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政略結婚を先延ばしにしていた婚約者が騎士団長をクビになりました  作者: 三尾めいこ


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7/12

婚約解消、そして領地へ 3

 コルチェスター侯爵家の領地問題は、アデレードが十四歳のときに起きたと記憶している。セオドアは四つ年上だから、十八歳だったはずだ。

 先代のコルチェスター侯爵、セオドアたちの父が亡くなって、領地の相続をする際に発覚したのだが、まずは代官が税を不正に徴収し、私腹を肥やしていたことがわかった。そこで取り調べを行うと、領民たちも無断で山を切り開いたり、新しい鉱脈を発見しても村ぐるみで隠したりと、領地のあちこちで収入を少なく申告している箇所が見つかった。先代のコルチェスター侯爵の人の良さにつけこんだ結果だ、と言われていた。


 国王に叱責を受けたセオドアの兄は、領地を徹底的に調べ上げた。といっても広大な領地だから、すぐに調べ終わるわけではない。再発防止策を講じる必要もある、というわけで、弟たちが領地へ移り住んだ、と噂に聞いた覚えもある。

 どうなったのか気になってはいたのだが、社交界へデビューしたアデレードは忙しくなっていたし、ブレントとの縁談が持ち上がった後は思い出す暇すらなかった。


「ずっと領地に?」


 セオドアに尋ねると、苦笑が返ってきた。


「ああ。王都の社交界とはすっかり縁が切れてしまったよ。おかげでこの年まで独身(ひとりみ)さ」

「あら……」


 てっきり結婚しているものだと思ったから、アデレードは驚いてしまった。


「もっとも、社交界の方からお招きがあっても、領地経営でそれどころではなかったというのもあってね。この別荘まで出てこられるようになったのだって、ここ三年ほどという有様さ。あちこち駆けずり回って、領民の家にも泊めてもらうから『とても貴族には見えない』と、どこの村でも呆れられているよ」


 言われてみればセオドアは、とてもよく日焼けしている。身体もぐっと引き締まっていて、王都でよく見かける「色が白くてなよなよしている」貴族とは一線を画していた。


「働き者なのね」

「あんな不正が起きたら、次こそ家が潰れてしまうからね。私も必死なんだよ」


 ベリーを口に放り込んだセオドアは「このベリーも」ともうひとつつまみ上げて、軽く揺らしてみせた。


「今朝、私が摘んだものだよ」

「まあ、セオドアが?」

「すぐ近くにベリーの茂みがあるんだ。獣に食べられてしまう前に、早起きして摘んできた」


 自分とはまるで違う暮らしをしているセオドアが、アデレードにはうらやましかった。陽の光をたっぷり浴び、新鮮なものを使った食事をとり、屋外で身体を動かす。そして領地のことを第一に考えて生きる。ブレントの顔色をうかがうだけだった自分とは、大違いだ。


「……素敵な暮らしね」

「大変だよ? だから縁談も来ないんだ。弟はなんとか結婚できたけれど」

「ダニエルの結婚については、お母上からうかがったわ。おめでとう」


 話を引き取ったのはロバータだった。弟はダニエルという名前だった、と思い出した。


「奥様のレベッカは、子爵家のご出身だったわね。一緒に領地にいるのでしょう?」

「ええ、不肖の兄の世話まで焼いてくれます。一昨日ここに出てくる時も『ストックポート伯爵家の皆様にお会いするのだから』と、服装を口やかましく言われました。おかげで今日、アデレードに『田舎者が現れた』と思われずに済んでいる」


 軽く笑ったあと、セオドアは「さあ、ベリーをもっと食べて」と勧めてくれた。


「アデレードに食べてもらおうと思って、沢山摘んできたんだから」

「ありがとう、いただくわ」


 甘酸っぱいベリーの味が、萎びきった心に潤いを与えてくれるようだった。アデレードは勧められるままにベリーを食べ、胃がはちきれんばかりになった。


「領地には、いつまでいらっしゃるのですか?」


 セオドアはロバータに尋ねた。ロバータはアデレードに目配せをした。


「そうねえ、三か月か、半年か……。静養と、領地の調査を兼ねてきているの。うちも代官に任せっきりにしているから」

「そうですか。でしたら、私もお屋敷に顔を出させてください」

「もちろんよ。歓迎するわ」


 いずれセオドアには婚約解消の話が伝わるだろうが、興味本位でなく受け止めてくれるだろう。幼なじみとして、そして大人になったセオドアを目の前にして、アデレードは確信することができた。

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