第7話:バックミラーの『人間』と、群れ(パック)の教本、そして1万体の門
第7話では、バックミラーに映った「人間の本性」から主人公が下すある決意と、警察犬訓練所で手に入れた『群れ(パック)統率教本と超音波ドッグホイッスル』、そして要塞アークを根こそぎ葬り去るための「1万体の門」の解放作戦が描かれます!
【406日目・午前5時55分:バックミラーの中の『人間』と、群れの教本】
高機動救助工作車の重いディーゼルエンジンを響かせ、医療物流センターの裏路地から大通りへと滑り出た瞬間、俺は運転席のサイドミラーにちらりと視線をやった。
ミラーの奥、百メートル後ろの倉庫の裏口の前では、俺が結束バンドを切って逃がしてやった三人の若い『カテゴリーD』の奴隷たちが、俺が投げ与えたボルトカッターを使ってお互いの首輪の留め金を必死に切断していた。
だが――最後の首輪がコンクリートの地面に落ちた、その直後だった。
彼らは互いに肩を貸し合って逃げるのではなかった。
つい五分前まで、アークの兵士の前で涙を流して命乞いをしていた一人目の若い男が、足首に包帯を巻いた若い女の手から、俺が渡した『非常用ビスケットの箱二つ』を乱暴にひったくったのだ。
女が「一つだけでも分けて!」とすがりつくと、もう一人の男が女の胸板を両手で力任せに突き飛ばしてアスファルトの上に仰向けに転倒させ、男二人だけでビスケットの箱を胸に抱えて、足首を捻挫している女を置き去りにしたまま西の路地へと全力で走り去っていった。
俺はサイドミラーから目を離し、二センチ開けた窓の隙間から乾いた唾を吐き捨てた。
怒りすら湧かなかった。ただ、胸の奥が冷え切るような絶対的な嫌悪感だけがあった。
俺がさっきの倉庫で、あの三人を防火扉のこちら側へ引きずり込んだのは、同情や正義感からなんかじゃない。純粋な「幾何学的な計算」からだ。
もしあのまま入り口で三人が六十体の感染者に食われていたら、六人のアークの兵士たちは入り口で異変に気づき、外へ三歩下がってトラックへ逃げ帰っていただろう。だから俺は、床から「餌」を取り除くことで、兵士たち自身を暗い倉庫の奥十メートルまで踏み込ませ、六十体の群れのど真ん中で確実に皆殺しにしたのだ。
それでも、俺の脳のほんの片隅では、「鉄の首輪をはめられて地獄を見た同じカテゴリーDの若者なら、少しはマシな心を持っているのかもしれない」という淡い疑問がゼロではなかった。
だが、その答えが今のバックミラーの光景だ。
『カテゴリーA』の谷口だろうが、『カテゴリーD』の奴隷だろうが、人間という生き物の本質には1ミリの違いもない。
腹を減らした二人の人間の前にビスケットの箱を一つ置けば、強い方が弱い方の頭を踏みつけて奪い取る。十人の人間を無人島に集めれば、一週間後には必ず「命令する支配者」と「泥を掘る奴隷」の階級を作り出し、夜中に仲間の喉を掻き切って食料を盗み始める。
人間社会は、ウイルスによって崩壊したのではない。ウイルスはただ、最初から骨の髄まで腐りきっていた『人間』という種のメッキを剥がしただけなのだ。
俺は視線を助手席へと移した。
そこには、俺のために五百体と六十体の化け物の群れの中を二度も駆け抜けたクロが、背筋をピンと伸ばして静かに座っていた。
クロの前足の間のシートの上には、五分前に俺がポケットから出して置いた『イノシシの干し肉』が一切れ乗っている。クロも腹が減っているはずなのに、俺が「よし」という許可の合図を出すまでは、よだれ一滴垂らすことなくその肉に鼻先すら触れず、ただ真っ直ぐな黒い瞳で俺の横顔を見つめていた。
ここには嘘も、裏切りも、見返りを求める打算も、ただの一かけらも存在しない。
「……食え、クロ」
俺が片手でその逞しい頭を撫でてやると、クロは嬉しそうに一度だけ耳を揺らし、干し肉を美味しそうに噛み締めた。
その姿を見つめるうちに、俺の頭の中に、鋼鉄の刃のように明確な「一つの決意」が形作られた。
『この戦いが終わって俺の島へ帰ったら、死ぬまで二度と、人間の顔なんか見たくない』。
だが、現実的な問題があった。
俺の無人島は周囲一キロ近くある。俺の目は二つしかなく、毎日八時間は眠らなければならない。そしてクロがいかに『カテゴリーS+』の軍用犬だとしても、たった一頭では、南の入り江と北の断崖と東の畑を二十四時間同時に見張ることは不可能だ。
もし将来、夜の嵐で海から複数の感染者が漂着したり、霧に紛れて別の略奪船が近づいてきたりした時、俺とクロだけではどうしても死角ができる。
俺に必要なのは、人間ではない。
クロと同じ――『犬の群れ(パック)』だ。
感染者から完全に無視され、人間の四倍の聴覚と暗視能力を持ち、金も肩書きも要求せず、イノシシの肉と俺の愛情さえあれば命に代えても俺の背中と島を守り抜いてくれる、四頭か五頭の訓練された使役犬の群れ。それさえあれば、俺の島は人間にとってもゾンビにとっても、文字通り「百パーセント侵入不可能な絶対要塞」になる!
