嬉しくない再会 4
「国王陛下に訴え出たければ、そうなさってください」
アデレードは丁寧な、けれど冷たい口調でブレントに告げた。
「私も、きちんと反論させていただきます。婚約解消はあなたの不貞が原因ですし、あなたのご両親にも了解を得ています。それだけではありません。我が家の領地に勝手に踏み込み、領民同士の争いにまで口出ししてきたことは、明らかに越権行為です」
ブレントは明らかにたじろいでいた。アデレードがここまではっきりとブレントに反論したのは、初めてだからだろう。
「どうぞ、お引き取りください。領地に居座るようであれば、王都から憲兵隊を呼ばなくてはなりません」
憲兵隊、と聞いたブレントは、びくりと身体を震わせた。自分が追われる身であることを、改めて思い出したのだ。
「ここがストックポート伯爵家の領地であることを、ゆめゆめお忘れなきよう」
アデレードの言葉には、今までになかった迫力があった。女主人として、十分な威厳を兼ね備えている。マイクもたじろいで、ブレントの顔色をうかがっていた。
「……後悔するなよ!」
ブレントは捨て台詞を吐くと、雑木林から走り出て行った。残されたマイクはその背中を見送り、もう一度頭をかく。
「どうやら、お嬢様にご迷惑をおかけしてしまったようですなぁ。知らなかったこととはいえ、申し訳ありませんでした」
「あなたには、別のことを聞かなくてはいけません。ですが、後日にしましょう。今日はお家にお帰りなさい」
「左様ですか。では、帰ることにしましょう」
マイクも雑木林を出て行こうとして「そうそう」と振り返った。
「家には、借金の証文も全て揃っているんですよ。ご入用であれば、お屋敷にでもノックスさんのところにでも、いつでもお届けしますよ」
下衆な笑みを浮かべた後、「それでは」と頭を下げ、静かに遠ざかっていく。セオドアがその背中を見送ってから「食わせ者だな」と呟いた。
「あいつはヘレンズ伯爵家の令息だと知っていて、ここに連れてきたんじゃないだろうか」
「セオドアの言うとおりだと思うわ」
ロバータが深いため息をついた。事態が面倒な方向へ転がり始めたことを、全員が感じ取っていた。
「けれどアデレード、あなたは立派でしたよ。ブレントにきちんと言い返せたのですもの」
「お母様、私はすべきことをしただけです」
少し照れながら、アデレードは再び農夫たちに向き直った。
「借金の証文は、返してもらえなかったの?」
「はい」
農夫たちは困り果てた顔をして、首を縦に振った。
「マイクさんが、一年分の収入じゃ足りないと言い出しまして……。銀貨一枚借りたっきりなんですが」
「子供の薬代が必要で、やむなく借りたんです」
「子供の薬代?」
ロバータが大きく目を見開いた。
「病の者には、代官から無利子の貸し付けがあるはずよ。返済猶予もあるわ」
ノックスは頷き「代官屋敷へ来ればよかったのに」と告げると、農夫たちは驚いた顔をして、その後全員が怒りを顔に浮かべた。
「マイクさんが『代官の貸し付けなんて、ありゃあ嘘だ』と言っていました」
「あとから税が三倍になるとか、子供を連れていかれるとか」
「嘘をついていたのはマイクさんの方だったのか」
アデレードは「周知が不足していたのね」と肩を落とし、農夫たちに詫びた。
「ごめんなさい。あなたたちを苦しめてしまって……。必ずあのマイクという男から話を聞いて、あなたたちが不利にならないようにしますから」
「そんな、お嬢様のせいじゃありませんや」
農夫たちは慌てて「顔を上げてください」と口々に言った。
「それよりお嬢様は大丈夫なんですかい。あの騎士団長様……いや、もう辞めさせられたから元の騎士団長様か、あの方、ずいぶんお嬢様に未練を残しているように見えましたけれど」
「大丈夫よ」
アデレードは笑ってみせた。寂しい笑みだった。
「彼が執着しているのは第二騎士団長の地位であって、私ではないわ」




