嬉しくない再会 3
「なるほどぉ、領主様のお嬢様と顔見知りでしたか」
ブレントの後ろから、のんびりとした声が聞こえてきた。大きな身体のかげから、贅沢な服をまとった男が現れた。
「マイクさん……」
農夫たちは息を呑んだ。どうやらこれが、農夫たちが口々に言っている、マイクという男のようだ。
(どうしてブレントと一緒に行動を?)
アデレードが疑問に思うより先に、セオドアがアデレードを庇うように前に出た。
「挨拶もしないとは、いくら何でも無礼ではないかな。まずは名乗りたまえ」
穏やかに諭してはいるが、口ぶりには有無を言わせない迫力があった。マイクは頭をかき、帽子を取って頭を下げる。
「マイク・タルボットと申します。この近くの村に住んでおります。奥様とお嬢様にお目にかかれて光栄でございます」
「……どうしてブレント、いえ、ヘレンズ伯爵の令息をここに連れてきたのかしら?」
そう尋ねると、マイクは涼しい顔で答えた。
「一昨日、酒場で意気投合しましてね。昨日も偶然お会いしまして。私が困っていることを、お嬢様に取り次いでくださるとおっしゃったものですから、ノックスさんのところにご案内すればお嬢様にお会いできるのでは、と思った次第ですよ」
「あなたの困っていること?」
「ええ」
マイクはじろりと農夫たちを睨みつけてから、アデレードには柔らかな口調で告げた。
「私が報奨金を独り占めしているだの、収穫を持っていくだの、根拠もないことをノックスさんに言い続けている奴らがいて、困っていたのです」
「で、でも……!」
一番年かさの農夫が、マイクの視線に負けずに声を張り上げた。
「去年の報奨金を、あんたが全部持ってっちまったのは、本当じゃないか!」
「勝手なことを言われては困るなあ」
マイクは後ろで手を組み、口元を歪めた。邪悪な表情だと、アデレードは感じた。
「あれは皆が、私に借金をしたからじゃないか。開墾をしないかと持ちかけたら、斧を買う金もないと言っていたから、道具は全て用意したし、現場で昼食も毎日振る舞っていたぞ」
「古い斧と、かちかちのパンだけで全額とは、あまりにごうつくばりすぎる!」
ノックスが割って入り「待て」と二人を止めた。
「マイク。借金のかたに報奨金を取り上げたのは事実なのか?」
ちっ、と言う小さな舌打ちが聞こえた。ふてぶてしい表情で「そうですよ」と、マイクは返事をした。
「斧とパンだけじゃありません。その前にも私に金を借りています」
「あれは収穫で返したはずだ!」
ブレントはあっけにとられた様子で、マイクと農夫たちの応酬を見ていたが、自分の出番がないことにいらだったのか「おい、マイク」と居丈高に呼びかけた。
「この代官に、伯爵夫人とアデレードに対して申し開きをする場を設けてもらったらいい。私はアデレードに話がある」
「はい、わかりました」
意外にも、マイクはすんなりと引き下がった。それに満足した様子で、ブレントはアデレードにじりじりと近寄る。
「私の話を聞いてもらおう。お前の父といとこの謀略で、私は第二騎士団長の座を失った。お前との婚約解消も、父といとこがたくらんだものだろう。私は、国王陛下に訴え出るつもりだ」
「……酒場の女に入れあげて、一緒に暮らす約束をしたことも、国王陛下に申し上げるつもりですか?」
ブレントはしまった、という表情をした。ミミのことを知られているとは思っていなかった様子で、みるみる顔が青ざめる。
「ミミのことは、遊びのうちだ」
「ミミというのですね。もう、王都に家を借りているのでしょう?」
アデレードの毅然とした態度に、ブレントはいらだちを隠せない様子だった。ブーツの先で地面を蹴り「ああ、そうだ!」と大声をあげる。
「お前のようなつまらない女と、一生顔をつきあわせて暮らすのは、まっぴらごめんだからな! 外に女を作るのくらい、政略結婚では当たり前だろう!」
「結婚後ならば、認めて差し上げたかもしれません。けれど結婚前となれば話は別です」
氷の塊のようなものが、胸から腹にすっと落ちていった。こんな男のために、自分は四年もの月日を無駄にしたのか。言葉も態度も、全てが冷え切っていった。