【406日目・午前6時20分:警察犬訓練所の『教本』と、埠頭の4つの檻】
俺は装甲トラックを走らせて大通りを南へ一キロ下り、目的地である『湾岸総合スタジアム』の外周から二百メートル手前にある、赤レンガ造りの低い建物の陰にトラックを停めた。
建物の錆びた金属プレートには、『県警湾岸方面隊・警察犬訓練所および動物検疫支所』と記されていた。
パンデミック初期に港湾の警備にあたっていた警察犬や麻薬探知犬の本拠地だ。
俺は89式自動小銃を構え、クロを連れて無人の庁舎内へと足を踏み入れた。
外の犬舎は一年前にすべて開け放たれて空っぽだったが、指導官室の鍵のかかったロッカーをバールでこじ開けると、俺がまさに求めていた「宝の山」が眠っていた。
大型犬用のケブラー製戦術ベストが十着、ワイヤー入りのリード、革製の訓練用バイトスリーブ(噛みつき防護腕カバー)、そして人間の耳には全く聞こえない2万ヘルツ以上の高周波を出し、五百メートル先の犬にだけ無音で命令を伝えることができる『真鍮製の超音波ドッグホイッスル(犬笛)』が五本。
さらに、指導官の机の本棚には、警察犬・軍用犬の育成ノウハウがすべて詰まった分厚い専門書と雑誌の束が並んでいたのだ。
『使役犬・軍用犬の群れ(パック)統率と実戦防衛マニュアル』
『リーダー犬を利用した社会的模倣・短期育成教本』
俺は二つ目の教本を手に取り、朝の光の中で、主任指導官が赤ペンで線を引いていたページをむさぼるように読んだ。
『――通常、成犬の使役犬を5頭同時にゼロから無音警戒・襲撃訓練するには、熟練の訓練士でも1年以上の歳月を要する。
しかし、イヌ科の動物が持つ「群れ(パック)のピラミッド本能」と「社会的模倣学習」を利用すれば、その期間を10分の1に短縮できる。
すなわち、ハンドラー(主人)に対して絶対の忠誠を誓い、完全に訓練された【アルファ(群れのリーダー犬)】が1頭存在する場合、新たに群れに加えられた他の犬たちは、アルファ犬の行動(無駄吠えの禁止、ハンドサインへの服従、巡回ルート、標的への連携攻撃)を生き残るためのルールとして即座に模倣し、わずか数週間で単一の軍隊のように機能し始めるのである――』
俺は本を閉じ、超音波ホイッスルと一緒に医療バッグの奥へと大切にしまい込んだ。心臓が熱い興奮で脈打っていた。
俺にはすでに、最高のアルファである『クロ』がいる。
クロという手本と、この教本の知識さえあれば、俺は本当に最強の群れを作り上げることができる!
