020_魔力強化
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街へと帰った俺は早速、冒険者ギルドへ出向いた。
するとすぐさま、ガーヴェイさんに連れられボリス邸へと向かった。
「良く帰ってきたな、アイン」
「ええ、さすがに危うかったですけど」
「ダンジョンについての報告を聞きたい所なのだが、まず確認する事がある」
ボリス男爵は何か合図をすると、部屋の扉が開かれ中から執事長とマリク、そして見たことのないおっさんが入ってくる。
「すまなかったぁぁぁっっっ!!」
「ごめん、アイン!!」
部屋に入ってくるなり、マリクと見たことのないおっさんが土下座しながら俺にそう話してきた。
「えっと、状況は…」
「ああ、この少年は知っておるな?隣にいるのが、ネリク商会の会頭だ」
「なるほど」
改めて、ボリス男爵が状況の説明をしてくれた。
その間も彼らはずっと土下座をしたままだ。
マリクは自らの罪を認め、父親と共にボリス男爵へと釈明に入った訳だ。
後で聞いたが、このネリクというおっさんは中々の曲者で、大商会の会頭という事もあり揉め事や問題は金で解決するような人間なのだそうだ。
当然、その息子も似た性格になってしまったというか。
今回の件に関しては、相手が俺だという事と、街を統治するボリス男爵の依頼という事もあり逃げ道はなかったそうだ。
彼らが取った行動はただ謝り通し、少しでも罪を軽くしようという事だ。
「アインよ、事実で間違いないな。であれば、この者マリクを犯罪者とし奴隷にする事とする」
「ど、どうか、それだけは!!」
「庇うのであれば、ネリクよお前が罪を引き受けるのか?」
この世界にとって、犯罪者とは奴隷落ちを意味する。
監獄があればいいのだが、それを維持する費用も馬鹿にならず奴隷とした方が早い。
罪の重さにより、己を買い直す歳の金額は変わる。
「し、しかし!!どうかお慈悲を!」
司法制度も確立していないこの世界では各領主の裁量により罰を下す事がある。
もちろん好き放題やってはまずいので、犯罪者の沙汰を必ず書面にお越し、国の大臣へと報告を入れる。
「この街にとって今後を決めるダンジョンの発生、それの妨害。さらには殺害未遂、盗難。罪は軽くなるものではないぞ」
「お、お願いします!!」
「ふむ、アインよ。当事者であるお前はどう見る?」
被害者である俺はこの沙汰に口を出す権利を持つ。
「お、お願いします、アインくん!いやアイン様!!」
「マリク…、お前は今どう思ってるんだ?」
「お、俺は…。本当に、本当に悪かったアイン。俺はお前に嫉妬していたんだ。馬鹿な事をしたと分かってる。俺は奴隷になったとしても仕方のない事だ」
マリクは目に涙を浮かべながらも、しっかりと俺の目を見て話した。
「ま、マリク!?何を言ってるんだ、お前が居なくなったら商会はどうするのだ!?」
「ボリス男爵、こういうのはいかがでしょうか?」
耳打ちで俺の考えを伝えた。
「本当に良いのか?アインがそう決めたのであれば構わないのだが」
ボリス男爵は二人へと向きなおると改めて今回の顛末について言い渡した。
ネリク商会は3ヶ月の商売停止。
最愛の息子の奴隷落ちを防いだとあれば安いものだろう。
それにある一人とだけは商売を許された。
俺だ。
ネリク商会の扱うもの中には希少な金属がある。
俺はそれをほぼ仕入れ値に近い形で買い取れる事になった。
マリクはと言うと、自分のしでかした事を学校で告白する事になった。
本人はそれで許してもらえるならと喜んで引き受けた。
その後、ダンジョンの報告をすると色々と驚かれた。
俺とエメの二人でダンジョンの攻略と、Sランクモンスターの撃破。
ガーヴェイさんもある意味、悔しそうにその報告を聞いていた。
「助かったぞ、アイン。この情報を持って、我々と冒険者ギルドで更なる調査隊を編成して、ダンジョンの有効活用をしてみせよう」
「次こそは、必ず俺が…」
目の前のおっさんは目をキラキラさせ、各々の野望を噛み締めていた。
俺はボリス男爵から報酬を受取り、宿屋に戻ると久しぶりにベッドを堪能すると爆睡した。
あれからしばらく経ち、俺はクエストを受け、素材を集めてゴーレムの研究に明け暮れていた。
