↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7秒  作者: Moaad Abu al-Qasim
PR
3/5

ユウト・カガヤマ

昨夜は一晩中起きていた。まぶたひとつ動かすことなく、闇がゆっくりと薄れていくのを見つめていた。

何度も眠ろうとしたが、昨日の午後、俺を襲ったあの長い眠りだけで、身体はもう十分だったらしい。


「時間だ……」


重い身体を起こし、服を着替えた。そして、ポケットに手を入れ、真鍮の鍵があることを確かめた……そこにあった。布越しに、その硬く冷たい感触が伝わってくる。

靴を履き、アパートのドアを開けて、カフェへと向かった。


外の空は灰色だった。重たい雲が空を覆い、今にも雨が降り出しそうだった。湿った冷気が、木造の建物が並ぶ路地の間を静かに流れていた。


「――また雨か……」


コートの襟を立てながら、そう呟いた。それから、小さな声で続けた。


「――まあ、いいか。」


背後でドアを閉め、鉛色の空の下を歩き始めた。

まだ雨は降っていなかった。しかし、空気は重たい湿気に満ちていて、歩を進めるたびに、静けさと予感がせめぎ合っているようだった。


カフェに到着した。

木製の看板が、ごくゆっくりと揺れていた。

俺は深く息を吸い、木製のドアを押し開けて中に入った。


温かなコーヒーの香りと、古い木の香りが混ざり合い、俺を迎えた。

カウンターの向こうには、いつもの穏やかな笑みを浮かべた店員が立っていた。彼女の黒い瞳は、見覚えのある輝きを帯びながら、俺の動きを追っていた。


小さな声で温かい紅茶を注文し、それから大きなガラス窓のそばにある、お気に入りの席へ向かって腰を下ろした。

今日はあの青年の姿はなかった。

カフェは静かで、人影もほとんどなかった。俺以外に座っている客は誰もいなかった。


その瞬間……最初の雨粒が降り始めた。


雨粒はゆっくりと窓ガラスに落ち、やがて流れる水の筋となって、テーブルの上にぼんやりとした影を描いていった。

俺は少しだけ頭を傾け、ガラスの向こうに降る雨を眺めた。

カフェの静けさが、さらに深まっていくのを感じた。まるで、外の世界が灰色の闇に沈みながら遠ざかっていき、俺だけがここに取り残されたかのようだった。


店員がゆっくりと近づいてきて、いつもの笑顔とともに温かい紅茶を置き、再びカウンターへ戻っていった。


カップから立ち上る湯気を、数秒ほど見つめた……それから、窓の外から視線をそらした。


これまでにないほど注意深く、店内を見回し始めた。

テーブル、本が並ぶ棚、店内の幾何学的な配置……。

どこにも隠し扉らしきものはなかった。


紅茶のカップを持ち上げ、一口すすった。

温かさが胃の中へと落ちていく。

言葉では言い表せない感覚だった。


カップをテーブルに置き、店員に目を向けた。

彼女はコーヒーを淹れるのに夢中だった。

魅力的な笑みを浮かべながらコーヒーを淹れる彼女の姿は、とても素晴らしかった。


そのとき、ドアのベルが鳴り、客が一人入ってきた。

俺はその客が入ってきた瞬間、店員から視線をそらした。


「――あ……い、いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」


店員が言った。


「――コーヒーを一杯お願いします。」


客はそう答えると、俺から少し離れたテーブルへ向かい、腰を下ろした。


紅茶を飲み終えたが、外では相変わらず強い雨が降り続いていた。


(傘を持ってくればよかった……)


