嬉しくない再会 1
その頃アデレードは、ロバータとセオドアと共に、馬車に揺られていた。目指しているのは、一昨日ブレントが泊まった村の近くだった。
「そろそろノックスが来てくれるはずなのだけれど……あ、いたわ」
ロバータが馬車の窓から顔を出す。ノックスと息子がそれぞれ馬の手綱を握って、こちらに頭を下げていた。
「本日は誠にありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ案内をよろしくお願いね」
アデレードはノックスに会釈した。ノックスと息子は馬にまたがり、アデレードたちの馬車を先導した。人家が増えてきたあたりで、村とは反対の方角を選び、小麦畑の中を進んでいく。
「いつもなら、このあたりにいるはずなのですが」
ノックスが周囲を見渡す。アデレードも外を見た。カーン、カーンという木を切り倒す音が、雑木林の方角から聞こえてきた。
「あの林のようだな」
セオドアが林を見て「馬車では入れませんね」と呟いた。
「降りるわ。そのつもりで来たから大丈夫」
今日は歩きやすい靴を履いているし、パラソルではなくボンネットをかぶっている。アデレードとロバータは馬車を降り、セオドアとノックス親子に先導されて林の中へ入っていった。
「ノックスさん、どうしたんだい」
農夫のひとりが斧を置き、目を丸くする。シャツはあちこちにつぎが当てられていて、靴もすり切れていた。
「こちらは領主様の奥様と、お嬢様だ」
「え!?」
農夫たちが慌てて礼をする。アデレードは「かしこまらないで」と言ってから「聞きたいことがあるの」と切り込んだ。
「報奨金のことなのだけれど。畑を切り開いた全員に、平等に分けられているのかしら?」
「それは……」
何ともいえない空気が漂った。農夫たちは顔を見合わせて、小さくため息をついたり肩を落としたりする。ノックスが一人の肩を叩いた。
「お前たちがマイクに搾り取られていることは、すでに奥様やお嬢様に申し上げている。話すなら、今だぞ」
「本当ですかい?」
おどおどしながら、一番年かさの農夫が口を開いた。
「マイクさんというのは、このあたりでは一番の金持ちなんですが……。俺たち、貧乏人に日銭を払って、畑を切り開かせてるんです。報奨金がいくらなのか、俺たちには教えてくれなくて」
よほど不満がたまっていたのか、一度話してしまうと、農夫たちは堤防が決壊したように話しはじめた。
「切り開いた畑からの収穫も、ほとんどマイクさんが持ってってしまうんです」
「マイクさんの牛馬の世話まで、俺たちがやらされています。日当を払うと言っていたのですが『牛や馬の調子が悪くなった』といちゃもんをつけられて、誰も払ってもらったことはありません」
「本人は贅沢三昧で、畑にすら出てきません。酒を飲んで柔らかい洋服を着て『いつか貴族になるんだ』と豪語してます」
セオドアは腕組みをして「まずいな」と呟いた。
「うちの領地よりも性質が悪い。村ぐるみで隠しているんじゃなくて、一人が富をむさぼっている状態は、不満もたまりやすいんだ。早く見つけられてよかったよ」
アデレードは領民たちに「ごめんなさい」と謝罪した。
「長い間、あなたたちを苦しめて……。マイクという男に話を聞いて、必ず是正します」
農夫たちは慌てて「お嬢様、顔をお上げください」と口々に言った。
「領主様どころか、ノックスさんにも話が行かないよう、マイクはあれこれ策を練ってましたから」
「気づいていただいただけでもありがてぇってものでして」
「わしらが告げ口しようもんなら、鞭で打ってやると脅かされていたもんですから……。大の男がこんなに沢山いて、たった一人に敵わないなんて、情けない次第でして」
そしてまた、一番年かさの農夫が「お嬢様、お気をつけなさい」と言った。
「一昨日だったか、マイクさんはずいぶん強そうな男と酒を飲んでいました。腰に剣を提げて、良い服を着ていましたよ。王都から用心棒を呼び寄せたのかもしれません」
「剣だって?」
セオドアが、さらに険しい顔つきになる。
「帯剣できるのは、貴族以外はごくわずかな許されたものだけだ」
「ありゃあ、素人じゃありませんよ。腕も足も太くて、何でも簡単に投げ飛ばしちまいそうでした。いい馬に乗っていたし……」
「立派なマントに身を包んで、剣も高そうなものでした。しかも、絹の服を着ていましたよ」
セオドアとアデレード、ロバータは顔を見合わせた。




