俺は……何者なんだ?
小鳥たちの優しいさえずりが、窓の向こうから聞こえてきて、俺は目を覚ました。
静かな夜だった……不気味なほどに静かだった。
まるで世界全体が、俺に突然の休息を与えることに同意したかのようだった。
こんなにも穏やかで、深い眠りについたのは久しぶりだった。
頭の中を重く締めつけるような、暗い頭痛もなく目を覚ますというのが、どんな感覚だったのかさえ忘れていた。
俺はベッドから起き上がり、軽く、そして少しためらうような足取りで浴室へ向かった。
蛇口を開き、肌の上を柔らかく流れていく冷たい水で顔を洗う。
そして、顔を上げて鏡を見た……。
だが、奇妙なことに、そこには俺の姿がまったく映っていなかった。
鏡は割れていない。
曇っているわけでもない。
それなのに、そこに映っているのは、電波の届かない古いテレビ画面のように揺らめく、ぼんやりとしたノイズだけだった。
そして、その前に立っている人物の姿も、輪郭が曖昧で霧がかったようになっていた。
はっきりとした顔の形は何もない。
目もない。
鼻もない。
俺の知っている顎の線すらなかった。
俺は丸一分、そのノイズを見つめ続けた。
怖がるべきなのだろうか?
これは、昨日起きたことの副作用なのだろうか?
俺は唇を引き結び、心の中で呟いた。
(……どうでもいい)
俺はそのことを無視し、もう一度冷たい水で顔を洗ってから浴室を出た。
ゆっくりとした足取りでキッチンへ向かい、朝食を作ろうとした……。
俺は数秒間、オーブンの前に立ち、木製の調理器具やフライパンを眺めていた。
だが、胸の奥に軽い重さが入り込んできた。
「ああ、もう……今日は何も作る気になれない。カフェに行こう」
服を着替え、家を出た。
空は一点の曇りもない、幻想的なまでに澄みきった青空だった。
太陽は暖かな黄金色の光を放ち、木造の路地を優しく照らしていた。
人生で初めて、こんなにも素晴らしい感覚を抱いた……。
どこからともなく湧き出る泉のように、幸福が俺の全身を満たしていた。
まるで、長い間俺の肩を押し潰し、心臓を締めつけ続けていたあの憂鬱な重荷が、死んでしまったかのように消え、二度と戻ってこない遠くへと蒸発してしまったようだった。
人間は、ここまで軽くなれるものなのだろうか?
俺は静かに歩き、カフェへとたどり着いた。
木製の扉を開けると、キィ……という柔らかな軋みが響いた。
すると、店内にいた店員が、穏やかな笑顔を浮かべながら俺を迎えてくれた。
黒い瞳は暖かな輝きを放ち、短い黒髪が柔らかく顔の周りに垂れていた。
(綺麗だ……)
彼女は優しい笑顔と、甘く穏やかな声で言った。
— 「何をご注文なさいますか、お客様?」
俺は少し戸惑いながら我に返り、答えた。
— 「あ……すみません」
その瞬間、俺は数秒間、馬鹿みたいに彼女の顔を見つめていたことに気づいた。
もしかしたら今頃、彼女は俺のことを変で気持ち悪い奴だと思っているかもしれない。
俺はすぐに気を取り直し、言葉をまとめた。
— 「紅茶をお願いします」
彼女は頷いた。
その笑顔はさらに暖かくなり、不快そうな様子はまったくなかった。
俺は深く息を吸い、安堵の息を吐き出した。
そして、窓際にあるお気に入りの席へ向かった……。
だが、そこにはすでに別の人物が座っていた。
その人物は俺のほうを振り向き、自然な笑顔で言った。
— 「こんにちは……なんという偶然だ!」
昨日、庭で出会った青年と同じだった。
— 「ああ……本当に、なんという偶然だ」
— 「ほら、ここに座りなよ」
そう言いながら、彼は向かい側の椅子を指した。
— 「ああ、すみません。お邪魔します……」
俺は向かい側に腰を下ろした。
彼は昨日とは少し違って見えた。
頭を覆っていた帽子をかぶっておらず、柔らかな黒髪がそのまま垂れていた。
顔立ちはとても整っていて、黒い瞳は夜のように穏やかだった。
その姿には、礼儀正しさと、飾り気のない上品さがあった。
彼は両手に印刷された紙の新聞を持っていた。
俺は一面に目を向け、それから彼を見て言った。
— 「ずいぶん読書が好きなんだな……今どき、誰が新聞なんて読むんだ?」
彼は軽く笑った。
その声はよく響いた。
そして答えた。
— 「ははは、駅で売っている人を見つけたから、一つ買ったんだ」
俺たちの会話に店員が近づいてきた。
落ち着いた足取りで注文の品を運んでくる。
青年の前にはコーヒーと水。
俺の前には熱い紅茶。
俺はカップを手に取り、青年もコーヒーのカップを手に取って、ゆっくりと飲み始めた。
— 「美味しいな……俺、このカフェでコーヒーを飲むのが好きなんだ」
— 「ああ、俺もそう思う」
俺はいつもとは比べものにならないほど早く紅茶を飲み干した。
そして突然、この場所を離れて一人で自分の考えに向き合いたいという気持ちに駆られた。
俺は金属製のテーブルの上に紅茶代を置き、立ち上がりながら言った。
— 「すみません、俺はもう行くよ……」
彼は暖かな声で手を振った。
— 「また会おう」
俺は無言で頷き、外へ向かった。
扉へ向かう途中、カウンターの向こうにいる店員をちらりと見た。
彼女は活き活きとした様子でコーヒーを淹れていた。
その動きには、生き生きとしたエネルギーが満ちていた……。
以前の彼女は、決してこんな姿ではなかった。
まるで、もう一度蘇った人間のように見えた。
俺は通りへ出た。
暖かな空気を吸い込みながら、ゆっくりと歩いていると、コートのポケットに手を入れた。
すると、指先が何か硬く、冷たく、重いものに触れた。
家を出たときには、そんなものはポケットになかった。
俺は歩道の真ん中で立ち止まり、それをゆっくりと取り出した。
それは、奇妙な彫刻が施された古い銅製の鍵だった。
そして、その鍵には小さな紙片が垂れ下がっていた。
そこには、上品な手書きの文字でこう書かれていた。
「カフェで気づかなかった扉へ」
俺はその場に凍りついた。
「カフェで気づかなかった扉……?
