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035_禁忌

そろそろ原稿のストックが…。

可能な限り更新頻度を早めますのでご了承下さい。

帝国に来て2ヶ月程経った。

色々あったが、ソフィアは俺に色々協力を惜しまなかった。

4軍に与えられる予算の少ない中、ゴーレムの材料を揃えたりなど手配をしてくれた。

アーノルドが不審に思っていたが、そこは上手く誤魔化した。

ソフィアはああいう性格だ、アーノルドには俺の事は話していなかった。

それを踏まえての協力だったのは言うまでもないが。

おかげで色々とゴーレムの研究や量産に取り組めた。

この間のレジスタンスの一件以来、帝国では大きな事件もなく比較的ゆっくりとした時間が流れていた。


「…えっと、おはようございますご主人様」

「ああ、おはよう。というかもう昼過ぎだな」

「…えっと、そうです。昨晩も遅くまでゴーレム錬成を?」

「ああ、色々とな。もしかしてうるさかったか?それなら悪い事したな」

「い、いえ大丈夫です!就寝の挨拶をしてから、私はすぐに眠りましたので」

「すぐ寝れたなら良かった。もしうるさいなら、工房を防音に。そんなスキルがあったような…、でも可能なのか。工房自体にゴーレムとしての機能を…」

「…えっと、ご主人様お腹の方は空いてらっしゃいますか?」

「ああ、そうだな。みんなの残り物があればそれを。あれ、他の二人は?」

「エメさんとロザミアさんは二人して出かけられました。何でもご主人様に必要な魔石を取りにギルドで丁度いい依頼がないか、そのままクエストに」

「ああ、そういう事か。ありがたいがロザミアあたりが体を動かしたかったんだろうな。まぁエメがいれば問題ないだろう」


遅めの朝食を食べると俺は散歩に出た。

クロエが一緒に来たがったが断った。

ゴーレムの強化で行き詰まっていたから、一人で考えたかった。

エメはともかくとしてゴーレムの性能強化には限界を感じていた。

いい材料に高ランクの魔石。

そしてスキル。

並大抵の騎士や冒険者に負けはしないが、人外クラスの連中にはどうしても勝ち目は見えて来ない。

相手が一人ならとは考えるが、帝国を相手取るならそうも行かない。

そんな事を考えながら、いつもと変わらぬ混雑した帝都の通りを歩く。

相変わらずの人の多さに嫌気がするが、慣れれば歩けない訳じゃなかった。

そんな人の海の中に一人、目に付く人影があった。

白い肌、白い髪、そして瞳だけは燃えるように赤い女の娘。

その娘がこちらを見ていた。

異様に目立つ見た目にも関わらず、誰も気に留める様子もない。

何かのスキルなのか。

ずっと見られていても埒が明かない。

俺はその娘に近づく。

だが近づくと離れて行く。

遊ばれているのかと立ち止まれば、また娘はこちらを見続ける。


「はぁ、ついて来いって事か」


一息、ため息をついて、警戒しながらついて行く事にする。

溢れる人を掻き分けながらついて行くが、やはり娘は誰の目に止まる事はなかった。


「スキルなんだろうが…、この距離じゃ[鑑定]が届かないな」


とにかくついて行けば分かる。

ここにロザミアでもいれば幽霊だとか、騒ぎそうだ。

娘は人通りからどんどん遠ざかり、人気のない方へ進んで行く。

レジスタンス…、いや帝国の使いか。

俺は一層気を引き締めてついて行く。

帝都の外れ、手入れされていない木々が集う暗い場所を進む。

帝都にもこんな場所があるのかと思いつつ、先を進むと古びた屋敷が姿を現した。

例の白い娘は迷う事なく屋敷の中へと入って行く。


「ここが目的地か…」


外観からも屋敷の古びた様子が伺え、人が住んでるのかも怪しい。

ただ連れてきた場所がここなだけかもしれない。

俺は意を決して扉を開ける。


「暗いな…」


屋敷の中は暗く埃が舞っていた。

中に入ったが先程の娘は見当たらなかった。

どこかへ隠れたのか、それとも。

俺は大声を上げる。


「誰かいないのか!?」


返事が無い。

俺は屋敷を探索しようと思ったその時だった。


「誰じゃい!!」

「え、人?いたのか」


見ると屋敷の階段から杖をついた老人が降りてきた。


「誰じゃい、お主は?」

「誰だと。…俺はここに呼ばれたんだが」

「呼んだじゃと。ワシが客を招く訳なかろう!とんだガキじゃ、悪戯なら帰らんか!」

「はぁ、どうやら間違いだったみたいだな。帰らせてもらうぞ」

「お待ちください」


帰ろうとすると先程の白い娘が現れた。


「お前は?」

「アイン様ですよね。マスターがお呼びでしたのでお連れしました」

