囚われの身 3
アデレードは家畜小屋であがいていた。ミミに薬草を塗ってもらった手をまた動かして、どうにか縄が切れないかともがいた。けれどどうしようもなく、自分の無力さを思い知らされているところへ、突然家畜小屋に走り込んできた人影がいた。
「アデレード」
「セオドア!」
思わず声をあげると「しっ」と指を立てられた。後ろからミミがやってきて、鍵をがちゃりと開ける。セオドアはナイフで手早くアデレードの縄を切った。
「裁判の日まで、あたしがマイクたちをごまかしておくから、あんたたちは早く王都へ」
「ミミさん……」
思わず目をうるませると「泣いてる場合じゃないよ」と叱られた。
「見つかる前に、早く逃げな」
「ありがとう」
セオドアのマントに包まれて、家畜小屋を後にする。
「あの女性に教えてもらったのだけれど、裏口に近いほうは見張りが甘いんだそうだ。そこの塀を飛び越えるよ。アデレード、できる?」
「ええ」
裏口に近い塀をよじ登り、二人でひらりと飛び降りた。幸い誰にも見つかることなく、マイクの別邸を脱出することができた。
「馬を隠してある。ストックポート伯爵家の屋敷へ寄ると、マイクとヘレンズ伯爵の令息に気づかれる可能性があるから、このまま王都へ向かうよ」
「わかったわ」
二人は一頭の馬にまたがり、夜道を王都へと向かった。セオドアの体温が安心を伝えてくる。もう大丈夫だ――アデレードは安心して、馬とセオドアに身体を預けていた。
その頃ミミは、ブレントとマイクが突っ伏したまま寝ている部屋に入っていった。セオドアの凛々しさとは比べ物にならない、だらしないブレント――客と酒場の女、という間柄だったとはいえ、こんな男に言い寄られていた自分が情けなかった。
(お嬢様を、こいつから守らなきゃね)
ミミは窓を開け放ち、ひんやりとした夜風が部屋に満ちるようにした。うまくいくかどうかはわからなかったが、ミミにできる精一杯のことだった。
◇◇◇
王都のコルチェスター侯爵家にたどり着いたのは、もう昼近くになった頃だった。セオドアの兄が驚いて出迎えてくれた。
「どうしたんだ、セオドア。こちらは確か、ストックポート伯爵家の……」
「とりあえず兄上、怪我の手当を頼みたい。アデレードが腕に怪我をしているんだ」
医師が呼ばれ、アデレードの怪我を診てもらった。傷はさほど深刻なものではなく、綺麗に治るだろう、という見立てだった。その間にセオドアが、兄のコルチェスター侯爵にいきさつを説明する。
「……そういうことか。ストックポート伯爵家では、きっと心配しているだろう。私からストックポート伯爵家の領地に使いを出そう」
「助かるよ。ありがとう」
アデレードは湯あみをして、腕の傷に綺麗な包帯を巻いた。コルチェスター侯爵夫人のドレスを貸してもらい、ようやく人心地ついた気持ちになった。
「アデレードさん、社交界でお見かけしたことはあったけれど、私のドレスだと申し訳ないくらい美人ね」
人のよさそうなコルチェスター侯爵夫人が、下の女の子を抱いたままにこにこと笑う。
「セオドアからずっと話は聞いていたのよ。小さい頃から聡明で、優しくて、いい子だったって」
「そんなことはありませんわ。私なんか、いつもセオドアに迷惑をかけて……」
「あらあら、お互い同じことを言うのね。気が合うのかしら?」
アデレードは顔が赤くなるのを感じた。セオドアが自分のことを語ってくれているのは、とてもうれしかった。どこまでも迷惑をかけてしまう自分だったけれど、それでもセオドアのことが――好きなのだと、はっきり自覚していた。
(セオドア、ありがとう)
セオドアに心の底から感謝する。そして「さあ」と小さく呟いた。
(三日後の裁判に出廷して、全てを明らかにしなくては。セオドアのためにも)




