055_獣化
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
「くそ、落とし穴だなんて!!」
「いてて、皆さんは大丈夫ですの?」
「…えっと、何とか。エメさんが拾ってくれました」
「マスター、無事ですか?」
「ああ。しかしかなりの高さだ、ここは一体…」
天井を見るが、かなりの高さで登るのは正直むずかしそうだった。
だが、落ちた場所は薄暗い洞窟でどこかへ通じてるようだ。
「先を進めという事か…」
「マスター!」
エメが俺を庇い押しのける。
「ちっ、外したか!」
「お前は!」
「前にあったよな、ゴーレム錬成士!あたいはメロ!お前らをここで始末する!」
「二重に策を労するか。しかし、お前一人で何が出来る?所詮は捨て駒にされただけだろう?」
「あはは、そうだね。まぁ、元からあたいは捨てられた命だよ。それにあたいが負けると本気で思ってるの!?」
「召喚!…な、何!?」
召喚陣が発動しない。
さっきのミニゴーレムを召喚出来なかったのは偶然じゃない。
「くははっ、お前達を始末する為にわざわざここを選んだのさ!」
「くっ、マスターお下がりを!」
攻撃を防いでくれたエメに促され、俺は後ろへ下がる。
「ならば、新しいゴーレムを錬成すればいいだけだ!」
アイテムボックスから魔石と素材を取り出す。
「”emeth'」
またもや錬成陣は初する事がなかった。
「嘘だろ…」
「アイン!わたくしに任せて下さい!」
ロザミアがメロに斬りかかる。
「魔法剣で!」
ガキンッ
「くははっ、魔法剣?普通の剣じゃないか!?」
「い、一体どうなってますの!?」
「ここはね、通称・魔導師の墓場。大昔から会って、魔力が霧散するという特殊な場所さ。いつからか知らないが、屋敷の地下にこんなダンジョンも出来上がっていてね。お前達を始末するにはうってつけなんだよ!」
「魔力が霧散だと?くそ、ファントムにしてやられた!」
「くははっ、お前みたいな危険人物をファントム様が放っておく訳ないさ!」
「わたくしもいるんですのよ!例え魔法剣が使えなくても、鍛えた剣技がございますわ!!」
「っと」
「私もいますよ。マスターを守るのが私の使命」
「くははっ、健気だねぇ!!」
エメとロザミアが戦ってくれてる間に、俺とクロエは少しずつ下がる。
「クロエ、お前の鎖も駄目そうか?」
「…えっと、はい…。僅かに動くんですけど、多分途中で魔力が消えちゃって」
「厄介だな。今の所二人が頼りだが、怪我をしても回復魔法も使えなそうだ…」
「…えっと、少しならポーションはあるのですけど、みんなご主人様の魔法に頼ってましたから」
「あのメロとかいうのも、倒さなきゃならないし、ダンジョンから出口まで探さなきゃならないのか。ファントムめ、用意周到すぎだろ」
エメのガントンファーが火を噴く。
バンッ
「…!?ふっ、くははっ!残念!」
「魔力弾だから、途中で消えてしまったのですか。っなら!」
「なんて力だ、ゴーレム女!!」
エメは接近戦に持ち込み、メロを圧倒する。
両手に持つ短剣で攻撃を防ぐが、ジリ貧だ。
「くっ、[鑑定]も発動しないか…」
「…えっと、ご主人様。ここは二人に任せましょう」
「魔力が使えないだけで、二人に頼る事になるなんて。自分の弱さが情けなくなる…」
「…そんな事ありません!こういう時だから、仲間の力に頼るべきですよ!」
「…そうだな。今は二人を信じよう」
「…はい!」
「後ろがガラ空きですわ!」
「ちっ!」
ロザミアの攻撃に辛うじて対応する。
「大見得切った割には、苦戦してますわね。ニ対一で卑怯とは言わせませんわよ!」
「くそ、ここまでやるとは!」
「魔力が使えないのはそちらも同じ事。同じ条件でわたくしが負ける訳はありませんわ」
