053_思わぬ遭遇
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
帝国に来て数ヶ月。
ダンジョンで大量に仕入れた魔石のおかげで、さらなるゴーレムの生産に取り掛かっていた。
気晴らしにと、ロザミアに誘われるまま冒険者ギルドでクエストを受けこなす。
この日も同じ様にクエストを受け、無事依頼は達成した。
魔導列車で帝都へ帰る途中に、停車駅へと止まると随分長い事止まっていた。
余りにも長く止まっているせいで乗客からは不満が出始めている。
「随分待たせますわね」
「…うぅぅ、早く帰りたいです。もう少しで肉屋で叩き売りが始まる時間です」
「さ、さすがですわね。クロエさんはそういう所にも気が利きますわ。わたくしは早く湯浴みをしたいですわ」
「…はい、ご主人様には美味しい物を食べさせたいですから。それにお金は有限ですよ?計画的に使わないと」
「うっ…、気をつけますわ」
「本当に遅いですね。故障でしょうか」
「故障か。ここで待っていても仕方ないな。様子を見に行くか」
機関部があると思われる先頭車両まで行くと、そこには何故か数名の帝国兵がいた。
だが、何かを見張るというよりは困っている様子だ。
「何かあったのか?」
「ん、何だお前達は?」
「俺達は冒険者だ。依頼が終わって帝都へ帰る途中なんだけど、列車がこの調子だからな」
「あぁ、お前達もか。機関部が故障したんだが、ちょっと色々あってな」
「色々?」
「うぅむ、それは…」
「おい、まだか!いつまで僕ちんを待たせるんだ!さっき伝えた材料があれば直せるんだぞ!」
「そ、そうですが、貴方の傍を離れるな命を受けてますので」
「な、何だ、このちっこいジジイは?」
大声を上げながら帝国兵に文句を着けに来たのは、背が低く白髪に白髭、丸眼鏡を着けた老人だった。
「僕ちんはちっこいジジイではない!ルゲイエという名前がちゃんとあるのだぞ!」
「ルゲイエ…。三大師父の一人の」
「まぁ珍しいですわ、もしかしてドワーフですの?」
「ドワーフ?それにルゲイエって、三大師父だろ?」
「ん?んん?んんん?お前、魔導技師か?」
「俺の事か?違うが似た様なものだ」
「なら僕ちんに着いてこい!」
「ちょ、引っ張るな!」
俺はルゲイエに引っ張られ、機関部までやってくる。
「凄いな…」
「こいつは魔導機関だ。レールから魔力を吸い上げ、この機関部に集約。そしてそれを、列車を動かす力へと変換するのだ」
「なるほど…、現代で言うエンジンか。ガソリンと違って魔力だから出来る仕組みになってる訳か」
「ここじゃ、ここ!」
「ん、ここか?この部品が壊れてるのか?なるほど、魔石を加工してるのか」
「そうだ、魔石だ!後は加工する道具があればすぐにでも動かせるんだが。あの兵士どもめ、全く僕ちんの話を分かってくれない」
「魔石なら持ってるが。んー、これと同じものか」
「あ、こら!勝手に取るな!しかもそこは壊れてないとこだぞ!」
「んー、こうなってるのか。ゴーレム核にするように錬成で加工出来れば」
「むきー、話を聞かんか!」
壊れてない部品を参考に手持ちの魔石を、錬成する。
「こんな所か?」
「ぬぬぬ、お前何をした!見してみんかい!」
俺から部品を奪い取るとじろじろ観察する。
「おおー、よく出来とるではないか!ぬぬぬ、しかしお前どうやって加工した!?」
「錬成だ」
「錬成?錬成…んー、どっかで聞いたような」
「まぁともかく、ちゃんと動くかどうか」
「あ、こら、何をする!?勝手に触るな!」
「さっきの部品が光ってる。つまり魔力の供給が上手くいったという事か?」
