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政略結婚を先延ばしにしていた婚約者が騎士団長をクビになりました  作者: 三尾めいこ


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19/29

見つけた 4

 朝の日差しが、部屋に降り注いでくる。


「ん……」


 ブレントは寝返りを打って、柔らかな肌に触れて目を覚ました。


「ミミ」


 抱き寄せようとして、髪の色が違うことに気づく。


(そうか)


 昨夜はマイクの仲立ちで、宿の娘を一夜の相手にしたのだった。娘も慣れた様子だったから、上客に娘をあてがうことはよくあるのだろう。


「あら、もう起きたんですか」


 娘も目を覚ますと、平然と服を着て「朝食をご用意しますね」と部屋を出て行った。ブレントは拍子抜けしてしまった。


(ミミなら、もっときめ細やかに朝を迎えてくれるのに)


 ミミのことばかりが思い浮かぶが、今日はアデレードのところへ出かけなくてはいけない。

 第二騎士団長の罷免を取り消させる材料が増えたのだ。コルチェスター侯爵の弟のことを持ち出して、王都で裁判をすると脅せばいいのだ。それでも応じなければ、本当に裁判を起こせばいい。


(従順そうに見せかけておいて、ろくでもない女だな。いや、両親の言うなりになっているのか?)


 貴族院が自分を失脚させると決めて、サイモンとヘンリーがコルチェスター侯爵の弟をあてがった可能性もある。そうであれば、アデレードの目を覚まさせてやる必要がある。


 様々な方策を考えながら、食堂に降りていった。卵の焼ける香りがする。


「おはようございます」


 マイクは先にテーブルに着いていて、紅茶を飲んでいた。ブレントも座ると、すぐに主人が朝食を運んできた。パンと豆の煮たもの、ハムに卵の焼いたものと、どこの宿屋でも出てくるような一皿だ。


「今日は、アデレード……いや、お嬢様に会いにいくつもりなのだが、お前はどうするのだ?」

「もう一度、代官様のところへ行くつもりですが」

「代官のところより、お嬢様のところへ一緒に行かないか?」


 フォークで卵の黄身を割っていたマイクは、目をぱちくりとさせて「よろしいので?」と尋ねた。


「ああ。領民からの『誤解を解きたい』という願いを取り次ぐのであれば、お前が一緒にいたほうがいいだろう。俺がいれば、必ずお嬢様に会えるはずだ」


 領民の願いをはねつけたとなれば、ストックポート伯爵家は領地経営も下手だという証拠になる。領地も経営できず、婚約解消をするなり新しい男を引き入れている、となれば、王都での裁判はブレントに有利になるはずだ。こちらに有利な証拠は、いくつあってもいい。


「大変ありがたいことです。ぜひご一緒させてください」


 マイクは丁寧に礼を言った。ブレントは胸を張って「お前は良い奴だから」と告げた。


「自分たちの土地のことを、しっかり考えている。それをお嬢様に知らせてやらなくてはいけない。世間知らずのままでは、皆が困るだろうからな」

「ええ、ええ。その通りでございます。代官様もきちんとお嬢様に状況を知らせてくださればいいのに、私のことを信じてくださらないので、困ったものですよ」


 二人は朝食を平らげると、宿を出た。昨日はよく晴れていたが、今日は薄く曇っている。馬を急がせて屋敷へ向かい、玄関を叩いた。


「……どちら様でしょうか?」


 使用人が扉を開けながら、不審そうに尋ねる。ブレントは胸を張った。


「ブレント・フィリップ・ヘレンズが訪ねてきたと、伝えて欲しい」


 だが使用人は扉を開けず、冷たく言い放った。


「奥様とお嬢様は、外出中でございます」

「どこへ行ったのだ」

「申し上げられません」


 扉を閉められそうになり、ブレントは怒りのあまり大声をあげた。


「私は、ヘレンズ伯爵家のブレントだ! それでも取り次げないと言うのか?」


 使用人は首を振り「とにかく、ご不在ですので」と言うと、扉を閉めて内側から鍵をかけてしまった。


「本当にお留守のようですよ」


 マイクが馬車寄せを指す。まだ新しい轍(わだち)が、門の外まで続いていた。


(くそ……)


 歯がみするブレントに向かって、マイクは笑みを浮かべて囁いた。


「行き先に心当たりがあります。ご案内しますよ」

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