「少しでも長く生きたいなら出口を教えなさい」
「くははっ!バカか、お前ら!あたいが言う訳ないだろう!それに同じ条件?くははっ、言っただろう。お前達は生きて帰さないよ!」
そう言うとメロは突然苦しみ出す。
思い掛け無い変化に、エメもロザミアも困惑する。
「い、一体どうしたんですの?」
「体が変化していきます…!」
メロは苦しみながらも二人を見ていた。
「ぐ…、くははっ…。あたいのとっておきだ…。人が人じゃなくなるその姿をよく見るんだな!」
歯は大きく尖り、爪も獣ようになっていく。
そして体は人と思えぬ色に変化し始め、皮膚から鱗までには生えてくる。
「そ、そんな人がモンスターになるんですの…?」
「くははっ、どうだ!!これが[獣化]!あの皇帝に実験された結果得た忌まわしい力だ!」
「[獣化]だと。実験でこんな事になったのか?」
「あたいは、昔奴隷だったのさ。強化兵実験。生きた人間に魔石を無理矢理埋め込み、強靭な肉体を持つ兵士の作成を行う。その多くは意思に反して連れて来られた奴隷だったのさ」
「そんな事が…」
「命からがら逃げ出したあたいは、ファントム様に救われたのさ!だから、この命はあの人の為に捧げる!!」
それは蛇型のモンスターだった。
一つ違うのは、心は人だという事。
「は、早いですわ!」
「さっきよりもステータスが上がってますね!」
蛇のようにしなやかに素早く動きが、二人を翻弄する。
胴体以下は完全な蛇のようになってなっているが、未だ上半分は人型を保っている。
両手に持つ短剣を蛇の牙のように巧みに扱い、二人に襲いかかる。
「早い上に、厄介な動きですわ!」
「くははっ!今ではこの体に感謝してるよ!ファントム様の敵を仕留められるからね!」
「はっ!」
「後ろか!!」
「これも防ぎますか!」
エメは隙をつき、背後から攻撃するが防がれてしまう。
短剣で、トンファーの動きを抑えられてしまう。
「感覚もモンスター以上のものだよ!些細な空気の変化で、誰がどこにいるか分かるのさ!」
「くっ!わたしが力押しで負ける?」
「くははっ、あたいが負ける訳ないさ!!」
「うぅ、くっ!!」
エメは弾き飛ばされる。
ロザミアはどう攻めればいいのか、距離を保ちつつ伺う。
まるで蛇のように二人をどう殺すか、メロは尻尾をカラカラ振りながら様子を見ていた。
「まずいですね…。[獣化]というのが、ここまでの力を発揮するなんて」
「エメさん、わたくしが抑えますわ。何とか魔力強化を発揮してみせます。その間にどうにか仕留めて頂けますか?」
「…そういう事ですか」
「一か八かですわ。ここで魔力を温存して、やられたら元も子もありませんわ」
ロザミアは魔力を凝縮し、解き放つ。
「くっ、放った瞬間から魔力がどんどん掻き消えていきますわ…!!持って数秒。行きますわ!」
凄い早さで消費される魔力を使い、メロを仕留めにかかる。
「それがお前の切り札って訳か!けど、いつまで持つかな!?」
魔力強化された分、メロの優勢は転じる。
蛇のような素早い動きにも対応し、徐々にメロを抑え始める。
「ちっ、魔力強化ってやつかい?このあたいが押されるっていうの!?」
「見誤りましたわね!あんまり、わたくし達を舐めないで頂きたいですわ!!」
ロザミアの剣が、メロを斬り裂こうと鋭敏に振られる。
「私もいますよ!!」
「ちっ、お前もか!!」
魔力強化したエメが襲いかかり、モンスター化した体に直撃する。
「ぐああっ!!!」
「わたくしも!!」
「ぎいやああああっ!!!」
ロザミアも渾身の一撃をお見舞いさせた。
「はぁはぁ、何とか仕留めましたわね」
「みたいですね。さすがに魔力が底をつきそうです」
倒れたメロを見て、二人は安堵する。