「むむむ、成功してるぞ!これで動く!」
「おお、やってみるもんだな」
「やったのだ、褒めてやる!僕ちんの次くらいに優秀なのだ!」
「三大師父のあんたにそう言われちゃ、嬉しいね。所で他の部分はどうなってるんだ?」
「他か?それはだな…」
「お前達、何をしとる!!」
俺とルゲイエは首根っこを掴まれると、機関室から追い出されてしまう。
「いててて…」
「僕ちんに何をするんだ、車掌!」
俺達をつまみ出したのはこの列車の車掌。
車掌なのに、何故か肉体はムキムキの体育会系な雰囲気だ。
「ルゲイエ!お前が修理だとか言って、いつも列車に悪戯してるのは知ってるんだ!」
「ぬぬぬ、悪戯ではない!改造だ!」
「どっちも似たようなもんだ。いつも通り、列車を動かしたらとんでもない速度が出たとか、盗賊が現れたらどこかからともなく大砲が出てやっつけたとか!こっちは乗客を乗せてるんだ!そんな訳のわからん事で俺達の仕事を邪魔するな」
「あー、それはひどいな…」
「むきー、科学の発展に貢献しない奴だ!それに今回はそこの小僧が修理したから問題ないんだぞ!!」
「自分で認めるなよ…」
「と、ともかくだ、僕ちんの偉大さを!って何をするお前達!」
ルゲイエは帝国兵に両脇をがっちりと抑えられてしまっていた。
「すみません、車掌殿。我々がしっかりと監禁…、いえ、監視致しますので!」
「は、放せーー!まだ僕ちんの話は終わってないんだぞーー!」
「はいはい、私どもが聞きますから。これ以上、ふらふらされるとあの方に何と言われるか」
「や、やめろー、あいつは嫌いなんだーー!」
ずるずると引きずられるようにルゲイエは車内へと戻って行く。
「ふむ、正常に動作してるな。小僧が直したって本当か?」
「ああ、ルゲイエに見てもらいながらだけどな」
「そうか、礼を言う。だが、そろそろ自分の席へ戻れ。ここは俺の仕事場だ」
「あ、ああ」
かなり職人気質な人だが悪い人じゃなさそうだ。
ともかく、これでやっと帰れると俺は自分の座席へと戻っていった。
「当列車はまもなく出発します!帝都へ行かれる方はお早く座席にお座りください!」
「人が混んできましたわね」
「…だいぶ長い事、停車してましたもんね。でもこれでやっと帰れます」
駅員のアナウンスがなされ、帝都へ向かう人達が一斉に車内へと乗り込んでいく。
その中にルゲイエの姿も見えたが、気にしないでおこう。
二人が言う通り、列車に乗ろうと人が溢れ始める。
空いてる座席を見つけては座っていくので、空いてる座席も少なくなっていく。
その中でとある人物を見つけてしまう。
俺はそいつを見た瞬間に視界が真っ赤になるのを感じる。
「あいつは…!」
その人物はこちらに気付くと、あえて近づいてきた。
「この席、座らせてもらっても良いか?」
「あ、貴女は…」
「……」
「…えっと」
「どうした、ダメなら他を当たろう」
「構わない、好きに座ればいい」
「感謝するぞ、少年」
「あんたに感謝される筋合いはない、セルビアナ」
今、目の前に座った人物。
帝国の最強の将にして、皇帝の剣と目される騎士セルビアナだった。
「名を覚えていたか。確か、君はアインだったな」
「そうだ」
「久しぶりだな。この会ってない数ヶ月で、殺気の消し方が上手くなったようだ」
皇帝と初めて謁見した日。
俺はこいつに殺されかけたのを思い出す。
たった一瞬の殺気。
それだけでこいつは俺の首を獲ろうとした。
「私とは言葉も交わさぬか…」
全く不可解な状況だった。
俺が倒せねばならない相手が目の前にいる。
手を伸ばせば触れられる、所に。
