059_錯綜
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「陛下、ご報告申し上げます!各地で反乱が起こりました!旧ザーツブルク領、ハインツベル、そしてノースボアです!」
この凶報に臣下たちはどよめく。
難民の反乱は頻発していたとはいえ、狙ったかのように同時期に起こったのだ。
精英たる軍の将校も、貴族達もレジスタンスの力を認めざるを得なくなって来ていた。
「ふははははは!そうか…、そう来たか」
「へ、陛下?」
皆の心配をよそにこの城の主たる皇帝はなんと笑い始めたのである。
「ソフィア、軍を引き連れノースボアの鎮圧を」
「はっ!」
「グレイ、貴様もだ。ハインツベルへと赴くのだ」
「お引き受け致します」
「セルビアナ、久しぶりに動いてもらうぞ」
セルビアナという名が出た瞬間に、再び玉座の間はどよめいた。
遂に皇帝の直属であるセルビアナとその軍を動かすのだ。
「よろしいのですか?」
「構わぬ」
「はっ!」
帝国を揺るがす、大反乱。
多くの者はこれがレジスタンスによる大規模反抗作戦としか思っていないだろう。
だが、一部の者達は皇帝への挑戦であると分かっていた。
「くそ、出口だと思ったのに!」
「ダンジョンの構造上、上に上がったつもりでもそれは関係なかったんですね」
「また引き返すか…」
ここに落とされて、二週間弱。
魔力が使えないというのは、俺たちにとってはかなり致命的だった。
魔力が霧散してしまうここでは、魔力自体を回復させる手段が限られている。
肉体は自然に存在する魔力を僅かながら吸収して回復させるのだが、それが皆無なここでは回復させられない。
スキルである[自動MP回復]だけは唯一、時間で回復させられる。
後はMPポーションだが、それも数には限りがあった。
直接触れる事で魔法は発動させられるという特性で戦闘後は必然と俺が回復役となる。
何とか攻略する手立てはあったが、かなりの時間を要してしまっていた。
「…ご主人様どうします?」
「クロエ、残りの食料はどれくらいある?」
「作り置きしてたものは後僅かです。残りは火を使えればまだ持ちますが…」
「火か。魔法で発動すれば何とかなるが…、そうなればまた脱出に時間がかかるな」
俺は恨めしそうに先程の通路を見る。
「参りましたわね。このダンジョンが迷宮となってしまっているせいで、余計にちゃんと進めてるのか不安ですわ」
「ええ、しかも時間経過で道が変化してしまっている。上手くやれてきてはいますが、道が分からないというのはかなり辛いですね」
「時間がかかってもいい、とりあえず無事に出る事に優先しよう」
そうは口にしても、焦りが出ているのは分かっていた。
ファントム。
あいつにしてやられたと、後悔してしまう。
それがみんなにも伝わってる。
だから努めて冷静になろうと振る舞う。
「アイン、遠慮しないで下さい。戦闘はわたくし達に任せて下さい」
「その為に、私がいるんですから、マスター」
「ああ、頼むぞ」
俺達は再び攻略を再開する。
今、進んでる道が出口なのか、再奥かは分からないが。
「はぁっ!」
「ガルルルルッ!」
洞窟に潜む狼型モンスター。
そしてゴブリンなど。
それらと相対していた。
「こっちですわよ!」
「グギャアアアァァ…」
ランクは低く強くはないが結構な数だ。
俺も傷を負わない程度には戦闘に参加する。
たまに少しランクの上がったモンスターもいるので油断はならない。
「これで最後の一匹!」
「ギャウウウゥゥゥ…」
最後の一体をエメが仕留めた。
強いモンスターと戦うのも大変だが、数の強さというのも問題だ。
「ロザミア、傷を回復する」
「平気ですわ、このくらい」
「そうだが連戦になればなる程、体力は削られてしまう。早めに回復した方がいい」
「分かりましたわ」
俺はロザミアの傷に軽く触れる。
「痛っ」
「痛むだろうが我慢してくれ」
「ええ、平気ですわ。アインがこうして癒してくれるんですもの。嬉しい限りですわ」
「…ちょっと、ご主人様の手を握る必要はないですよ!」
「いえ、そんな事ありませんわ。こうして繋がった方が魔力の通りがいいんですのよ」
「さ、さぁ、どうなんだろう」
ロザミアがそうしたいなら構わないが…。
傷を回復させる。
