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036_誘拐

いつも見てくださってありがとうございます。

帝国に来てからと言うもの、ご主人様はずっと工房に篭もられております。

憎き仇が側にいるからでしょうか。

今までに見たことも無いほど、ゴーレムに打ち込んでおられます。

特に夜にはふらりとどこかへ出かけると明け方まで帰ってこない日も度々ありました。

ご主人様が体を崩されないか。

私には栄養のある物を作って、食べて頂くくらいしか出来ません。

この日もいつもと変わりませんでした。

ご主人様は明け方にふらりと帰ってこられ、そのまま工房で作業をすると眠りについておりました。


「…えっと、ご主人様、買い物に言ってまいりますね」


近くにある布をそっと被せると起こさないよう、そっと伝えると私は屋敷の外に出ます。

屋敷の門にはゴーレムが衛兵代わりに立っています。


「言伝を頼みます。買い物に行ってまいります」

「了解」


私の言葉を聞くと、ゴーレムの目が一瞬だけ赤く光ります。

屋敷から少し歩くと、いつもの視線に気付きます。

ねっとりとした気持ちの悪い視線。

ここ最近、私が感じていた視線です。

帝都には人が多く、一体誰が私の事を見ているのか分かりません。


「…いつもの事です。早く帰ればきっと大丈夫」


いつも見られて気持ち悪く感じてましたが、こう何度も同じ目に遭うと慣れてしまうもの。

今日もきっと覗き見られて終わるものだと。



----------------------------------------------------



「アインーーーーーー!!」


大声で俺の名が呼ばれた。

声からするとロザミアだと言うのはすぐに分かった。

眠気眼をこすり、俺はみんながいるリビングへと向かう。


「どうかしたか、ロザミア?」

「た、大変ですの!!クロエさんが!!」

「クロエがどうしたんだ?」

「クロエさんがいませんの!!」

「我々は先程クエストから帰ってきたのですが、クロエの姿が見当たりません」

「見当たらないって、買い物…そんな訳ないか。日は既に落ちてるしな」


日は既に落ちたにも関わらずクロエの姿は屋敷の中には見当たらなかった。

普段ならば、この位の時間にロザミアとエメはクエストから帰ってくる頃合いで、それに合わせてクロエは夕飯の支度をしていた。


「アインは何か知りませんの?」

「すまない…、いつもの通りゴーレムをいじっていたら眠ってしまっていて。クロエがどこに行ったかは気づかなかった」

「そう…ですの」

「クロエに限って、外で遊んでいるとは考えられませんね」

「確かにな。そうだ、外のゴーレムに何か伝言を残しるかもしれない」

「伝言…?」


俺も含めて、外に出る事が多いので見張りのゴーレムに伝言機能を搭載させたのだ。

クロエはちゃんと俺の説明を聞いてくれてたおかげで使ってると思う。

ロザミアは分からないが。


「伝言一件。「…えっと、ご主人様、買い物に言ってまいりますね」」

「買い物に出たきり、戻らないという事か…」

「クロエさん、一体どこに…」

「ともかく、こうしてる時間も惜しい。さっさと探そう!」

「そうですわね。忘れがちですが、一応ここは帝国。私達にとっては敵地ですわ」

「ロザミアの言う通りだ。エメ、ロザミア、捜索を頼めるか?俺はミニゴーレムで帝都全体を探る」

「分かりましたわ」

「了解です、マスター」


二人は勢い良く飛び出していく。

俺もありったけのミニゴーレムを召喚すると、一斉に夜の帝都へと放つ。

さすがは帝都だ。

夜でも歓楽街の方は明るく、人の往来がまだある。

目につくのは、浮浪人や小金持ちの商人を相手にする多くの娼婦だ。

少し外れた暗がりへと行けば、そこは犯罪の温床。

暴力が暴力を呼び、昼の往来ではあり得ない光景が拡がっている。

あるいは暴行されうずくまる者、またはピクリとも動かない者。


「くっ…下種どもめ。クロエを早く見つけなくては…!」


ミニゴーレムと通じてとはいえ、このような光景を見れば嫌でも焦りが生まれてくる。

クロエは一体どこにいるのか。

早く見つけなければ。

