対決 3
茫然とするブレントをよそに、アデレードは表情を崩さず席に着いた。
「ストックポート伯爵令嬢アデレード、ならびに代理人、アイルズベリー侯爵ヘンリーが入廷したため、これより審理を開始いたします」
裁判長が宣言する。ブレントは弁護士につつかれ、非難するように囁かれた。
「今日は誰も出廷しないという話では?」
「そ、それが……それが……」
うろたえるブレントに、弁護士がため息をつく。裁判長は「静粛に」と注意した。
アデレードはすっと背を伸ばし、裁判長がブレントの訴状を読み上げるのを聞いていた。
ブレントの訴状はおおよそ想像がついていた通りで、アデレードが不貞を働いていたこと、第二騎士団長の罷免のために婚約が解消されたこと、領地でセオドアと密会していたこと、など、およそ荒唐無稽ともいえる内容だった。
「この内容について、いかがですか、ストックポート伯爵令嬢」
裁判長に問われ、すっと息を吸い込んでから答える。
「全面的に否認いたします」
「では、その理由を述べてください」
裁判長の前に進み出て、アデレードは陳述を始めた。
「まず、不貞相手とされているコルチェスター侯爵の令息ですが、彼はずっとコルチェスター侯爵領に在住しておりました。一方、私は王都に在住しておりました。私が王都を出たことがないのは、第二騎士団長であるヘレンズ伯爵令息が誰よりもよく知っているはずです。三日とあけずに第二騎士団の詰め所に通い、夜は社交界に出ておりましたから。ヘレンズ伯爵令息以外にも、社交界に出ている貴族であれば、私が王都を出たことがないというのは証言できるはずです」
ブレントが慌てる様子半分、憎しみ半分という視線をアデレードにぶつけてくる。自分の中でも感情が整理しきれていないのだろう。
(あんな顔をしているだけで、裁判には不利でしょうに……)
アデレードは代理人のヘンリーに陳述を交代した。ヘンリーはアデレードが王都から出たことがない、という貴族たちの証言をまとめて文書にし、読み上げた後に裁判長に提出した。
「そしてこちらはコルチェスター侯爵家からの証言となります。『弟のセオドアには領地の管理を任せており、王都では会ったことがない』と」
「う、嘘だ! 嘘だ! きっと王都に来ていたんだ!」
ブレントはついにわめきはじめた。アデレードは呆れて「お静かになさったほうが……」とブレントに声をかけたが、ブレントは黙る様子もなく、声を荒げ始めた。
「これは全部仕組まれていたんだ! コルチェスター侯爵の弟も、アイルズベリー侯爵も、私を第二騎士団長から引きずり下ろすために全てを仕組んで……! アデレード、お前もグルだったんだろう! でなければ、マイクの家から脱出できるわけがない!」
「マイクの家から脱出、というのは、どういう意味でしょうか?」
ヘンリーが静かに問う。ブレントはしまった、という顔をした。アデレードは意を決して立ち上がり「裁判長、発言をさせてください」と依頼した。
「発言を許可します。どうぞ」
「私は数日前、ヘレンズ伯爵令息によって誘拐され、領民の家に監禁されておりました。その領民の名が『マイク』というものであったことは、申し添えておきます」
アデレードが着席する。ブレントの顔は紙のように白くなっていた。裁判長が「ふむ」と唸り、ブレントの弁護士はもはや打つ手なし、という表情で、大きくため息をついていた。
「くそ……! この馬鹿女が!」
「法廷の品位を保てない発言は控えるように!」
裁判長の注意にもかかわらず、ブレントは再び叫び始めた。
「なぜ、なぜだ! なぜこんなことになったんだ! アデレード、お前が私を……いや、アイルズベリー侯爵と組んで……! くそ! 馬鹿な! 全て仕組まれていたんだ! こんな馬鹿なことがあってたまるものか!」
裁判長はたまりかねた様子で「退廷するように!」と命じた。ブレントが叫び続けるため、警備兵が数人がかりでブレントを引きずっていく。
「アデレード、お前さえ、お前さえ私の言うことを素直に聞いていればよかったんだ! 私を破滅させて、楽しいか!」
叫ぶブレントに、アデレードは静かに返した。
「私はずっと、あなたの言うことを聞き続けてきました。結婚を先延ばしにされても、私の思いに応えていただけなくても、ずっと」




