対決 1
ブレントは激しく咳き込んで目が覚めた。部屋の温度が下がっているのだが、それ以外にも寒気がして熱っぽい。
(風邪をひいたのか?)
マイクも、突っ伏していたテーブルからのそのそと身を起こし、上着を掻き合わせるようにして身震いした。
「風邪をひいてしまったようです。寝室へ行かせていただきます」
「待て。アデレードの見張りはどうするんだ」
ミミがふらりと姿を現し、軽い調子で言い放った。
「あのお嬢様なら、泣きながら寝ちまったよ。あたしが見ておくから、あんたたちは寝ておきな」
「……そ、そうか。それなら」
ぞくぞくとした悪寒が全身を駆け巡っていた。簡単に風邪をひくことはなかったはずなのだが、不摂生が祟ったのかもしれない。ブレントはふらふらとした足取りで二階へ行き、寝室のベッドに突っ伏した。再び激しく咳き込む。
「裁判の日までには、なんとか治さなくては……」
アデレードが逃げ出したことを知らないまま、ブレントは眠りに落ちて行った。
◇◇◇
コルチェスター侯爵家では、セオドアとアデレードが裁判のことを話し合っていた。
「兄に探りを入れてもらったが、弁護士は最初ヘレンズ伯爵令息の申し出を断ったんだそうだ。どう考えても負ける裁判だと言ってね。それを無理に受けさせたというのだから、おそらく君を監禁することを最初から考えていたのだろう」
セオドアは立ち上がった。
「ストックポート伯爵と、アイルズベリー侯爵には使いをやってある。もうすぐ来てくれると思うよ」
「ありがとう」
その言葉通り、二時間もしないうちにサイモンとヘンリーが姿を現した。サイモンはアデレードの姿を見ると、安堵したように息をついた。
「アデレード、無事でよかった」
「お父様、ご心配をおかけして申し訳ありません」
ヘンリーはため息をつき、セオドアに礼を言った後、椅子にどっかりと腰を下ろした。
「あの男が、そこまで馬鹿だとは思わなかった。アデレードを監禁したところで、見つかったら罪に問われるだけなのに。相変わらず視野の狭い男だ」
「不貞行為があったと、言い募るつもりだったようです」
アデレードの言葉に、ヘンリーはゆっくりと首を振った。
「不貞行為と、令嬢の監禁、どちらが罪が重いかという話だよ。手を貸した領民も馬鹿だな。うまくいくと思っていたのだろうか」
そしてアデレードの包帯に目をやり、冷酷に告げた。
「ヘレンズ伯爵家も、相当な罪に問われるぞ。馬鹿な息子を持ったばかりに、とんでもないことになったな」
サイモンも頷く。大事な娘の心を傷つけたのみならず、監禁までされたことで、温厚なサイモンも珍しく怒り心頭の様子だった。
「私はブレントを許すつもりはない。徹底的に罰していただこう。そのためにも、お前が領地で見聞きしたことを細かく教えてくれ」
アデレードは頷き、全てを話した。マイクが報奨金をごまかしていたこと、なぜかマイクとブレントが連れ立って現れたこと、その後マイクがしばらくおとなしくしていたと思ったら、突然裁判を起こされたこと、そしてブレントにさらわれ、監禁されたこと――話すたびに、サイモンとヘンリーは目を見開いたり、深々と息をついたりしていた。
「我が領地での不正に、手を貸したも同然ではないか」
サイモンが呟くと、セオドアが「そうです」と同意した。
「その上、いわれのない不貞行為を訴え出て、アデレードを誘拐するなど。もはや話にならん。起こされてしまった裁判は結審させる必要があるが、終わり次第すぐに貴族院で徹底的にブレントを弾劾することにしよう」
ヘンリーも「そうしましょう」と同意する。
「裁判は四日後……いえ、もう三日後か、アデレードが出廷しないものだと思い込んでいますから、それまでアデレードはここで匿います」
「助かるよ。感謝する」
サイモンはセオドアに礼を言い、セオドアの姿に眩しそうに目を細めた。
「セオドア、立派になったな。……私がもっと早く決意していればよかったのだが」
「お父様、何のこと?」
アデレードの問いかけに、サイモンは笑って答えなかった。




