034_悪魔との取引
すみません、この話が今日更新のはずが昨日に反映されてました。
昨日公開した033は内容を差し替えましたので、お手隙であれば御覧ください。
「陛下、申し上げます。ノースボアを始め、帝国領であるカレンドルフ、ライへバッハ、エルデン、ブランツが同時にレジスタンスによってテロが発生、現在は軍によって鎮圧されました。レジスタンスのほとんどが支配領から逃げ出した移民。制圧した軍には負傷者はあまり出ておりませんが、襲われた領の街々は半壊状態でして…」
「つまり余にお主らの尻拭いをしろと言うのか?」
「い、いえ、滅相もございません!」
アイン達がノースボアで戦ったレジスタンス同様、帝国の各地でもレジスタンスの活動が行われた。
帝国は迅速に軍を派遣すると、レジスタンスを鎮圧した。
レジスタンスの多くは元市民が占めており、軍の鎮圧は一方的だった。
だがレジスタンスに襲われた街々の多くは悲惨な状況になっている。
襲われた街はノースボアと同じく、裏で元老院が手を回している街ばかりだった。
「ふん、余が知らぬとでも?構わぬ、街など捨て置け」
「で、ですが、前々から帝国領の街ですぞ!それを捨て置くとなれば、大量の難民がこの帝都に。い、いえ、その民ですらもしや新たなレジスタンスとして…」
「レジスタンスか。それで構わぬよ。余が支配域を増やしているのは、余の名をこの世界に刻むため。それに異を唱える者がおれば、それを滅ぼすまで。例え、帝国の民と言えど余に歯向かえばどうなるか知らしめてやるのみ」
「しかしそれが続けば、支配領が次々と独立する可能性もございます!」
「それをさせぬ為に、王族や士官共を皆殺しにしたのであろう。それに主ら元老院の息のかかった者を領主として送りこんでおるのだ。そのくらいは元老院とてやれるであろう?」
「は…はい」
「お主ら元老院が王国との時間稼ぎとしての留学を了承してやったのだ。国内の細事などどうでも良い。またレジスタンスが現れたならソフィアにでも駆逐させよ」
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「ふぅ、やはり我が家が落ち着きますわね」
「…えっと、我が家じゃないですよ。ソフィア殿下から借りてるお屋敷です」
「クロエは細かいですわね。住めば都。ここにいる間は我が家も同然ですわ」
惨劇のノースボアから戻った俺達は、ソフィアから借りてる屋敷で一息着く。
二人共思う所があったのだろう。
わざと明るく振る舞ってるように思える。
「アイン…、あれでよろしかったのでしょうか。王国の民であるわたくし達が、元とはいえ帝国の民だった者達を殺めるのは…」
「ロザミア…。思うとこがあるのは分かるよ。俺も帝国で暮らしている人、全てが俺の憎しみで殺したいとは思っていないさ。けど…。そんなに甘くないだろう。あの皇帝に届くには迷いなんか必要ない。立ち塞がるなら、例え戦いとは無縁の民だろうと倒すまでだ」
きっと人を殺した事がない訳じゃないはず。
クロエも、自身で殺した事はないだろうが、冷遇された奴隷環境で育ったんだ。
人死はこの中では誰よりも多く経験しているはず。
だからこそ、相手次第で迷っていては届かない。
この大きく歪な帝国を統べる皇帝と、最強と呼ばれた剣であるセルビアナに届く為には。
「ええ、わたくしは迷ってなどいませんわ」
「…えっと、私もです!ご主人様!」
「ああ、俺もだ。俺が始めた事だからな。迷いは要らない。酷なようだが、途中で迷えば俺は捨てていく」
「分かりましたわ。けれど、アイン。貴方が全てを成し遂げたとしても、わたくしは貴方が死ぬまで側にいると決めていますの。その辺も覚悟して下さいまし」
「…あわわわ、私もです!私はご主人様に身も心も捧げました。奴隷紋こそ刻んでいませんが、私の全てはご主人様のものです」
迷いを断ち切る為に話したつもりなんだが、こうも二人から面と向かってこんな事言われるとこっちが照れてしまう。
「あら、アイン。顔が赤くなってますわよ?もしかして脈が有ると思ってよろしいのかしら」
「…ご主人様、照れてるとこ可愛いです」
「なっ、そんな事!」
「マスターはすぐに顔に出ます」
前にもエメに言われたな。
そんなに顔に出ていたか?
