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政略結婚を先延ばしにしていた婚約者が騎士団長をクビになりました  作者: 三尾めいこ


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20/30

嬉しくない再会 1

 その頃アデレードは、ロバータとセオドアと共に、馬車に揺られていた。目指しているのは、一昨日ブレントが泊まった村の近くだった。


「そろそろノックスが来てくれるはずなのだけれど……あ、いたわ」


 ロバータが馬車の窓から顔を出す。ノックスと息子がそれぞれ馬の手綱を握って、こちらに頭を下げていた。


「本日は誠にありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ案内をよろしくお願いね」


 アデレードはノックスに会釈した。ノックスと息子は馬にまたがり、アデレードたちの馬車を先導した。人家が増えてきたあたりで、村とは反対の方角を選び、小麦畑の中を進んでいく。


「いつもなら、このあたりにいるはずなのですが」


 ノックスが周囲を見渡す。アデレードも外を見た。カーン、カーンという木を切り倒す音が、雑木林の方角から聞こえてきた。


「あの林のようだな」


 セオドアが林を見て「馬車では入れませんね」と呟いた。


「降りるわ。そのつもりで来たから大丈夫」


 今日は歩きやすい靴を履いているし、パラソルではなくボンネットをかぶっている。アデレードとロバータは馬車を降り、セオドアとノックス親子に先導されて林の中へ入っていった。


「ノックスさん、どうしたんだい」


 農夫のひとりが斧を置き、目を丸くする。シャツはあちこちにつぎが当てられていて、靴もすり切れていた。


「こちらは領主様の奥様と、お嬢様だ」


「え!?」


 農夫たちが慌てて礼をする。アデレードは「かしこまらないで」と言ってから「聞きたいことがあるの」と切り込んだ。


「報奨金のことなのだけれど。畑を切り開いた全員に、平等に分けられているのかしら?」

「それは……」


 何ともいえない空気が漂った。農夫たちは顔を見合わせて、小さくため息をついたり肩を落としたりする。ノックスが一人の肩を叩いた。


「お前たちがマイクに搾り取られていることは、すでに奥様やお嬢様に申し上げている。話すなら、今だぞ」


「本当ですかい?」


 おどおどしながら、一番年かさの農夫が口を開いた。


「マイクさんというのは、このあたりでは一番の金持ちなんですが……。俺たち、貧乏人に日銭を払って、畑を切り開かせてるんです。報奨金がいくらなのか、俺たちには教えてくれなくて」


 よほど不満がたまっていたのか、一度話してしまうと、農夫たちは堤防が決壊したように話しはじめた。


「切り開いた畑からの収穫も、ほとんどマイクさんが持ってってしまうんです」

「マイクさんの牛馬の世話まで、俺たちがやらされています。日当を払うと言っていたのですが『牛や馬の調子が悪くなった』といちゃもんをつけられて、誰も払ってもらったことはありません」

「本人は贅沢三昧で、畑にすら出てきません。酒を飲んで柔らかい洋服を着て『いつか貴族になるんだ』と豪語してます」


 セオドアは腕組みをして「まずいな」と呟いた。


「うちの領地よりも性質(たち)が悪い。村ぐるみで隠しているんじゃなくて、一人が富をむさぼっている状態は、不満もたまりやすいんだ。早く見つけられてよかったよ」


 アデレードは領民たちに「ごめんなさい」と謝罪した。


「長い間、あなたたちを苦しめて……。マイクという男に話を聞いて、必ず是正します」


 農夫たちは慌てて「お嬢様、顔をお上げください」と口々に言った。


「領主様どころか、ノックスさんにも話が行かないよう、マイクはあれこれ策を練ってましたから」

「気づいていただいただけでもありがてぇってものでして」

「わしらが告げ口しようもんなら、鞭で打ってやると脅かされていたもんですから……。大の男がこんなに沢山いて、たった一人に敵わないなんて、情けない次第でして」


 そしてまた、一番年かさの農夫が「お嬢様、お気をつけなさい」と言った。


「一昨日だったか、マイクさんはずいぶん強そうな男と酒を飲んでいました。腰に剣を提げて、良い服を着ていましたよ。王都から用心棒を呼び寄せたのかもしれません」


「剣だって?」


 セオドアが、さらに険しい顔つきになる。


「帯剣できるのは、貴族以外はごくわずかな許されたものだけだ」

「ありゃあ、素人じゃありませんよ。腕も足も太くて、何でも簡単に投げ飛ばしちまいそうでした。いい馬に乗っていたし……」

「立派なマントに身を包んで、剣も高そうなものでした。しかも、絹の服を着ていましたよ」


 セオドアとアデレード、ロバータは顔を見合わせた。

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