021_奴隷少女・クロエ
唐突に新ヒロインの登場。
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ウィレームの街の一行、ボリス隊とでも呼ぼう。
ボリス隊には、俺と男爵を乗せた馬車とそれを護衛する男爵の私兵で構成されている。
有事の際は、この私兵達が戦ってくれるそうだ。
モンスターや盗賊が出れば、俺も戦うつもりだ。
「何だ、知らなかったのか?」
「え、ええ。初耳です」
俺が今、聞いたのは交換留学生の随行員についてだ。
今回の交換留学は帝国からの提案である以上、向こうの第一皇子一行と俺ら選抜生徒の交換だ。
つまり、皇族や貴族がいると言う事だ。
貴族に対して、身一つで来いなんてのは無理な話だ。
生徒一人につき、身の回りを世話する人物を二名まで随行させていいらしい。
確かに聞けば、納得する話だ。
俺はエメのボディだけを別の物に変えて、帝国へと運び入れるつもりだったのだがそれをしなくていい訳だ。
「まぁ、それとお前の事だから大丈夫だとは思うが。一応は今回は帝国と王国の発展という名目だ。例え、帝国が出してきた条件とは言え、王国から派遣されるというのは栄誉ある事だ。今回の選抜の多くは貴族が入っている。まぁ、揉め事にはなるなよ」
「そうですよね。その辺はわきまえて行動しますよ。それに王都で選抜生徒達との交流を設けられているので、見極めますよ」
帝国へ行く前の一ヶ月の間は王都で過ごす事になる。
選抜生徒との交流や、帝国での過ごし方や文化についてを学ぶ事になっている。
けして長くはないが、王都での生活だ。
リディさん辺りなんかは羨ましがっていた。
「ん、どうした馬車が止まったぞ。おい、どうした!?」
「はい、何かが…人が倒れています!」
男爵の質問に答えたのは、馬車の御者を務めている兵士だ。
「敵でしょうか?」
「分からないが、俺らも様子を見に行った方がいいな」
外に出てみると、街道を遮るように人が倒れていた。
「行き倒れか?」
「まだ、息があるぞ!」
近くに寄ると倒れていた人物は、俺らと歳がそう変わりない少女だった。
「ひどい…。首輪という事は、奴隷なのか」
その少女は剣でつけられた傷が無数にあり、そして首には大きな首輪が嵌められている。
「うわぁぁぁー!」
突然、悲鳴が上がり皆、そちらの方を振り向く。
「くっくっく、あいつを拾って正解だったぜ。どうやらどっかの貴族様を見つけられたんだからなぁ」
「と、盗賊!?」
気付けばぞろぞろと盗賊が馬車を囲い始めていた。
「あいつを拾った時は、さんざんな目にあってどうかと思ったが、最後の最後でツキが巡ってきたぜ」
さっきから盗賊たちは何かを言っている気がするが、大した事じゃないだろう。
「うっ…!」
「マスター、ここはお任せを。こちらの方の治療をお願いします」
「ああ」
「貴様ら、何をやっている!!この程度の奇襲に腑抜けてどうする!立て、我が兵よ!」
「「「おお〜〜!!」」」
いきなり、謎の少女が棍を持って暴れだし、怖気づいた兵士達は貴族の一言で活気づく。
当然、それを見た盗賊たちは逆に自分たちが一方的にやられる弱者なのだと気づき始めた。
「な、なんだこいつら!?」
「くそ、やっぱりあの娘は俺らにとっての疫病神だ!!」
「来るなぁーーー!!」
殲滅するのに、そう時間が要らなかっただろう。
俺は俺で、傷つき倒れてる少女に回復魔法で治療を施す。
治療を終えた俺は、少しでも敵が残ってるかなと辺りを見渡したが、既に殲滅された後だった。
「よし、他に敵がなければ先を急ぐぞ!!」
「「「はっ」」」
兵士達は各々、武器をしまい、盗賊の死体達を森へと放りこむと出発の準備を始めた。
治療を終えた俺は、武器を取り出し駆けつけたがもうすでに全部終わった後だった。
「敵…」
「残念でしたね」
一人の命を救えたのだ。