俺は訓練所の屋上へと階段を駆け上がり、コンクリートの胸壁の陰に腹ばいになって、南の方角へ海洋双眼鏡を向けた。
ここからは、戦場のすべてが一望できた。
左手三百メートル先には、一万体以上の感染者が閉じ込められている巨大な円形建築――『湾岸総合スタジアム』がそびえ立っている。
そして正面、幅三十メートルの直線道路の八百メートル先には、黒崎将軍たちの人工島へと繋がる唯一の道――『アーク連絡橋』の入り口が見えた。
双眼鏡のピントを、連絡橋の入り口を塞ぐバリケードに合わせる。
そこはまさに軍事要塞だった。大型の海上コンテナを二段重ねにした鋼鉄の壁が道路を完全に封鎖し、中央には太いH鋼で補強されたスライド式の鉄門が一つあるだけ。コンテナの上には土嚢で囲まれた二つの銃座が組まれ、口径12.7ミリの『重機関銃』と二十人以上の武装兵がこちら側を睨みつけている。
さらに連絡橋の向こう側、火力発電所の岸壁には、上級国民たちが暮らす白い豪華客船と、俺が奪った船の姉妹艦である『第1資源徴発艇』『第2資源徴発艇』の二隻が係留されており、鎖に繋がれた労働者たちが明日の俺の島への総攻撃に向けて、弾薬箱やドラム缶を運び込んでいるのが見えた。
だが――双眼鏡のレンズをその埠頭の端、二隻の警備艇から五十メートルほど離れたコンクリートの岸壁へと動かした瞬間、俺の両手がピタリと止まった。
倉庫から離れた吹きさらしの岸壁の上に、警察犬訓練所のものと同じ『四つの頑丈な鉄格子の輸送檻』が並んでいたのだ。
アークの兵士が二人、ゲラゲラ笑いながらその檻に向かってバケツで冷水を浴びせかけ、高圧スタンバトンで外から鉄格子を叩いて電流を流している。
そして、その四つの檻の中で激しく牙を剥いている生き物の姿が、レンズ越しにはっきりと見えた。
『四頭の大型使役犬』だった!
黒マスクに黄褐色の毛並みを持つ精悍な『ベルジアン・シェパード・マリノア』が二頭。クロと同じ漆黒と灰色の『ジャーマン・シェパード』の雌が一頭。そして港湾警備用の太い首輪をつけた、体重五十キロ近い筋骨隆々の『ロットワイラー』が一頭!
すぐに状況が読めた。
あの四頭は、もともと港湾警察や税関、あるいは警備隊にいたエリート使役犬たちだ。黒崎将軍の兵士たちが番犬として使おうと捕獲したものの、専門の訓練コマンドを知らずに暴力とスタンバトンだけで従わせようとしたため、誇り高い犬たちが反撃して将校の腕に噛みつき、「見せしめの処罰」として炎天下の岸壁の檻に閉じ込められて、水だけで飢え死にさせられようとしているのだ!
一キロ離れたここから見ても、その四頭の瞳はまだ死んでいなかった。アークの兵士が近づくたびに、鉄格子を噛み砕かんばかりの憎悪で唸り声を上げている。
あいつらもまた、俺やクロと同じように、あの制服を着た寄生虫どもを心の底から憎んでいるのだ。
俺は双眼鏡を下ろし、隣で静かに岸壁を見つめているクロの首筋を撫でた。
「見えたか、クロ。あの岸壁の檻にいる四頭が、今日から俺たちの『新しい家族(群れ)』だ。一万体の化け物をぶつけてあの要塞の人間どもを掃除したあと、あいつらを必ず救い出して一緒に俺たちの島へ連れて帰るぞ」
【406日目・午前6時45分:800メートルの『血の導火線』と、1万体の門】
屋上から降りた俺は、高機動救助工作車の荷台へと乗り込んだ。
いよいよ、要塞『アーク』を地上から消し去るための総仕上げだ。
まず、スタジアムから解放した一万体の感染者が脇道へ逸れることなく、八百メートル先の『アーク連絡橋のバリケード』へと一直線に突撃するための「道標」を作る。
俺は荷台に積んだ二十リットル入りの『濃縮動物性血粉・発酵液』のポリタンク六本の蓋を開け、その中に物流センターから持ってきた工業用アンモニア水を二本注ぎ込んで激しく撹拌した。
立ち昇った臭気は、人間が嗅げば一秒で嘔吐するほど強烈なものだった。俺はすぐに佐藤から奪った防毒マスクを装着した。真夏の屠畜場を何十倍にも濃縮したような「新鮮な血と内臓の強烈な匂い」だ。
俺は二つのタンクを荷台の後部ステップに固定し、底にナイフで直径一センチの穴を開けて、赤黒い濃縮血液がアスファルトの上に途切れなく流れ落ちるようにした。
そして運転席に飛び乗り、スタジアムの正門前からアーク連絡橋へと続く八百メートルの直線大通りを、時速六十キロで一気に走り抜けた!