これは何だ?
それに、どうしてこの鍵が俺のポケットに入っている?」
驚きで思考が麻痺する。
青年が俺の隣に座ったときに入れたのだろうか?
それとも店員か?
あるいは、最初からポケットは空ではなかったのだろうか?
俺は鍵の銅色の縁を指でなぞりながら、後ろを振り返った。
そこにはカフェがある。
そして、疑念を追い払おうとしながら、自分自身に小さく呟いた。
「今考えても仕方がない……明日、確かめに行こう」
外はもう昼近くになっていた。
太陽が少しずつ高く昇り始めていた。
今日はもう、何もすることがなかった。
追うべき手がかりもない。
だから俺は、この精神的な疲労から逃げるために眠ることにした。
家に戻ると、すぐに自分の部屋へ向かった。
部屋の明かりは消えていて、暗闇がその隅々を覆っていた。
俺がスイッチを押して明かりをつけると……。
俺は呆然と立ち尽くした。
初めて見るほど、俺の部屋は完全に綺麗に片づいていた。
服は整理され、床に散らばっていた紙はなくなり、ベッドはきちんと整えられ、物はすべて調和するように配置されていた。
以前は決してこんな状態ではなかった。
いつだって、そこは混沌と埃のための避難所だった。
俺の頭は疑問でいっぱいになった。
いったい何が突然起きたんだ……?
どうして、すべてがこんなにも簡単に、そして心地よく俺に都合よくなり始めた?
誰がこの部屋を片づけた?
どうして痛みが消えた?
そして、なぜ俺は鏡の中に自分の顔を見ることができない?
数え切れないほどの疑問が、荒れ狂う滝のように頭の中へと流れ込んできた。
だが、胸の奥では、それらの答えを探したくはなかった……。
この新しい人生が、俺は本当に気に入っている。
なら、なぜ欠点を探して、それを壊す必要がある?
俺は明かりを消した。
暖かな暗闇が戻ってくる。
ベッドに横になる。
そして、綺麗な枕に頭を置いた瞬間、眠気が俺を包み込み、そのまま底へと引きずり込んでいった……。
眠った。
だが、その眠りは俺が思っていたような優しい逃避ではなかった……。
それは、俺を待ち受ける地獄への入り口だった。
安心感は突然消えた。
まるで、綺麗な枕が燃える炭へと変わり、暖かな暗闇が首に絡みつく息苦しい闇へと変わったかのようだった。
気がつくと、俺は同じ通りの真ん中に立っていた。
だが、そこには黄金色の太陽も、澄みきった空もなかった。
空は凝固した血のような真紅に染まり、見慣れた木造の路地は朽ち果て、焼け焦げていた。
そこからは、不快な黒い煙が立ち上っていた。
俺は自分の手を見た。
銅製の鍵が指の間で溶けていた。
その熱が皮膚を焼いていた。
だが、俺はそれを手放すことができなかった。
突然、すぐ耳の後ろから、ざらついた声が囁いた。
鉄と鉄が擦れ合うような声だった。
— 「なぜ逃げる?
