054_罠
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
帝国に居られるまで残り二月程。
当初目的としていた、ゴーレムの戦力増強、帝国内部の繋がりは達せられただろう。
用意できたゴーレムは10,000体。
ソフィアにも素材手配や資金繰りなどでは、かなり迷惑を掛けてしまった。
ゴーレムが一体で騎士以上の性能を誇るとはいえ、まだ数は足りないのだ痛感せざるを得ない。
どうにかしたいが素材も資金も時間も足りない。
残りの期間でどう皇帝を仕留めるかだが、正直まだその算段には至れていない。
各皇子の軍に、ファントム率いるレジスタンス。
そしてセルビアナ。
どの陣営も行動が予測不能な上、戦力も侮れないものだ。
それに加え、ここ数ヶ月の間に頻発する反乱の数々のせいでソフィアとはまともな時間が取れていなかった。
規模こそ、前に起きた旧ガリランドの反乱程でないが狙ったかのように頻発する。
そのせいでソフィアは帝都にも中々帰れていなかった。
そんな中、俺に向けてある依頼が舞い降りる。
「指名依頼?」
冒険者ギルドに呼び出された俺は、ギルド長であるゲオルグさんと話していた。
「うん、そうなんだ。高ランクの冒険者になれば、この冒険者に依頼したいという指名依頼が発生する。もちろん断る事も出来るけど、それは評判が下がる。出来れば断らない方がオススメだよと言いたいんだけど、どうにも裏がありそうでね」
「一体誰からなんだ?」
「ガストン男爵。帝国の貴族だ。君の活躍は帝都含め広まっている。ソフィア殿下についている王国の勇士としてね。貴族ではない、平民達からすれば反乱軍を退治してくれてる英雄蔵だけど、元老院含め昔からいる貴族には厄介な存在だろうね」
「そんな相手が俺を指名か…」
「うーん、内容はただのモンスターの討伐依頼。領地を荒らすモンスターを倒してくれというものなんだけど」
「そのガストン男爵とは一体どういう人物なんだ?」
「良くも悪くもない人物かな。貴族である以上、裏はあるだろうけど他の貴族に比べれば表立った黒い話はないよ。それと一応は領主だから、ある程度の領兵がいるはずなのにわざわざ君に討伐依頼を出すのが不思議でね」
「正直、俺も記憶にない人物だ。身に覚えがないが…」
「それと、君含めて他の三人も同行するようにと条件に入ってる」
「キナ臭いな…けど」
明らかに何かの罠なのは明白だった。
俺達を疎ましく思ってる存在、もしくは…。
自信がある訳ではないが、何かあっても俺達なら切り抜けられる。
それにこんな足取りが着くような方法で俺達を呼び出すなら、そう思い切った事も出来ないだろう。
「その依頼、受けさせてもらうよ」
「本当にいいのかい?」
「ああ、ともかくその人物に会ってみない事には」
「うーん、そうだね。会ってから断る事も可能だよ。ただ心象は悪くなるけれどね。あまり一人の冒険者に肩入れは良くないんだけど、僕とアイン君のナカだ。揉めても僕が個人として進言してあげるよ」
「ありがとう、ゲオルグさん」
列車に揺られる事、数時間。
着いたのは、ガストン男爵の領地、ブルミア領。
着くなり、迎えの領兵が来ていた。
「お待ちしておりました、アイン様」
「あ、ああ」
「我らが主人がお待ちです。私どもがご案内しましょう」
「ありがとう。依頼についてだが、事前に知る事は出来ないのか?」
「それは我らにも分かりかねます。我らが主人がお答え下さるでしょう」
「なるほど、ここでは答えられないという事か…。ともかく着いて行くしかない訳だな」
みんなも首をかしげながら、兵士達に着いて行く。
何が起きても対応出来るように、警戒は抜かりない。
一種のピリピリとした空気の中、道を進む。
「あちらが主人の居る屋敷になります」
着いたのはかなり昔に建てられたであろう屋敷。
古さは感じるが手入れはされており、人が住んでいる事は間違いないだろう。
「ずいぶん、歴史ある建物ですわね」
