囚われの身 1
「ブレント、いったいなぜこんなことをしたの」
アデレードが問うと、ブレントはいまいましそうに答えた。
「お前が不貞を働いたからだ。そのくせ小賢しく動いて、王都での裁判は私が不利になるように、アイルズベリー侯爵にも手を回すつもりだろう。そんなことをされては困るからな。私の言い分が通るまで、ここでおとなしくしていてもらう」
「私は不貞など働いていないと、何度言えばわかるの?」
「うるさい! 領地に男を引っ張り込んでいたのはお前だろう! 私を第二騎士団長から引きずり下ろすタイミングを見計らって、婚約解消までして! だが、私はまもなく第二騎士団長に返り咲けるからな。ストックポート伯爵も、アイルズベリー侯爵もこれで終わりだ」
憎々しげに言い放つ。マイクはへらへらと笑っていた。
「お嬢様が不貞を働いた上に、アイルズベリー侯爵様と手を組んでいたとなると、ここはストックポート伯爵領ではなくなるかもしれませんなぁ」
「……それが目当てで、ブレントに手を貸したのね」
マイクは堂々と「ええ」と頷いた。
「あれこれ口出しなさらなければ、私も危ない橋を渡ることはなかったのですが、お嬢様は領地のことをろくに知りもしないで手出しなさったのでねえ。困りますよ」
マイクはそう言い捨てると「さ、参りましょう」とブレントを促して出て行った。ブレントは「おい、ミミ」と声をかけた。
「お前もこっちへ来い」
「……わかったわ」
ミミが鉄格子に鍵をかけて、ブレントと連れ立って出て行く。後には薄暗がりだけが残った。
(どうしたらいいの……)
セオドアだけが王都に行ったところで、訴えられているアデレードが出廷しなければ、ブレントの言い分だけが通ってしまう。ヘンリーと父は不利な立場に置かれるだろうし、何よりセオドアが「婚約者がいる女と不貞行為に及んだ男」として告発されることは、耐えがたい思いだった。セオドアは何もしていないのに、アデレードのせいで巻き込んでしまう。
(ここを脱出して、とにかく王都へ行かなくては)
気は焦るものの、手を縛り上げられているし、外の様子も全くわからない。おそらくはマイクの持っている家畜小屋のひとつだとは思うが、逃げ出す方策もない上に、外に飛び出したところであっという間に捕まってしまうだろう。
それでもアデレードは、ベッドの鉄柵に手首の縄を押しつけてみた。縄は全くゆるむ様子がない。壁にこすりつけてみても無駄だったし、どうあがいても縄をほどくことができなかった。
(何とかしなくては)
皮膚が破れて血がにじむほど、あちこちに縄をこすりつけてみた。だが、全ては無駄だった。
「あんた、何してるんだよ! 血が出てるじゃないか!」
突然声をかけられて、アデレードはびくっと全身を震わせた。ミミが鉄格子の前に立っていた。
「ちょっと待ってな」
ミミはどこかへ姿を消した。そして薬草を持って戻ってきた。
「本当は縄をほどいてやりたいんだけれど、あの人がだめだって言うから」
血のにじんでいるところに、薬草をすりつぶしたものを塗ってくれる。根は優しい女のようだった。
「ねえ、お願い。ここを出して」
アデレードが懇願すると、ミミは困ったような顔をした。
「それはできないんだよ。あの人に何をされるかわかったもんじゃない。あたしの働いてた酒場の主が間諜だったから、あたしのことも間諜だって訴えることができるんだ、って言われちゃってね」
ブレントはミミに夢中だったはずだ。なぜそんなことを言えるのか、アデレードは理解に苦しんだ。
「あの人、第二騎士団長の地位を取り戻すことに、すっかり夢中になっちゃってるの。前はもう少し可愛いところがあったんだけれど、今はてんでだめ。あのマイクって男と出会ってから、ろくなことがないよ」
ミミはため息をついて、ベッドの端に腰を下ろした。豊かな髪が、アデレードの目の前でふっさりと揺れた。




