見つけた 2
翌朝、ブレントは二日酔いで目を覚ました。質の良くないエールをがぶ飲みしたせいか、吐き気と頭痛がひどい。
(くそ……)
宿屋の主人に頼んで、昼まで部屋を使わせてもらうことにして、ベッドにひっくり返っていた。アデレードのところへ行きたいのは山々なのだが、とても馬に乗れる状態ではない。
ようやく回復のきざしが見えたのは、正午近くだった。水をがぶ飲みして、外に出る。
「おや、昨日の」
声をかけてきたのは、マイクだった。にこやかに笑みを浮かべながら「今からご出立ですか?」と質問してくる。
「少し加減が悪くて、こんな時間になってしまった」
「それはいけませんな。どうぞお大事になさってください」
ブレントは厩へ行き、馬にまたがった。村を出て、街道をひた走る。
(今日こそアデレードに会って、ストックポート伯爵とアイルズベリー侯爵に話を通させなくては)
王都を出てから、随分と日が経ってしまった。早くしなければ、第二騎士団長の罷免の撤回が難しくなるかもしれない。ブレントは焦りながら、馬をひたすら走らせた。
街道は往来が盛んで、荷車に作物を積んだ領民から、粗末な馬車に乗った商人の一団などがひっきりなしに行き交っていた。その中でもひときわ目立ったのは、近隣に住んでいるらしい貴族の馬車だった。
乗っているのは若い男で、流行のスタイルではなかったが、清潔でぴしりと折り目のついた服を着ていた。ブレントは汚れが目立ち始めた騎士団長の正装に、引け目を感じてしまった。
(着替えておくべきだろうか)
近くに村が見えてきた。ブレントはいったんそちらに向かい、洋品屋に入った。そこで一番上等な服を一そろい買い求め、それに着替えた。騎士団長の正装はひとまとめにして、荷物としてぶら下げる。
(これでよし)
普段の服装に比べればはるかに粗末だが、田舎風の服装に着替えてまでアデレードに会いに来た、とわかれば、アデレードは感動するだろう。ブレントが何かすれば、いつも「まあ」と目を見開いて、褒めちぎるアデレードのことだ。今回もそうに違いない。
丘の上に、アデレードがいると教えられた屋敷が見えてきた。出発が遅かった上に、寄り道までしたので日が傾きはじめている。ブレントは急いで最後の坂を駆けのぼった。
(……ん?)
門の手前で、ブレントは馬の手綱を引いた。先ほどすれ違った貴族の馬車が、馬車寄せに止まっている。
「来客か?」
あの馬車に乗っていたのは、若い男だったはずだ。
(アデレードのところに、若い男が?)
嫌な予感がする。ブレントはいったん様子を見ることに決め、少し引き返して馬を茂みに隠した。屋敷の塀が低くなっているところを乗り越え、庭に入りこむ。足音を殺して歩き、木の陰から屋敷の中をうかがっていると、アデレードの声がした。
「よければ、今夜はこの屋敷に泊まっていってちょうだい」
そっと顔を出すと、あの馬車に乗っていた男とアデレードが部屋の中で向かい合っていた。男が何か言い、アデレードがにっこりと微笑む。
(アデレード……!)
自分に婚約解消を申し出ておいて、別な男を屋敷に引き入れている。ブレントは、自分がミミと暮らす家を買おうとしていたことを棚に上げて、怒りのあまり飛び出していきそうになった。しかし、ある考えが頭をよぎって足を止めた。
(まさか!)
アデレードが婚約解消を申し出たのは、この男のせいではないか。自分と別れて、この男と結婚したくなったのだろう。そしてもとからブレントを快く思っていなかったヘンリーが、ここぞとばかりに第二騎士団長を罷免したのではないだろうか。
(そんなことが、許されていいものか!)
不義を働いた挙句、第二騎士団長の地位まで取り上げる。アデレードもサイモンもヘンリーも、とんでもない一族だ。
男に決闘を申し込み、アデレードもろとも斬り捨てようかと思ったが、王都へ戻って裁判に訴え出たほうがいい、と思い直した。
再び塀を越えて、馬を引き出す。と、そこに、聞き覚えのある声がした。
「おや、よく会いますな?」
マイクがにこにこと笑みを浮かべて、立っていた。