俺は店を出ることができず、雨が止むことを願いながら、しばらく座り続けた。


十分が過ぎた。雨は止まなかった。


三十分が過ぎた。それでも雨は止まなかった。


こんなに長い間居座っていると、歓迎されていないような気がしてきた。


帰る準備を始めた、そのときだった。

店員がやってきて、コーヒーを二つ持ったまま、俺の真正面に立った。

彼女は一つを俺の前に置き、もう一つを自分の前に置いてから、椅子に座った。


「――勝手にごめんなさい。休憩時間なの。少しだけ、あなたにちょっかいを出してみたくて……」


彼女は、わずかな笑みを浮かべながら、あっさりと言った。


「――うん、どうぞ。」


俺はそう答えた。


彼女はコーヒーカップを手に取り、口元へ運んだ。


「――傘、持ってこなかったんでしょう?」


そう言って、コーヒーを軽く一口飲み、カップを置いた。


「――ああ。こんなに激しく降るとは思わなかった。」


俺が答えると、彼女は小さく笑ってから言った。


「――それはよかった。お客さんが一人もいないカフェって、好きじゃないの。たとえ一人だけでもね。」


俺は以前から何度もこのカフェに通っていた。

けれど、店員とこんなふうに会話をしたことは一度もなかった。


「――あなたは特別なお客さんなのよ、カガミヤマさん。」


彼女は優しい笑みを浮かべながら言った。


俺の顔が少し赤くなった。


「――あ、ありがとう……。」


彼女は黙ったまま、ただコーヒーを飲んでいた。


俺はまだ彼女の名前を知らない。

もし尋ねたら、変な奴だと思われるだろうか。それとも、変質者だと思われるだろうか?

ああ、どうしよう……。


「――あの、すみません……」


「――はい?」


俺の心臓が、少しだけ強く鼓動し始めた。


「――お名前を聞いてもいいですか?」


彼女はテーブルからコーヒーカップを持ち上げ、立ち上がった。

そして、言葉を発する前に少しだけ立ち止まった……。

まるで答えたくないかのようだった。


聞かなければよかった!


「――サヤ……サヤ・ツキシロ。」


「――ツキシロさん、お会いできて光栄です。」


「――下の名前で呼んで。そんなにかしこまらなくていいから。」


彼女はそう言った。


「――じゃあ、サヤ……それでいい?」


「――うん、そのほうがいいわ。私もあなたを下の名前で呼ぶね。」


そう言うと、彼女は立ち去った。


(本当に優しい人だな……)


しかし、俺は目的のものを見つけられなかった。

ここには奇妙な扉など存在しない。

この鍵の秘密は、一体何なのだろう?


どうやら、外の雨は止んだようだった。

俺はいつものように紅茶の代金をテーブルに置いた。


……ああ、ちょっと待て。

コーヒー代はどうするんだ!?


店員に目を向けると、彼女は冷たく、いたずらっぽい笑みを浮かべて俺を見ていた。


(コーヒーをもう一杯飲ませて、その代金まで払わせたのか!? なんて悪賢い女だ!)


カフェを出た。

濡れた地面の匂いは心を落ち着かせ、雲の隙間から差し込む太陽の光が地面に反射し、美しい景色を作り出していた。


俺は濡れた歩道の上を、戸惑いの重さを引きずるように、ゆっくりと歩いていた。

傘や木々の縁から落ちる水滴が、軽やかで調和の取れた音を奏でていた。

まるで、街全体が突然の雨のあと、再び温かな息を取り戻しているかのようだった。


安堵と温もりが入り混じった、不思議な感覚に包まれた……。


あの少女、サヤ。

彼女がいつもの落ち着いた雰囲気の裏に、あんな一面を隠していたなんて、まったく予想していなかった。

ドアのところで見せた、あの冷たくいたずらっぽい笑みが、今も頭の中に残っていた。


俺はコートのポケットに手を入れた。

しかし、鍵が見つからなかった。


「――え? どこへ行った?」


すべてのポケットを探したが、見つからなかった。

テーブルの上に置き忘れたのだろうか?


いや、店を出る前に、確かに上着のポケットに入れたはずだ。


道に落とした可能性もある。

確かめるため、来た道を引き返すことにした。


鍵が見つかることを願いながら、カフェへと戻った。

道の隅々まで何度も探したが、どこにも見当たらなかった。


カフェのドアのすぐ前で立ち止まった。

戸惑いのあまり、息が止まった。


入るべきだろうか?

もし入ったら、店員に何と言えばいい?

きっと変な奴だと思われるだろう。

ついさっき店を出たばかりなのに、また戻ってきたのだから。


俺は重い足取りで後ずさりした。

心の中で、入るのはやめようと決めた。


そのまままっすぐ家へ帰った。

家に入るなり、ソファに腰を下ろし、タバコに火をつけた。


謎が、決して噛み合おうとしないパズルのピースのように、頭の中を巡っていた。

カフェのどこか、見落とした場所があったのだろうか?

それとも、あの扉は何か特定の条件や姿でなければ、目に見えないのだろうか?


「――サヤ・ツキシロ……どうやら、明日もあのカフェに戻らなければならないらしい。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。