嬉しくない再会 2
「ただの傭兵ではないような気がするわ」
アデレードが呟くと、セオドアも頷いた。
「格好を聞く限り、騎士のような気がする。しかし、どうして騎士がこんなところに?」
「いくら金持ちでも、普通の領民が騎士と知り合いになれるはずがないし……」
三人で話し合っていると、農夫たちが心配そうに近づいてきた。
「いつもなら、そろそろマイクさんが来る頃なんです。あんまりこの近くにいない方がいいですよ」
「それは大丈夫よ」
気丈に言い、アデレードはボンネットの飾りについているリボンにそっと手をやった。
(ここは私の領地なのだもの。どんなトラブルも自分で解決しなくては)
農夫たちに改めて話を聞こうと、向き直った時だった。
「アデレード!」
後ろから突然大声で呼びかけられ、驚いて振り向いた。ブレントが、息を切らせながら立っていた。
「見つけた……見つけたぞ!」
あまりのことに、言葉を失ってしまった。なぜブレントがここにいるのだろう。
「……ブ、レント……。どうしてここに?」
「それはこちらの台詞だ! 勝手に王都から出ていった挙句、屋敷の使用人に無礼なふるまいを許すなど、何をしているんだ!」
ブレントの表情は怒りに燃えていた。その視線が、セオドアに向けられる。
「その男は誰だ! 私という者がありながら、他の男とずっと行動を共にしているとは!」
アデレードはあっけにとられた。自分をあれほどないがしろにしていたブレントが、何を言っているのだろう。
「私たちの婚約は、解消されたわ」
「お前が不貞を働いて、私をはめたんだ! だから私は、第二騎士団長の座まで失って」
「第二騎士団長の座を失った?」
わけがわからず、聞き返す。ロバータが冷酷な表情で、すっと進み出た。
「ようやくヘンリーが動いたのね。アデレード、この男はもう第二騎士団長ではありません。ただのヘレンズ伯爵家の次男で、あなたとは何の関係もないわ」
「何を言うか! アデレードが領地に男を作ったから、私が不要になったのだろう!」
勝手なことをわめきちらすブレントに、アデレードはもはや何を言う気にもならなかったが、セオドアを巻き込むわけにはいかない。
「こちらはコルチェスター侯爵家のセオドアです。小さい頃に会ったきりだったのだけれど、領地の問題を解決するのにあたって、お知恵をお借りすることにしました」
礼儀正しくセオドアを紹介する。セオドアも帽子を取って「初めまして」と会釈をした。
「セオドア・ロバート・コルチェスターです。ずっと領地におりましたので、王都のことにうとい田舎者ですが、何卒よろしくお願いします」
ぱりっとした服装と、はきはきした言葉に、ブレントは押されたようだった。よく見るとブレントのシャツはひどく汚れており、髪もぼさぼさだ。
「……お前は、こういう男がいいのか!」
ブレントは吐き捨てるように言う。アデレードはきっとブレントを見据えた。
「私とセオドアの間には、あなたが勘ぐるような関係はなにもありません。けれど、何度も出席してほしいと念押しした『意向を問う』晩餐会をすっぽかすような方よりは、セオドアの方がずっと誠実で高潔だと私は思います」
ここまでブレントに言い返したのは、初めてだった。ブレントはあっけにとられた表情をして、アデレードをしばらく見ていたが、やがて視線を逸らした。
「お前は、アイルズベリー侯爵とストックポート伯爵が私をはめたことを知っているのか?」
「何のことですか、さっきから。お父様とヘンリーがどうかしたのですか?」
アデレードはうんざりしながら問い返した。ロバータが「さっきから言っているけれど」と話を引き取る。
「あなたとの婚約が解消されて、貴族院もこの男に味方している必要がなくなったの。だから第二騎士団長を罷免することにした。そういうことなのでしょう? ねえ、ヘレンズ伯爵のご令息殿」
もはやブレントとすら呼ばない冷酷さだった。ブレントはさらにぐっと声を詰まらせる。アデレードは全て合点がいって「そういうことでしたの」と呟いた。




