064_紅蓮に燃える帝都4
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アイン達が住む屋敷が燃えていく。
屋敷に火を放った連中は、アーノルド達、元聖エルス騎士団と戦っていた。
「どこの部隊だ、貴様達!!」
「ちっ、貴様らがいるもんだからてっきりあの男は戻ってると思ったんだがな」
「アインが目的か!?」
「なら、居場所を教えてくれるのか?」
アーノルドは敵の部隊を率いるリーダー格の男と対峙していた。
その男はまるで狼のような鋭い目つきをしていた。
「歳だからと言い訳はするなよ?私と戦うつもりならもっと死ぬ気でやるのだな」
「私が押される…?ここまでの実力を持っていて名を馳せぬ訳がない!」
「頭は回るようだな」
アーノルドは距離を取る。
長年培った経験だからこそ、距離を取るべきだと分かっているのだ。
自分より格上の相手に無謀に突っ込むのは死を招くと。
「どういう事でござるか。目的はゴーレム錬成士の始末。これは我々の作戦。必要以上な殺戮をするとは」
「分かっていないのはお前達だ。私の目的はゴーレム錬成士とそれに関わりのある者を全員殺すという事だ」
どこからか、レジスタンスの一人であるバースがやってくる。
バースは狼のような目つきの男に詰問する。
「全員でござるか。まるでこの世に存在しなかったと言いたいようでござるな」
「その通りだ。ゴーレム錬成士という人類においての、異端。それを存在させてはならない。知られてはいけないのだよ、人にそのような可能性があるという事を」
「まるで神のような発言でござる。それがお主達の…」
「それ以上の問答は不要だろう。バースと言ったか、お前もすべき事をするんだな」
男はバースにそう伝えると、無理やり会話を切る。
この男にとって目的を達成させる事が何よりも優先すべき事なのだ。
「クロエ殿…、どうかお逃げを」
「…裏口は駄目そうです。彼らの仲間が見張っています。他にはこの屋敷の出口はありません」
「ならば、私が道を切り拓く。その隙に何とかして逃げるのだ」
「…アーノルドさん。死ぬ気なんですか?」
「この命、ソフィア様の為に使うと決めた。ソフィア様が命じた事なら、命を使ってでも為さねばな」
「ダメです!どうにか一緒に逃げましょう!」
「ありがとう、クロエ殿。出来る限り善処しましょう」
二人は約束する。
共に仕えるべき主の元へ帰る為に。
アーノルドは襲撃者と向き合う。
自分が連れてきた、仲間はほとんどがやられてしまった。
数でも実力でも彼ら襲撃者の方が上回っていたのだ。
長年連れ添い、共に戦ってきた仲間達が次々と殺されていくのを見て、狂おしい程の感情に飲み込まれそうになる。
だが、それでも先ほどの言葉の通り、自らの主の為、ソフィアを守り切る為、必死に感情を抑えこむ。
「うおおおおぉぉぉぉ!」
「ふん」
「くっ!!」
アーノルドの一振り。
剣の道に生きると決め、欠かさず鍛錬を欠かさない事で編み出されたアーノルドだけの剣技。
それは基本に忠実で、故にどんな型にも対応できるもの。
これだけの研鑽を重ねた技であっても、この男の方が上であった。
「名を聞こうか」
「アーノルド。ソフィア様に仕える、聖エルス騎士団団長だ!」
「そうか。私はギルトール。故あって、素性は明かせぬが貴様の名は刻んでおこう。立派な剣士よ」
いつものようにアーノルドは剣を構える。
次の一手。
それで決まる。
不思議とそう分かっていた。
頭はクリアになり、呼吸の音だけが鮮明に聞こえる。
この屋敷でなく、帝都中では怒声や悲鳴が鳴り止まなかった。
なのにこの場だけ、アーノルドだけはとても静かに感じていた。
「はああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「来るか…。来いっ!!」
一瞬。
互いの剣が交差した一瞬で終わった。
ギルトールの頬からは赤い線が入り、そこから血の雫が溢れていた。
アーノルドはゆっくりと膝を着く。
「無念…」
ギルトールの鋭い剣閃が、固く分厚いアーノルドの甲冑を斬り裂き、内蔵にまで刃は届いていた。
「アーノルドさん!!」
「次は小娘の番だ。貴様はあのゴーレム錬成士のメイドか?…いや奴隷か」
「アーノルドさん、起きて!!一緒に行きましょう!!」
「無駄だ。そいつはもう死んでいる。それにこの私がお前を逃すはずはないだろう?」
「…なんで、こんな事するんですか!!アーノルドさんは関係ないのに!殺すなら私を殺せば良かったのに!!」
「もっと奴隷は虐げられているものかと思ったが、お前は違うようだな。余程お前の扱いが良かったようだな。安心しろお前の次に、主人も送ってやる」
ギルトールは迷いなくクロエへ向け、剣を振り下ろした。
だが、思わぬ結果となる。
ガキンッ
「これは…!?そうか、その鎖。ゴーレムか。ちっ、このような物まで造り上げるからゴーレム錬成士は面倒なのだ!」
「ご主人様を殺す?ふざけないで下さい。何のために私がいると思ってるんですか。私が死んだとしても、貴方も道連れにします!!」
「ちっ、調子づくなよ、奴隷がっ!!」
クロエの鎖がギルトールを倒そうと、縦横無尽に動きまわる。
それは時には鞭のように、または生き物かのような動きでギルトールを追い詰める。
「ちぃぃぃっ!!」
奇怪な動きに最初こそ戸惑い後ずさってしまったが、すぐにギルトールは立て直す。
「そんな?」
「えぇい、鬱陶しい!!」
ギルトールの剣が鎖の一本を切り落とす。
「…ご主人様にもらった鎖が…!!」
「認めてやろう、小娘。お前はただの奴隷じゃない」
クロエは静かにギルトールの動きを見ていた。
いや動けなかったのだ。
意識だけが体の制約を離れ、加速的にその景色を見ていたのだ。
ゆっくりと、着実にクロエ向かってくる刃を見ていた。
クロエは瞼を閉じた。
恐怖からではない、そうすべきと受け入れるべきとして瞼を閉じてしまったのだ。
「ぐふっ…。ぅ……っかは」
胸を一突き。
ギルトールの刃は確実に心臓を貫いた。
クロエは倒れ、薄れゆく意識の中遠くを見ていた。
彼が来るんじゃないかと。
でも来て欲しくない。
そう思いながら、倒れた。
「クロエェェェェェェエエエエエ!!!」
屋敷の入口には謎の襲撃者の集団が待ち構えていたので、屋敷の壁をぶち破り中へと入った。
そこで見たのは何者かにクロエが刺される光景。
俺は着地も疎かにし転げまわるようにクロエへと近づく。
「クロエ!!しっかりしろ!クロエ!!」
「そうか、貴様が!!よく来たな、ゴーレム錬成士!!」
「おい、目を覚ませ!今回復をする!」
「無駄だ。死んだ者にいくら回復魔法を施そうと生き返る訳ないだろう」
「なぁ起きてくれよ!こんなとこで死ぬなよ!!俺の目的はまだ終わってない!その為にいるんじゃないのか!!」
「話を聞かぬな、ゴーレム錬成士!」
ギルトールは剣を振り下ろす。
だがすかさず、剣を取り出し攻撃を防いだ。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「やっと私を見たか。確か…、アインだったか。そうだ、その小娘は俺が殺した」
「何をしたのか、分かっているのか!?貴様…!!!楽に死ねると思うなよ!!!」
この謎の襲撃者たるギルトールを激しく睨む。
こいつを殺す。
頭を支配するのはその考えだけ。
目の前が真っ赤になっていく。
ゴーレムを喚び出そうと魔力を練り始める。
