囚われの身 2
その頃、家の中では、ブレントが密造のワインを機嫌よく飲んでいた。
「これで私は第二騎士団長に復帰できる。ここはストックポート伯爵家から解放される」
「ええ、ええ、ありがとうございます」
マイクは揉み手をして、ブレントにもう一杯ワインを注いだ。
「弁護士に渋られた時には、どうしようかと思ったが、正義は勝つではないか」
ブレントは高笑いをする。マイクが王都へ駆けつけた時、弁護士は「勝ち目が薄い」と言って、依頼を断ろうとした。
「勝てるとしたら、ストックポート伯爵のご令嬢が何ひとつ主張しない状態、ということになりますが……」
そう伝言された時、ブレントは荒れた。弁護士を「無能」と罵倒し、サイモンとヘンリーに呪いの言葉を吐き、アデレードとセオドアは不貞関係にあるのだ、と言い張った。ミミが呆れるほどに暴れて、ワインのグラスを割った。
「そうだ、アデレードが出廷できなくなればいいんだ」
ブレントはそう言い切り、マイクに使用人を集めるように言った。そしてアデレードを捕らえる算段を始めた。
「ストックポート伯爵夫人が、ブレント様の姿を見ておりますが、ここは私の家ではないのでわかりませんでしょうし」
マイクが黒い笑みを浮かべる。ここはマイクの父が愛人を囲うために建てた家で、愛人が亡くなってからは空き家になっていた。村からかなり離れている上に、マイクの家だということはノックスも知らない、いわば隠れ家だった。ロバータがアデレードを探しに来ても、この家にはまずたどり着かないだろう。
「何もご心配はありません」
「心配などしていない。私は正義なのだからな」
ブレントはそう言うと、またワインを飲んだ。
「裁判は四日後だ。アデレードが来なければ、それで勝てる。そのまま、貴族院の不正を国王陛下に訴え出るつもりだ。第二騎士団長に復帰したら、マイク、お前に褒美をやろう」
「ありがたいことです。できればここを、ヘレンズ伯爵領にしていただければうれしいのですが」
「うむ。国王陛下に願い出てみよう」
二人は勝手なことを話しながら、ワインを飲み続けた。密造のワインは質が良くないため、たちまちろくでもない酔いが回って、テーブルに倒れ伏すようにして眠ってしまう。普段ならマイクの妻が面倒を見てくれるのだが、万が一ロバータがマイクの家を訪ねてきた時のために、ここには連れてきていなかった。
「まったく、いい気なもんだよ」
ミミが家の中に入ってきて、ため息をついた。自分のことばかり言い募るブレントと、欲のかたまりのようなマイクに、ミミはつくづく嫌気がさしていた。ミミも豊かな暮らしは好きだが、嘘をつくことや、筋の通らないことは嫌いだ。ましてやアデレードのような令嬢を監禁してまで、ものごとを自分の有利なように運ぼうとするのは、とうてい許せることではなかった。
(とはいえ……)
酒場の主人が間諜だったという弱みもあり、ミミはブレントに手を貸すしかなかった。自分のふがいなさに、ぎりっと歯ぎしりをする。
(あたしには、何もできないのか)
もう一度外へ出る。家は塀に囲まれていて、見張りの男も二人いる。アデレードを逃がすことはできなさそうだった。
(悔しいな)
空を見上げていると、突然視界の端でばさりと布切れが動いた。ミミが驚いて声をあげると「しっ」と小さく制止された。
マントに身体を包んだ男が、塀を乗り越えてきていた。
「あんたは?」
声を押し殺して聞くと、男はそのまま木の陰に隠れた。見張りの男たちが、首を傾げながらこちらへやって来る。
「今、何か物音がしませんでしたか?」
「……さ、さあね。あたしには何も聞こえなかったよ」
ミミが取り繕うと、男たちは「そうですか」と元の持ち場に戻っていった。ミミはそのまま木の陰へ走り込む。
「王都の酒場の方ですか?」
男は小声で尋ねた。ミミが頷くと、男はマントをほどいた。背の高い、がっしりとした身体つきをしていた。
「私はセオドアと言います。アデレード……ストックポート伯爵のご令嬢を、救い出しに来ました」




