なぜですか?
皆さん、章の投稿が遅れてしまってすみません。
第五章
朝、目を覚ました俺が真っ先に目にしたのは、目の前の壁に掛けられた時計だった。針はちょうど九時を指していた。
新しい一日。そして、この世界にまた一つ加わった、いつもの朝。
俺はすぐにベッドから起き上がり、部屋を出て浴室へ向かった。蛇口をひねると、冷たい水が指の間を流れ、顔を濡らした。鋭い冷たさが、体の中を駆け抜けていく。
顔を上げ、鏡を覗き込む……しかし、いつもと同じだった。相変わらず、ぼやけた輪郭と曖昧な表情しか見えない。確実に分かるのは、髪が黒いということだけだった。
ああ、神様……まさか、自分の顔を完全に忘れてしまったとでもいうのか?
俺は整った顔立ちをしていたのだろうか。それとも醜かったのか? あるいは、特に目立つところのない、ごく普通の顔だったのだろうか?
俺は途方に暮れ、ため息をついた。
(はあ……まあ、いいか)
浴室を出て、キッチンへ向かった。冷蔵庫を開け、卵を二つ、トマトを一つ、ピーマンを一つ、それから少量のバターを取り出した。
野菜を洗い、フライパンをコンロに置いて火をつける。バターを放り込むと、ゆっくりと柔らかくなり、油のように滑らかな液体へと変わっていった。
包丁を手に取り、まな板の上にトマトを置いて切り始める。
その瞬間、キッチンに響いていたのは、溶けるバターのかすかな音と、包丁が規則正しく木製のまな板を叩く音だけだった。
朝食を作り、静かに食べた。
しばらく座っていた後、俺はタバコに火をつけた。灰色の煙が立ち上り、空気の中へと消えていく。
その後、立ち上がって外出着に着替えた。ポケットに手を入れると、指先が真鍮の鍵に触れた……。
鍵はまだそこにあった。冷たく、硬く、そして重い。
家を出ると、いつものように暖かな黄金色の陽光が俺を迎えた。通りでは子供たちが遊び、小鳥たちが可愛らしい声でさえずっている。
神経を落ち着かせてくれるような、穏やかな空気が辺りを包んでいた。
だが、その表面の下には、何か得体の知れないものが隠されているような気がした。
カフェへ向かう途中、以前、公園で出会ったあの青年の姿が目に入った。彼は俺のすぐ前を歩いていた。どうやら脇道から出てきたらしく、俺には気づいていない。
俺は静かな足取りで彼の後を歩いた。彼が道沿いに進んでいく間も、俺の存在に気づく様子はなかった。
そして、ついに俺たちはカフェへとたどり着いた。
最初から、行き先は同じだったのだ。
彼は俺より先に店へ入った。
透明なガラス越しに見ていると、彼はいつもの席へ向かい、その椅子に腰を下ろした。
席に落ち着くと、彼は窓の方へ顔を向け、外に立っている俺を見つけた。
彼は俺に目を向け、遠くから手を振った。その顔には、いつもと変わらない、温かく親しみやすい笑みが浮かんでいた。
俺は木製の扉を押し開けてカフェに入った。
いつものように、芳醇で澄んだコーヒーの香りが鼻をくすぐる。そして店の中央では、サヤが魅力的な笑顔を浮かべながら、手際よく丁寧に飲み物を作っていた。
俺は注文もせず、まっすぐお気に入りの席へ向かった。
青年は遠くから穏やかな笑みを浮かべて俺を見ていた。手元の何かを読むことに夢中になっているようだった。
俺は深い思考に沈み、両手をポケットに入れたまま考え込んだ。
そもそも、この鍵はどうやって俺のポケットに入ったのだろう?
そして、このカフェの中にあるという、俺には見つけられない謎の扉は、一体どこにあるのだろうか?