また運良く盗賊かモンスターが来てくれると願おう。
「うっ…」
「目が覚めたか?」
「…あ、あれ、私、生きてる?ここは…?」
傷ついた少女が目を覚ました。
男爵と相談したが、結局一緒に王都へ連れて行く事にした。
王都の奴隷商ならばこの娘の所有者についても何か分かるかもしれないという事で話はついた。
「今、この馬車は王都を目指している。傷だらけだったお前を救ったのは、そこのアインだ。礼ならそちらへ言うのだな」
「…王都。あ、ありがとうございます、…アイン様」
「気にするな、所で何であんな所に?」
「はい、実は…盗賊に攫われまして…。色々あってあそこで野晒しにされてました…」
現場を見たからこそ、あの盗賊達の行為は腹が立つ。
奴隷とは言え、攫った少女を痛ぶり、放置などとは。
「盗賊なら殲滅した。ここにいる間は安心しろ。ところで、お前の所有者はいないのか?」
「…えっと、私を買った方はもういません」
「いない?どういう事だ?」
王都に着くまでにこの娘の事情を知ろうと、男爵が質問をぶつける。
このまま王都へ連れて行っても、俺らへ同行させる訳にはいかない。
少しでも情報を得て、彼女を知っている者に渡したいのだ。
「…えっと、そのご主人様は私を盗賊へ差し上げた後、殺されました」
「それはひどいな。しかし、お主を買った主人が殺されたとなれば、解放奴隷になるのか?」
「…そうなんですか?生まれた時から奴隷でしたのでその辺は分かりません。前のご主人も死なれた時には奴隷商の方へと出向いて、再び奴隷紋を押されました」
「し、知らなかったとはいえ、また奴隷になっていたのか?いいか、この国は奴隷の扱いには慎重だ。解放されたとなれば奴隷になる必要などないのだ」
「…えっと、でも行く所が無くて。昔にそう言ってくれた人もいて、一緒に過ごしてくれました」
「ふむ、再びその人物を当たるのはダメなのか?」
「…えっと、その方も亡くなられてしまって…」
何だか、この娘に関わった者は人死が多すぎる気がする。
そんな、やり取りをしていると馬車が大きく揺れた。
ガタンッ
「イテテテ、どうしたのだ?」
「はっ、どうやら泥に塗れて、岩に馬車の車輪が当たってしまい車輪が破損してしまいました!」
「全く、ツイてないな。修理は?」
「可能です!」
「なら、頼むぞ」
「う、うわあああああああああああああ!」
「今度は何だ!?」
「モンスターです!」
何だか踏んだり蹴ったりだな。
「男爵、俺らも戦いますよ」
「そうか、頼むぞ」
結局、モンスター退治と馬車の修理をしていたら日が暮れてしまった。
本当は先へ急ぎたかったが、夜道の強行軍で無理をするよりは野営を取ることにした。
「あ、すみません、アインさん。学生って聞いてたから、もっと坊っちゃんかと思ってたんですけど。モンスター退治や野営の準備とかさすがですね」
「アハハ、まぁそっちが本業みたいなもんですから。一応冒険者としても活動してます」
「あー、通りで。そういえば、あの娘が来てから色々と不運に見舞われてるような気がするんですよね」
俺も兵士達と協力して野営の準備をしていると、近くにいた兵士が話しかけてきた。
「不運ね…、確かに気になりますね」
確かに、そのような気がする。
あの奴隷少女ともう少し話してみるか。
「よぉ、今いいか?」
「…えっと、アイン様」
「よく覚えてたな。お前の名前は?」
「…えっと、クロエといいます」
クロエは肩程まであるブラウンの髪に、茶色い瞳をしている。
所どころ小さい傷痕がある。
おそらく、昔の主人につけられたのだろう。
傷痕となってしまうと、今の俺の持っている[回復魔法]では治せない。
手と首にはその細い体で支えるには重そうな錠と途中で千切れた鎖が繋がれている。
「その、昔からなのか?奴隷の主人や親しい人が死んでしまうのは?」
「…えっと、はい」
話を聞けば、本人はそう言う体質だと答える。