「と、ともかくだ。頼むぞ、二人とも!」
「「ええ(はい)」」
しかし、ノースボアで忍者を見るなんてな。
「…ところで忍者って分かるか?」
「忍者…ですか?ちょっとご存知ないですわね」
「…えっと、私も知らないです」
「エメは?」
「すみません、私も分からないです」
「あー、そうだよな」
エメは俺とずっと一緒にいたんだ。
この世界で忍者を見たことがなければ、知るわけはないな。
ロザミアもエメも知らないか。
「ところで何ですの、その忍者…というのは?」
「ああ、例のノースボアの時に戦ったんだ。かなりの高レベルだったが、まぁエメやロザミアの敵じゃないな」
「そうなんですのね。存じあげないですけれど、もしかすると異国から来たのかも知れませんわね。アインのゴーレム錬成士もそうですけど、わたくしの知らない職業はたくさん存在しますわ」
異国か。
確かに俺のゴーレム錬成士という職業はジジイ以外に会ったことがない。
レアな職業はまだこの世界にあるんだろうな。
「ですが気になりますわね。レジスタンス…、いえ革命とおっしゃったんですわよね?」
「あいつらがあのレジスタンスを…いや暴徒を率いて来たのは間違いないだろう。だが、結局あいつらだけ逃げた。結局、目的は分からなかったよ」
「その事なんですけれど、アインはこのままソフィア殿下と行動を共にするのかしら?アインが決める事に異論はございませんが、ちょっとわたくしにもあの方の腹積もりが見えません」
「ああ、その事なんだが…」
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「どうしてどうしてどうして!!どいつもこいつも戦う事しか頭にないんだ!!」
「おい、ソフィア?」
[影縫]のせいで顔を向けることが出来ないが、ソフィアが泣いているのは分かった。
「な、何を!?」
俺はミニゴーレムで自分の影に刺さった苦無だけを引き抜くと、ソフィアの喉元に剣を突き立てる。
「お前に利用する価値があるかどうかだ。お前は俺に協力してくれと言った。こんな所で泣き崩れ、利用する価値が見出せないなら殺すまで。何故なら、俺はお前ら皇族。いや皇帝も帝国を滅ぼす為に生きてるからだ」
「アイン…。まさか君まで。ふふふ、いやそれでいいのかもしれない。どうせいつかはと思っていた。それなら、王国から来た君に殺されるのが相応しいな」
「甘んじるか…」
「本気なのだろう?さすがに私でも分かるさ。あやかりたかったんだ、ゴーレムの力に…。上手く行けば色々良くなるとそう思っていた。お前の言う通りだ、私は迷ってる。アーノルドや兵、民に担ぎあげられ私は『姫将軍』として戦わなくちゃならないんだと」
聖エルス公国。
私が生まれるより前、かつて地図上にあったと言われてる国だ。
今は地図からその名前を消え、その国があった場所は帝国の一部となっている。
帝国は占領した国を支配する為、有力な権力者や武官そして王族などを皆殺しにしている。
けど、その聖エルス公国だけは違ったそうだ。
他の国々同様、帝国から攻められ応戦するも、帝国の圧倒的な力の前に敗戦を余儀なくされていた。
その当時、聖エルス公国を統治していたのはエレノア大公と呼ばれる女性大公だ。
前任の大公である元夫は、戦争が始まるより前に病気で先立たれていた。
帝国含め諸国でも女性の統治者はいない。
亡き夫の意志を継ぎ、慣れないながらも懸命に大公としての職務を全うし続けた。
その姿に貴族達や軍部も信頼を置き始めた頃に戦争が起きたと。
終戦直前、エレノア大公は無謀にも皇帝に交渉を持ちかけた。
自身は奴隷でも処刑でも構わない、代わりに他の者達を殺すのは辞めてくれ欲しいと嘆願したのだ。
そして意外にも皇帝はそれを受け入れた。
その条件はエレノア大公を妻として娶り、皇帝の子…息子を成す事で約束した。
当時、既に兄上達と姉上は産まれていたが、エレノア大公を娶ったのは皇帝の妻は病死していたからだ。
皇帝は聖エルス公国を解体、有力者含め貴族は土地を没収された後平民へと格下げ、また軍部も解体、騎士達もまた市民へと落とされた。
ただ、希望する者があれば帝国の軍部、つまり帝国兵になることを許した。