そんな疑問に囚われていたそのとき、突然、額に熱い冷たさのような感触が触れ、俺は一瞬、驚いて身を引いた。
「な……何だ?」
サヤが熱い紅茶のカップを、俺の額にそっと押し当てていた。彼女の唇には、少し得意げで楽しそうな笑みが浮かんでいる。
「何を考えているんですか、ユウトさん?」
「ああ……ごめん。別に何でもないよ」
彼女は紅茶のカップをテーブルに静かに置き、どこか優しく素っ気ない口調で言った。
「これがあなたの注文だと思ったんですけど」
「ああ……ありがとう」
彼女はきちんとした足取りで向きを変え、離れていった。
俺は心の中でつぶやいた。
(紅茶を持ってきてくれた……まだ何も注文していないのに)
カップを持ち上げ、口元へ運ぶ。小さく一口すすると、いつも通り温かくて美味しかった。
「へえ、ユウト・カガヤマさんは、サヤさんとずいぶん前から知り合いなんですね」
背後から、温かみのある声が聞こえた。
振り返ると、先ほど見かけた青年が席を立ち、俺の真正面にある椅子へ移動してきたところだった。
「急に話しかけてすみません。ちょっと読書に飽きてしまって」
彼は安心感のある温かな笑顔でそう言った。
(俺の名前を呼んだ……)
その考えが、瞬く間に頭をよぎった。
(彼と会ったのは数日前だ。それに、俺は一度も自分の名前を教えていない……。きっと、さっきサヤが俺を呼ぶのを聞いたんだろう)
「ところで、何を読んでいたんだ?」
俺は疑念を隠しながら尋ねた。
「恋愛漫画です」
「じゃあ、特に決まった趣味があるわけじゃないんだな……」
俺は軽く皮肉を込めて言った。
「え? どういう意味ですか?」
彼の顔に困惑の色が浮かんだ。どうやら、俺の意図がうまく伝わらなかったらしい。
「つまり、世界的に有名な小説だけを読むわけじゃなくて、今じゃ誰も読まなくなった新聞も読むし、漫画も読む……。簡単に言えば、読書マニアってことだよ」
彼は小さく、穏やかに笑い、どこか謎めいた笑みを浮かべて答えた。
「ええ……まあ、そうかもしれませんね」
「実は、昔の俺も君と同じだったんだ……。読書が大好きで、新聞も雑誌も小説も漫画も、何でも夢中になって読んでいた」
(まさか、誰かとこんな話をすることになるなんて思わなかった……。こんな自分の一面を、俺は今まで誰にも話したことがなかったのに)
「じゃあ、ユウト・カガヤマさんも読書マニアなんですか?」
俺は少し驚いて尋ねた。
「ええ……まあ、そうかもしれませんね!」
彼は曖昧な笑みを浮かべて答えた。
「すみませんが、そろそろ失礼します。電車に乗り遅れそうなので。ありがとうございました、カガヤマさん」
彼は礼儀正しくそう言うと、椅子から立ち上がり、しっかりとした足取りで足早に店を出ていった。
だが……なぜ、彼は俺に礼を言ったのだろう?
俺は残りの紅茶を静かに飲み干し、自分も帰ろうと立ち上がった。
そのとき、テーブルを拭いていたサヤが、疑問を含んだ声で俺を呼び止めた。
「あの青年、よくここに来るんですよね……。ユウト、彼はあなたの友達なんですか?」
「いや、最近知り合ったばかりだよ。それに、俺は彼に自己紹介すらしていない」
サヤは明らかに驚いた表情で俺を見つめた。
「でも、さっきあなたの名前を呼んでいましたよね……。以前から知り合いだったんですか?」
「君が俺を呼ぶのを聞いたんじゃないのか?」
「そうは思いませんけど……。私、あなたの下の名前しか呼んでいませんから」
……そ、そうだ!
彼は俺の名字まで呼んだ……。どうして知っているんだ?
本当に、以前から俺のことを知っていたのだろうか?
俺は彼のことをまったく覚えていない……。初めてまともに会ったのは公園だったはずだ。
それなのに、どうして彼の存在は、まるで別の世界から俺を追いかけてきた影のように感じられるのだろう?
「ユウトさん?」
「な……何だ?」
声に緊張がにじんだ。
「大丈夫ですか? さっきから話しかけていたのに、まるで別の世界にいるみたいでしたよ」
「ごめん……」
(完全に考え事に没頭していた。終わりの見えない疑問の迷宮に、意識を奪われていたんだ)
「ほら、お会計を済ませて出ていってください!」
サヤは、からかうような笑みを浮かべながら、きっぱりと言った。
「え? 今、俺を追い出そうとしてるのか?」
「ほらほらほらほらほら!」
彼女は俺の驚いた表情など気にも留めず、軽く、しかし有無を言わせぬ勢いで俺を扉の方へ押していった。
そしてとうとう、俺は強引に店の外へ追い出されてしまった。
俺は深くため息をつき、カフェのガラス窓を見つめた。
「まったく……」
カフェを出た俺は市場へ向かった。必要な日用品と食べ物、それから飲み物をいくつか買い、家へ戻った。
家に入った途端、眠気に襲われた。
ソファに腰を下ろす。目の前にはタバコが置いてあったが、俺は何とか自分を抑え、火をつけなかった。
タバコの箱を見つめながら、ふと考えた。
俺は以前、何をして過ごしていたんだろう?
もしかして、俺の生活は寝ることとカフェに行くことだけだったのだろうか?
少し退屈な人生だな……。
自分に関することは何一つ思い出せないのに、それ以外のことなら何でも覚えている。
一体、俺に何が起こったんだ?
