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政略結婚を先延ばしにしていた婚約者が騎士団長をクビになりました  作者: 三尾めいこ


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対決 4

 ブレントは真摯なアデレードの言葉にも、意味のない叫びを返し続けていた。警備兵が法廷の外へブレントを引きずっていく。分厚い扉が閉まって、ようやく声が聞こえなくなった。


「領民の家に監禁されていた、というのは、本当ですか?」


 裁判長が問う。


「はい。お恥ずかしい話ですが、私の領地で不正が行われており、その首謀者とヘレンズ伯爵令息が手を組んだものと思われます」


 アデレードの言葉に裁判長が頷き、監禁されていた場所や時間についていくつか質問をした。アデレードが全てを答えると、ブレントの代理人である弁護士は、もはや打つ手なしとばかりに諦めた顔をした。


「よくわかりました」


 そして再びヘンリーに質問があり、セオドアが領地から出たことがないという証言の提出があった。その証言に目を通した裁判長は「わかりました」と言い、早々に質問を切り上げてしまった。


「これ以上審理をする必要は感じません。即日言い渡しになるとは思っておりませんでしたが、判決を言い渡します」


 法服が衣ずれの音を立てる。裁判長は軽く息を吸い込むと、はっきりと言い渡した。


「ヘレンズ伯爵令息の訴えは、事実無根。全て却下いたします。この判決により、ヘレンズ伯爵令息の身柄は憲兵隊に引き渡されることとなります」


 アデレードは全身から力が抜けていくのを感じた。誘拐されてからずっと張りつめていた気持ちが、ようやくゆるんでいく。


「アデレード、大丈夫か」


 ヘンリーに声をかけられ、「大丈夫です」と頷き、法廷の外に出た。ロバータとサイモンが待ち構えていた。


「ブレントが引きずり出されてきた時には驚いたが、その表情だと、全面勝訴ということでいいのかな?」


 サイモンの問いかけに、アデレードはにっこりと笑って頷いた。ロバータがアデレードを抱きしめる。


「お疲れ様。……ごめんなさい、私たちがブレントの人柄を見定めることができなかったばかりに、こんな苦労をかけて」


「いいえ、お父様やお母様のせいではありませんわ。私がきちんと言えなかったのが駄目だったのです」


 ロバータが涙を拭う。サイモンが「では、屋敷に帰るとするか」と言ったが、アデレードは首を横に振った。


「お父様、コルチェスター侯爵家に一度戻ってよろしいですか。お世話になりましたし、今回のお詫びをしておきたいのです」


「いや、それはいい」


 珍しくサイモンが、不義理なことを口にした。アデレードが不思議に思いつつも、サイモンに従って馬車に乗り込んだ。


 ストックポート伯爵家の屋敷までは、ほとんど時間がかからなかった。ほんの一か月ほど家を空けていただけなのに、ひどく懐かしく感じた。馬車を降り、使用人たちに迎えられて玄関を入る。


「アデレード!」


 玄関ホールで待ち構えていたのは、セオドアだった。


「セオドア、どうしてここに?」


 アデレードが驚くと、セオドアは優しく微笑みつつ手を差し出した。


「勝訴おめでとう。もちろん君が勝つと信じていたけれど、アデレードが傷つかなかったか心配でね」


「……傷つかなかったと言えば、嘘になるわ」


 ブレントの言葉は、いくつもアデレードの胸に突き刺さっていた。ブレントはアデレードを愛していなかったのみならず、ただ言うことを聞くだけの都合のいい人間として扱おうとしていたのだ。第二騎士団長としての地位を強固なものにする、それは結婚の性格上仕方がないと思っていたけれど、ミミのことも受け入れて、ブレントの好きな時に、気まぐれで結婚するように仕向けられていた。結婚後も、気まぐれに妻扱いされていたに違いない。


「でも」


 アデレードは笑顔で、セオドアに告げた。


「全ては終わったの。だからもう大丈夫。今日から私は、前を向いて進んでいくわ」

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