008_2年後
「本当に、行っちゃうんですか?」
「ああ、あっちでやる事もあるしな。そこそこ戦えるようにもなったし、ゴーレムの勉強も十分出来た。」
「そこそこ?いやいやありえないですよ、本来ならBランク、いやAランクでもおかしくない実力ですよ?それを毎度毎度理由をつけて、昇格試験を断って」
「んー、そうだっけ」
「そうですよ!本当ならこの街で高ランクになって頂いて、ぜひ当ギルドへ貢献して頂きたかったのですが」
「まぁ、また遊びにはくるよ」
「じゃ、じゃあ、せめてエメちゃんだけでも!」
「それはダメだ!唯一の相棒だ。エメだけは他のゴーレムとは違うんだから」
「うぅー、そんなぁ。うちの冒険者達もエメちゃんの事気に入ってるんですよ」
後ろからそうだそうだとガヤの声が聞こえる。
「私がマスターの側を離れる訳には行きません」
「エメちゃんまで…」
「まぁ、そういう事だ。それに残念ながら時間だ。馬車が来ている」
「必ずまた来てくださいよ!約束ですよ!」
「ああ、分かった」
俺はギルドを出ると馬車へと向かう。
隣には、可憐な女の子が歩いている。
年の頃は15,6だろうか。
身なりは簡易的なレザーアーマーにブーツ。
駈け出しの冒険者のような身なりだ。
だが、彼女はゴーレムだ。
人そっくりに作られているが、その皮膚は鋼よりも硬い素材だ。
表情は変わることなく、たった一つの表情のみ。
喋る時も口は開かず、口元から音が出るだけだ。
それでも、彼女はこの街から人間よりも人間らしく扱われている。
「マスター、嬉しそうですね」
「ん、そうか?俺はやる事をやるだけだ」
「念願でした、マスターの」
「ああ、そうだ。復讐の始まりだ」
馬車に揺られ、ウィレームの街へと戻った。
この街へ戻るのは2年ぶりだ。
懐かしい。
そしてここから始まる。
俺は2年で、ゴーレム錬成の腕を上げ、さらに戦える力を身につけた。
エメも前のようなブリキの体じゃない。
十分に戦える。
「お客さーん、着いたよ」
「ああ、ありがとう」
馬車の御者に運賃を渡す。
とりあえず行く場所は決まっている。
自分が住んでいた家だ。
「懐かしいな…」
俺がウィレームの街を離れ、隣街のハノンの街へと行った2年間。
ここには誰も入ってこなかったようだ。
てっきり『風の手』かその辺がガサでも入ったかと思ったが、そんな事はなかったようだ。
あのダンの事だ。
終わった事に逆に手を突っ込んで、自分達の行いがバレてしまうのはまずいのだろう。
「ジジイ…、悪いな、俺は復讐の道へ走る」
「マスター。すみません、少し一人にしてもらってもよろしいでしょうか?」
エメは本当に人間のように行動する。
自分で考え、自分で行動する。
彼女なりにこの家へ思い入れがあるんだろう。
「ああ、外で待ってる」
「ありがとうございます」
「ここで生活するなら、工房も欲しいし拠点が欲しいところだが…」
とはいえ、ここで生活しているのが人に見つかったら、『風の手』を追い詰める計画がバレてしまうかもしれない。
あいつらを一人残らず殺すまでは、宿で腰を据えるしかないな。
「お待たせしました」
「もう大丈夫か?」
「はい」
俺らは街の中心地へ向かい、空いてる宿屋を探す。
「うちかい、空いてるよ?1部屋につき、銀貨5枚だ」
「ああ、1部屋頼む」
「ん、彼女とは相部屋でいいのかい?」
「ああ」
「そうかい、湯はいるだろ?銅貨5枚で用意できるがどうするね?」
「一つ頼む」
「え、お前さんは湯は使わないのかい?」
「いや、俺が使うんだ」
「彼女に湯を上げないのかい?」
「あー、大丈夫だ。そういう体質なんだ」
「はい、その通りです」
「はぁー、驚いた。これは人間じゃないんだね?」
「ああ、そうだ。内緒にしててくれよ。ちゃんと彼女の分の金は払う」
「分かったよ、約束だ。ご飯もいらないのかい?」
「ああ」
「いやぁ、驚きだよ!!昔、この街にもゴーレム錬成士がいてねぇ、思い出すよ」
「そうか、問題ないなら部屋にあがりたいんだが?」
「あー、大丈夫だよ!」
部屋に入り、ベッドへと腰掛ける。
「フゥー」
「お疲れですね、マスター」
「ああ、あんなにも喋る人だとは」
どの世界もおばちゃんという生き物は大変良く喋る。
自分が口下手だというのもあるが。
「さて、ゴーレムの錬成を始める」
俺は大量の魔石と素材をアイテムボックスから取り出す。
「本来なら擬似錬成でやりたいが、諜報には向かないからな」
俺はぶつぶつ言いながら、次々とゴーレムを錬成する。
ただのゴーレムではない。
指サイズのゴーレム。
このサイズなので最低限の機能しか与えられないが。
数は50体。
「よし、こんなものか。行け、お前達」
小さいゴーレム達が一斉に動き出す。
小さすぎてぱっと見はゴキブリの大群に見えるから気持ち悪い。
ドアや窓の隙間からそれぞれ飛び出していく。
先ほども言ったとおり、虫とかと勘違いされては困るからひと目に着かないように動くよう命令してある。
「ゴキブリみたいですね…」
「言うな」
ミニゴーレム達は街の色々な所に散っていく。
彼らが見聞きした事はパスを繋いでる俺へ情報が伝わってくる。