特に親しい人や好意を持つ人間程、さんざんな目に遭い、最後は亡くなってしまうと。
俺は[鑑定]でクロエを見てみる事にする。
【ステータス】
クロエ
年齢:15歳
職業:奴隷
Lv:2
HP:89/89
MP:27/27
力:15
体力:11
早さ:12
魔力:14
運:−25
【スキル】
[不幸因果]
運がマイナスの人なんて初めて見たぞ。
そして明らかに気になるスキルを保有している。
[不幸因果]
あらゆる不幸が所持者へと降りかかる。その不幸は死んだ方がマシだと思わされる。
何ていうスキルだ…。
「うわ、食材が腐ってるぞ!」
しばらくはこの不幸の連鎖が続きそうだ。
俺は野営地の端で、色々と作業をする。
「マスター、ここでゴーレムの錬成を?」
「ああ、あのクロエという少女なんだが、どうにもやばいスキルを持っている」
解析の為に、一応[不幸因果]を収集をしておいた。
しかし、間違っても使いたくはないスキルだ。
[不幸因果]、これを阻止する方法が一つだけあった。
解決にはならない方法ではあるが、これなら俺達に対して不幸をばらまかずには済んでくれる。
「”emeth”」
俺が錬成したのは手錠に似たゴーレムだ。
これなら、奴隷であるクロエが変に道具を持っていないと疑われる事はない。
そしてこれに付与したスキルは[絶運]。
良い事も悪いことも絶つというスキルだ。
よもや収集した際にはこういった使い方があるとは思っていなかったが。
「クロエ、ちょっといいか?」
「…えっと、はい」
「今からこの手錠を嵌める。もしかすれば、お前のその不幸を治せるかもしれない」
「…えっと、本当ですか?」
「まぁ、上手くいくか分からないしな。安心しろ、痛くはないから試すだけだ」
「…えっと、分かりました」
クロエの手から今つけられている手錠を外すと、新しい手錠を嵌める。
「どうだ?」
「…えっと、今のところは特に」
「そうか」
俺は[鑑定]で改めて、クロエのステータスを確認する。
【ステータス】
クロエ
年齢:15歳
職業:奴隷
Lv:2
HP:89/89
MP:27/27
力:15
体力:11
早さ:12
魔力:14
運:0
【装備】
手錠型ゴーレム [絶運]
【スキル】
[不幸因果]
ステータス上で、運の値が0になっている。
「よし、上手くいった」
「…えっと、え?」
「ああー、今俺が嵌めた手錠にはあるスキルが込められてる。そのスキルのおかげでお前の運は0になった。それは悪いことも起きないが良い事も起きない。まぁ、悪いこと続きな今のお前よりかはいいと思うが」
「…えっと、本当ですか!もしかしてこれは魔導具…。こんな凄いものを…。その…どうお礼をしたらいいか」
「いや、むしろ俺が勝手にやったんだ。嫌じゃないのか?」
「…えっと、嫌だなんて!」
「まぁ、何にせよ、良かった。まぁお礼は…そうだな、前に王都に住んでたんだろ?なら、いつか案内してくれ」
「はい!」
翌日からの旅路は順調だった。
たまにモンスターや盗賊に遭う事はあったが、特にそれ以上の不幸が起こったりはなかった。
ただの商人とかならモンスターも盗賊も出逢えば、必死になるのだが、俺らはそれが苦にならない程には鍛えてあるので問題はない。
「見えたぞ、王都だ」
王都の入り口でチェックが終わった男爵一行は宿屋を目指した。
それも貴族や金持ちが済む、高級宿だ。
男爵が言うには、自分はどこでもいいらしいのだが爵位を持ってる者が、安宿に泊まるのは風聞があるのでダメだそうだ。
そのおかげで俺らも、こうして高級宿にあやかれてるのだ。
通された部屋は三人部屋。
俺とエメ、そしてクロエの三人だそうだ。
年頃の男女が一緒の部屋はどうかと言ってはみたが、俺なら普段から一緒にいるエメや奴隷であるクロエに何か間違いを犯す事はないだろうと言われてしまった。
