりの強さに長らく放置されてきたガーランドの息の根を止めたのだ。


「おいガキ、どうした!? 何があった!?」


純粋な心配から生まれたスタットの問いには答えず、ステラは膝を地につけたままガーランドに歩み寄ると、その首元に抱きついた。スタットは、目に見えて無視された事にショックを受けていたが、ショックならどう見てもステラの方が上だった。


「ううっ……ごめっ……ごめんね……」


ただ謝罪を繰り返す彼女が見ているものは、紛れもなくガーランドである。呆然とそれを眺めるピアとスタット。俺は、一言だけ声をかけた。


「そいつは……ガーランドは、ステラにとって大切な存在だったのか?」


ステラは振り返り、涙でぐちゃぐちゃになった顔を一度だけ縦に振った。

再びガーランドに抱きつく彼女に聞こえぬよう、俺はピアに小声で耳打ちする。


「なぁピア、何か心当たりは?」

「ありませんよ。一番長い付き合いの私でさえ、泣いてるところは初めて見ました」


状況からわかる事は、ステラはガーランドにただならぬ感情を抱いているという事だ。

そんな時、ひとつの仮説がふと頭に浮かんだ。


――――――もしかして、小さい頃のガーランド育てたのは彼女ではないのだろうか。


そう考えれば、数年前にガーランドが「発生したかのように現れた」という事象に辻褄を合わせる事ができる。

街に侵入するガーランドを誰も目撃しなかった、とパルサーから聞かされているが、そもそもガーランドが街の中に居たと仮定したら?

突然街の中に現れたガーランド。それが、彼女が街の何処かで子供のガーランドを匿っていたせいだとしたら?

パルサーに真実を話せない理由も、そう考えれば納得がいく。

言い方は悪いが、両親を殺したのは自分だと自責の念に駆られているのかもしれない。


でも、仮にもしそうだとしたら、あまりに残酷すぎるという他ない。

ガーランドの育ての親がステラ。この仮説は、出来る事なら考えたくないし、そうであっては欲しくなかった。


「ステラ……」


心配そうに様子を伺うピアだが、俺は黙って見ていても何も始まらないと判断し、ステラに問うた。


「ステラ、俺はお前の兄から事件の真相を調べてくれと頼まれてる。が、絶対にパルサーには話さない。どうか、過去に何があったのか、ガーランドとステラの事について教えてくれないか?」


触らぬ神に何とやら。しかし、目の前で泣いている少女がいる。

それは、剣士としての風格を漂わせる先程のステラではなく、年相応という表現が当てはまる一人の女の子なのだ。

何か悩みや後悔があるのなら、それは誰かに打ち明ける事でしか解消されない。

ガーランド討伐のお礼に足るかは分からないが、恩のあるピアの大切な友人なのだ。何かしてあげなければ、そう思った。


「…………本当?」


ステラは目の周りを赤くし、泣き跡を目尻に伸ばしている。


「本当だ」

「絶対に誓える?」

「ああ誓えるとも。何に誓おうか……よし、この際だ。ピアに誓って秘密は守ると約束する」


俺は堂々と宣言した。


「レイドさん!? いいんですか? 一千万の報酬もこれでパアですよ?」

「いいんだよ別に。どっちにしたってガーランド討伐は達成出来たんだから、そっちの報酬は貰えるんだ。一千万程度でケチケチするつもりもないし、何だろうな……ステラの過去は一千万じゃ計れない何か重要な意味がある気がするんだ」


