044_ダンジョン『石の塔』Sランクモンスター
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マスラオは体内に意識を向け、一点に集中する。
真眼で見ると凄まじいエネルギーが駆け巡るのが分かる。
それは魔力だけじゃなく、未知の力も合わさってエネルギーとなっているのだ。
それは徐々に体外へと溢れ出し、真眼でなくても視認出来るようになる。
薄紅色、いや桃色。
そんな靄みたいのが体を纏う。
「ふぅぅん!!…お恥ずかしいんだけど、これのせいで『剛血』だなんて呼ばれてるのよ。私が流すのは血の汗。それが体の熱で蒸発すると綺麗なピンク色になっていくのよ」
『剛血』のマスラオ。
その二つ名が示す通りの技。
あれで殴られた相手は誰だろうと一撃で粉砕してしまうのだろう。
「行くわよ!」
遠くからでも聞こえる拳が空を切る音。
その先にいるこのエリアのボスは、それを喰らう。
ドゴーーーーーンッ
「な、何て威力ですの…」
「…驚きです」
「こんなに強い方がいるんですね」
俺達は皆一斉にマスラオのたった一撃で終わる戦いぶりに口を開けて観戦していた。
【ステータス】
サイクロプス
年齢:3歳
ランク:A
Lv:52
HP:0/2132
MP:72/72
力:934
体力:1522
早さ:231
魔力:54
運:12
【スキル】
[棍術スキル 7][剛力スキル][鉄壁スキル][不動如山スキル]
サイクロプス。
その大きさは、俺の世界でいうビルの三階建てにも匹敵するほどの一つ目の巨人だ。
それを一撃で葬った。
ガーヴェイさんやレイアもそうだが、やはりSランクの冒険者は化け物じみてるな。
「さぁ、魔石と素材を取ったら先に行くわよ。頂上はもうすぐよ」
「あれ、来た事あるのか?」
「そりゃそうよ。ここはさっきも言ったけど修練場みたいな場所よ。帝国の冒険者なら一度は訪れるわ」
「そうなのか。じゃあもしかすると、その頂上に異変の原因があるって事か?」
「私もそこまでは分からないわね。行ってみないとって感じかしら。でも強い気配はプンプンするのよね。強者のフェロモンってやつかしら」
「ふぇ、フェロモン」
「ウフフ、アインちゃんもいずれ分かるわぁ」
サイクロプスがいたボス部屋を抜けると、再び塔に戻ってきた。
場所は塔の上層。
外から見える景色は素晴らしく、そしてかなり高い場所なのだと気付かされる。
「この階段を登れば頂上よ。普段ならダンジョンボスがいるのだけど、今は違うものがいそうね」
「異変の原因…」
「行ってみれば分かるわよ」
階段を登ると、マスラオが言っていたように塔の頂上だった。
そして塔の奥には祭壇とダンジョン核が置かれているが、核の様子がおかしい。
異様な魔力を放ち、輝いていた。
そして祭壇を守るように前には大きい獣が存在していた。
「ちょーっと、まずいわねぇ。私だけだと苦戦しちゃうかも。アインちゃん達も手伝ってくれるかしら?」
「そんなにやばい相手なのか?」
「あら、アインちゃん。[鑑定]持ちなんだから、近づけば分かるわよ」
やっぱりバレてる。
Sランクには隠しても俺が[鑑定]を持ってる事を見透かされてしまう。
俺達は一歩ずつ近づき、射程に入った途端に[鑑定]を発動する。
【ステータス】
ベヒモス
年齢:231歳
ランク:S
Lv:71
HP:2345/2345
MP:1236/1236
力:1678
体力:1553
早さ:987
魔力:877
運:87
【スキル】
『重力魔法』[風魔法スキル 8][火魔法スキル 8][闇魔法スキル 8][魔壁スキル][怪力乱神スキル][天魔スキル]