「セ、セルビアナ様は何故ここにいらっしゃるの?」
「ある人物の護衛だ。いや…、先ほどから喚き散らしているから分かってはいるだろうが」
「ルゲイエですわね」
「ああ、全くうるさくて敵わないよ。あいつは興味のある事となると見境がなくなる」
「そ、そうですわね」
重い空気の中、耐え切れなくなったロザミアが口を開く。
だが、結局盛り上がらずそう長くは会話は続かない。
「ふん、機嫌が悪そうだな、少年」
「誰のせいだと思っている?」
「せっかくの機会だ。私はもう少し、君について知りたいだけだ。それにしてもソフィア殿下とは上手くやっているようだ。陛下も褒めていたよ」
「皇帝が…。俺はソフィアの相談に乗っているだけに過ぎない」
「そういう事にしておこう」
「そんなに言葉を交わしたいなら、俺からも一つ。何で、あんたはあの皇帝に着いているんだ?」
「可能性の話だ。誰よりも力に焦がれるあのお方なら、そう思った」
「どういう事だ?」
「未来の話という事さ。あの方が死ぬまで私はついていく。それだけだ」
「…皇帝がいる限り、あんたは戦い続けるという事だな」
「その為の剣だからな…」
何だ、ほんの一瞬だけ寂しそうな表情を見せた。
一瞬だったせいか、それは錯覚だったのではないかと思わせる。
「陛下は幼き時より、家族に殺されかけ、友や臣下からは裏切られ一人生きてきた。あのお方が生きる為には力が必要だった。力で皇帝へ至りと、力で民や臣下を従わせ、力で他国を支配した。全ては陛下が生きる為」
「それによって憎しみだけが募っていく」
「それは陛下も同じ事。陛下も奪われ続け、その憎しみを力に変えた。だから止まるわけには行かない」
「止まれないの間違いだろう?」
「そうだな。陛下はそう決めて、ずっとそうしている。止まることは、皇帝が終わる日なのだろう。だが、少年。お前のゴーレムがいかに優れているとはいえ、お前の力で帝国が変わる事はない」
「何?」
「レミリア教にもあるように、それは忌みな力。使い続けるなら身を滅ぼす」
「ジジイ…ゼペットのようにか?」
「陛下はそれを分かって、彼に研究をさせた。過ちに気付き、研究を辞め帝国を抜けだした」
「過ちだと?」
「人が、神に変わり生命を万物を生むことは禁忌だ。その力は過ぎたる物だ」
「随分と宗教じみた言い方をするな」
「ふっ、そうかもな」
セルビアナは首に嵌められた首輪をさすりながら、遠い目をする。
俺はこいつに言わなければならない事がある。
「クレーヌ村…。俺はそこの出身だ」
「何…!?」
「今はもう廃墟しか無い場所だ。ある日、何者かに襲われて以来、そこは村ではなくなってしまったけどな」
「少年、君はクレーヌ村の出身なのか…?」
やはりこいつは知っている。
あの日、父さんを母さんを、村の人を殺したのを。
例え覚えてなかったとしても、忘れさせてやるものか。
お前が、お前と皇帝が、俺の大事な物を奪った事を!!
「こんなとこにいたんか!小僧、さっきの加工について話してもらうぞ!!」
「ル、ルゲイエ?」
「えぇーい、セルビアナ。僕ちんは逃げずにここにいるから、席を変われ!!」
「いいでしょう」
セルビアナが立ち上がるとルゲイエは潜り込むように座席を奪う。
そのままセルビアナは他の席へ向かおうとするが、すれ違いざまに俺へ言葉を放つ。
「帝国を去れ。去らぬなら仲間共々、私が斬る」
ぞくりとあいつの言葉だけで寒気がした。
紛れもなく本気でそう言っている。
しかし、あいつの言葉通りに俺は帝国を去るわけには行かない。
むしろ、あいつこそ。
あいつこそ、後悔をさせてやると心に誓った。