しかし更なる侵入者が場をかき乱した。
「お、お主、セルビアナ!!何故、ここにいるでござる!!」
この激情渦巻く中、セルビアナは颯爽と入ってくる。
「何故、貴様がここにいるのだ?」
「お前…、ギルトールだったか。私は帝国の将兵。帝都が危機に陥れば戻るのは必然」
「そんなあり得ないでござる!お主は遥か地方に。列車は止めたのでござるよ!こんな直ぐに戻ってくるなど!」
「えぇぇぇい、何だお前達は!僕ちんの発明があれば帝都へ戻るなど容易いよ!!」
セルビアナの影から隠れていたかのように姿を現したのはルゲイエだ。
「ルゲイエ!?」
「ふふーん、僕ちんが開発している魔道四輪を使えば列車に頼らずとも戻ってこれたのだ!と言っても、異世界人の残した遺産だがね」
意気揚々と説明したかと思えば、いきなり消沈する。
この場において彼だけがコミカルな動きと口調なのだが、あり得ない事態に皆驚いてしまっている。
「くっ、抜かったでござる!えぇい、ならば拙者が!!」
「レジスタンスめ…」
バースは得意の速さを活かした戦法でセルビアナに襲いかかる。
かなりの速さで動きまわり、セルビアナを囲うように四方から攻撃していく。
だが、セルビアナは冷静に体をほぼ動かさずともバースの攻撃を防いでいく。
「これはどうでござるか!」
先ほどの攻撃に苦無を何本も投げ始める。
だが、これまた同じく防がれてしまう。
「己、これ程とは。さすがは帝国最強と呼ばれるだけはある。…だが!」
したりとばかりにバースはその素早い動きを止め、ゆっくりと近づいていく。
「体が…」
「左様。[影縫]。お主の体を縛らせてもらった。いかに最強と言えど、その慢心が産んだ隙。これを活かさぬ手はない!!」
刀の射程に入り、バースは刀を振った。
ガキンッ
「な、何故動けるでござるか…!?」
「ふっ…。久しぶりだよ。私に力を使わせたのは」
「何を言って…!ぬ、足元が!!?」
見るとセルビアナを中心に徐々に凍り始めている。
「そうか、それで拙者の苦無を…!!」
「まるで呪いのような力だ。私が望めば、勝手に周りの物は凍てつき始める」
「くそう!!己!!」
その冷気は徐々にバースを包み始める。
まずは足元が凍りつき、ゆっくりと冷気は体を登り始める。
「このままでは不慮の死となるだろう。それでは戦士としての恥だ」
「う、動けぬ!!えぇぇい!!」
バースの叫びも虚しく、冷気はバースの体を包みその全てを凍らせてしまった。
「だから、最後に剣で殺してやろう」
そうセルビアナは呟くと一振りする。
するとバースの体は粉々に砕け散ってしまう。
「セルビアナ!!!」
「まだそんなとこにいたか、少年」
「その男は殺すな!!俺が殺る!!クロエの仇だ!!」
俺は抱きかかえたクロエの遺体をそっと床へと寝そべさせる。
そして再び魔力を練り始める。
「貴様…!殺してやる…!!!」
「少年、言ったはずだ」
俺の前にセルビアナが急に立ち塞がる。
そして。
「ぐっ…!!これは…、どういう事だ!!」
俺の胸にセルビアナの剣が刺さっていた。
「帝都を去らねば、私が君を殺すと言ったはずだよ」
力が抜ける。
なのに目の前の敵を許すものかと俺の瞳は閉じる事をさせなかった。
おのれ…。
結局、セルビアナも俺の敵だったのだ。
忘れてはいけなかった。
俺は甘かった。
甘くなった。
仲間が出来、笑う事が増えた。
こんな俺に人並みの幸せが出来たような気がした。
でもそのせいで見失っていたんだ。
忘れるべきじゃなかったんだ、俺の憎しみを。
親をゼペットを奪われたあの絶望を。
最期の最期まで、その怨嗟の念を込めてこいつらを見届けてやろうと思うのに瞼は必然と重くなってしまう。
忘れるものか。
必ず殺してやる。




