025_欲望の果てに
残酷な描写がございます。
感想・レビューお待ちしております。
「ねぇ!このお茶、変な物入ってるんだけど!早く変えて」
「す、すみません、リルハ様!ただいま別のをお持ちします」
「リルハ…?」
「し、失礼しました奥様!!」
「うふふ、奥様だなんて冗談が過ぎるわ。ごめんなさいね、息子がお腹で暴れてたような気がして気が立ってたわ」
ほんっと、愉快すぎるわ。
バナンを手玉に取ってから、この家ではやりたい放題。
バナンは、皆に私の中に子供がいる事を告げてくれたわ。
私の事を噂して悪く言ってたメイドや執事も、今では逆らえない。
生意気な召使は、散々な目に合わせてやったわ。
まるでウィレームで悪さをしてた時を思い出す。
「本当にあんたには感謝してるわぁ。聞けばあんたとバナンって幼馴染なんだって?良くあんな生真面目にバカにしてくれて言葉もないくらいよ。そうそう、感謝の印として苦しまずに殺してあげる。ちょうど良い毒薬も見つかったわ。何でも眠るように殺して、後にも残らないの。うふふ、でもあんた既にずっと寝てるんだっけ?あははは」
そう、後はこのババアを殺すだけで全部手に入る。
薬を手に入れるのが楽しみ。
「客人?貴方に会いに?」
「ああ、そうだ。例の帝国との留学に志願した若者だよ。まだ若いのに、学もあり冒険者としてもかつやくしており武勇に優れててね。お前も参加した夜会で知り合ったのさ」
「学生?珍しいわね、貴方がそんなにも肩入れするなんて」
「あはは、情けないがこの歳まで敷かれたレールの上で生きていたからな。お前と出会って初めて自分の人生を生きている感じがするのだ。まぁ、こうして若者と触れ合い話をするのは、私達の息子にとっても良い事だろうなと思ってな」
「まぁ、貴方ったら。それに私は奥様の治療を諦めていませんよ」
「あ、ああ、そうだったな。色々とリルハに迷惑をかけるな」
「おお、良く来たな、アインくん」
「いえ本当に招待して頂けるとは、こちらこそ身に余る光栄です」
「ははは、そう畏まらんでもいい。あのボリス君のお墨付きだ。それだけでも君が優秀な事が分かるよ」
「こんな平民を見初めて頂けて感謝の言葉もございません」
「そんな謙遜するな、留学とはいえこれは国からの立派な任務だ。それを引き受けてくれるとは、それだけでも素晴らしい事だ。そうそう、紹介しよう。こちらはリルハだ。まぁ、そのこの歳にして出来た愛する人だ」
ふふふ、愛する人だなんて。
バナンは私達の愛が本物だと信じてしょうがない。
「紹介に預かりましたリルハです。よろしくお願いしますね、えーと」
「アインですよ、奥様」
「奥様だなんて、ふふふ。よろしくね、アイン」
この少年もバナンに取り入るだけあって口が上手い。
しかしどこかで見たような気がする。
「その可愛らしい方々も紹介してくれるのかな、アインくん」
「これは失礼を。エメと、クロエと言います。俺の仲間にして、同志です」
「同志?変わった言い方をするね。てっきりどちらかと恋仲なのかと思ってたよ」
「ご紹介に預かりました、エメと言います」
「…えっと、よろしくお願いします、クロエです」
この娘達は、何か変だ。
一人は眉一つも動かさない無表情、そしてもう一人は奴隷らしく首輪を付けている。
「こ、この二人は」
「これは驚かせて申し訳ありません。こちらのエメは私が制作したゴーレム。もう一人は元奴隷です。首輪などは本人の希望でして、困惑させましたね」
「おお、これがゴーレムか!まるで人間のようだ。しかし、確かに人とは違うな。クロエさんに関しては野暮な事を聞いてしまい悪かったな」
「今日はバナン伯爵のご招待。二人はどうしてもと来たいと申したので連れてまいりました」
「いやいや結構だよ。彼女達も将来、名を馳せるかもしれない若者だ。今の内に会えたのは運が良かったよ。しかし、ウィレームの希望にして希少なゴーレム錬成士か。色々と武勇を聴かせてくれ」
ゴ、ゴーレム!!
それにウィレームって…。
このガキまさか…。
「おお、素晴らしい。自身が冒険者であるにも関わらず、臆せず悪しき冒険者達を捕まえてくれたものだ」
「ええ、『風の手』は私に取って憎むべき相手でしたからね。過去に私自身も彼らに痛い目に遭いましたから」
こいつ…、私がここにいるのを知ってわざとバナンに!!