Sランク…。
やはり現れたか。
しかし、かなりのレベルにステータスだ。
マスラオでも苦戦するって言ってる程だ。
「エメ、ロザミア。いつも通り遊撃を頼む。クロエは出来る限りでいい。無理して接近するなよ」
「「「了解」」」
「じゃあ、私も出来る限りがんばらせてもらうわ」
ベヒモスはこちらを補足すると臨戦態勢になる。
離れていてもその息遣いは分かり、俺らを敵として認識している。
それは俺らをここから生きて帰さないぞと言っているかのようだ。
「ふぅぅぅん!」
小手調べと言わんばかりにマスラオの豪腕が、ベヒモスの額へと振り下ろされる。
「グモォォォアアア!!」
負けじとベヒモスも突進をし、拳の威力と相殺された。
「さすがはベヒモスねぇ。私も昔に見たことがあるだけなんだけど、強いわねぇ」
「グオオオオォォアアア!!」
続けてベヒモスの頭から生えた巨大な角を振り上げる。
だがマスラオは一瞬だけ桃色の煌めきは放つと瞬時に距離を取る。
「これは…小手調べでやってたら、殺されちゃうわぁ。エメちゃん、ロザミアちゃんもそのつもりでね」
「「はい」」
二人もその危険性は把握していたらしく、初撃にして全身に魔力を纏わせ始める。
そして攻撃に移る前に魔力強化を完成させる。
「いきますわ!」
「喰らいなさい!」
ただ喰らうまいと、ベヒモスも何かを仕掛けてくる。
魔力の高まりを感じ、魔力波か魔法かを警戒したがそれらが発現する様子は見られない。
だがそれでも魔力は何かを成そうとしている。
「何だかまずそうだぞ」
「…大丈夫ですか、お二人は」
そしてベヒモスは何かを放った。
魔力の流れを見る限りは何かをしたというのは分かるが、だがそれは目に見える形で行われていない。
「二人共気をつけろ!ベヒモスは何かしたぞ」
二人は俺の言葉に軽く頷き攻撃を続ける。
そしてタイミングを見て、同時に飛び上がり武器を振り下ろそうとした。
だが不自然にも二人の攻撃は届かず、ベヒモスの手前で着地してしまう。
そしてそのまま膝をついて動けなくなる。
「これは…」
「体が動きません」
二人は何かに押さえつけられるように身動きが取りづらくなっている。
「まさか、『重力魔法』なのか」
「まずいわぁ」
重力で縛り付けられてる二人に向け、ベヒモスは突進してくる。
隣りにいたクロエが慌てて、駆け寄り鎖を投げる。
その鎖はロザミアに絡みつき、そして引っ張り上げる。
「…お、重いです」
ずるずるとだが、ロザミアは引っ張られベヒモスから離れ始める。
それを見たベヒモスはターゲットをエメ一人に絞る。
「まずい…」
「グオオオオォォアアア!!」
桃色の煌めきが颯爽とエメの近くを駆け抜ける。
「ぐっ、重力って痺れるわねぇ」
高重力の中、マスラオはエメを抱きかかえながらベヒモスの突進を躱す。
「ありがとうございます…」
「いいのよん。って、貴方…なるほど」
エメは自分の足で立ち上がり、マスラオは俺へと振り向く。
「アインちゃん、出し惜しみは無しよ?貴方の秘密を他言するほど落ちぶれちゃいないわ」
「なるほど、エメに触れたから分かったのか」
「王国から来たゴーレム使い。何となく想像はしてたわ。お姉さんは仲間よ。信用して欲しいわ」
「確かに、こんな所で死んじゃ元も子もないな」
魔力を練って、想像する。
自分の中で強いゴーレムを。
「召喚!」
現れたのは4体のゴーレム。
軍団としてストックしている量産型のゴーレムとは一線を画す性能を持つように設計した。
自立稼働はもちろんだが、主に俺が操作する事を念頭に置いたゴーレム達だ。
「エメ、ロザミア行けるか!?」
「ええ、不意を突かれましたが平気ですわ」
「問題ありません」
