065_終息
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「お久しぶりです、陛下」
「懐かしいな、我が友ガルフよ」
「その名は捨てました。今はファントムと名乗っております、陛下」
玉座の間。
そこには息絶えた近衛兵の死体が転がる中、皇帝とファントムは邂逅していた。
「なるほどな、このような方法で余を追い詰めるか。見事だな。さすがはかつて余と共に覇道を歩んだ者だ」
「恐れながら陛下。臣下は陛下を信奉しておりません。そればかりか恐怖で縛り付け、恐れております。そこに私が付け入る隙はいくらでもあった。元老院に近衛兵。私に協力してくれる方はどこにでもおりました」
「くっくっく、ははははははは!!天晴だ。余が恐怖なら、お主は温和で来るとはな。実におもしろい」
「もう良いではありませんか、陛下。時代は変わるべきなのです。陛下は見事に皇帝となり、その責務を全うした。ここまでの大国に出来たのは偏に陛下のお力」
「力か…。確かに余は力を求めた。それにお主やセルビアナがいたおかげでもある」
「ええ。このまま貴方の名は歴史に載るでしょう。ですがこれ以上の愚行は、自ら歴史を貶める事となります。もうお子もおります。帝位を外されてはどうでしょう」
「なるほど。綺麗に歴史に載りたくば、ここで殺されよと申すか?」
「いえ!違います、陛下!」
「どういうつもりだ、ファントムよ」
「陛下…。私は貴方に殺されかけ、ファントムとして帝国へ戻った今も貴方の臣下でございます。だから申し上げてるのです」
「何、まだ余に忠義を尽くすというのか?」
「その通りでございます。私の忠義は皇帝である貴方ではございません、友であるアグニスとして忠義を尽くそうと思っております。かつて私は似たような事を進言して、貴方に殺されました。ですが何とか拾った命、再び貴方を止めようと思ったのです」
「懐かしいな。あれは確か、余がローラを殺した時であったな」
ローラという名にファントムは僅かに反応する。
「今でも分かりません。先代王妃であるローラ様を何故殺したのか。あれを見て、グレイ様は貴方からの離反を決めた」
「グレイか。貴公が焚きつけたか。だが、余に反乱するとはその覚悟は褒めてやれる。貴公は次の皇帝に彼奴を推すのか?」
「いえ、殿下の目的は貴方の命。帝位に興味はございません。譲るならばヘンリー様かと」
「いい筋書きだ。グレイもそのつもりだとはな。ヘンリーに全てを譲り、逆賊は散り散りに。そして余は死したと報じる腹積もりだろう」
「その通りでございます。グレイ様が城を落とすのも後僅か。その前に脱出を図り、帝国は生まれ変わるべきなのです」
突如として皇帝は拍手をし始める。
二人しかいない玉座ではその音はかえって響き渡る。
謎の行動にファントムは驚いてしまう。
「い、一体…?」
「余は感謝しておるのだ。良くやった、ファントムよ」
「どういう事でしょう…?」
「この玉座は飾りではない。この飾られた椅子は、真ただの椅子でしかない。それなのに幾人もがこれを巡って争いを行い続けた。これはただの椅子なのにな。今やそれは業となり、血の玉座となった。余もまた然り。この血の玉座を求める為、友を、兄弟を殺した」
「へ、陛下?」
「業は業を深め、血は血を求める。だから余は考えたのだ。如何にすればこの玉座は満足するのだとな。…血の門。人が人を喰らう為の呪法。余はこれをこの玉座に施した。この帝都、帝国で起きる戦で死んだ者は全てここへ集約される」
「なにを…仰ってるのですか、陛下?」
「分からぬか?呪法を完成させる為、余はローラを殺し、エレノアを殺して業を深めたのだ。後は戦でたくさんの人死があれば呪法は完成する。そうなれば余は更なる力を手にするのだ」
「陛下…、だからその為に反乱を放置なされておられたのですか?」