「ええ、かなり昔からあると聞いてます。何でも500年前からここには屋敷があったとか。何度か改修が行われ、今でも使われています」
「5、500年出すの!?それは凄いですわね」
確かに歴史を感じさせる屋敷だ。
気を張り詰めているせいか、それ以外にもありそうな気がしてしまう。
屋敷の中は、着飾らずけれどどこか品のある調度品で飾られている。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
今度は執事に案内され、屋敷の応接室へと入る。
「主人を呼んで参りますのでもう少々お待ち下さい」
執事は主人を呼びに退室する。
「ガストン男爵か。どんな人物なんだろうな」
「そうですわね。会ってみませんと」
「そうだよな。今の所、特に怪しい所はないし見張りがいるって感じはなかったな」
「私の方でも特に何も感じませんでした」
「エメがそう言うんだから、俺達の勘違いか?まぁ念を入れとくか。ミニゴーレムを潜ませて屋敷を調べる」
俺は召喚陣を形成しようと魔力を集める。
「あ、あれ」
「どうしたんですの?」
「いや…、ちょっと上手くいかなくて。もう一度」
「マスター、足音です」
「もう来たか」
仕方なくミニゴーレムの召喚を諦め、ガストン男爵を待ち構える。
扉が開かれ、ガストン男爵と思わしき人物が車椅子に座りメイドに押されながら入室する。
「おい、これはどういう事だ!!」
「これは…」
「酷いですわね」
ガストン男爵は首をぐったりと座らせ、血をダラダラと零していた。
「お前、どこかで…?」
そのメイドは邪悪な笑みを浮かべながら俺達の驚く様を愉快そうに見ている。
「待たせたな、ゴーレム錬成士!」
次に入って来た人物達を見て、俺達の警戒は一気に引き上げられる。
その人物は第2皇子であるグレイとファントムだった。
「そんなに驚くなよ?せっかくの招待だ、楽しもうぜ?」
「何故、あんたとファントムが一緒にいる?」
「ふふふ、殿下は私と志を同じくする方ですよ。こうなるのは必然。貴方がたが帝国より来るずっと以前からね」
「まぁそう言う事だ。世間では俺の事を戦争しか能のない皇子だと言ってはいるが…、父上を欺くにはこの位やらないとな」
「お前の目的は、帝位か?その為にレジスタンスと手を組むと?」
「ははは、帝位か。そりゃいいな!わざわざ、この豚を使ってまでお前を呼び出したんだ。俺がここに来た目的は一つ。お前、俺の配下になれ」
「何…?」
「お前の力は厄介だが、仲間に出来ればかなりの戦力だ。それにお前は父上を殺したがってるだろう?ならば目的は一緒じゃないか?簡単な話だ。お前の力を使って、憎き父上を殺す。それだけだ」
「ソフィアはどうする気だ?」
「ソフィアか…。俺の言う事を聞くなら、何とかしてやらんでもないが。アーノルドが許さんだろうな。そうなれば最悪は始末するしかない」
「目的にそぐわぬなら、排除するという事か」
「この帝国で生きる為だ。力があるなら求める。ないなら捨てる。父…いやアグニスから教わった唯一の事だ!」
「くくく、同感だな。逆に聞くが、お前達なら皇帝を倒せるというのか?あのセルビアナを相手にして」
「あの化け物をか?そうならここまで苦労はしないさ。だが確実にアグニスは始末する!」
「ふっ、くくく。そうか、あいつを避けるのか!少しは期待したがガッカリだ!ソフィアはそんな事言わないぞ!あいつは自分の目的を果たす為、真っ直ぐ進む!」
「ソフィアがか…。お前と言う力を得て、変わったという事か。ははは、そりゃあいい!だが、尚更だ。俺について来る気がない以上、ここで生かしておく訳にはいかんな!!」
「やはりそうなるか!!みんな、戦うぞ!」
「「「はい!!」」」
武器を構え、グレイへと対峙する。
「そうなりますか。殿下、前にお伝えした通りですよ」
「ファントム、お前の言う通りだったな」
「ええ。だがある意味これで一纏めに始末出来ますよ」
ファントムは何か合図をすると、突然視界が揺らぐ。
「これは!」
「落とし穴ですわ!」
「…そんなぁぁ!」
「と、止まれません!」