何の確証もない只の直感と、何かを貰ったら返すという俺の意地がそうさせた。恩を返す。この世界に来てから、俺はもらってばっかりだ。

ピアには食事や寝床に関する事を助けてもらい、この世界の事を教えてもらい、更にはこんな危険な旅にまでついてきてもらっている。

ステラにも、生き死にギリギリの危険な戦いの協力をして貰っている。

スタットからはいろんな知識をもらった。この世界の常識は、ここに来るまでの馬車の中で相当覚える事ができた。


何とかして、少しでもいいから返したいのだ。

それは俺の意地であり、ポリシーと言って差し支えない。


「レイドさんがそういうなら止めませんけどね」


ピアもあっさり承諾してくれる。

パルサーに嘘をつくのは心苦しいが、物事には優先度というとのがある。

そして、ステラの為という建前の裏に隠れた知識欲。

知りたいのだ、不可解な事件の真相を。


結界のある街の内部に、突如として現れたガーランド。

血痕も死体もない殺害現場。


その真相を、彼女が一人で背負っている。


「さあ聞かせてくれ。話せばスッキリするだろう」

「ありがとうレイド。実はね、お母さんとお父さんを殺してのは……ガーランドだけどガーランドじゃないの」

「やっぱりな、そうじゃないかとは薄々思っていた」


これはいよいよステラがガーランドを匿っていた説が濃厚になってきた。

恐らく次に続くステラの言葉は、「私のせいで両親が――――」だろう。

そしてそれを俺たち三人で慰めれば、この件は平和に終わる…………はずだった。


「お父さんとお母さんを殺したのは、帝国一級指名手配犯のクソ野郎よ」

「それってもしかして……」


何かを理解した様子のピア。

当然のようになんのことかわからない俺は、ピアに尋ねた。


「帝国一級指名手配犯? 誰だそれ」

「おいおいおいまじかよ。冗談じゃないぜ。なんか俺、どんどんやばいヤマに足を突っ込んでるんじゃないのか?」


俺の質問を無視して、一人で顔を青くするスタット。


「なんだなんだ。説明も無しにお前らばっかり勝手に納得してくれちゃって。全然分かんないままなんだぞ、こっちは」


一気に蚊帳の外に追いやられたが、俺はお構い無しにその網を破った。

帝国一級指名手配犯?

そんな物騒な奴が、なんでステラの両親と弟を……?


「レイドさん、『災悪の術式職人』ってご存知ですか?」

「無論、ご存知な訳がないじゃないか」

「密入国のレイドさんは知らないかもしれないですが、帝国で何度も凶悪犯罪を繰り返す一人の術式職人がいるんです。手口は巧妙で、名前通り「術式」系統の魔導はもちろんのこと、「スキル」系統も駆使してなんの証拠も残さない事で有名なんです」

「そんな奴の存在が、なんで周知の事実になるんだ?証拠がないならそいつだって分からないじゃないか」

「いえ、発覚自体は何度もしているんです。一番最近の事件だと、帝国のサーカスに単身で乗り込んで壊滅状態に追い込んだという事がありました。さらに前はパレード襲撃。その前は魔導学校襲撃ですね。その全ての事件で、犯人は『災悪の術式職人』を名乗っているのですが…………」

「ですが?」

「毎回、容姿が変わっているんです。だけど、あまりに卓越し過ぎている魔導技術から同一人物だと判断されているんです」

「なるほど、変装のプロ……と」

「はい。もしくは姿を変える術式があるのではというのが、帝国の見解です。まぁ、姿を変えれる事は極秘にしてくれと頼まれているので、どうかオフレコで」

「なんでそんな極秘情報をピアが知ってんだ?」

「それも極秘です。言うと色んなところで角が立つので」


ゴメンのジェスチャーで口を閉ざしたピア。何があったかは気になるが、今の話は結構な考察材料になり得るのではないかと思った。

普通に考えて、実に、厄介な相手だ。

姿を変えるという事実は、人々の不信感を高めるには充分すぎる。

理由は言うまでもない。自分の隣にいる家族が、もしかしたら姿を偽装した犯罪者かもしれないとなったら、一体誰が安心出来るというのだ。

その事実をひた隠しにしている帝国の判断は評価すべきものだろう。

そして、それが指し示す可能性は……


「じゃあ、もしかしたらこの中に『災悪の術式職人』がいるかもしれないってことか?!」

「有り得なくはない話です。ないとは思いますが」


スタットの指摘に、一切の否定を見せないピア。

まぁ俺もないとは思うが、そんなおそれもゼロではない。

成り行きが大半とはいえ、ここまで一緒に戦ったんだ。仲間と言って差し支えないし、信じるのが筋だろう。

そんな事より、今はガーランドを育てたのがステラでなかった事を喜ぶべきだろう。ステラがガーランドに肩入れして涙まで流す理由探しは振り出しに戻った訳ではあるが。

そんな事を思っていたら、ピアとスタットとステラ、全員の視線が俺に向いてる事に気づいた。


「なんだお前ら、そんなまじまじと。顔にゴミでも付いてるか?」

「レイドさんって確か密入国って話でしたよね」

「えっ」


ピアの言葉に鼓動が跳ねる。


「その上住所不定で、記憶喪失と」

「待て待て待て待て!!ピア、何が言いたい!!」

「この中で『災悪の術式職人』が居るとしたら、間違いなくレイドさんが一番怪しいですねぇ……」

「違うからな!? 俺を疑うのか? ここまで来て!?」


確かに怪しさなら頭一つ抜けているのかもしれないが、半月程行動を共にしているピアの指摘となると、流石に心にくるものがあった。


「そういやレイド、お前って女の癖に一人称が『俺』じゃねぇか! まさかお前が……」

「ちがう!これは……その……ポリシーだ!個性だ!無個性で生きるのがいかに悲しい結果を招くか、俺は前住んでた……いや住んではないか、記憶があるだけだし。ともかく、日本って国ではそうだったんだ! これは立派な個性だ!」