それにこれから、奴隷商を当たってクロエの知り合いがいないかを聞きに行く。
もう二度と奴隷に落されるような事はしないつもりだが、少しでも知り合いがいれば引き渡した方がいいだろう。
「ようこそ、本日はどのような奴隷をお探しで?」
「あー、その奴隷を買いに来たわけじゃなくて。このクロエの知り合いを探してるんだ。知ってるか?」
「ひぃぃぃぃぃぃ、おおおまえはクロエ!来るな来るな!お前のせいで、奴隷たちは反乱するし、国からは在らぬ疑いをかけられたりとさんざんだったんだ!」
「…えっと、昔はお世話になりました」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
そ、そんなに驚くほどなのか…。
ともかくこいつはクロエのせいで不幸な人生を歩んだに違いない。
「それで知り合いを知ってるのか?」
「し、しらない!本当だ、嘘じゃない!分かったら、早く去ってくれ!」
「次、行ってみるか」
「…えっと、はい」
「た、頼むから帰ってぇぇぇぇ!!何ならお金も渡しますから!!」
奴隷商に泣きながら謝られた。
「ヒェェェェェェ!!」
気絶された。
色々と回ってみたが、結果はことごとくダメだった。
「全滅だ…。クロエ、知り合いがいそうな場所はないのか?」
「…えっと、はい。行きたい場所が」
「行きたい場所?知り合いがいるのか?」
何故か、クロエは何も言わず首を頷けた。
クロエについて行くと、古びた教会だった。
建物には入らず、敷地内の奥を目指して歩き出す。
そこには、一つのお墓が。
「そうか、知り合いか」
「…えっと、はい、そうです」
クロエは墓の前で跪くと、静かに祈りを捧げた。
祈りを捧げるクロエの姿煮俺は思わず、目を惹きつけられた。
元奴隷なのに、その仕草はまるで洗練されたシスターのような動きだ。
「マスター、クロエはいい娘ですよ」
「何だ、突然?」
「マスターは極力、人との接点を避けてました。だから帝国へ入る今、人間である彼女が必要ではないかと。これからは戦いがより激しくなるかと思われます。他の者の力を借りた方が良いのでは思ったぢけです」
「……それはお前の考えなのか?」
「はい」
確かにクロエは悪くないかもと考えていた。
俺はゴーレム錬成という特異な能力と帝国に復讐するという目的がある。
だから、人が近くにいれば狙われるのは必然。
他の者ならともかく、身寄りのないクロエなら…と頭にはよぎっていた。
しかし、本人はどう思うのか。
クロエは祈りを終えたのか、立ち上がってこちらを向いていた。
「誰だったんだ?」
「…えっと、弟です。私達は気付いた時から奴隷で。えっと、色々あってから亡くなってしまいました。それからです、私の周りがどんどん不幸になっていったのは」
「そうだったのか…」
「アイン様。私はあなたに救われました。そしてこの呪われた不幸も止めてくださいました。あなたの為なら命を差し出してもいいです」
「本気で言ってるのか?」
「はい…、エメさんからアイン様の事情は聞きました。私なら何が起きても構いません」
「俺は身寄りのない冒険者だ。家もなければマトモに生活出来る保証もない。それに俺らが目指しているのは帝国だ。本当に何が起きるか分からないぞ?」
「はい!」
「俺は…帝国へと復讐をする。人も多く殺すし、仲間も殺されるだろう。何も得ない先にあるのが俺のゴールだ。それでも来るというのか?」
「…はい!!」
「くっ、ならば覚悟を見せろ!!」
俺は剣を取り出し、クロエへと振り下ろす。
「これが覚悟ならば、受け入れます」
そう話すクロエの目の前で剣を止めていた。
殺気を引っ込めたつもりはない、あくまでも彼女にとっては俺に殺されると思っていたはず。
「…はぁ、いいだろう。すまない、試す真似をして」
「…えっと、よろしくお願いしますご主人様」
「ああ、頼むクロエ。今日からお前は俺の仲間だ」