「くくく、業を血を刻むために一役買ってくれた事、感謝しておるぞ」
「陛下…!?」
「我が友の事も忘れぬよ。しかと余の手でこの玉座に刻もう」
「陛下ぁぁぁぁっ!!」
「もっとだ、もっと矢を放て!!」
「魔法部隊はどうした!?」
「敵の動きが素早く、狙いを定められません!」
「当たらなくてもいい!牽制になればいいのだ!」
城はグレイの率いてきた第3軍に包囲されていた。
城の衛兵達と、駐在していた第2軍が必死に前線している。
「おいおーい、こんなものか!?エリートって呼ばれた第2軍もこんなものか!?」
「がははっ、荒事は俺達の専門よ!何事もスマートにこなしてしまうヘンリー様じゃ、こんなジリ貧の戦いに慣れてないんだろうよ!」
挑発とも取れる発言で敢えて、第2軍を煽る。
「おのれ!!あの痴れ者共を叩きに行くぞ!」
「馬鹿が、真正面からやり合えば俺達を倒せるとでも思ったのか!?」
第2軍の精鋭達が、敵を殲滅しようと突撃する。
だが、第3軍の様子がおかしくなると叫び声が上がる。
「て、敵が魔物に!?」
「うわぁぁぁぁー!!」
「化け物ーーー!!」
「がははっ、魔物か。間違っちゃいねぇけどな!グレイ様は俺らを魔獣兵と名付けたぜ!」
魔石を埋め込まれ、[獣化]スキルを植え付けられた者達が変化し始める。
彼らは[獣化]によって得た力でさらに暴れまわる。
「化け物め…」
「その化け物達にお前らは殺されるんだよ?」
魔獣兵の登場により、戦況は一気に第3軍へと傾く。
彼らの力もそうだが、人間とはかけ離れた容姿が余計に兵に恐怖を与えてしまう。
「駄目だ…、城は落とされてしまう」
「俺達じゃ、あいつらに勝てる訳ない…」
「すみません、ヘンリー殿下」
「がははっ、ここで無様に死んで行けっ!!な、何だお前は!?ぐはっ!!」
「やれやれ、すごい事になってるね」
「何をしている貴様ら!?立て!敵はどこにいる!?目の前だぞ!」
突如として現れた二人組は魔獣兵を仕留めると第2軍へ向け、激励をする。
その声を聞いた者達は目の色を変え始めた。
「おお!!ヘンリー様とレオ将軍が戻られたぞ!!」
心が折られそうになっていた兵達は思い出す。
自らの大将の姿を。
二人が戻った途端に第2軍は息を吹き返した。
「ちっ、何だこいつらいきなり!?」
「如何なる相手でも我らは屈しなかった!いつもその先に勝利があるからだ!我に続けぇぇぇえええ!」
怒声を放ち、兵を束ね始めたのは第2軍の将軍の一人であるレオだ。
武将としても戦術家としても名高い彼は、兵の士気をあげると共に自らも臆する事なく魔獣兵達へと突っ込む。
「さぁ、前線はレオが上手くやってくれる。僕らは彼という剣を活かして勝利を奪うんだ。魔法部隊よ、ここに!」
「「「はっ!!」」」
ヘンリーは前線で戦う事をしない。
彼は元来、剣の才能には恵まれなかった。
それはけして人より劣ってるという事ではない。
人並みなのだ。
ヘンリーは自らそれを理解し敢えて、剣を置き魔法に励んだ。
その結果、帝国でも屈指の魔法使いとなりそして彼が自ら率いる魔法部隊を設立させた。
「左翼、敵が雪崩れ込む。一気に行くよ」
「ちぃ、たかが魔法で!?」
「くそ!!こんなこけ脅しに!!」
「ひぃぃぃぃ、やめろ!!」
ヘンリーとレオの帰還により、第3軍は劣勢を強いられ徐々に兵力を落とし始めた。
暴走する魔獣兵も、事態の変化に戸惑い中には勝手に戦線を離れ逃げ出す者も現れ始めた。
「見よ、我らの勝利だ!!勝どきを挙げよ!!」
「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」
結果、第3軍は撤退をする。
その様相に暴徒となったレジスタンスも逃げ始める。
こうして帝都を揺るがしたクーデターは終息を迎えた。