連絡橋のバリケードの手前『二百メートル』の地点――道路を斜めに塞ぐように横転している大型トレーラーの残骸の陰(機関銃座からの死角)でトラックを急停車させる。
俺はそのトレーラーの空っぽのアルミコンテナの中――ここなら音が反響してスタジアムへ向かう巨大なスピーカーの役割を果たす――に、バッテリーを繋いだ『120デシベルの工事用超高音圧電子サイレン四台』を設置し、機械式タイマーを『十五分後』にセットした。
さらに、残りの四本の濃縮血液タンクをトレーラーの周囲のアスファルトにすべてぶちまけ、血の海を作った。
十五分後、この二百メートル地点で120デシベルの大音響が鳴り響き、海から吹く朝の向かい風が「八十リットルの濃厚な血の匂い」を八百メートルの赤い道標に沿ってスタジアムの門へと運べば、一万体の感染者の脳はただ一つの命令に支配される。『この血の道を辿って、橋の向こうにいる生きた人間どもを食い尽くせ』と!
俺はトラックをUターンさせ、全速力で『湾岸総合スタジアム』の北側メインゲート前へと引き返した。
サイレンが鳴るまで、残り十一分。
俺はスタジアムの巨大な鉄門から二十メートル手前に装甲トラックを横向きに停め、エンジンをかけたまま、重さ十五キロの『充電式・超高圧油圧カッター(命の顎)』を両手で抱えてクロと一緒に飛び降りた。
高さ五メートルあるスタジアムの黒鉄の大門へと駆け寄る。
一年前、撤退する自衛隊がこの門を外から封鎖するために巻きつけたのは、直径二・五センチもある極太の『船舶用焼き入れ鋼チェーン三本』と、レンガほどもある巨大な特殊南京錠だった。
だが、門の手前二メートルまで近づいた瞬間、俺はスタジアムの内部から漏れ出ている「音」に全身の毛が逆立つのを感じた。
静寂ではなかった。
まるでコンクリートの巨大な樽の中に、何百万匹ものオオスズメバチを閉じ込めたかのような、地底から響く低く重苦しい振動音だった。
『グゥゥゥ……アァァァ……ウゥゥゥ……』
左右の門扉のわずか十センチの隙間から、暗いスタジアムの入場トンネルの奥を覗き込んだ俺は、息を呑んだ。
そこには、床というものが存在しなかった。
トンネルの入り口から奥のサッカーフィールド、さらには観客席のスタンドに至るまで、見渡す限りの空間が『一万体を超える感染者の頭と腐った肩』で隙間なく埋め尽くされていたのだ!
あまりの過密さに座り込むことすらできず、深さ十センチに溜まった黒い汚泥と腐肉の汁の中で、一万体の死者が互いに押し合いながら立ったまま蠢いていた。
そして、門のすぐ内側に押しつけられていた先頭の二十体ほどの感染者が、隙間から俺の「生きた人間の匂い」を嗅ぎつけた瞬間――スタジアム全体が爆発したかのような咆哮が轟いた!
――ガシャアァァァン!! ドゴォォォォン!!
何十本もの白骨化した腕が鉄格子の隙間から一斉に突き出され、門扉全体が内側から押し寄せる何百トンもの肉の圧力でミシミシと恐ろしい音を立てて撓んだ!
「下がっていろ、クロ!」
俺は突き出される腐った指先をかわしながら、油圧カッターの分厚い特殊鋼ブレードを、一番下に巻かれた『一本目の極太チェーン』の輪に噛ませ、電動油圧ポンプのトリガーを引いた。
――ウィィィィィィン……バツンッ!!