「よし、終わったな。もう手を離しても大丈夫だぞ」
「ああ、名残惜しいですわ」
可哀想だが手を振りほどく。
続いてエメのボディをチェックする。
「細かい傷が増えたな…」
「はい、ですが私は出血の心配はないので多少の傷などでは問題ありません」
「ここを出たら、直してやる。それまで頼むよ」
「了解です、マスター」
みんなが傷つけば傷つく程、早く脱出したい気持ちが募る。
だが、焦ってはいけないと気持ちを取り直して進む。
「モンスターの群れですね。かなりの数の足音です」
「アイン、魔力はどのくらいですの?」
「まだ平気だと言いたいが、あまり無いな…」
「出来れば戦闘は避けた方がいいと思いますが?」
「そう…だな、しかし運悪く行き止まりに追い詰められたら」
「状況としては最悪ですね。そうなれば戦うしかありませんが、行き止まりである以上苦戦は間違いないですが…」
「一旦、逃げよう。安全な場所を見つけて、魔力を回復させるんだ」
こうやって何度もギリギリの戦いを強いられながら、俺達は先へ進もうと足掻いた。
今回も同じように何とかなると思い、迂回したはずだったのに。
「くそ、挟まれた!」
「あちらを!リッチナイトですわ!」
「Bランクか…。普段なら余裕だが、この数だ魔力不足」
「…駄目です!向こうは行き止まりでした!」
「くそ、やるしか無いのか!」
俺は武器を握りしめる。
ここまで来たのに、そう思わずにはいられない。
もし抜けられたとしても、誰かが倒れるかも知れないと頭から最悪なケースが離れなかった。
「こっちじゃ」
「アイン、何か言いまして?」
「何も言ってないぞ」
モンスターの大群が視界に入ってくる。
「こっちじゃよ」
「やはり何か聞こえます」
「…皆さん、後ろです!」
振り向くと、何故かそこには杖をついた老人がいる。
「ひぃぃぃぃ、幽霊ですわ!」
「違うわい、ちゃんと生きとるよ。それよりも早くこっちじゃ」
「行こう。どの道このままじゃ、モンスター達にやられてしまうかもしれない!」
老人に言われるままついていくが、クロエの伝えてくれた通り行き止まりだった。
だが、老人が壁にひと蹴りすると岩がずれ奥への道を現す。
「隠し通路か?」
「早くするんじゃ」
俺達は飛び込むように隠し通路へと避難した。
「助かりましたわ」
「敵の気配を感じません。どうやら逃げ切れましたね」
「ほっほっほ」
「助かったよ、礼を言う。けど、あんたは何者だ?」
「ふむ、名を聞くなら先に応えるべきじゃな」
「あ、ああ、すまない。俺はアイン」
「エメ」
「ロザミアですわ」
「…えっと、クロエです」
老人は納得するかのように笑みを浮かべる。
「ワシはユウマ。まぁこの辺でか細く生きとる世捨て人みたいなもんじゃ」
「なんでこんな危険なとこに?いや、その前にどうやって入ってきた?」
「忙しい奴じゃのう。ここがダンジョンじゃと言うことは分かっとる。ここはな昔から鉱石が採掘出来ると有名なんじゃよ。先人達が掘った通路がちらほらとあってそこを通れば、モンスターに出会わずに済むのじゃ」
「じゃあ、ここを出れるのか?」
「うむ」
それを聞いたみんなは助かったと口にする。
「とはいえ、結構奥へといるからの出るまでしばらくかかるかの」
「そうか…。出口まで案内を頼めるか?」
「ふむ…、頼み事をするのにその言葉使いは良くないの」
「うぐ…、一々」
「アイン、ご老人の言う通りですわ」
「そうですね、郷に入っては郷に従うべきですね」
「…えっと、はい。そうした方がいいかと」
「すまない、みんなの言う通りだ。ユウマさん、案内お願い出来ますか?」
「ふむ、良かろう」
こうして正式にユウマに道案内を頼めた。
話では通路は一本道ではなく、採掘の為あちらこちらに掘られている。
その為、迷えばこのダンジョンと同じく出られなくなるかもしれないとの事だった。
そして、途中何回かはダンジョンの方も歩かなくてはいけないので油断は出来ない。
「ふぅむ、どっちだったかの」
「おい、爺さん!早く思い出してくれ!」
「マスター、敵が!」
「あ、こっちじゃの」
「みんな、急げ!」
「ふぅ、間に合ったの」
「た、頼むよ、爺さん」
「ふむ、善処するよ」
何度もギリギリの所で命拾いする場面に出くわしながら俺達は進む。
しばらく進み、安全な場所を見つけたので休憩する事となった。