皇帝…いや、父上は約束を守った。
そして母つまりはエレノア大公も子を成した。
産まれたのは私、娘だったけれども。
母は私を産んですぐに亡くなったと聞かされていた。
私は物心着いた時から一人だった。
兄上達は、政治や戦について学ばされいつかは自分達のどちらかが皇帝になるんだと分かっていた。
姉上は兄達に負けまいと行動し、いつの頃からか元老院と共にいるようになっていた。
城の中では私の存在は明らかに浮いていた。
誰も相手にしないのなら、それは良かったのだがそうもいかない。
半分とはいえ血が繋がった兄姉達からは敵意を、貴族達からは悪意を。
私は孤独だった。
ある日の事だ。
唯一、心を開いてる女官が殺された。
私の身代わりとなって。
城に暗殺者が現れ、私を庇って死んだのだ。
初めて兄姉達を責めた。
しかし、彼らは口を揃えて自分達ではないと言い張った。
出世欲に駆られたある貴族が犯人を捕まえて来たがそいつではない事は明らかだった。
その一連を見ても、父上はただ見てるだけだった。
私達をただ観察し、誰が生き残るのか。
それだけに興味があるようだった。
そんな環境だ、私には居場所なんて無かった。
城を抜け出そうとしても、すぐに見つかり連れ戻されてしまう。
何で私だけがこんなに目にと悔やんだよ。
ある日の事だった。
騎士の一人が私に会いたいと申し出てきた。
いつもの通り、ただ私に会ったという事実と嫌味を伝える連中を一人かと思っていた。
ここで断れば角が立つのは知っていた。
だから今回も断らず受け入れた。
会いに来た騎士は、騎士というには老齢だった。
だがその肉体は鍛え上げられ、壮年のものと大差ない屈強な騎士だった。
彼は私に会うなり、跪き涙を流した。
突然の事で私も驚いた。
彼は頭を上げると私にこう話した。
かつての聖エルスの事を、そしてエレノア大公の事を。
彼は昔を懐かしむように時には微笑み、時には悲しそうに話を続けた。
そして聖エルスの遺児である私に忠誠を誓わせて欲しいと言ってきた。
それはアーノルドだけではなく、かつての聖エルス騎士団の皆もだと。
知らなかった、私にも私の事を想ってくれる人々がいた事が。
アーノルドの申し出を快く受け入れた。
その後も色々な話をした。
人生の中でこんなにも楽しい時間があるのかと。
そして最後にアーノルドは独り言のように呟いた。
まだ諦めていないと。
私はどうしたらいいのか考えた。
何をしたら、私を案じてくれてるアーノルドや騎士達の為になるのだろう。
必死に考えて、ある行動を起こした。
父上…皇帝にある事を申し出た。
帝国の為にアーノルドいや元聖エルスの騎士達を束ねさせて欲しいと嘆願したのだ。
背景事情を考えれば決して許されるとは思わなかったが、皇帝は簡単に許可してくれた。
己の力で束ねて見せよ。
ただそれだけで許された。
だけど、それはただ許された訳じゃない。
私がみんなをまとめきれず帝国を乱す事があれば私の命を持って責任を取れという事だ。
それでも、私は初めて自由を勝ち取ったのだ。
それは私だけじゃない。
アーノルドも含めて聖エルスの騎士達も同様に敗戦国の騎士というしがらみから離れたのだ。
彼らは私に忠誠を捧げると誓った。
皇帝や帝国の為じゃなく、聖エルスの遺児たる私に。
私もまた彼らの期待に応えると誓った。
アーノルドら無知な私に対して色々教えてくれた。
今まで携わる事のなかった政治や軍務の事。
覚えれば覚える程、私を褒めてくれた。
嬉しかった、何かをして褒められる事が。
今までこんな事はなかった。
みんなの期待に応える為に、さらには剣術も学び始めた。
剣を握るなんて怖かったけど、みんなから褒められるしまた期待もしてくれる。
だから必死に覚えた。
またアーノルドは私の騎士団の存在意義を示さないといけないと教えた。
元敗戦国の騎士達とそれを治めていた血筋を持っている私がいるんだ、元老院がそれを許すはずはない。
認めさせる為にも実績を残さなくてはと。
ここで騎士団を、みんなの期待を裏切り解散させる訳には行かなかった。
その当時から帝国内では不満感情が高まり、一部の地域では暴徒が出始めていた。