くそくそくそ。
私がどんな思いでこいつに取り入ったと思ってんだ!!
でも、どうすれば。
どうしたら!!?
「リルハ、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
「すいません、貴方…。彼の武勇は素晴らしいのですが、嫌な事を思い出して気分が」
「す、すまん、リルハ。私も夢中になってしまって」
「い、いえ。もう遅いですし、そろそろお帰りになって頂いたらどうでしょう?」
「あ、ああ、そうだな」
「バナン伯爵、申し訳ありません。相手に取って不快な話でしたね。では、私達はそろそろ」
「ああ、アインくん、今日はありがとう。良かったら、また来なさい」
え、ウソ、帰ってくれるの?
ホントに?
「そうだ、お詫びと言っては何ですが些細な物をご用意しました」
「これは?」
「はい、バナン様は愛妻家だと聞きまして、僭越ながら宝石を用意しました。ルビーをあしらった腕輪です」
「こんな高いものを、本当にいいのかね?」
「ええ、私も冒険者です。ダンジョンなどで手に入るのですが、どうにも使い道がなく。魔石なら喜んで欲しいところなのですが」
「ははは、悪いね。きっとリルハに似合うだろう。どうだ付けてみてくれないか?」
「い、今ですか?」
ほ、宝石!?
しかもこんな大粒のルビーなんて売れば一体いくらになるの!?
け、けど罠とかじゃ。
「ほら、私が付けて上げよう」
「ちょっ。え、あ、あれ?」
「素晴らしい。リルハの美しさに負けず腕元で輝いておる」
「これは良かった。この宝石でバナン伯爵と奥様に気に入ってもらえたのなら安い物ですよ」
もしかしてこいつら、私だと気付いてない?
ふ、ふふふ、良かった。
本当に良かった。
このガキも馬鹿で良かった。
あれから、数日経つが何もなかった。
もちろん警戒はしていたが、またこの家に来る事もない。
バナンに聞いてみたけど、留学の準備で忙しく時間が取れないそうだ。
そうあのガキも後少しで王都から消える。
あと少しだ。
それで、やっと手に入る!!
「ふふふ、後少し。後少しよ!ねぇ、見てよ。あんたを殺す為の毒薬も手に入ったわ。後はあのガキが王都がいなくなるだけ!本当に厄介なガキだったわ。ウィレームにいた時に殺しておけば良かった!あのサボーが調子に乗るから。けど、ダンまでもあのガキに捕まるなんて…。ちっ、忌々しい。お腹にガキがいないとバレたら本当にまずい。それまでは大人しくしないと…」
ベッドに横たわってるババアを見ながら、あのガキが消えるのを待ち遠しく思う。
その日がこのババアの命日にもなるんだから。
その日は朝から屋敷内が騒がしかった。
「ちょっと、何事よ!?」
適当なメイドを呼び止め、質問する。
「え、えっと。失礼します!火急の用事ですので!」
「ったく、何よ。私より大事な用事があるわけ!」
一人でぶつくさと歩きながら、食堂を目指す。
さっきのメイドの腹いせだ、食堂に着いたらあれやこれやいちゃもん付けて困らせてやろう。
「お、奥様!!?」
「ふふふ、私はまだ奥様じゃないわよ。…って、あれ!!?」
メイドも執事も私にも目をくれず、素通りする。
「一体、何なの!?………え?」
そこにはいるはずのない姿が。
あんだけ殺そうと色々と手を打っていたはずなのに。
「ミ、ミランダ……!!」
それに何でバナンまでもここに来ちゃうの。
「ああ、バナン…。会いたかった。夢じゃないのね」
「ミランダミランダ…。まさかこうしてまたお前の声を聞けるなんて!!」
どうして…。
どうして起き上がってんだ、このババア!!!
「違うの、違うの貴方!!」
「バナン、彼女は嘘をついてる。私は眠っていたけど、耳に残ってるわ。何度も何度も、私を殺すって」
「ち、違いますわ!!そんな事!そ、それに私の献身な看病のおかげでこうして」
な、何でこいつ私が言った事を覚えてんのよ!?
大丈夫、それにバナンは私の味方よ。
子供がいるなんて嘘を信じてる限り。
「た、頼むから落ち着いてくれ、二人共!元はと言えば、私が悪いのだ」
「いいえ、バナン。あなたは騙されてるわ。彼女、子供なんていないわよ」
「ほ、本当なのか?う、嘘だよな、リルハ?」
くそくそくそ、ふざけんじゃねー、このクソババア!!!
