対決 2
夜になった。アデレードは中庭に出て、星を眺めていた。
「アデレード、ここにいたのか」
セオドアが姿を現した。夕食を共にしたばかりだというのに、セオドアに会えることがうれしく感じる。
「セオドア。何から何まで本当にありがとう。あなたがいなければ、私はどうなっていたか……」
セオドアに礼を言う。セオドアは照れ臭そうに目のふちをこすりながら、アデレードを見つめた。
「君を助けられたことが、何よりだと思っている」
二人は若草の匂いがする土を踏んで、ベンチに座った。星がきらきらとまたたいて、二人の手元を照らす。
「ずっと、君の力になりたいと思っていた。けれど、なかなか言い出せなくて……。君の父上は貴族院の重鎮だから、きっと良い結婚相手に恵まれるだろうとも思っていたし、幸せになれるだろうと信じていた。まさか、結婚を先延ばしにされた挙句に婚約解消、さらにあんな目に遭わされるだなんて」
「……私、人を見る目がなかったのよ。もっと早くに、お父様にブレントとの婚約を考え直してくれと言うべきだった」
セオドアはアデレードの瞳をじっと見つめる。アデレードは鼓動が早くなるのを感じた。
「全てが片付いたら、君に頼みたいことがある」
「何かしら?」
「今は言えない。……終わったら、言うよ」
そしてアデレードの髪に軽く触れて「おやすみ」と微笑を浮かべると、セオドアは去って行った。アデレードは頬をかすかに赤く染めながら、その後ろ姿を見送っていた。
◇◇◇
裁判の日がやってきた。アデレードは地味ではあるが、伯爵家の令嬢にふさわしい紺のドレスを身にまとい、裁判所へ向かう馬車に乗り込んだ。サイモンたちは別の馬車で来ることになっている。
「私は行かないほうがいいだろう。不貞行為を訴えられているのだから、疑いは少しでも少ないほうがいい」
セオドアはそう言い、コルチェスター侯爵家で待っていることになった。ひとりで馬車に揺られながら、アデレードは不安と緊張の入り交じった気持ちで、そっと背を伸ばした。
馬車を降り、控え室で待つ。しばらくすると、サイモンとロバータが入って来た。
「アデレード、無事で本当によかった」
ロバータの頬には小さな擦り傷がある。襲われた時のものだろう。けれどロバータは疲れた様子も見せず、長椅子に腰を下ろすとにやりと笑ってみせた。
「あちらの弁護士が、いらいらしているのを見かけたわ。ここ数日、ブレントと連絡が取れていないようよ」
「アデレードが来ないと思って、油断しているのだろう。愚かな男だな」
サイモンは水を飲み、グラスをかたりと音を立てて置いた。
裁判所の前では、ブレントがぐったりとした様子で馬車から降りるところだった。まだ熱があり、馬で来ることができなかったのだ。
(ミミはろくな看病をしてくれなかったし、王都に来るのは嫌がるし……。だが、今日でアデレードとストックポート伯爵家の名誉に致命傷を与えられる。私の勝ちだ)
憲兵隊が遠巻きにブレントを見つめている。ブレントは熱のある目で、それでも不敵に笑ってみせた。
(私が裁判に負けたら、逮捕しようと考えているのだろう。甘い考えだな。アデレードが出廷してくるとでも思っているのか?)
ごほごほと咳き込みながら、裁判所の玄関を入る。ヘンリーが後ろからやってきた。
「おや、風邪ですか」
ヘンリーに声をかけられ、ブレントは笑って答えた。
「たちの悪い風邪を引いてしまったようで。けれど今日は大事な裁判ですからね」
「ええ、そうでしょう。大切な裁判だ。けれど無理はしないように気をつけてください」
それだけ言うと、控え室の方へ姿を消していった。ブレントはその様子が少し気がかりだった。
(アイルズベリー侯爵は、なぜ余裕があるのだ? アデレードがいないことは知っているだろうに、貴族院で何か証拠でも掴んだのだろうか。いや、証拠があってもアデレードがいなければどうしようもない)
熱で関節が痛く、考えがまとまらない。けれど今日は勝ちなのだ――それだけを考えながら、ブレントは控え室にも寄らず、法廷へそのまま直行した。
しばらく待たされた後「ストックポート伯爵家、ならびに代理人はこちらへ」と呼び入れられる。サイモンだけが現れるだろう、と、ぼんやり入り口を眺めていたブレントは、驚愕した。
「ストックポート伯爵家令嬢、アデレード殿」
アデレードがきりりとした表情を浮かべて、法廷に入ってきた。