ダンジョンで大量の魔石を手に入れられたのもあり、ゴーレム軍団の強化を順調に行っていた。
ダンジョンから帰って数日後に、エメが突然こんな事を言い出した。
「マスター、私一人でクエストを受けてはダメでしょうか?」
「どうしたんだ、突然?」
「私の体はマスターのお力でかなりの物ですが、初めてそれだけでは足りないんだと気づきました」
「リッチキングか…」
「マスターの役に立つには戦闘の経験をさらに積む事だと思い、クエストの受注をしたく思います」
確かに俺も手が離せないし、本人がそうしたいと思ってるならそうした方がいいかなと思う。
「ああ、いいぞ。ただAランクのクエストは受けるなよ?」
「了解です」
エメは何だか嬉しそうにしてた気がする。
「さて、俺も続けるかな」
まだ作業中であったゴーレムへと目を向ける。
「ただいま、戻りました」
「あー、おかえり。…って何でそんなにボロボロなんだ!?」
見れば、エメの体中に泥がこびりつき、身につけている衣服はところどころボロボロになっている。
「待ってろ、今調べるからな」
「い、いえ、傷はついておりません」
「え、そうなのか?」
見れば、確かに傷はついていなかった。
「なら、しかし何故こんな事に…」
「そのお恥ずかしい話なのですが…」
聞けば、エメは一人でオーク討伐のクエストを受けたそうだ。
それだけならばCランクで、エメ一人でも問題がない。
ただエメはリッチキングの見せた全身の魔力強化を覚えたくて、色々と試していたそうだ。
気付けば、目標の10匹討伐は完了してしまい、物足りなかったエメは次々とオークを探していくうちにオークの集落を発見したそうだ。
そこで全てのオークと集落のボスであるオークジェネラル相手にずっと練習していたら泥だらけになってしまったそうだ。
「ともかく、泥を落として、服も新しいのを用意しないとな…」
俺はそう言い、服を取ろうとすると避けられてしまった。
「自分で出来ますので」
「え、いつもやってんじゃん」
「そのいつもというのは、あくまでもメンテナンス時の時であって、このような平時の際を指しません」
「いや、そんな屁理屈を言われても」
また服を掴もうとするが、避けられる。
「すみませんが、マスター。私一人で出来ます」
「そ、そうか…。ならいいんだが…」
エメはたまに女性らしい行動を取る。
今の件もそうだが、前にゴーレムだから下着はいらないだろうと言ったら無言でキレていた。
しかし、魔力強化か…。
リッチキングは明らかに[鑑定]で見たステータス以上の力を出していた。
俺自身もそうだが、エメもそれを出来ないと今後の戦いではキツいという事なのか。
翌日になり、エメの魔力強化について調べた。
まずはいつもの武器強化だ。
「問題なく出来ますね」
エメの棍は魔力によって光っている。
「じゃあ、次は徒手空拳でやってみてくれ」
「はい」
エメの拳は全く魔力を帯びていなかった。
もしかすると…。
俺はある一つの可能性に行き着いていた。
「エメ、これをもってやってみてくれないか」
「はい」
俺が私のはショートソード。
いつものゴーレムではない、ただの武器屋で売っているショートソードだ。
「あ、あれ、うまく行きません」
「やはりそうか…」
エメが魔力強化を出来ない理由。
それは魔石だ。
エメの持っている棍はあくまでもゴーレムだ。
ゴーレムという事は核となる魔石を持っている。
だから、その魔石を通じて強化が可能となっていた。
エメの体はフレームに偶然にも手に入れたホワイトミスリルと呼ばれる鉱石で作られている。
外装にはミスリルとシルバーなどで生成してある。
ゴーレムとしての機能だけならそれで良かったのだろう。
だが、手や足に魔力を行き届かせるにはそれではダメだったのだ。
「エメ、これを握ってもう一度徒手空拳でやってくれないか?」
「分かりました」
エメは構えると意識を自分に向ける。
すると魔石を握った拳が魔力で強化される。
「魔石…ですか?」
「そういう事だ」
今のエメのボディの構造では魔力伝達に無理があるという事だ。
つまりエメの体に核とは別に魔石を挟めば…。
早速俺はエメの改造に着手した。