この特殊な場所での魔力強化で、二人の魔力はもう空に近い。
次の戦いでは魔力強化することはできないだろう。
「アイン、終わりましたわよ!」
ロザミアは片手を上げ、メロを倒した事を報告する。
だが、それに対し俺は張り詰めた声を上げる。
「後ろだ!!」
「えっ?きゃあああああっ!!」
突然の事にロザミアは対処出来ず、蛇の尾で薙ぎ払われる。
「まさか…、まだ生きてるのですか?」
「ぐ、ぐぐぐ。はぁはぁ。く、くははっ!舐めるなよ!あたいは化物さ!こんな事でやられはしないよ!!」
「くっ、うあああっ!」
メロは再び立ち上がる。
大きな傷をつけ、大量の血を流しながら。
瀕死ととも取れる状態でも、その目は未だ強者としての力を失っていなかった。
「あたいは倒れない。何度攻撃されようとも、ファントム様が目的を達するまでは!!」
「はぁはぁ、何て執念ですの。そこまで、あいつを信奉なさるとは」
「お前達に分かるか!?親から引き離され、何も分からないまま、皇帝に身体を弄りまわされ、殺されそうになった気持ちを!!生き延びても、もうあたいは人間じゃなかった!化物と蔑まれて、ゴミを漁って生きてく辛さを!!」
「だから、救われた人に忠義を見出したと。憐れですね」
「憐れだと!このゴーレムめ!この身体を見て、受け入れる人などこの世界にはいないんだよ!こんな、こんな力だけで支配し、支配する為に忌まわしい力を生み落とすこんな世の中は狂ってるんだ!」
「ふふふ」
「何がおかしい!!」
「だって、あなたがそう感じる心は人間じゃないですか?あなたが自分を否定し閉ざしているだけ。マスターならこう言うでしょう。ただの弱者だと」
「き、貴様ぁぉぁ!!」
メロは激昂して、エメに襲いかかる。
「か、体が!?一体どういう…鎖!!」
「…あ、あとちょっとです!」
「よく言った、エメ。ああ、俺は自分の不遇を恨まない。俺が憎むべきはそうさせた相手だ!!ファントムはお前の心の弱さを利用しただけだ!!」
二人の魔力強化を見たクロエは俺に提案した。
僅かな時間なら、鎖を動かせるかもしれないと。
メロが再び立ち上がり、一人語りを始めてくれたおかげでクロエの鎖は動きを封じる事に成功した。
「俺たちは死なない!ファントムも皇帝も殺すまではな!!」
「ぐぅぅぅあああ!!」
ゴーレム槍をメロに突き刺す。
「ここでは確かに魔力が霧散する。だが、体内にある魔力までは消えなかった。つまり魔力を霧散させず直接触れる事でも魔法は可能だ」
「な、何を…する!?」
「トドメだ!」
メロに突き刺したゴーレム槍から雷魔法を放つ。
「ぐぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」
メロの身体は痺れながら倒れた。
雷によって身体は焦げつき、肉が焼けた匂いがする。
さすがにこれで生きてる訳はないかと、気持ちを落ち着かせた。
しかし、それでも。
「ぐぅぅ、ゲホッ。く、くははっ…」
「くそ、まだ生きて…」
慌てて確認をしたが、どうやら虫の息だ。
今度こそトドメをと、ゴーレム剣を取り出し眉間に突きつける。
「くははっ…。これで勝ったと思うな、ゴーレム錬成士。そう簡単にここを抜けられると思うなよ。ここは天然の迷宮に加え、ダンジョン化してる」
「そうか。だが、俺たちは必ずここを抜ける」
「くははっ!けど、それじゃあ遅いな。その頃にはあの方は皇帝を殺してるかもな!」
「何…?」
「気付かなかったか、バカめ。何の為、ここまでしてお前達を閉じ込める。大きな作戦があるからさ!」
「くそ!作戦とは、どんなだ!言え!」
「くははっ、ははははははっ!きゃははははは!」
「おい!」
「アイン、もう壊れてますわ…」
「クソが!!」
「くははははははは、がはっ!」