美しい幻想の中に隠れられるとでも思っているのか?」
俺は驚いて振り返った。
だが、そこには誰もいなかった。
ただ、焼け焦げた壁の上で、あまりにも長い影がひとりでに動いていた。
俺は狂ったようにカフェへ向かって走った。
助けを求めるためだった。
木製の扉を押し開けると、それは脆い骨のように俺の手の中で砕け散った。
中には、コーヒーの香りも、暖かな空気もなかった。
店員がカウンターの後ろに立っていた。
だが、彼女が俺のほうを振り向いたとき……。
そこには顔がなかった。
顔があるはずの場所には、光さえも飲み込む深い黒い穴が開いていた。
短い黒髪は、死んだ蛇のように地面へと落ちていった。
彼女は歪んだ手を上げ、俺のお気に入りの席を指した。
そこには青年が座っていた。
だが、彼は新聞を読んではいなかった。
両手には大きな鏡を持ち、それを俺の顔へと向けていた。
そして、昨日の彼の声とはまるで違う、恐ろしい声で叫んだ。
それは、無数の喉が重なり合ったような声だった。
— 「自分を見ろ!
お前が何になったのか、その目で見ろ!」
俺は目を閉じようとした。
だが、まぶたは奇妙な力で強く固定されていた。
無理やり鏡を見させられた……。
そして今度は、そこにぼんやりとしたノイズはなかった。
俺は自分の顔をはっきりと見た……。
だが、それは本物の人間の顔ではなかった。
そこにあったのは、青ざめた死体の顔。
生気のない、落ち窪んだ二つの目。
そして、首から胸へと伸びる大きな傷。
そこから黒いインクのような血が流れ出し、俺の足元の床を覆っていた。
壁が崩れ始めた。
カフェは病に侵された皮膚のように剥がれ落ちていった。
店員と青年は狂ったように笑い、その笑い声は次第に大きくなり、俺の頭の中を満たして、今にも頭蓋骨が破裂しそうだった。
— 「これはお前の人生じゃない!
お前はここに属していない!」
地面が俺の足元から持ち上がった。
そして俺は底のない虚空へと落ちていった。
全力で叫んだ。
だが、声は出なかった。
周囲のものが次々と砕けていく。
鍵。
整えられた部屋。
偽りの幸福。
そのすべてが、黒い塵へと崩れていった。
俺は叫びながら飛び起きた。
そして、一気にベッドの上に座り込んだ。
心臓が胸の中で狂った太鼓のように激しく鼓動していた。
身体は冷たい汗で完全に濡れていた。
部屋は暗闇に包まれていた。
額から汗が流れ落ちている。
だが、顔を拭おうと手を上げたとき、指が激しく震えていることに気づいた。
ただの悪夢だったのか……?
それとも、俺の心が、必死に見ないふりをしている真実を叫び始めたのか?
俺は慌てて立ち上がった。
恐怖が獰猛な獣のように胸を蝕んでいた。
掛け布団を脇へ押しやり、ふらつきながら、暗闇の中を浴室へ向かった。
蛇口を最大まで開き、氷の塊のような水に顔を埋めた。
この水が、俺の思考を締めつけている地獄の残滓から目を覚まさせてくれることを願った。
ゆっくりと、ゆっくりと顔を上げる。
冷たい雫が顎から落ち、洗面台の中で小さな音を立てた。
そして、恐怖に満ちた熱心さで鏡を見つめた。
胸の中では、戦争の太鼓のように心臓が激しく打ち鳴らされていた。
だが……何も起こらなかった。
何一つ変わっていなかった。
鏡の中の反射は、あの呪われたぼんやりとした状態のままだった。
同じ灰色のノイズ。
同じ、目も顔の輪郭もない、俺の前に立つ正体不明の姿。
俺は息を切らしながら、一歩後ろへ下がった。
速くなった自分の呼吸音が、狭い浴室の中に反響している。
震える指で自分の顔に触れた。
鼻。
頬。
唇。
すべてがそこにあり、指先ではっきりと感じられる。
なら、なぜこの忌々しいガラスは、俺の真実を映すことを拒むんだ?
あの悪夢は本当に終わったのか?
それとも、俺はただ別の夢の層へ移っただけなのか?
青い死体と、首に開いた傷は、鏡が俺に隠そうとしている真実なのか?
俺は再び鏡へ近づいた。
鼻が触れそうになるほどまで顔を近づけ、冷たい表面に手のひらを押しつけた。
そして、そのノイズへ向かって、かすれた小さな声で叫んだ。
— 「俺は……何者なんだ?
お前は俺に何を隠している?」
答えはなかった。
ただ、ほんの一瞬だけノイズがさらに激しく乱れた。
まるで、鏡の中の謎めいた姿が、わずかに首を傾け、黙って俺を見つめているかのようだった。
俺はタオルの端で顔の水を拭き、浴室を出た。
そして、玄関に掛けてあったコートのポケットを探った。
重い銅製の鍵は、まだそこにあった。
その硬く冷たい感触が、昨日の出来事がただの幻ではなかったことを俺に確信させた。
「カフェで気づかなかった扉……」
俺は歯をカチカチと鳴らしながら、窓の外を見つめた。
そこでは、夜の闇を切り裂くように、最初の夜明けの光が差し込み始めていた。
「……ずいぶん長く眠ったな」
そして、俺は呟いた。
「明日……朝になったら、あの扉を開けに行こう……」