兄上達や姉上は権力争いで国内の暴徒には目もくれていなかった。
ここで私達がそれを抑えれば、実績としては申し分なかった。
いや元老院も敗戦国の騎士達に暴徒の鎮圧など出来るとは思っていなかっただろう。
しかし私が率いる聖エルス騎士団は強かった。
それこそセルビアナという化け物にこそ勝てなかったが、他の帝国騎士などに負けぬ程の実力だ。
そんな彼らの助力があるのだ、暴徒の鎮圧は容易かった。
そこで私は初めて人を殺した。
たくさん殺した。
元は帝国の民達を。
私はみんなの期待に応え続ける為に、来る日も来る日も暴徒を殺し続けた。
殺した人々の事をたまに夢にまで見た。
だけどやめる訳には行かない。
気付けば、私の事を『姫将軍』などと呼ぶ帝国の民達も現れた。
あれ程までに露骨に嫌がらせをしていた元老院も黙り始めた。
騎士団に志願する人も現れた。
多くは食い扶持に困った元敗戦国の民達だった。
今度は私に期待を寄せる民達の期待に応えようと行動した。
皇帝、元老院、そして兄姉達と何度も話し合い、彼らを軍人として徴用する事が許された。
またそんな私を民達は期待し、私の元ならと4軍への志願者は後を絶たなかった。
予備軍人の為、賃金はないと説明しても、私の元なら…いや私がいずれ帝国を変えると信じて志願してくるのだ。
そんな民や部下の為、私は暴徒を駆逐し続けた。
いずれこの帝国の中枢にいる兄姉や元老院達も理解を示してくれると信じて。
帝国各地で私は戦い続けた。
民を守る為、民の期待に応える為に。
だがいくら戦っても、現状は一向に良くならなかった。
兄姉や元老院は、私が暴徒を抑えてくれるおかげで城での権力争いはひどくなっていた。
帝国の実情や私の話など取り合う暇もなかった。
さらに暴徒は減るどころか増え続けていた。
帝国の現状は良くならず、日々酷くなっていた。
敗戦国の市民の飢餓、暴徒化。
それらから搾取し続ける貴族。
負の連鎖は止まらなかった。
私を支持してくれていた民達も徐々に現状を諦め、帝国を脱する者や暴徒になる者など。
さらにはレジスタンスと名乗る暴徒も現れた。
暴徒と違い、それらは組織化され村や街を襲撃していた。
私だけではこの混乱を止められなかった。
それでもアーノルドやみんなは諦めず戦う事を期待していた。
戦えば戦う程、敵は増え、それでも辞めればみんなの命を危険に晒す。
八方塞がりだった。
私が兵を率いて帝都を制圧すればいいのだろうか。
けど、皇帝の直属の軍。
それにセルビアナの前ではきっと無理だろう。
私はどうしたらいいのか、どうしたいのか分からなくなってた。
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「力か…。力があればお前は皇帝やセルビアナを殺すのか?血の半分とはいえ、自身の兄姉も殺せるのか?」
「それは…」
「迷うな、お前は試されているんだぞ?そのまま悩み続けるなら、それが答えだと受け取る」
「…殺す。殺すさ!帝国は私に何も与えてくれなかった!こんな国など滅ぼしても構わない!!」
「いい答えだ。ソフィア、いいかこれは悪魔の取引だ」
俺の周りから錬成陣がいくつも光り出す。
「これは!?」
「こいつらは俺の作ってるゴーレムの一部だ。お前が束になろうとも負けない。今はまだ3,000程だが協力すればさらに作れる」
「3,000!?それに私ですら勝てないのなら…」
「ああ、さらに数が揃えばどんな軍団だろうと負けない」
「その力があれば…」
「帝国を滅ぼすさ。俺と取引に応じるならこの力を貸そう。だが断れば」
「ふふふ、迷うわけないだろう!」
「いい返事だ!」
俺は瞬時に注射器のようなものを取り出し、ソフィアの胸に突きつける。
「ぐっ!!これは!?」
「安心しろ、死にはしない。こいつはかなりの小型ゴーレムだ。ヒトの体内に入るが、それで死なない。こいつの役目はただ一つ、自爆だ。それもかなりの小規模のな。ただ、心臓の近くで爆発したら?」
「…そういう事か。つまりは保険という事だな」
「ああ、そうだ。俺にこれを使わせるなよ?」
「ふふふ、いいだろう。アイン、礼を言うよ。だけど私に力を貸した事後悔するな。私は必ず帝国を滅ぼす」




