策略 2
ノックスは報奨金の入った革袋を前に、マイクを待ち構えていた。ゆっくりとした足取りで、マイクが部屋に入ってくる。
「マイク。今回の報奨金だ」
「ありがとうございます」
マイクは報奨金を受け取ると、丁寧に言った。
「手伝ってもらった農夫たちに、このお金を分配いたします」
(来たな)
ノックスは身構えた。農夫たちには銅貨二、三枚しか与えない、と知っている。昨日のことがあったから、今回は用心してきちんと分配するかもしれない。
しかし、どこかに隙があるはずだ。農夫たちにはすでに「報奨金の分配額を知らせに来るように」と言いつけてある。
「今回駄目だったら、次に分配する時だ。必ずマイクは正体を現す」
セオドアがそう言っていたし、ノックスもその通りだと思う。
ブレントを匿っているのだから、どんどん支出が増えるはずだ。そうすればマイクも、金に目がくらむことがあるだろう。そう考えつつも、表向きはにこやかに接した。
「これからも畑を切り開いてほしいと、領主様は言っておられる。ただ、切り開きすぎて山を丸裸にしないようにな」
「ええ、ええ、わかっておりますとも。ありがとうございます」
マイクは家を出ていった。
そのまま村へ向かったマイクは、途中で馬を止めて革袋の中身を調べた。いつもと同じ金額がきちんと入っている。
「さて、と」
畑を切り開かせた農夫の家は、どれもみずぼらしかった。蝶番がきしむドアを叩くと、中からつぎの当たった服を着た女が姿を現した。
「マイクさん……? うちの人は今日も働きに出ましたが、何かありましたか?」
怯えたように胸の前で手を合わせる女に、マイクは銀貨を五枚差し出した。
「いや、報奨金が出たんでな。お前さんたちの取り分を配って回っているのだよ」
女は驚いた顔をして、銀貨をじっと見つめていた。そして「あの」と口を開いた。
「これは……?」
「さっきも言っただろう。お前さんたちの取り分だ。この中から借金を返したいと思うんだったら、改めて家に来てくれ」
女に銀貨を押しつけるようにして渡すと、マイクは他の家も回り始めた。同じような反応ばかりだった。
「まったく、お嬢様に見られたらまた誤解されるところだったぞ」
わざと口に出して言う。革袋の中に残った銀貨は六枚だった。惜しい気持ちはあるが、捕まるよりはずっといい。
「さて、と」
ブレントが待ち構えているだろう。明日か明後日、アデレードやノックスの目を盗んで、王都へ出かけて弁護士に会わなくてはいけない。ブレントが費用を持ってくれるかどうか怪しいものだから、ヘレンズ伯爵家へも行かなくてはいけない。
(ドラ息子を持つと、親も苦労するなあ)
とはいえ相手は貴族だ。マイクよりもずっと金を持っているだろうし、息子の名誉回復となれば、いくらでも金を出す、と、マイクは踏んでいた。弁護士とも相談の上、裁判費用の他にブレントの滞在費用も引き出すつもりだった。
(酒は密造酒で済ませているとはいえ、王都から女を呼んだ費用もあるからな。このままでは大損だ)
マイクは細かく計算しつつ、再び革袋の中を覗き込んだ。ここに入っていた報奨金より、はるかに多い金額が引き出せるだろう。
もう一度馬にまたがり、屋敷に戻る。ブレントは妻にワインとチーズを出させて、ミミを相手に昼間から酔っていた。
「マイク、どうだった」
「報奨金の件は、無事に片付きました」
「では、早く王都に行ってこい。ここが弁護士の事務所だ」
酔う前に書いたのだろう、きちんとした字で王都の住所が記されていた。マイクはそれを受け取ると、ブレントに答えた。
「明日か明後日には、王都へ行ってきます」
「本当は今日行って欲しいんだが、もう午後だしな。仕方がない」
ブレントの言い方に、マイクはむっとした。まるで自分が主人のような言い方を続けている上に、無茶な要求をして「仕方がない」とは何事だろうか。
(酔っぱらいだから、仕方がない)
ぐっと飲み込んで、マイクは「では、明日」と、自室へ行った。
(まったく、お坊ちゃまが)
王都へ行く荷造りをしながら、口の中で小さく吐き捨てた。




