052_失墜
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「君は…?初めて会うな。いや、そうかその黒い兵士。君が彼らの主と言う事か」
俺は一人、戦場で捕らえた反乱軍の指導者ディータへと会いに来ていた。
協力者という名目で軍に紹介された俺は、衛兵に説明すると捕らえられている檻に向かった。
「初めまして、ディータ殿下。こいつらは、俺の造ったゴーレムですよ」
「ゴーレム!?そうか、君が王国の…。フフフ、なるほど。ソフィア殿下の切り札という訳か。まんまとやられたよ」
「いや、貴方は運が悪かっただけだ」
「運?そんな物でこの私の敗北を認めろと?」
「そう。貴方は、運悪くファントムに唆され反乱軍を設立し、運悪く俺達にやられたと言う事さ」
「ファントム…。そうか、私達の敗北は彼の目論見だったのか」
「気に入らないのは分かりますよ。立場が違えば、こうなってるのは俺とソフィアだった」
「賭けにもならない賭けだったさ。どうしようもなかった。難民達は私に救いを求め集まる。いくら話をしても、税を搾り取ることしか考えない領主。そんな時に彼が現れたんだ。私にとっては彼が救世主に思えたよ。結果、操られていただけだったがね」
「そうですか…」
「悔しいよ。せめて戦場で命を散らせられたのなら、私と共に立ち上がった皆への手向けとなるのに。こうして処刑を待つだけなんて」
「なら一つ、私と取引きしませんか?………」
「フッ、フフフ。まさかそんな事が出来るなんてな」
「可能性の話ですよ。どうせ命を散らせてしまうなら、俺が貴方を有効に使いたいんです」
「亡霊に嵌められ、死に際に悪魔と取引きになるなんてね。いいだろう、私で良ければ好きに使うといい。君に魂をあげよう」
バンッ
玉座の扉が勢いよく開かれる。
今この時間は皇帝と元老院達による政治指針について話し合いが設けられてる。
いかな人物だろうと、彼らを前に、皇帝のいる玉座の扉を叩きつけるように開けるものなどいない。
にも関わらず、皇帝の子息である第2皇子はあえて扉を強く開けたのだ。
「殿下、今陛下は元老院との話し合い中です!」
「うるせー、その手を離せ。急ぎ話があるんだ。父上!!」
その様相に側近であるセルビアナは目だけで警戒を促す。
「何だ、騒々しいぞ、グレイ」
「父上、話がある!」
「グレイ殿下、今は政の話。大した用ではないなら、出て行ってもらいたい!」
「兄上、一体何の用ですか?テオドア卿のおっしゃる通り、政は我らの責務。関係ないなら、退出を」
「ふん、シルビア。良くもそんな事を言えるな」
「グレイ、お前にはソフィアと合流し反乱軍の鎮圧を命じたはずだぞ?」
「難民の集まりなどソフィアでも十分なはず。それよりもこちらを!」
グレイが取り出したのは書簡。
渋々と皇帝はそれを受け取り、書簡を開く。
目を通す皇帝は徐々に口の端を吊り上げ、終いには声に出し笑い始める。
「ふははははは、誠か!?そうか、そうか。あの男が」
「ち、父上?ここに書いてある事は誠!俺はここに書いてある事を確かめるべく、このテオドアの屋敷を探索。そして、拘束されている王国の客人を保護した!!」
「なっ!!?馬鹿な!!王国の客人が私の屋敷からだと!?」
「しらばっくれるなよ?何の謀か知らねぇが、お前が彼らを拘束したんだろ!?」
「ち、違う!!私ではない!!何かの間違いだ!」
「兄上、そんな訳はないはずです!テオドア卿がそんな事をする筈は!」
「くっくっく、なら王国の客人に確かめてみるか?どこで助けられたかを?」
「へ、陛下、違います!!これは何かの間違い!私を謀ろうと何者かによる策略でございます!」
「ふはは、謀か。それも一興よ」
「父上、その書簡には一体何が…」
「懐かしい…かつて余が友と思っていたものからの手紙だ。殺した筈なのだがまだ生きてようとは。これはレジスタンスの首領を名乗る男からのものよ。そして偶然にも、テオドア卿の屋敷にて拘束されている王国の客人を発見したとな」
「まさか!!」
「ち、違います!陛下、これは彼奴等レジスタンスによる謀!どうか、私を信じて下さいませ!」
「くっくっく、これは愉快だ。にしてはその動揺、少し慌てすぎではないか?ならば、確かめよう。罪ならば死を。そうでないなら、生かしてやる」
「へ、陛下!!」
「セルビアナ、やれ」
「はい」
セルビアナはゆっくりとテオドアへと近づいていく。
「く、来るな!化け物め!!」
「失礼する、ご老公」
「離せ!!何をする!!」
「私をご覧になって下さい。私はどんな些細な事も逃さぬ目を持っています。呼吸、心音、表情。全てを見、その者が嘘をついているかは分かります」
「止めろ!私は誘拐などしておらぬわ!!」
「では聞きましょう。王国の者を拘束したのは貴方ですか?」
「違うに決まっておるだろう!!」
「なるほど。では次、王国の者が消息を眩ましたのは知ったますか?」
「知らぬ!そんな事は知らぬ!!」
「では、陛下に何か隠していますか?」
「そんな訳はない!私が陛下に隠し立てする事などない!」
セルビアナは一呼吸置くと、皇帝へと目を合わせる。
