嵐の前 3
代官屋敷では、アデレードとセオドア、そしてロバータとノックスが、話を続けていた。
「マイクが、報奨金を独占しているのは間違いないのよね。ただ、証拠がない」
「マイクの家を調べても出てこないかしら?」
「難しいでしょうな。奴はしたたかで、簡単に尻尾を掴ませませんから」
セオドアが「アデレード」と一瞬口ごもってから、意を決したように言った。
「マイクの件だけれど、私に任せてもらえないだろうか?」
「セオドアに?」
アデレードは驚いて目を見開き、それから首を振った。
「これはストックポート伯爵領の問題よ。セオドアに意見を貰うだけでもありがたいの。任せてしまうことなんて、到底できないわ」
「あのブレントという男が、このまま引き下がるとは思えないんだ。きっとマイクと結託して、君を苦しめにくると思う。何かあってからでは遅いから」
珍しくロバータが「そうね」とセオドアに同意した。
「ブレントは、第二騎士団長の地位に執着している。アデレードとの婚約が復活すれば、第二騎士団長に戻れると思い込んでいるわ。婚約の復活も、第二騎士団長への復帰も、絶対にありえないことなのに」
ため息が部屋に満ちる。ブレントはいい加減な男だが、剣の腕は立つし、騎士団長として戦略に携わってきただけあって、どう攻めてくるかわからない怖さがあった。
「ヘンリーも、しっかりあの男を捕らえておいてくれればよかったのに、油断して逃がしたりするから。甘いものばかり食べているから、詰めが甘くなるのよ」
重い空気を茶化すように、ロバータが冗談を言った。セオドアとノックスが笑う。
「手配状が出回っても、マイクが匿ってしまえば、領地の中を好きに動けてしまいますからな。確かに面倒です」
「だからアデレードは、屋敷にいた方がいいと思うんだ。私が、ノックスと一緒にマイクの件を片づけるよ」
「そうね……」
考え込むロバータの前で、アデレードは首を横に振った。
「そんなわけにはいかないわ。これから領地経営をしていくにあたって、私が逃げ回ってばかりではだめだもの。ブレントは、将来私の領地になる場所に逃げ込んだ罪人よ。それに怯えていては、国王陛下に申し開きができないわ」
毅然としたアデレードの言葉に、セオドアはまぶしそうに目を細めた。
アデレードは(逃げない)と自分に言い聞かせた。今までブレントの機嫌をうかがうあまり「なぜ結婚できないのか」と問うことができず、結果として今の事態を招いてしまったことを、深く後悔していた。もっと早くに酒場の女のことを知り、ブレントを詰問して、婚約解消を決断することもできたはずだ。マイクとブレントが結託するという事態も、避けられただろう。
(悔いてばかりもいられない。前に進まなくちゃ)
膝の上で拳を握りしめて、強く決意する。セオドアがアデレードの顔を覗き込んだ。
「素晴らしい考えだけれど、無理はしないで。私のことも頼ってくれていいんだよ。君に危険が及ぶようなことがあってはいけないからね」
「ええ、ありがとう。お願いしたいことは沢山あると思うの。だからよろしくね」
「もちろん」
そしてアデレードは「マイクの報奨金だけれど」と、改めて切り出した。
「今まで切り開いた畑は、全額支払ってしまったのかしら?」
ノックスが帳簿を調べたあと「いえ」と答えた。
「去年切り開いた畑の一部に関して、まだ支払われていないものがあります。秋まき小麦の分ですな」
「じゃあ、それを支払うと言って、マイクと農夫たちを呼び寄せましょう」
皆がアデレードに注目していた。アデレードはにっこりと笑う。
「分配した後、マイクたちの後をつけていって、マイクが報奨金を取り上げているところに踏み込んでしまえばいいわ。借金だと言い張るのならば、証文を徹底的に調べてやりましょう。必ずどこかに不備はあるはずよ」
「なるほど」
セオドアが感心した様子で呟いた。
「現場を抑えてしまえば、マイクも言い訳はできない。元婚約者殿は、代官屋敷に来ることはない。それなら安全だね」