その事だけを考え、ひたすらミニゴーレムを操作する。

ゴーレムは基本的に自律行動出来るよう設計してある。

だがミニゴーレムなど特殊な動きを要するものには自律行動では不可能だ。

その場合は俺が直接操作を行う。

今までやってきた事で問題なく行えているが、今回投入したミニゴーレムの数はかなりになる。

俺はそれら全てを操作している。

MPがどんどん減っていくのを感じつつ、またミニゴーレムが人や犬などの動物に見つからないよう最新の注意を払っての操作なので精神も削られていく。

だがそのおかげで俺は自身の屋敷にいながら、帝都が手に取るように分かる。

クロエがどこにいるのか、検討もつかない。

とりあえず俺は帝都中を闇雲に探している。

建物などは覗き、迷子という線で網の目のように張り巡られた帝都中の道を捜索しているが手がかりは一向に見つからない。


「外にはいないのか…」


クロエの捜索を開始して数時間。

もう数時間もすれば、夜が明けてしまうだろう。

探す場所を変えるかと、考えているとエメとロザミアが戻ってきた。


「手がかりは?」

「見つかりませんわ…」

「私も見つかりませんでした。目ぼしい所は探してみたのですが手がかり一つありません」

「そう…か」


考えたくない予感が浮かんでくる。

誰かに誘拐された。

または、先程見た夜の往来で行われてる犯罪の数々が頭をかすめた。


「くそっ!」

「アイン!?」

「大丈夫ですか、マスター?」

「すまない…、ここまで大事になるとは。俺が注意してればこんな事には。もしクロエに何かあるようだったら、その時は…!!」

「わたくしもクロエさんに何かあれば決して帝国を許しませんわ!!」

「ああ、そうだな。すまない、少し熱くなった。ロザミアは休んでくれ。エメはまだいけるか?」

「わたくしもまだ動けますわ!!」

「いや、交代で休もう。まだ手がかりもないんだ。何が起きてもいいように俺かロザミアのどちらかは万全にした方がいい」

「そ、そうですけれど」

「マスターは平気ですか?こんなにたくさんのゴーレム操作となるとMPの消耗が激しいのでは?」

「ああ、確かにな。まだ平気だが持って数時間か。それまでは俺がやるから代わりにロザミアを休ませたい」

「分かりました」

「アイン、交代ですわよ?最後まで無理はしないでくださいね?」

「ああ、約束するよ」


ロザミアは寝室へ、エメは再び屋敷の外へ繰り出した。

分かっていたがクロエがいなくなるだけで、こんなにもイライラしている自分がいる。

普段から色々やってもらってるクロエに俺は甘えていたんだと後悔する。

くそ、何が仲間だ。

気付いた時には後悔じゃないか。

俺は歯噛みをしながら、捜索を続けた。

ある程度目ぼしそうな建物を中心に探したが、未だにクロエの姿も手がかりも見つからなかった。

まだ探していない建物は無数にある。

捜索のペースを上げてはいるが、それでも帝都の大きさは洒落にならない。

帝都内でも一際大きい建物をミニゴーレムの視界から見上げる。

帝国城。

まさかこの中なのか。

だがここにミニゴーレムの一体でも入れば、あのセルビアナのテリトリーとして気付かれてしまう。

それはつまり皇帝にもこのミニゴーレムの存在が見つかる。

手の内は晒したくないが、最悪の場合は…。

もう少しで夜が明ける。

一夜かけ、クロエを探したが何の手がかりも得られていない。

正直、ダメかも知れないと諦めていた。

その時だ。

ミニゴーレムが何者かに捕まってしまった。


「くそ、操作を誤ったか…!」


だが、そうではなかった。

その者は珍しそうにミニゴーレムをジロジロと見ると、何かを呟いた後ミニゴーレムを手放した。


「一人でスラム奥の廃教会へ来い」


何者かは分からないが、クロエへの唯一の手がかりだ。

俺はミニゴーレムを一斉に屋敷へと戻すと、急いで飛び出した。

ミニゴーレムで帝都内の各地の場所は頭に入っていた。

俺はスラム街へと目指す。

明け方にも関わらず、スラム街では異様な雰囲気が醸しだされていた。


「おい、待ちな。ここを通るんなら、持ってる物全部出しな」


バキッ


「なっ、て、てめぇ、いきなり何を!!?」

「次は命を取るぞ。邪魔だ、失せろ!」

「ひ、ひぃぃ」