「マスターだと?」

「ぬ、アインじゃと!お主、アインというのか!?」

「ああ、そうだ。王国から留学生として来ているアインだ」

「おぉ…、おお。アイン、お主が。ふむふむ、会いたかったぞ!ところでどうしてワシはお主を呼んだんじゃ?」

「は?俺はそこの女について来ただけだぞ。というかあんたは誰だ」

「む、ミリアにか。ワシか、ワシはパラケルスじゃ」

「パラケルス…。パラケルス!そうか、三大師父の一人」

「三大師父か、懐かしいの。そう呼ばれて久しいわい。あの頃はゼペットがまだ帝都におったからの。まぁ良いわい。アイン、せっかく来たのじゃ。茶でも飲みながらゆっくり話をせんか」

「あ、ああ」


偶然なのかパラケルスとこうして会う事が出来た。

こっちもパラケルスに色々聞きたい事があったので話をするのには断る理由はなかった。

通された食堂も相変わらず埃っぽかった。


「すまんのう、ここに住んでおるのはワシ一人じゃ。普段は工房で寝起きし、飯もそっちで食べるからの」

「一人?さっきの娘は?」

「あれはワシの作ったホムンクルスじゃよ。ホムンクルスは肌が白く、髪も白い。目は魔物ように真っ赤じゃろ」

「そうか、あれがホムンクルスか。話には聞いていたけど初めて見たからな」

「まぁ、ただのホムンクルスじゃ。所詮、人ではない」

「見た目はそうかも知れないが、それ以外は変わらないんじゃないのか?」

「ふむ…。ある意味ではそうじゃが、真の意味では人とは異なる。ところでアインよ、お主はゴーレム錬成士で間違いないの?」

「ああ、そうだ。せっかくホムンクルスも見せてもらったんだ。俺も錬成でもすればいいか?」

「いや、構わぬよ。ゼペットは死んだと聞いたのじゃが、最期はどんなじゃった?」

「ジジイ…ゼペットは2年前にな。俺達が住んでた街に帝国が襲撃して来て際に殺された。俺は運良く生き延びたが。誰が襲撃を指示したのか調べてるが、帝国内でも不明らしい」

「そうじゃったか…。ワシも人伝に聞いただけじゃ。どう死んだかまでは知らされておらんのじゃ。しかし、それでもお主がここにおるという事は帝国を恨んでおるからかの?何、心配せんでもいい。ワシはこの通り帝国からは捨てられとる。それに何かあれば外でホムンクルスが見張っとるしの」

「…そうだ、あんたの言う通り。俺は帝国を滅ぼす為に来た。いつになるかは分からないが必ず…!」

「帝国は強大じゃぞ。皇帝が抱えるセルビアナもじゃが、その息子達も侮れん。それを分かっての事かの?」

「相手に恐れをなしては、遂げられない。何も仇を討ちたい訳じゃない。俺自身がそうしなければいけないんだ。俺はその為に生きている。辞める訳には行かない」

「覚悟は出来ておるのか。ワシはこの通り老齢じゃ。帝国民として止める力もない。それに年寄りの小言として辞めよと言う気もないわい」

「元よりそのつもりだ。誰かに止められるものならとっくにやめているさ。会いたかったのはあんただけじゃない。ゼペットは最期に何かあればあんたを頼れと伝えた。きっとあんたなら、ゴーレム錬成の事で何か知ってるんじゃないか」

「ゴーレムか。お主はどこまで錬成出来るようになってるのじゃ?」

「どこまで?それはどういう意味だ。普通にゴーレムは作れるし、素材さえあればある程度は色々機能は付けられる。ジジイ…ゼペットのおかげで人型以外も錬成出来るようにはなれた」

「そうか…もうそこまで出来るか。アインよ、ワシについてくるとええ」


パラケルスは屋敷の書斎へと俺を連れて行く。

書斎の中は他の部屋と違い、ある程度は綺麗にされていた。


「ここに連れてきたかったのか?」

「いやこの先じゃ」


書斎の机に隠されたボタンを押した。

すると書斎の本棚が動き、地下への階段が姿を現した。


「降りるぞい」


地下への階段を降りていく。

階段は薄暗く、踏み外しそうになるのを一段一段確かめながらゆっくりと降りていく。

出口が近いのか地下室は薄明かりが見えていた。


「ここじゃ」

「こ、これは」


地下室には大量の大型カプセルが置かれている。

そして中には人。

いやホムンクルスがずらりと入っていた。

その見た目はどれも同じ姿だ。


「言わんでも分かるとは思うが、こやつらはホムンクルス。ワシが錬成した物じゃ」

「こんなに大量に…」

「ふむ、過去にはもっと大量に作った。それこそ、アグニスに言われ兵士の代わりになるよう造られた物もおったわ」

「これを兵として…」

「まぁそれは上手くいかんかったがの。ゼペットも同じじゃ。ゴーレムを兵として徴用する計画もあったがそちらも失敗しておったの。奴の事じゃ、何か細工をしたんじゃろうが」