エメのボディの各部分、手の甲、腕、肩、足に至るまで魔力流れを見ながら、魔石を埋め込んだ。
どれも全てAランクの物だ。
ダンジョンで大量に手に入ったおかげで例え今回のが失敗になったとしてもまだまだ在庫には余裕がある。
「どうだ、エメ体に異変はないか?」
「いえ、今まで通りと変わらず動かせますね」
「良かった。早速で悪いがが試してくれるか?」
「はい」
エメはボディに魔力を通し始める。
「いい感じです。以前に感じた魔力の流れを遮る感覚がありませんね。いけそうです」
自身の魔力の流れを把握すると、一気に魔力を流し込む。
「うまくいきました」
エメの体は魔力によってほのかに光っている。
リッチキングが見せた魔力強化そのものだ。
「成功…だな。やはり鍵は魔石だったか」
今回の発見はエメだけでなく、俺の今後の研究に役に立つ。
元来、人間…いや魔力を持つ生物ならば、その体内に魔力経路を持つと聞く。
ようするに血液と同じく、魔力を体内に巡らせるものだ。
だが俺が作ったゴーレムにはそれがない。
あくまでもゴーレムが持つ魔力というのはボディを動かすフレームに流し込む魔力のみだ。
今回、エメには外装の各所に魔石を埋め込んだ。
これにより、フレームに流れている魔力の流れを外に出す事ができる。
「これを使えば…」
「何か新しい考えが?」
「ああ。他の強化しているゴーレムにもエメと同様に魔力の流れを生み出す事が出来る。それは全てのゴーレムに共通している」
「私と同様に、他のゴーレムも魔力強化でその能力を上げることが出来ますね」
「ああ。それに…俺自身が魔力強化が使えないからな。これを応用すれば、俺自身が魔力強化を擬似的に発生する事が出来る」
幾度戦いを重ねようとも、俺の才能は底が知れている。
レベルこそ、高レベルに位置づけされるが、同レベル帯ではステータス値で他の冒険者なんかと比べると圧倒的に弱い。
武器をゴーレムにする事でそれを補っていたが、俺自身がやられてしまえばそれらは意味をなさなくなってしまう。
前から構想はあった。
前世で少しだけ耳にした事がある”パワードスーツ”。
つまり全身を覆うゴーレムに俺の弱さを補正してもらえばいいんではないかと。
今回ので魔力の流れも組む事ができた。
「確かにそれならば、弱いマスターでも安心して戦う事がありますね」
「すごく棘のある言い方をするなぁ」
「私の目的はマスターの命を守る事ですから。無理だと判断された場合はすぐに隠れて下さいと前から申告しております」
前からそうだが、エメは俺が前線で戦う事を嫌がる。
とはいえ、そうも行かないんだよなと心の中で呟いた。
再びボリス男爵から呼び出しがあり、俺はそれに応じボリス邸へと向かった。
「おー、アイン。すまんな、呼び出したりしてのぉ」
「あれ、学長?」
執事に案内された応接室へと入ると、ボリス男爵と何故か魔導学校の学長がいた。
「すまんのぅ、今回呼び出しをお願いしたのはワシじゃよ」
「男爵がここにいるという事は…」
「ふむ、知っておると思うが、帝国との交換留学についてじゃ」
ついに来た、俺が望んでいた帝国行きの切符。
何としてでも俺はこれを手に入れる。
「アイン、君の事情は知っておるよ。亡きゼペットは2年前の事件で帝国に殺されたも同然じゃ。じゃから、ワシは快く推薦するのを渋っておる」
「だがなぁ、交換留学には各学校から選抜される。おい、それとこのウィレームの街。魔導学校からの選抜をなしにするのはまずい。もちろん民の感情は理解している。魔導学校からの選抜は2名。他にも有望そうな人材に一通り当たっては見たが、2年前の事件のせいで誰も良しとはしないのだ」
2年前、この街は帝国に襲われた。
それによって、失われた者が多く存在するのだ。
もちろん俺だけではない。
「だからこそ、俺は帝国行きを断る訳には行きません」
「アイン…。本当に良いのか?こう言っては何だが…ゼペットを奪ったのは帝国じゃ」
「だからこそなのですよ、学長。俺は冒険者となり、自分で生きられるくらいには力を身につけたつもりです。そのおかげでこの街に潜んでいた帝国の影を見つけ出す事が出来た。ただその影達もまた2年前の事件について調べていた」
「どういう事じゃ?」