スラムの住人に絡まれるが、問答無用で殴り飛ばした。

それを見た他の住人も、いそいそとその場を後に散り散りとなっていく。

しばらく駆けると、指定された廃教会が目についた。


「ここか…」


罠の可能性もある。

俺は気を引き締めて、中へと入った。

中で誰かいるのかと思いきや、誰もいなかった。

代わりに、礼拝堂の一部がずれ、中から階段が見えていた。


「ここを降りろという事か」


何者かに誘われるように俺は階段を降りていく。

階段を降り始め、しばらくすると上の方で音がする。

どうやら礼拝堂が動き、隠し階段を見せなくしたのだ。


「用心深い奴だな」


長い階段をさらに降りると灯が見えてきた。

真っ暗闇な地下室に大きな祭壇が存在していた。

そして祭壇の前には見覚えのある男が。


「貴様っ!!ぐっ…、体が」

「やれやれ、まだ何も話をしてないでござろう」

「くそ、忍者め!」


ノースボアで出会ったレジスタンスの一人である忍者・バースだった。


「何故、お前が!クロエを攫ったのはお前達なのか?」

「違うでござる。拙者たちではないござるよ。我らの敵はあくまでも帝国そのもの。お主達、王国の民に手を出すのは本意ではござらん」

「じゃあ何故、俺を呼びつけたんだ?」

「クロエ…と言うのでござるな、その捕まったご令嬢は」

「知っているのか!?」

「知っているでござる。だが拙者たちも帝国に追われる身。拙者も危険を冒してまでお主に接触したのは理由があるからでござる」

「どういう事だ?」

「お主、気が動転して気づいてなかったでござるが、尾行されていたでござるよ」

「尾行だと?くそ、気付かなかった。一体、誰が」

「それを危惧してのこの場所を選んだのでござる。この場所はかつて異教と呼ばれた宗教の祭壇でござる。今の宗教はレミリア教が主であるが、木を隠すなら森の中。レミリア教の教会に隠し祭壇を作ったのでござるな」

「異教か…」

「レミリア教が他の宗教を認めないように、その異教もまたレミリア教を否定する内容だったとか。レミリア教唯一の神の否定。万物を作る神は偽物で、新たな神こそが唯一神となり得るとか」

「眉唾な話だ。宗教なんてそうやってぼやかした教義で信仰心という名の人心を把握する物だ」

「お主は宗教を信じないのござるな。尾行をした人間はおそらく、誘拐をしたオクタ伯爵の手のものに違いないでござるな」

「オクタだと」

「と言っても、帝国の世情に疎いお主には誰かはわからんでござるな。クロエ殿はオクタ伯爵。正確にはそれを命じた元老院達によって捕らえられたのでござる」

「くそ、ここでも元老院か」

「お主のそのゴーレムの力。それをソフィア殿下に貸しているのが、元老院にとって気に入らなかったのでござろう。それを黙らせる為にもお主、または仲間を誘拐したのでござろうな」

「そういう事か。いや、やはりと言うべきか。いずれはこうなるとは思っていたが、まさかクロエの方を攫うなんてな」

「彼らに取ってみれば、お主がそれで自粛してくれれば問題ないでござるよ。ただ捕まった相手が悪かったでござる…。実行犯はオクタ伯爵の嫡男であるタコタ・オクタ。好色な鬼畜な男でござる」

「くそ、そんな奴に。早く拘束を解け!そして場所を教えるんだ!」

「ま、待つでござるよ!拘束は解くでござる。場所も教える。だが、これは交換条件でござる」

「交換条件だと?」

「今から言う条件を飲めばでござる。それを飲めば、クロエ殿の居場所とソフィア殿下とお主達にはしばらくは手を出さないと誓うでござる」

「内容次第だ…」






「くっ、胸糞悪いな。だが分かってるな!?」

「約束するでござる。拙者たち、いや拙者が王国の者には手を出さないと誓うでござる」

「しかしお前達はこんなにも無謀な戦いを…。いや、それ以上に何故帝国の内情に詳しいんだ」

「それは拙者の口からは言えないでござるよ。先ほども答えたように敵は帝国でござる。その為には目下、民を喰い物とする元老院を失脚が重要でござる。これはソフィア殿下も望んでおるのではないでござるか?」

「さぁな」

「それが答えでござるな。健闘を祈るでござるよ、ゴーレム錬成士」

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