「そんな事があったのか」

「まぁ、失敗したと言ってもあのルゲイエが色々やってくれたからの。失敗とは言えんが…」

「あんた達、三大師父は皇帝に認められる為にがんばったんだろ?何故、それをわざわざ失敗だなんて」

「ワシらは帝国の為になんて思った事はない。詰まらぬ昔話じゃ。ワシとゼペット、そしてもう一人幼馴染がおった。ほんの些細な事故じゃったよ。それでマリアは命を落とした。ワシらは悔やんだよ。どうしたら良かったんじゃと。ある日、皆で昔読んだ本を思い出した。錬成の本じゃ。ワシらは馬鹿じゃった。いつかマリアは戻るんじゃないかと。来る日も来る日もひたすら錬成について学び続けた。ワシはホムンクルスを、ゼペットはゴーレムを。いつの頃からかワシらはいかにマリアを先に錬成するか張り合い始めた。そしてワシらの才能に目を付けた貴族や帝国に取り上げられ、気付けば三大師父などと呼ばれておったよ」

「まさかあんた達は人を錬成する気だったのか!?」

「結論から言おう。ワシらは無理じゃった。いかにホムンクルスが人に似ていてもそれは人じゃないのじゃ。ゴーレムも然り。それは人ではない。つまりはそこに魂が宿らぬのじゃ」

「魂が宿る?」

「人は肉体と魂、その二つがあって存在しておるよ。じゃが肉体は人の器となり得ないと魂は宿らぬのじゃ。つまりそこが錬成の限界じゃ」

「それは…不可能なのか?」

「分からぬ。じゃが昔ゼペットが言っておった。ワシらには知り得る所までしか錬成出来ないと。もっと時間があればいつかはと」

「それは…」

「アインよ、お主はゴーレムでも人型以外も錬成出来るのじゃろ?それはどんな物じゃ?身近にある物ではないかの?」

「ああ、確かに。武器などがそうだ」

「つまりはお主がそれを知っておるからじゃ。なら、もっと知ればあるいは」

「もっと知るか…」


考えもつかなかった…。

ゴーレムから人を造り出すなんて。

知れば知る程、錬成には可能性が広がる。

パラケルスは何かをすると一つのカプセルが開く。

カプセルに入っていたホムンクルスは感情のない瞳でパラケルスの元へと近づく。


「そこへ寝そべるのじゃ」


ホムンクルスはパラケルスの命令を理解するとその通りに、寝台の上へと寝そべる。


「一体、何を?」

「覚悟はあるのかの?」

「覚悟だと?」

「お主は力を求めるのじゃろ?ならば知らねばならぬよ。その為には禁忌さえも厭わぬ知識欲の果てにある物じゃ」

「ああ、構わない…!何を犠牲にしようとも俺は必ず帝国を滅ぼすと決めたんだ。禁忌の先にあるのなら、手に入れてやるさ!」


パラケルスはメスのような刃物でホムンクルスを切り刻んだ。





「ぐっ…、うぅぅぅぅぅっ」


何度目の嘔吐だろう。

俺は今まで見たことのない物に嫌悪と吐き気を隠せなかった。


「まぁ、慣れじゃよ。お主は冒険者でもあるのじゃろ?モンスターの解体と一緒じゃ」

「そう…だな。しかし…、いや。慣れだ。すぐに慣れる」

「ほっほっほ。普通の人間の反応じゃ。慣れも必要じゃが、その気持ちだけは捨てぬ方がええ。それを失えば、もはやお主は人ではなくなってしまうからの」

「人じゃなくなるか…」


人体の構造。

前世で模型や教科書なんかで見たことあるが、初めて生で見るのはやはりきつかった。

知ること。

人を、人体を。

それを得れば、俺は更なる力を得れる。


「後はここを好きに使うとええ。ここにあるホムンクルスは先ほども言った通り魂のない人形じゃ。いずれワシが死ねば、ここのホムンクルスもいずれは消滅する。禁忌とはいえ、お主が必要とするのなら好きに使うとええ」

「ありがたい。けど何で俺にそこまでしてくれるんだ?」

「ほっほっほ。さてなぁ。ワシも託したいんじゃよ。ワシらでは成し得なかった、禁忌の先。錬成士としての辿り着く先をな」

「辿り着く先か…」


この愚にも思える行為がいつか役に立つのなら、その時の俺は何を錬成出来るようになっているのだろう。

人の錬成。

宗教観がない俺でも、それは禁忌と言うのは分かる。

人の器か。

魂の入れ物。

けど、それなら。

エメは一体、何なんだ。

あれは明らかに他のゴーレムと違う。

そう、まるで魂があるかのように。

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