見つけた 4
朝の日差しが、部屋に降り注いでくる。
「ん……」
ブレントは寝返りを打って、柔らかな肌に触れて目を覚ました。
「ミミ」
抱き寄せようとして、髪の色が違うことに気づく。
(そうか)
昨夜はマイクの仲立ちで、宿の娘を一夜の相手にしたのだった。娘も慣れた様子だったから、上客に娘をあてがうことはよくあるのだろう。
「あら、もう起きたんですか」
娘も目を覚ますと、平然と服を着て「朝食をご用意しますね」と部屋を出て行った。ブレントは拍子抜けしてしまった。
(ミミなら、もっときめ細やかに朝を迎えてくれるのに)
ミミのことばかりが思い浮かぶが、今日はアデレードのところへ出かけなくてはいけない。
第二騎士団長の罷免を取り消させる材料が増えたのだ。コルチェスター侯爵の弟のことを持ち出して、王都で裁判をすると脅せばいいのだ。それでも応じなければ、本当に裁判を起こせばいい。
(従順そうに見せかけておいて、ろくでもない女だな。いや、両親の言うなりになっているのか?)
貴族院が自分を失脚させると決めて、サイモンとヘンリーがコルチェスター侯爵の弟をあてがった可能性もある。そうであれば、アデレードの目を覚まさせてやる必要がある。
様々な方策を考えながら、食堂に降りていった。卵の焼ける香りがする。
「おはようございます」
マイクは先にテーブルに着いていて、紅茶を飲んでいた。ブレントも座ると、すぐに主人が朝食を運んできた。パンと豆の煮たもの、ハムに卵の焼いたものと、どこの宿屋でも出てくるような一皿だ。
「今日は、アデレード……いや、お嬢様に会いにいくつもりなのだが、お前はどうするのだ?」
「もう一度、代官様のところへ行くつもりですが」
「代官のところより、お嬢様のところへ一緒に行かないか?」
フォークで卵の黄身を割っていたマイクは、目をぱちくりとさせて「よろしいので?」と尋ねた。
「ああ。領民からの『誤解を解きたい』という願いを取り次ぐのであれば、お前が一緒にいたほうがいいだろう。俺がいれば、必ずお嬢様に会えるはずだ」
領民の願いをはねつけたとなれば、ストックポート伯爵家は領地経営も下手だという証拠になる。領地も経営できず、婚約解消をするなり新しい男を引き入れている、となれば、王都での裁判はブレントに有利になるはずだ。こちらに有利な証拠は、いくつあってもいい。
「大変ありがたいことです。ぜひご一緒させてください」
マイクは丁寧に礼を言った。ブレントは胸を張って「お前は良い奴だから」と告げた。
「自分たちの土地のことを、しっかり考えている。それをお嬢様に知らせてやらなくてはいけない。世間知らずのままでは、皆が困るだろうからな」
「ええ、ええ。その通りでございます。代官様もきちんとお嬢様に状況を知らせてくださればいいのに、私のことを信じてくださらないので、困ったものですよ」
二人は朝食を平らげると、宿を出た。昨日はよく晴れていたが、今日は薄く曇っている。馬を急がせて屋敷へ向かい、玄関を叩いた。
「……どちら様でしょうか?」
使用人が扉を開けながら、不審そうに尋ねる。ブレントは胸を張った。
「ブレント・フィリップ・ヘレンズが訪ねてきたと、伝えて欲しい」
だが使用人は扉を開けず、冷たく言い放った。
「奥様とお嬢様は、外出中でございます」
「どこへ行ったのだ」
「申し上げられません」
扉を閉められそうになり、ブレントは怒りのあまり大声をあげた。
「私は、ヘレンズ伯爵家のブレントだ! それでも取り次げないと言うのか?」
使用人は首を振り「とにかく、ご不在ですので」と言うと、扉を閉めて内側から鍵をかけてしまった。
「本当にお留守のようですよ」
マイクが馬車寄せを指す。まだ新しい轍が、門の外まで続いていた。
(くそ……)
歯がみするブレントに向かって、マイクは笑みを浮かべて囁いた。
「行き先に心当たりがあります。ご案内しますよ」