(はあ……)
まあ、いいか……。
俺は自分の部屋へ行き、ベッドに横になった。
眠ることほど素晴らしいものはない。
カーテンは閉め切られ、部屋の中は真っ暗だった。まるで夜のようだが、実際にはまだ午後二時を過ぎたばかりだった。
その一方で、俺の腕時計はこう示していた。
9:43:01
――――――――――――――――――――
いつものように、朝、目を覚ました……。
重い体を引きずるようにベッドから起き上がり、機械のような足取りで浴室へ向かった。
鏡の前に立つ。そこに映っているのは、いつもと変わらない空虚さだった。
輪郭も表情もない、顔のない幽霊のような姿。
俺は相変わらずの迷いを抱えながら、心の中で問いかけた。
壁の外にいる人々には、俺はどんなふうに見えているのだろう?
道ですれ違う人たちの目には、俺はどう映っているのだろう?
そして、自分でも気づかないうちに、あの憂鬱で生気のない、不幸に毒されたような表情を浮かべ続けているのだろうか?
「はあ……」
俺は苦々しくため息をついた。
規則正しい音を立てて流れていた水を止め、乾いたタオルで乱暴に顔を拭いた。まるで、肌にこびりついた謎をこすり落とそうとするかのように。
重い足取りで窓へ向かい、窓を開けた。
空を見上げると、淡い色の空の下に、幾重にも連なる家々の屋根が広がっていた。揺れる木々の葉の隙間から、黄金色の陽光が街路へと差し込んでいる。
それでも……あの青年とは、カフェで出会って以来、一度も顔を合わせていなかった。
今日はまた姿を現すのだろうか?
それとも、いつものように、いつの間にか消えてしまったのだろうか?
数分後、俺はカフェに到着した。
木製の扉を押し開けて中に入る。
店内にはサヤ以外、誰もいなかった。
彼女はカウンターの向こうで頬杖をつき、濡れた窓の外をぼんやりと見つめていた。
扉が開いたことにも、俺が入ってきたことにも気づいていない。
その瞳には、深い悲しみと失望が滲んでいた。
いつも笑顔と明るさに包まれていた彼女には、まるで似つかわしくない、奇妙で不安を覚える姿だった。
俺はつま先立ちで静かに歩き、お気に入りの席へ向かった。
そして、彼女の思考を遮らないように、一言も発することなく腰を下ろした。
「ユウトさん!」
彼女は少し驚いたような声を上げた。ようやく、俺の存在に気づいたらしい。
「ごめん……。挨拶もせず、勝手に入ってしまった。驚かせてしまったなら、本当にすまない」
「ああ……いえ、気にしないでください。私はただ……少し考え事をしていただけです」
彼女は、今にも消えてしまいそうなほどかすかな声で答えた。
「気にしないで」
俺は彼女の隠された悲しみを探るように見つめながら言った。
「今日は何を注文しますか?」
彼女は、いつもの明るい仮面を取り戻そうとするように尋ねた。
「いつも通り、紅茶だけで」
「分かりました……」
彼女は機械的に答えると、ゆっくりと飲み物を作る機械の方へ向かった。
カフェには、息苦しさを覚えるほど重い静寂が満ちていた。
その一方で、芳醇なコーヒーの香りが空気に広がり、心を癒やしてくれる。
サヤは明らかに悲しんでいるにもかかわらず、いつもと変わらず丁寧に、心を込めて飲み物を作っていた。
俺は彼女から視線を外し、何もない空間を見つめた。
そして、不意に一つの疑問が頭をよぎった。
(俺は本当に、ただ紅茶を一杯飲むためだけに、この場所へ通っているのだろうか?)
ほんの数分後、サヤがゆっくりと戻ってきた。
片手には紅茶のカップ、もう片方の手にも別のカップを持っていた。
「どうぞ……紅茶です」
そう言って彼女は俺の前にカップを置いた。
それから隣の椅子を引き寄せ、俺の真正面に腰を下ろした。
疲れ切った体を、椅子に預けるようにして。
彼女はもう一つの紅茶のカップを自分の前に置き、静かに椅子を引いて、テーブルの向こう側に座った。
彼女はすぐには口を開かなかった。
二人の間に白い沈黙が広がっていく。二つのカップから立ち上る湯気は、冷たい空気の中へゆっくりと溶けていった。
俺は静かに紅茶を一口飲んだ。
そして、重苦しい静寂を破るように、低い声で尋ねた。
「……サヤ、君は大丈夫なのか?」
「……大丈夫です」
彼女は短く答えた。
だが、どう見ても大丈夫そうには見えなかった。
「朝からずっと上の空だったし、いつも見せてくれていた笑顔も、今日は一度も見ていない」
俺は彼女を見つめながら、もう一度尋ねた。
「……本当に、大丈夫なのか?」
サヤは顔を上げ、静かな眼差しで俺を見つめた……。
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