「そんな事ありません!私のお腹には、バナンとの愛の結晶があるのです。……すいません、気分が」
「あ、ああ、そうだな。こんな話は子供には悪影響だ。もし子供がいるなら、産まれてくるまで時間はある」
「そうね…、子供がいるならね」
い、一体、どういう事!?
順調だったはずなのに。
あ、あのガキが!?
いや、まさか。
だってあいつ、私の事奥様って言ってた。
だから違うはずよ。
まだ大丈夫。
時間はあるんだから。
それまでに今度こそ、あのババアを殺しちまえば大丈夫!
そうすれば、バナンは私の物だ。
負けるもんか、私は全て手に入れるわ!!
「だ、旦那様!!」
「どうした?」
「そ、それが…」
朝一番で執事が何かを持ってきた。
くそ、面倒ごとじゃねーといいんだが。
それに忌々しい事にバナンの横には、憎きババアが居座ってやがる。
ふざけんな、そこは私がいる場所だ!!
「何!?大臣だと?」
「ええ。お連れ様と共に待っておられます」
「うむ、分かった。すぐ行く」
バナンは大臣へと会いに行く。
相変わらず、あのババアは涼しい顔をしてやがる。
放っておけば、私の嘘がバレると信じてるんだ。
ちくしょう、今の内にぶっ殺してやろうか。
「す、すまない、二人共。そ、その大臣がご挨拶したいそうだ」
「ええ、行くわ、バナン」
大臣?
嫌な事じゃなきゃいいんだけど。
でもこの際どうでもいい。
その大臣に隙があるなら、そっちに取り入ってもいい。
大臣に取り入れれば、こんなバナンの家なんて潰せるはず!
「みな、集まったな」
場を仕切ったのは大臣だ。
大臣の横には、何故か醜い大男が。
「まぁ、二人を呼んだのには訳がある。驚かないで聞いてくれ」
さっきから、この醜い男はずっと私の事を見続けてる。
気持ち悪い。
鼻息まで聞こえてくる。
「彼は、ネッド男爵。先日、爵位をもらったのだが…。実は没落した貴族の残りだ。没落した際に、愛する妻と逸れて、再び巡り合うために一念発起し爵位をもらうになった。そして彼の妻の名は、リルハ。リルハ・ネッド。聞けば、バナンの家に身を寄せてると。だから、こうして確かめに来たのじゃ」
嘘…。
え、嘘よね…?
ネッド男爵??
は?
私が適当にでっち上げた貴族よ。
嘘嘘嘘、まさか本当にいる訳ないじゃん。
こんな奴にだけはついて行きたくない。
気持ち悪すぎる。
同じ息も吸いたくないわ!!
あのババア、こっちをみて勝ち誇ったか覚えしやがって!!
くそ、絶対にバナンにしがみついてやる!
「す、すみませんが私に覚えはありません。もしや人違いされてるのではないでしょうか?」
「おでの嫁だ!間違いねぇ!リルハリルハリルハ」
「あ、ああ、こう見えてもネッドは優秀なのだ。本人はこう言ってるのだが?」
「いえ、本当に知りません!私じゃないです!」
「リルハァ〜〜、会いだかっだぁ〜」
く、くるな。
寄らないで!
その汚くて臭い口を閉じてよ!!
「大臣閣下、リルハもこうおっしゃってますし、日を改めては?」
「ま、まぁ、そうだな。ワシも突然で悪いとは思っておった」
良かった…。
助かったのね。
「『…あんたを殺す為の毒薬も手に入ったわ。後はあのガキが王都がいなくなるだけ!本当に厄介なガキだったわ。ウィレームにいた時に殺しておけば良かった!あのサボーが調子に乗るから。けど、ダンまでもあのガキに捕まるなんて…。ちっ、忌々しい。お腹にガキがいないとバレたら本当にまずい…』」
え、私の声!?
嘘でしょ!!
どういう事!!
まずいまずいまずい!!
「どういう事だ、これは?」
「リルハ、今のは一体!?」
「ち、違うの!今のは私じゃ…『…あんたを殺す為の毒薬も手に入ったわ。後はあのガキが王都がいなくなるだけ!本当に厄介なガキだったわ。ウィレームにいた時に殺しておけば良かった!あのサボーが調子に乗るから。けど、ダンまでもあのガキに捕まるなんて…。ちっ、忌々しい。お腹にガキがいないとバレたら本当にまずい…』」
「リルハ!!嘘だったのか、全部!!ま、まさかミランダが言ってた事は本当だったのか!」
どういう事!!!!!
何で私の声が!!!
いや、それよりもまずい!!
くそくそ!!
バナンに何て言う??
いや、もう無理だ!
バナンは私を信じない!