必死の弁明。

PN4の頃より前の記憶がない俺には、反論の余地すら残っていない。今ここで言えるのは、「信じてくれ」だけだ。

そんなやり取りを見ていたステラが、とうとう口を開いた。


「レイド……」

「違うぞステラ! 俺は正真正銘レイド・オービスだ! お前の親の敵なんかじゃ誓ってないからな!怪しいのは否定出来ないけど、俺が今までの人生で殺したのは薄汚いスライムだけだ!」

「ふふっ、はははっ、あはははは!!」


ステラはさっきまでの涙が嘘のように笑っている。

この時、俺は初めてピアの意図を理解した。


「レイド、やっぱあんた最高に面白いね」


俺としては笑い事ではないが、ステラの重い雰囲気はさっぱり無くなっていた。

泣いたり笑ったり忙しい奴だ。


「なんか、ちょっと楽になった気分」


なにか胸のつっかえが落ちたのだろう。ステラはどうやら落ち着いたようだ。俺達の騒ぎは、予想外の部分でいい結果をもたらしてくれた。

しかし、この状況まで読んで俺を疑ってかかったなら、ピアはなかなかの策士である。


「もう察してるだろうけど、私とガーランドには色々因縁があるの。今日でさっぱりさせたいから聞いてくれる?」

「もちろん、もとよりそのつもりだ」

「ありがとう。実はね……」


ステラが何か言いかけたその瞬間。


「ヴヴヴォォォォォア!!!!」

「「「「!?!?」」」」


叫んだのは四人の内の誰でもない。

声から一瞬で全員が理解した。


――――――ガーランドは死んでいなかったと。


「ヴォォォオ!ヴヴヴォォォォォォォォォオ!」

「まずいっ!馬まで走れ!!」


何故だ。

間違いなく衝撃術式はガーランドを貫いたはずだし、その威力は到底生物が耐えうるものではない。首元を吹き飛ばされたなら尚更だ。

モンスターの内臓等は、魔粒子が主食であり、その吸収の補助に使われる臓器が多い事を除けば、普通の生き物と大差ない。呼吸も必要であると聞く。で、あるならば、間違いなくガーランドは死んだのだ。なのに、奴は猛り狂いながら、地団駄と表現するにふさわしい動作で足音を響かせている。


「おかしい……倒せない筈がないんだ。倒せない筈が……」

「レイドさん、何をぼんやりしてるんですか?! 一旦逃げますよ!!」

「あぁすまん、今行く!」


幸い、ガーランドはまだこちらに注意を向けていない。

ただ暴れているだけである。

退路の確保の事も考えて馬を配置したのが、いい結果に結びついた。

後は走って馬車のところに向かえばいいだけである。


しかし、問題というのは不幸な時にこそ増えるものである。

俺の目に映ったのは、ガーランドに向かって駆け出そうとしているステラの姿である。


「おい!正気かステラ!」


俺はステラを引き留めんと、咄嗟に腕を掴む。

しかし、少女とも思えぬ凄まじい腕力で、簡単に振り払われてしまう。本当に人間なのか疑ってしまうほどだ。

ピアもステラを連れ戻そうと、その後ろを追いかけはじめてしまった。

スタットは俺達を待つ為に、馬を待機させてくれている。


まずい、このままでは…………


「ステラ、戻れ! このままじゃ全滅だ!」


足を止めるステラ。

全滅。

この意味を理解できるくらいの冷静さが残っている事が唯一の救いだった。

ピアが、立ち止まったステラの腕を引き、何とかもう一度ガーランドとの距離をとる。

ピアが俺に追いつくのを待って、再びスタットと馬車の場所を目指す。


「おいっ、ステラ! 何する気だったんだ!」

「私は苦しまないように、一撃で倒せるように……そう思ってたのに……。表面の装甲も……出来るだけ外だけ削って痛くないように……だけど、あの子は……あんなに苦しそうに……」


