策略 3
「お嬢様、大変です」
半月ほど経った後だった。ロバータと二人で昼食を摂っているアデレードのもとに、ジョンが駆け込んできた。
「王都から、裁判に出頭せよと」
「裁判?」
アデレードはロバータと顔を見合わせた。
「こちらの書状をお読みいただきたい、とのことです」
訴えているのは、ブレントだった。そして訴えている内容は「婚約解消が不当なものである」ということで、理由は「アデレードが不貞を働いた上に、一方的に婚約を解消した」とあった。
「本気だったのね」
アデレードは呆れてしまった。セオドアとは王都に出てきていないのに、不貞だと言い張るとは。弁護士はよく調べもせずに訴えているのか、それともブレントから金をむしりとるだけのつもりなのか、よくわからない。
「セオドアも不貞相手として訴えられているわ。おそらく今頃、同じ書状が届いているでしょうね」
ロバータがため息をつく。セオドアは、マイクがおとなしくしているので、自分の領地へ帰っていったばかりだった。申し訳なさで身がすくむ思いだった。
「一度王都へ戻らなくてはいけない、ということね……」
マイクは報奨金をきちんと配っていて、借金の取り立ても違法な方法では行っていない。動かないのが逆に不気味なので、しっかりと見張っているのだが、その中で王都に戻らなくてはいけないというのは痛手だった。
「王都へ戻らないと、ブレントの言い分が通ってしまうわ。この裁判の間は、憲兵隊はブレントを拘束することができないから、ヘンリーにも迷惑がかかる」
「そうなのですか?」
「ええ。今回の裁判、弁護士が随分やり手ね」
ロバータが説明してくれた。アデレードが不貞行為を働き、それを隠ぺいするためにヘンリーがブレントを罷免した、という筋立てになっている。酒場の主人は確かに間諜だったが、ブレントが主人に機密を漏らした事実はなく、酒場をブレントに紹介したのもヘンリーである、ということになっていた。
「ここまで嘘を並べ立てる能力には、感心してしまうわ。弁護士とブレントだけで、こんなに話を作れないでしょう? 誰か入れ知恵した人物がいるのでしょうね」
ブレントは領地から動けなかったはずだ。王都との連絡役を務めたのは、おそらくマイクだろう。となると弁護士に入れ知恵したのも、マイクだろうか。
マイクであれば、アデレードを徹底的に貶めて自分の利益を守ろうとする姿が、不気味で仕方がなかった。それを振り払うように、アデレードはロバータに提案する。
「最初の裁判まで、まだ日があるわ。セオドアに使いを出して、王都の屋敷に来てもらうことにしましょう。こちらが出廷さえすれば、こんな滅茶苦茶な言い分、通ったりはしないでしょう?」
「そうね、アデレードの言うとおりだわ」
アデレードは手紙をしたためた。セオドアはこの屋敷から半日ほど行った屋敷にいるはずだ。王都のストックポート伯爵家で会って、打ち合わせをするのがいいだろう。
(セオドア……)
セオドアに会いたくてたまらなかった。自分の騒動に巻き込んでしまって申し訳ないと思う一方で、セオドアの優しさや頼りがいのある言葉が、今はただ恋しかった。その気持ちを飲みこんで、冷静に文章を綴る。
裁判に巻き込んで申し訳ないこと、こちらも弁護士を立てること、そのために王都のストックポート伯爵家まで来て欲しいこと、自分たちは数日以内に王都へ発つ予定であること。
丁寧に書き終えて、封蝋をする。ジョンに頼んで、コルチェスター侯爵家の屋敷まで届けてもらうことにした。
メイドたちが早くも荷造りを始めている。アデレードは指図をしながら、冷静に裁判のことを考えていた。
セオドアはずっと領地にいた。これは誰でも簡単に立証できることだ。そして晩餐会にブレントが姿を現さなかったこと、第二騎士団へ使いを出しても無視されたこと、これらも簡単に証明できる。にもかかわらず、多額の費用を使ってまで訴えてきた理由がわからない。
薄気味悪さに、またセオドアに会いたいという気持ちがこみ上げてきた。王都で会える――そう自分に言い聞かせて、アデレードは小さく拳を握りしめた。窓の外では、早くも暑さを含んだ風が吹き始めていた。