「いててて、腰が」
「大丈夫ですの?」
「ふむ、何とかの」
「爺さん、後どれくらいなんだ?」
「さてのぅ」
「分からないのか?」
「何故、そんなに急ぐのかの?」
「それは…」
「焦りは禁物じゃよ。おもわぬ所で足元を掬われる。気付いた時には取り返しがつかぬよ」
「忠告か?」
「何、老人の戯言じゃ」
正直、喰えない老人だと思いつつも、彼に付いて行くしか無かった。
ファントムの事もある。
彼がレジスタンスや帝国の間者という可能性もあった。
だが、今のところ敵意らしいものは感じていない。
本当に協力して出口まで連れてってくれるならいいが、もしこれが罠などで合った場合は始末するしか無い。
ユウマという老人に連れられ、出口を目指してかなりの時間が過ぎていた。
途中、仮眠や食事で休憩を挟んだりもした。
彼が言うには、俺達は知らぬ間にかなりの最深部へと潜ってしまっていたそうだ。
俺達を見つけた場所は炭鉱夫ですら、潜らない深い場所。
人の声が聞こえ、何事かとわざわざ追ってきてくれたらしい。
今がどこなのか全く分からないが、彼の言葉を信じるしかなかった。
みんなは俺よりもこの老人の事を信頼しているのか、仲良く話す場面はあった。
俺は疑念が拭えないままここまで来たのだが、ついに。
「あの光は?」
「安心せい、出口じゃよ」
微かな光が差し込み、俺達は飛び込むように光へと向かった。
出た先は夕陽が沈む草原。
「外ですわ!!」
「…はぁ、空気が美味しいです!」
久しぶりに出た地上に興奮を隠しきれなかった。
人は地上で生活するものだと改めて気付かされる。
けして穴倉で済むように、体は作られてないんだと。
「爺さん、助かったよ!」
意外にもこの老人は本当に俺達を救おうとしてくれていた。
詫びの意味も込めて、感謝の言葉を口にしようと振り返った。
「あれ、ユウマさんはどちらに?」
「おかしいですね。着いてきてたはずなんですが…」
「幻…。いやそんな訳は」
「も、もしかして幽霊でしたの!?」
「いや違うだろう。一緒に飯も食ったぞ。飯食う幽霊なんか聞いた事ない」
「そ、そうですの?」
「…えっと、幽霊ではないと思いますよ。でも、一体」
「何者かは分からないが、とりあえず急いで帝都へ戻ろう。列車なら今日中には帝都へ戻れる」
「そうですわね、ユウマさんが幽霊だとかは置いておきましょう…」
「…えっと、ご主人様。魔力はどうです?」
「……。どうやら元に戻ってきてるようだ。みんなは?」
「大丈夫ですね」
突然、現れた老人。
その正体は分からないが、俺達を助け出してくれた事には変わりなかった。
今、帝都で何が起きているのか。
一刻も早く確かめたく、俺達は駅へと向かう事にした。
駅に着くと妙な違和感を感じる。
列車は今は来ていないのか、空になっていた。
時刻が遅いとは言え、人がほとんどいない。
俺が感じた違和感はそれだ。
列車が停車していないとはいえ、大抵は次に来る列車を待つ為、ある程度は人がいるはずなのだが全くいない。
「どういうことでしょうか。駅がこんなに閑散としてるなんて」
「魔導列車もお休みがあるのかしら?」
「休みなんてあるのか?魔導列車は帝国を支える重要な交通だ。休みがあるなら駅構内に何かしら案内が出てもいいはずなのだが」
「あちらに駅員がいらっしゃいますわ!」
手持ち無沙汰にしている駅員が一人。
他に事情を聞けそうな人もいないので俺達は声をかける。
「列車は来ないのか?」
「あんたら、何も知らないのか?」
「どういう事だ?」
「ここ数日、列車は突然動かなくなったんだよ。原因も分からない。何が起きたのかと、この駅からも何人か帝都へ馬車で行ったけどまだ帰ってきてないんだ」
「何、列車が動かない!?」
「そうだよ。動かない列車を俺らが手で押して車庫までしまったんだ」
「じゃあ帝都へは、徒歩か馬車なのか?」
「ああ、そうなるね。けど貸馬車はもうないんじゃないか。それに定期便もしばらく来ていないって話だ」
「嘘だろ?」
「あんたら、帝都へ行きたいのか?本当か分からないが、今各地で反乱軍が暴れ回ってるって話だ。落ち着くまではじっとしてた方がいい。生憎、宿は空いてるぞ」
「くそ、どうすれば!」
帝都へ戻る手段を無くし、俺達は駅で立ち尽くすしかなかった。