「アイン…、それは伏せておいてくれないか。まだ公表するには情報が足りなすぎる」
2年前の事件は帝国ではなかった。
それが俺と男爵の共通認識だ。
とはいえ、俺の憎しみは消えるわけではない。
「ふむ…。何か裏があるという事か。そしてアインはそれを知っている」
「えぇ…、まぁそういう事になります」
「確かめたいんじゃな?」
「はい。俺は自分の目で真実を確かめたいのです」
「学長、どうだろう?アインはこう言っている。俺としても、実力や人柄も信用出来ると思っている」
「そうじゃのぅ…。選抜にするのにももったいないくらいの人材じゃ。何かあってもアインならば、何とかなると信じておるよ」
「よし、話はまとまったな。アイン、辛い立場だろうが頼むぞ」
この街の統治者である男爵が俺に頭を下げる。
それほどまでに、この話はウィレームやウッドベア王国にとって重いという事だ。
「任せてください」
そう、ここからだ。
やっと帝国への復讐を始められる。
「よし、準備はいいか!」
ボリス男爵は王都へ旅立つ一行へと声をかける。
その様は、遠征でもする軍人のようだ。
男爵が、過去騎士団へと従事していた経験からか、その姿が様になっているのだろう。
「ん?誰かくるな?」
そう男爵から聞こえると、俺は馬車から身を乗り出しその人物を確認する。
やってきたのは複数人、どれも見知っている顔だ。
「まさか、見送りに来てくれるなんて」
「ハハハ、何言ってやがんだ!これから帝国と一戦交えるみてぇなもんだろ?少しでも気合を入れてやんねーとな!
そう言ってきたのはガーヴェイさん達冒険者ギルドの人達だ。
「全く、アインくんはそんな事をしにいくわけじゃないんですよ!ね、アインくん気をつけてね!何か美味しい物があればお土産よろしくね」
なるほど、これが目当てか。
「ははは、覚えておきますよ。でも、俺が帰ってくるのは1年後ですよ?それに帝国へ行く前に王都で選抜生徒との顔合わせもありますから」
「おぅ、そうだ言い忘れるとこだった!王都に着いたら、冒険者ギルドに顔を出せ」
「何かあるんですか?まぁ、向こうの支部に言われてな。用向きは行けば聞かされんだろう?」
何だかニヤニヤとしているガーヴェイさんがちょっと気持ち悪い。
「アイン、気をつけてな。無理はせんでいい、自分の知りたい事、学びたい事をゆっくりと身に付ければええ」
「学長。色々とありがとうございます」
「ゼペットとは旧知の間柄じゃったからな。うちの生徒は皆、わしの孫のように思っとるよ。アインもわしの孫じゃ」
「ははは、俺には爺ちゃんがもう一人いたって事ですね。胸に刻んでおきます」
そして最後の人物達が声をかけてくる。
「アイン…」
「マリク。まさかお前がこうして見送りに来るとは」
「聞いたよ、お前が学長に頼んで俺を辞めさないでくれって頼んだんだろ?俺はお前にあんな事したのに…。ありがとう、アイン」
「そうだったか?俺は覚えてないな」
「アイン。無事で帰ってこいよ」
「ああ」
マリクは最後に握手を求めてきた。
こいつには色々とやられたが、昔の俺が許そうと思ったおかげで少し打ち解けられた気がする。
「アイン様!!」
「いや、この流れからのはおかしいでしょ?」
そう勢いよく話したのはマリクの父親ネリクだ。
例の事件の後、俺はこいつから色々とゴーレムの素材となるものを買い付けた。
もちろんかなりの割引額でだ。
それだけだったならば、彼は俺に対して苦い顔しかしてないだろうが、俺はダンジョンやクエストで手に入れた不要な魔導具などを売りつけていた。
それがかなりの値打ち物で彼は大層喜んた。
男爵からは甘すぎるのではと釘を刺されたが、実質こいつ意外に商会の伝手なんかなかったのだからしょうがない。
その事を相談した俺は、他にも商会を紹介されてからはそっちにも魔導具は卸し始めた。
「例え帝国におりましても、何かあればこのネリク紹介はあなた様の味方でございます」
「は、はぁ」
彼も相当、灸をすえられた。
今までのがめつい商売の仕方から、もっと街の為になろうと見なおしている。
まだまだ街の人からは受け入れられるには時間がかかるが、マリクと共になら頑張れるだろう。
「よし、では出発するぞ!」
馬車は出発し、一行は王都へ目指す。




