再出発 1
その夜は、セオドアも交えて夕食をとった。ヘンリーもやってきて、同じテーブルについた。
「アデレードと一緒に食事をするのは、あの晩餐会以来だな。もはや懐かしい気さえするよ」
ヘンリーが冗談とも本気ともつかない顔で言う。アデレードは苦笑した。
「今夜からもう、社交界の雀どもが鳴いているでしょうね。ブレントは憲兵隊に引き渡されたそうですから」
ロバータが肉にナイフを入れながら呟く。サイモンは「明日」と告げた。
「貴族院で、あらためてブレントに対する審理を行う。ヘレンズ伯爵家へも処罰が下るだろう。馬鹿な息子を持ったばかりに、気の毒だな」
「ノックスに連絡はしたんですの?」
「ジョンが私の意向を伝えに行った。貴族院の審議が終わったら、私も領地に行こう。マイクを捕縛して、取り調べを行わなくてはな」
「私も、ご同行してよろしいでしょうか」
セオドアが問うと、サイモンは「もちろんだ」と頷いた。
「コルチェスター侯爵には申し訳ないが、セオドアに頼みたいことも沢山あるからな。頼むよ」
「セオドア、ごめんなさいね。手伝ってもらってしまって」
アデレードの言葉に、セオドアは首を横に振った。
「いや、私が好きで手伝わせてもらうのだから、何も心配しないでいいよ」
「好き、か」
ヘンリーの何気ない呟きに、セオドアはほんの少し頬を染めた。アデレードも胸が高鳴るのを感じた。
(好き……。いえ、そんなはずはないわ。セオドアは、ただの幼なじみとして私を手伝ってくれるのだもの)
デザートには、ベリーにクリームをかけたものが出た。傷心で領地に向かった日、セオドアが自ら摘んだベリーを食べさせてくれたことを思い出した。
(私、セオドアのことが好きなのね)
アデレードははっきりと感じた。ブレントとのことが片付いたばかりだというのに、セオドアのことを想っているというのは駄目かもしれない。けれど、気持ちを止めることはできなかった。
一方通行の想いでいい、セオドアのことが好きだ――アデレードは、そっとセオドアの横顔をうかがった。柔らかな光をたたえている瞳、形の良い鼻、いつも微笑んでいる唇。その全てを、アデレードは愛していた。
夕食を終え、ヘンリーとセオドアを見送る。ヘンリーの馬車が先に出て行き、続いてセオドアの馬車がやってきた。
「セオドア、これからもよろしくね」
アデレードが告げると、セオドアは笑顔で「ああ」と返事をした。
「何でも任せて。私はいつもそばにいるよ」
優しい言葉に、胸が甘く締めつけられる。馬車に乗り込んだセオドアに、アデレードは手を振った。
「ありがとう」
馬車が出て行く。今会ったばかりなのに、もう会いたくてたまらない。好きだ、と言いたいのをこらえて、アデレードは屋敷の中へ戻った。
「貴族院の決議は、明後日だ。準備に少し日にちが必要だとして、一週間後には領地へ出かけられるな」
「セオドアにもそう言っておきましょう。ヘンリーに貴族院を任せられるといいんですけれど、そうもいきませんものね」
「ヘンリーはまだ若手だぞ。まだまだ譲るわけにはいかん」
「あら、失礼しました。気持ちはお若いですものね」
「気持ちだけではない。全てが若いぞ」
軽口を叩き合う両親に、アデレードは笑いつつ「おやすみなさい」と挨拶をした。
寝室に引き上げると、どっと疲れが出た。着替えてベッドに身体を横たえると、あっという間に眠気が襲ってくる。
「セオドア……」
呟いた言葉は自然に口から出たものなのか、寝言なのか、自分でも区別がつかなかった。