パスは魔力の通り道だ。
それが途切れない限り、ゴーレムたちから情報を手に入れられるし、有事の際はゴーレムを操作する事も可能だ。
試しにと、ハノンの街を出る時に街に残したゴーレムとのパスが切れないか試したが、さすがに街ひとつ分離れるとパスは切れるみたいだ。
もっとレベルが上がれば変わってきそうだが。
数日は特に情報は得られないかと覚悟していたが、早くも翌日には一つの情報が手に入った。
「何か分かりましたか、マスター?」
「ああ、ダンを見つけた」
ミニゴーレムの一体(36号)が、ダンを見つけてくれた。
36号はダンの後を追いかけると一軒の家へと入っていく。
「奴の家か…」
扉の隙間から36号は家の中に入っていく。
「おかえりなさい、貴方」
「ただいま、イリス」
ダンは誰かと一緒に住んでるのか。
「あいつは…!」
「マスター、顔が笑っています」
「そうか、フフフ。いや、おもしろい相手を見つけた」
「おもしろい相手?」
「ああ、この街の受付嬢だ。あいつ、ダンと結婚したらしい」
36号からの情報で彼らの薬指には指輪がはまっているのを確認した。
俺はしばらくあいつらの会話を聞いていた。
「ふう」
「どうでした?」
「ああ、上々だな。まず『風の手』は解散したらしい」
「解散…ですか?」
「ああ。だが、ダンもタージュもこの街にはいる。おそらく残りの二人も近くにいるだろう」
タージュはともかく、残りの二人は俺がハノンの街で知ったことだがあいつらは犯罪者だった。
ギルドで手配書を確認した。
だからあの時、街には入らなかった。
いや入れなかった。
しかし、そうなると町の外であいつらを見つけなくてはならない。
ミニゴーレムのうち、20機を街の外周へと出す事にする。
「まだだな…、もっと背後関係を調べてからじゃないと」
「??」
「あいつらへ絶望を与えられないな、ククク」
「マスター、顔が邪悪に染まっています」
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「ちっ、ダンの奴は今頃家で嫁といちゃついてるのかよ」
サボーは一人で街の外で野営をしていた。
一年前程だ、ダンが突然結婚するって言ってきやがった。
最初は何を言ってるんだ、こいつはと思ったが、あいつのああもう幸せそうな顔を見たらとやかく言うのがめんどくさくなった。
それに俺へのメリットもあった。
結婚したのは、ギルドの受付嬢だ。
何でも嫁を通じて、ギルド長への推薦が始まってる。
ここでヘマでもすれば、その話はなかった事になる。
例の仕事はタージュが引き継いだ。
正確には、ダンが率先してこの仕事を受けるのがまずいという事だ。
くそ、なのに上がりは俺にもよこせってめちゃくちゃじゃねーか。
「けど、あいつがギルド長になれば、俺の犯罪履歴も消せる。晴れて街を歩けるようになるわけだ」
色々と悪事に手を染めた。
それこそ、人に言えないことばかりだ。
「腕は悪くねぇ。犯罪歴が消えたら、全うに冒険者やって生活してやる」
ささやかだが、外道に落ちた俺の僅かな夢だ。
「明日だったな。タージュが適当なクエスト受けて、新人を連れてくる…か」
そっと顔に手をやる。
「おっと、いけねぇ」
明日の事を考えると、思わず笑みがこぼれていた。
どんな奴が来るのか、楽しみだ。
商人の護衛と偽り、商人から剥ぎ取りや、頭の悪そうな女を攫って人さらい。
どれもおもしろいが、一番楽しいのは新人殺しだ。
新人は大抵が、冒険者に憧れをもって、いきがってる奴が多い。
自分の力は未熟なのに、俺らといると自分が強くなったように感じる。
ククク、そういう奴をからかいいじめ抜いて、自分は耐えた!強くなってる!と思った所を、ぶっ殺すのは最高だ。
そういや、いつだったか最高な奴がいたな。
良く分かんねぇ、ガラクタの人形を大事にして。
「あれ、早かったですか?」
「あ?誰だ!?」
町の外で、夜にありえない気配を感じて俺は警戒する。
「あー、すいません。サボーさんですよね?」
「誰だ、お前は!?」
「ごめんなさい、タージュさんに聞いて、外にサボーさんがいるからそこに行けって」
「タージュだと?」
「はい、明日からのシルバーウルフ討伐クエストに同行させてもらう新人です」
「新人?まだ夜だぞ?」
新人だと?
こんな時間に?
こいつは相当なアホだ!
だが、ちょうどいい。
こういう手合をいじめ抜きたいと思っていたところだ。
「あはは、初めてのクエストなんで寝れなくて。それにサボーさんは外にいるからって言われたら思わず来ちゃいました」
「くくく、そうか、お前か!」
「はい、よろしくお願いします」
「そうだ、もっと近くに来いよ。火の近くのほうが暖かいぞ」
「えぇ、そうさせてもらいます」
ドアホの新人が近づいてくる。
年は15,6か。
男だが、純真そうな顔してるぜ。
ん?
どっかで見たような気もするが、関係ない。
最後には泣きっ面を拝めるんだからな。
「自己紹介がまだでしたね、僕の…。いや俺の名前はアイン」
「え?」
気付いた時には遅かった。
足にナイフが刺さっていた。