「よし行くぞ!」
ゴーレム達に意識を移し、ベヒモスに向けて駆ける。
続いてエメ達も動き始める。
「グゥゥウウオオオオ!!」
待っていたぞと言わんばかりにベヒモスは再び魔力を高めていく。
「この雰囲気、またあの重力ですの!?」
「気にするな、そのまま攻撃続行だ!」
「アインには何か策があるのですわね。わかりましたわ、信じますわよ!」
俺は操作しているゴーレム達に魔力を注ぎ込む。
そして魔力を送り込んだ魔力を解き放つ。
「…ご主人様のゴーレムが輝いてます」
「これは魔力強化ですわね!」
このゴーレム達は性能が高いだけじゃない。
エメと同じく各所に魔石を埋め込んでるおかげで魔力強化の発動を可能としている。
「グルルルゥゥアアア!」
ベヒモスは再度、重力魔法で俺たちを地面に縛りつけようとしてくる。
「くっ、またですか」
「体が重いですわ…」
魔力強化したゴーレム達をエメとロザミアの近くへ移動させる。
そして魔壁を展開させた。
「あれ、楽になりましたわ」
「本当ですね、重力が元になりつつあります」
「『重力魔法』も魔力による攻撃の一種ならばと魔壁を展開させたのが上手くいったな」
「これなら、いけますわ!」
「さっきのお返しです!」
エメとロザミアの魔力の揺らぎが高まる。
魔力強化で纏う魔力が跳ね上がったのだ。
「はぁ!!!」
「喰らいなさい!!!」
二人の攻撃がベヒモスを襲う。
「グゥゥウウオオオオアアア!!」
見事な直撃に、ベヒモスを怯む。
だが、まだ俺達の攻勢は終わらない。
「あらあら、若い娘達に負けてられないわ!」
「ちょ!何やってるの??」
マスラオは魔壁を展開したゴーレムを片手で担ぎ上げると盾代わりに重力のフィールドへ突っ込んでいく。
そして怯むベヒモスに桃色の拳を振り下ろした。
「グアアアアゥゥゥゥ!!」
マスラオの勢いにベヒモスはその巨体を軽く飛ばされ、倒れこむ。
だがその瞳はまだ死んでおらず、必ず俺達を殺してやると訴えているようだった。
「さすがにベヒモスね。この程度じゃまだまだよね」
「みたいですわね」
「立ち上がります」
立ち上がったベヒモスは体内の魔力をかき集める。
「また重力ですの…?」
だがその雰囲気は別の物を表していた。
「違う!額に魔力が溜まっていってる!別の攻撃だ!」
俺が警告を発するも、ベヒモスのいち早く動き始めていた。
額に集まった魔力は角へと集約し、大きな魔力の塊が発生する。
そして、その塊を飛ばそうで一際大きな咆哮を上げた。
「グゥゥウウオオオオ!!!」
魔力の塊は咆哮により、前方へとブレスのように吐き出され、飛んでいく。
ゴゴゴゴゴ
強すぎるその威力は地面ごと抉り、前面に出ていたみんなに襲いかかった。
「くそ。あいつ、魔法を使ってブレスの真似事までしやがった」
「…み、みなさんは!?」
ブレスが消滅した場所からは一面桃色の魔力が溢れかえっていた。
「あぁん?痛いじゃないの!?」
咄嗟の攻撃に、マスラオがみんなを庇ってくれたようだ。
だが俺が操作していたゴーレムの二体は盾代わりとされ、破壊されてしまっていた。
それでも勢いを殺しきれなかったマスラオは全身に謎のエネルギッシュな桃色オーラを纏い、みんなを守ってくれた。
「ありがとうございますわ、マスラオさん!」
「助かりました」
「大した事ないわと言いたいんだけど、ちょっと限界が近いわ。残りの力であいつを仕留めるけど、それまでどうにか隙を作ってもらえるかしら?」
「分かりましたわ!」
「はい」
さすがのマスラオもSランクモンスターの最大の一撃を浴びて、無傷では済まなかったようだ。
最後の力で仕留めるとマスラオは言った。