七百気圧(三十トン)の油圧が焼き入れ鋼を押し潰し、直径二・五センチの鉄の輪がガラスのように弾け飛んだ!
一本目の鎖が地面に落ちた瞬間、内側から押す感染者の圧力で、大門の下半分がギギギッと十センチ外側へ膨れ上がった。
サイレン作動まで、残り七分。
俺は十五キロの油圧カッターを胸の高さまで持ち上げ、中央の『二本目のチェーン』に刃を食い込ませてトリガーを引き絞った。
――ウィィィィィィン……バツンッ!!
二本目の鎖も吹き飛んだ!
今や、内側から一万体の怪物が全体重をかけて押し続けている重さ三トンの鉄門を支えているのは、地上二・二メートルの高さにあるスライド式かんぬきに巻かれた『最後の三本目のチェーン』ただ一つだけになった!
残り五分。
俺は左肩の十二発のステープラーの傷口がミシリと軋むのに奥歯を噛み締めながら、十五キロの油圧カッターを頭上高く持ち上げ、最後の三本目のチェーンの輪にブレードを噛ませた。
モーターが唸りを上げ、鋼鉄の刃が最後の鎖の輪に半分まで食い込んだ――まさに、そのコンマ一秒だった。
三百メートル離れた大通りの途中、アークの前哨監視所になっている十階建てのオフィスビルの屋上で、朝日を反射して「キラリ」と光るレンズが見えた。
アークの監視兵の、対物ライフルのスコープだった。
「――クロ、伏せろッ!!」
俺が油圧カッターから手を離して地面へ飛び込んだのと、乾いた銃声が空気を引き裂いたのは同時だった。
――ズガァァァン!! ギャリィィィン!!
一発目の7.62mm狙撃弾が、コンマ一秒前まで俺の頭があった鉄門の柱をかすめて火花を散らし、続けざまに放たれた二発目の銃弾が――門の上の鎖に噛み込んだままだった俺の『油圧カッターの後部リチウムバッテリー』を真正面から撃ち抜いた!
バチィィィッ!! ボフッ!!
バッテリーパックが白い煙と酸の火花を噴き上げて破裂し、油圧カッターのモーターが完全に沈黙した。
見上げると、最後の三本目のチェーンは『あとわずか五ミリ』のところで切断が止まり、油圧カッターの刃が食い込んだまま、かろうじて門のかんぬきを繋ぎ止めていた!
同時に、俺の腰にある権藤の軍用無線機から、ビルの上の監視兵のヒステリックな絶叫が飛び出してきた。
『――緊急警報!! 連絡橋の全防衛部隊へ告ぐ!! スタジアム北門の前に装甲トラックに乗った工作員が1名出現! 油圧工具でスタジアムの封鎖チェーンを切っている! 繰り返す、あと鎖1本で1万体の群れが解き放たれるぞ!! 今すぐ連絡橋のゲートから軽装甲車2両を出撃させ、門が開く前にあの男を蜂の巣にしろォッ!!』
俺は二十メートル離れたトラックのバンパーの陰へ転がり込みながら、大通りの向こうを見た。
八百メートル先のアーク連絡橋の鉄門が左右に開き、屋根に重機関銃を載せた『二台の黒い軽装甲車』が、砂煙を上げて俺の方へと猛スピードで突進してくるのが見えた。
そして目の前のスタジアムの大門では、残り五ミリの鉄で繋がった最後の鎖の隙間から、一万体の圧力を受けてすでに三十センチ開いた扉の割れ目を通り抜け、先頭の二十体以上の感染者が外へと溢れ出し始めていた!
(第8話へ続く)
第7話をお読みいただき、ありがとうございます!
最後のチェーンが「残りわずか5ミリ」というところで狙撃手に油圧カッターのバッテリーを撃ち抜かれ、前方からは12.7ミリ重機関銃を積んだ軽装甲車2台が時速80キロで突進してくる絶体絶命のピンチ……!
続く【第8話】では、2万2000ヘルツの『無音の犬笛』を受けたクロが銃弾の雨と30体のゾンビの股の下を駆け抜ける奇跡の連携と、ついに解き放たれる『1万体の感染者の黒い津波』がアークの絶対防壁を飲み込む圧巻のクライマックスをお届けします!