ブツブツとなにか呟きながら、再び目に涙を浮かべているステラ。せっかく前向きになったと思ったら、ガーランドの復活と反比例して一気に落ち込んでしまった。

まるで、忘れたい事ともう一度向き合わなければいけなくなったかのように。


ガーランドとステラとの関係が聞けずじまいだったから分からないが、彼女はどうやらアレを倒す際の苦痛まで考慮して戦っていたようだ。

死ぬ時も、決して長くは苦しまないように。だからこそこの作戦を選んだのだろう。

そして、ガーランドが復活した時に真っ先に思い浮かぶのが、保身でなく討伐対象への懺悔というのは信じられないような話である。


「レイド!! 早く乗れ!!」


一足早く馬のところで待機していたスタットが、両手を振って居場所をアピールしている。

しかし、馬はいるが肝心の馬車が見当たらない。


「スタット、馬車はどうした!?」

「捨てたよあんなもん!引いて逃げれるわけねぇだろ!二人づつ馬に直接乗って逃げろ!」

「いいのか? 商売道具なんだろ」

「いいわけねぇだろ! だけど、命あっての商売だ!」


これが平時なら、スタットの思い切りのよさをこれでもかと賞賛し、絶体絶命に限りなく近い状況でも仲間を見捨てない人間性を褒めちぎった事だろう。

しかし、今はそんな余裕はない。しかも、俺にはひとつ経験不足な事があった。


「せっかくの配慮に感謝したいところだが、俺は馬なんて乗れないぞ?」


ステラとピアに視線を投げる。それは、もう本当にどうしようもない状況の中で、希望にすがるかのようなアイコンタクト。

しかし帰ってきた答えは絶望的なものだった。


「期待に添えなくて申し訳ないですが、私も無理です!」

「私も………馬は無理」


軽くパニック状態のピアと、完全にナイーブ状態のステラ。

状況は最悪極まれり。


「あーっ!もうしょうがねぇ、白鳥丸をくれてやる!こんだけいい馬なら多少下手くそでも何とかなるかもしれねぇ!あとは運だ! ピアちゃんとレイドは白鳥丸に乗れ。ステラってガキは俺が運んでやる」


ステラをスタットの乗る栗毛の馬に乗せると、俺とピアは白鳥丸にまたがった。

馬の操作の仕方なんて分からない。が、PN4時代に動かしたゲームでは確か、馬の腹を足で蹴り飛ばしていた。記憶力は数少ない俺の誰にも負けない特技だ、間違いない。


「しっかり掴まってろ!」

「はいっ!」


振り落とされないように手綱を握りしめ、踵で馬の腹を蹴り飛ばす。馬の悲痛そうな叫びに済まないと思いながらも、何とか逃げ切ってくれと祈った。俺に出来る事は何とか生き延びれる方向に操作する事だ。


「やべぇぞ!やっこさん、こっちに気づきやがった!」


ガーランドは一度こちらを目視で確認したが、すぐには襲ってはこず、その前に放置した馬車に向かって走っていった。

そしてそれを、これでもかと踏み潰し始めた。


「ああぁぁぁあ!俺の馬車がぁぁぁあ! 後で戻ってきて回収するつもりだったのにぃぃ!」

「言ってる場合か!」

「ああもう!わかってる……分かってるよ! 逃げるぞ!付いてこい!」


スタットは馬車を見捨て、先導として栗毛を走らせる。

起伏の多い道を上手い具合に進むスタットは、やはりプロなのだろう。普通に馬で進むと困難を極める道の中から、俺達でも進む事が出来る道を選んで走っている。


驚くべきなのは俺の方だ。

自分の乗馬センスに正直驚いている。

事故を起こすどころか、スタットの馬より遥かに華麗に走り、とうとう追い抜かしてしまった。


「おいレイド! 何が馬は乗れないだこの野郎! 非常時につまんねー嘘ついてんじゃねーぞ!」

「嘘じゃないんだって! 俺の生まれ持ったセンスが凄まじく………凄まじかったんだ!」


あとに続く台詞が思いつかず、語彙力の無さを披露しながらの敗走。先導の代打として、スタットの代わりに先頭を突っ切った。


森林に向かって、馬二匹と四人が走っていく。

その後ろ姿を眺めながら、何故か、ガーランドは襲って来なかった。


もともと寝不足の日の気まぐれから生まれたこの作品でしたが、いつの間にかメモ一冊使い切るほどプロット等が溜まってしまう程になりました。


楽しいです。

それと同じくらい楽しませたいです。


まだまだ未熟ですが、どうか宜しくお願いします

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