それよりもこのままだと、犯罪者だとバレ、奴隷落ちになる!!!
くそくそくそくそくそ!!!!
それだけは阻止しないと!!
「あ、あなた!!!」
「リルハァ〜〜!!おでを思い出しだのかぁ!」
「ええ!ええ!思い出しましたわ!そう、愛してるわネッド!」
「くっ、リルハ…」
「バナン、言ったでしょ。彼女は嘘をついてるって」
「ああ、すまなかった…」
「よ、良く分からんのだが、バナンよ。彼女、リルハの事は良いのか?」
「…ええ、私からはもう特に関わる事はありません。全てはネッド男爵にお任せ致します」
「う、うむ、分かった。ではお開きとしよう」
よ、良かった!!
あははははははは!!
最後の最後で私は助かった!!
本当に気持ち悪い男だけど、これでも男爵なのよね?
バナンと比べたら格は落ちるけどまぁいいわ。
一応、こっちは無条件で正妻だし。
「アハハ、リルハァ〜、良かっだ良かっだよ」
「え、ええ、あなた」
ネッドに連れてかれたのはかなり大きい屋敷だった。
「う、嘘、これはあなたのおうち?」
「ああ、おでの家だ」
こ、これは勝ち組かもしれない!!
屋敷の中も、豪華なものだった。
「ご飯にじよう。美味いもの食えば元気出る」
「え、ええ」
これまた立派な食堂で、私は城で出された料理よりも豪華なものを頂いた。
お酒も思わず進み、これから素敵な人生が待ってるんだと想像しながら気付くと眠ってしまっていた。
「あ、あれここは?って鎖!?どういう事!!?」
「起きだか?ここ、おでの屋敷の地下室。おでとリルハの愛の巣だ」
「え?え?愛の巣?何ここ?気持ち悪いんだけど、何なの!!?」
地下室は薄暗く、所々にあるロウソクの灯りで何とか部屋を見渡せる。
謎の道具と、血の跡らしきものが床や壁に付着している。
「ねぇ!お願い!!やめて、こんな事!!」
「ゔるざい!!!」
「ぶへぇ!!」
か、顔を思いっきり殴られた。
今ので歯が折れたわ!
「お、お願い…、許して?」
「違う!これはおでの愛!リルハは受け止めてぐれる!!」
「ぶばぁ!!」
鼻を折られた。
ど、どうしてこんなひどい事を。
「おどなじくじろ!ベッドへ入れるど!」
私は鎖に繋がれたまま、汚いベッドへと叩きつけられた。
その時、ベッドに何かがあったのに気付く。
そう最初は手みたいなものだった。
それらを辿っていくと見るも無惨な遺体がある。
「い、いやぁぁぁぁぁぁああ!」
「ここにあっだが。ごれは、前のリルハだ。おでと愛し合ったら死んぢゃっだ」
「嘘嘘嘘!お願い、やめて!!ホントに!ねぇ!!?」
「リルハァ〜、おでと愛し合うど!!」
「いや、まさか俺が想像するよりも酷い終わり方だった…」
「復讐、完了ですか?」
「まぁそうなるな」
「…えっと、複雑です。あ、復讐がという事ではなく、私のスキルのせいであんな事になるなんて」
「それはすまなかった…。実際、[不幸因果]がどの程度働くのか調べたかったのもあって今回使ったんだが…想像以上だったよ」
今回の復讐の最後は俺が関わらずとも、リルハが勝手に自滅していった。
俺がリルハに渡したルビーの腕輪には[不幸因果]を付与してある。
後は呪いやら録音機能なんかもつけといた。
俺がやった事と言えば、バナン伯爵の妻であるミランダさんの回復。
彼女は一種の呪いにかかっており、浄化魔法で治療した。
後は、正妻であるミランダさんがあの手この手でリルハを家から追い出した所をとっ捕まえようと思ったら、ここでまさかネッド男爵なる人物が現れるとは思わなかった。
彼は俺が用意した訳ではない。
本当にただの偶然で彼が現れたのだ。
もちろん俺も大慌てで素性調べたが間違いなく、過去先代の手で没落した貴族だ。
あんな性格だが商才があるらしく、数年で没落前よりも遥かに多い資産を有した。
妻にはリルハという女性がこれまた偶然にもいたらしいが、彼の歪んだ愛情と性欲だ。
どうなっているかは分からない。
いずれ、ネッド男爵の歪な愛情行為はバレるだろうが、まぁそれまではあのリルハが受け止めるだろう。
何だか、あの女らしい最期だ。
しかし、あのタイミングでのあいつの録音した言葉を再生したのはウケたなぁ。