それに応えるかのように皇帝も軽く頷いた。
「最後です。陛下に対し、背く行為をしましたか?」
「私の忠誠は陛下の者!!私が帝国を裏切るなどあり得ぬわ!!」
「残念です、ご老公。貴方は陛下に対して何か良からぬ事をお考えのようだ」
「ば、馬鹿な!!そんな事はない!何かの間違いだ!!ええい、この女狐め!貴様、陛下に嘘を吹き込むな!!」
「構わん、やれ」
「御意」
「や、止めろぉぉぉぉ!!!」
ブシュウゥゥゥ
セルビアナは迷う事なく、テオドアを斬り伏せた。
周りにいた元老院達は狼狽え、近くにいたシルビアには返り血が顔や衣服についていた。
「相変わらず、えげつねぇな。父上、王国の客人は俺が城へと連れ帰った。侍女達に今は介抱させている。俺はこれから、ソフィアに合流してくる」
「そうか。誰か、そこの死体を片付けろ。終わったら、さっさ続きを話せ」
反乱軍の鎮圧を終え、俺達は帝都へと戻っていた。
ソフィアが城での報告を諸々済ませた後に、俺へと事の顛末を話しにきてくれた。
「テオドア伯爵は、セルビアナに処刑されたそうだ」
「処刑?まさかそこまでするのか?」
「私にも父上の考えは分からない。何故そこまでと考えたが、父上は昔からそうだったとしか」
「それだけ聞けば暴君だな」
「事実だから、間違ってはいないが…。それとまだ正式にではないが第4軍の設立は何とかなりそうだ。今回の件で、元老院も設立には黙認してくれた」
「やっとだな」
「ああ、色々な思惑があったとはいえ、私の当初の目的は達成されそうだ。実際には、来年への設立へ向けて軍備と兵の調達が必要となるな」
「予備軍人を徴用ではなくてか?」
「もちろん、そうなのだが改めて適性を図りたいと言われてな。これは兄上、グレイ兄様と一緒に審査をする事になったよ。無条件での設立とは行かなかったが仕方あるまい」
「まぁ、そうだな。しかし来年か」
「早くしたいのは私も同じ気持ちだが、4軍に対する予算もあるからすぐにというのは難しいそうだ」
「ともかく結果は上々か。全てあのファントムに転がされたのはムカつくが」
「あの男…、城の内情に精通し過ぎている。内通者がいるのか、それとも」
「ただのレジスタンスって言葉じゃ括れないのは確かだな。彼らの目的が帝国を滅ぼす事なら、いずれはぶつかるな」
「だけど、アイン。彼らも私達と同じ目的なら…」
「レジスタンスや難民の手を借りなくても俺のゴーレムがいる。それに…あの男は」
「確かに先の戦場で見たゴーレムの軍の力は凄まじかった。やはりあの男が神輿出来ないという事か?」
「そうだな。何故だか俺には、あいつが本当に帝国を滅ぼそうとしているようには思えなくてな。憎しみではない、別の何かの様な」
まさしく今回の一件は、ファントムに仕組まれたかのような出来事だった。
だが、ソフィアは軍を手に入れ、元老院も一人、俺らの障害となっていた人物が取り除かれた。
依然と俺達の目的は変わらないが、ファントムの言う通り目的を達する為に排除しなければならない障害はまだあるのだと痛感させられる。
俺は自身の目的を達するにも、ファントムよりも綿密な計画を、セルビアナよりも人間離れした力を手に入れなければならない。
「グレイ殿下、上手くいきましたね」
ファントムはレジスタンスが隠れ家と使っている空き家にやってきたグレイへ一礼をしながらそう答える。
「ああ、あの目障りなテオドアを退ける事が出来た。しかし、まさか父上が殺すよう命令を出すとは思わなかったが…」
「彼のお方はそういう性分なのですよ。自身に傅き優秀な者にはより恵まれた待遇を、敵意や悪意を持つものには無慈悲を」
「ああ、ここ最近は争い事も少なかったのでな、忘れかけていた。そういうのはお前のほうが詳しいんだったな」
「ええ、陛下とは旧知の仲でしたので」
「旧知か…。父上はお前のよこした書簡を見て、友と言っていたぞ」
「ふふふ、友ですか。まさか陛下がまだ私をそう呼んで下さるとは」
「父上の友か。力が全てとしか思わない父に友がいたなんて想像つかないな、俺には。所でお前から見て、あの王国のゴーレム錬成士はどうだった?」
「アインですか。私どもの放った草によると僅か数100名の兵と彼のゴーレムで数日も万を越える反乱軍を足止めしていました。特筆すべきは彼のゴーレムの性能と数」
「ほう、そこまでか!」
「ええ、目測で2,000近く。その一体一体が騎士なんか比較にならない程の強さ」
「そこまでか…。ソフィアめ、上手く取り込めたものだな」
「見ている限り、ソフィア殿下が引き入れたというより、彼がソフィア殿下を御しているようにも思えますね」
「そういう事か、あの気弱なソフィアが上手く丸め込まれた訳か。どうだ、奴を引き込めるか?」
「分かりません。ですが、私としては危険な気がします」
「危険だと?」
「あくまでも私の所感ですが、あの者は純粋な憎しみそのもの。私どもが上手く制御出来るものではないかと。むしろ…」
「たかが冒険者に買い被るな」
「殿下も人の持つ憎しみはご存知でしょう?」
「…それは俺の事を言っているのか?まぁ、お前の考えは分かった。決着は近い。引き込めるなら、仲間に。そうでないなら」
「分かっております」