俺達に出来る事は、みんなでそのチャンスを作る事。
「みんな、いけるな?」
「「はい!」」
「…えっと、私にも何かやらせて下さい!」
「クロエ…。そうだな、最後だ。俺達全員でやろう!!」
「…ありがとうございます、ご主人様!」
みんなの意思を一つに再び、ベヒモスへと向き合う。
ベヒモスもこの攻勢で決着が着くと、気合を入れんと睨みつけてくる。
「い、いきなり攻撃方法が変わっておりませんか!?」
「くっ、魔法の連発!」
初期の重力で縛って突進というパターンから、今度は魔法主体に攻撃が変わった。
その巨体に似合わず魔法の扱いは巧みで、威力は低いがあえて詠唱の短い魔法を連発してきている。
それはまるで俺達の接近を拒むようにいくつも魔法が飛び交って来ている。
「近づけませんわ!?」
「一発一発は威力が低くても、何度も受けるとまずいですね」
「グルルルルォォォオオ!!」
一際大きい魔力がベヒモスの中で集められていく。
「まずいですわ!まさかまた魔法ブレスを放つつもりですわ!?」
大きな魔力の塊がベヒモスの額に出現していく。
口を大きく開け、咆哮を上げる。
「グルルルゥゥアアア!!!」
「や、やばいですわ!?」
「くっ!!」
ブレスが無慈悲にもエメとロザミアのいた場所を削り取り消し去っていく。
…かのように思えたが、ブレスは軌道をずらしゆっくりだが頭上へと逸らしていった。
「…ぐぐぐ、がんばりますぅーーー!!」
クロエはベヒモスがブレスを放つ寸前、額の角に鎖を絡め取り軌道を逸らしていた。
もちろんクロエの力だけでは足りず、残ったゴーレム達を操り一緒に鎖を引っ張り上げた。
「グ、グゥゥウウオオオオ!!?」
「今ですわ!!」
「チャンスですね!」
この隙を逃すまいと、エメとロザミアはベヒモスへと飛びかかる。
「グゥゥゥギォォオオオ!!」
ベヒモスから一際大きな悲鳴が上がる。
二人の攻撃はベヒモスの両の目を貫いていた。
いかな巨体な生物だろうとそこを攻撃されればたまったもんじゃない。
「待っていたわよぉぉぉ!!!」
目を潰され悶えるベヒモスの前に眩しいくらいの桃色の輝きに溢れていた。
今まで見たマスラオのオーラの中でも一段と凄まじい物になっていた。
「せっかくみんなが作ってくれたチャンスだもんね。本気で行くわよん!!!」
桃色の輝きを纏ったまま、マスラオは走り出す。
それはまるで光の筋となってベヒモスへと向かっていく。
「私の中にある血よ、汗よ、肉よ、骨よ。我が敵を滅せよ。これが『剛血』の本懐!剛覇桃血煌撃拳!!」
桃色の煌めきがベヒモスを潰していく。
額はその拳によりめり込み、上半身へと喰いくんでいった。
「た、倒した」
「ええ、マスラオちゃんのおかげです」
エメよ、いつの間にそんなフレンドリーな間柄に…。
「…綺麗ですね」
「ええ。…でも、あれ汗なんですよね」
「言うな…」
かくして強敵だったベヒモスを退治する事が出来た。
マスラオの攻撃で幾つかの希少な素材は駄目になったが、俺が欲しがった魔石は無事だったので安心した。
「さて、後はこれですわね」
ベヒモスを退けた俺たちは祭壇に登り、怪しく輝くダンジョン核を目の前にしていた。
「困ったわねぇ。これをどうにかすれば収まるとは思うんだけど、最悪壊すしかないのかしら」
「…えっと、そうするとダンジョンじゃなくなっちゃうんですよね」
「ええ、そうよ。でも、このままストーンヴィレッジに迷惑をかけるなら破壊しかないのだけど」
「そうするしかないのか。でも何でこんな風に…。少し調べるくらいは」
俺は調べようとダンジョン核に手を伸ばしたその時だった。
「アイン!?」
「…エメさん!?」




