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政略結婚を先延ばしにしていた婚約者が騎士団長をクビになりました  作者: 三尾めいこ


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16/24

見つけた 1

(どこにいる、アデレード……!)


 二日が経った。領地の屋敷や別荘を探してみたが、別荘番や使用人の姿しか見当たらない。


(手間をかけさせやがって)


 やむなくその日は、賑やかな村に宿をとった。酒が恋しくなり、隣にある酒場へ繰り出す。

 女はいたが、ミミとは比べ物にならない。「酒だけでいい」と追い払って、ひとりでエールのジョッキを干した。


「どちらからいらしたのですか?」


 中年のでっぷりと太った男が、ジョッキを片手に隣に座った。こんな田舎にふさわしくなく、日焼けもしていないし、言葉も丁寧だ。


「私が、よそ者だとわかったのか?」


 ブレントが尋ねると、男は苦笑した。


「そりゃまあ、絹を着ている人間など、この村にはいませんから。剣も下げておられるし」


 男はマイクと名乗り、エールを二つ取り寄せると、一つをブレントの前に置いた。


「お近づきのしるしに」


「うむ」


 二人で乾杯したあと、マイクはブレントに世間話を始めた。


「私は、この村では成功した方でしてね。先代の領主様が『畑を切り開いたものに報奨金をやる』とおっしゃったので、皆で畑を切り開いて、報奨金をいただいていたんです。ただ……」


 マイクの表情が曇る。


「ただ、何だ?」


「今の領主様のあとは、お嬢様が跡を継ぐという噂でしてねえ」


 アデレードのことだ。ブレントははやる気持ちを抑え、マイクに質問した。


「その、お嬢様というのは、王都にいるのか?」


「それなんですよ」


 マイクはエールを飲み、じゃがいもの茹でたものにバターをなすりつけて口に放り込むと、にやっと笑って見せた。


「一週間ばかり前に、突然領地にお嬢様がおいでになったんです。なんでも婚約が無しになったとかなんとか。それで領地の経営に本腰を入れるのだと聞きまして」


 すぐさまアデレードの居場所を聞き出そうと思ったのだが、こんな田舎までもう婚約解消の噂が届いている。自分のいでたちからして怪しまれるかもしれない。ブレントは用心して、マイクの話に耳を傾けていた。


「領地の経営をしていただけるのはありがたいですが、ありがたくないこともありまして」

「何だ?」


 じゃがいもを勧められ、ブレントもひとつ食べてみた。王都のじゃがいもよりはるかに美味だった。


「我々は、村全員で畑を切り開いているわけです。それで、働きに応じて報奨金を分けているのですが、それに不満を持つ奴が『マイクが報奨金を独占している』と、言いふらしていて。お嬢様のお耳にも届いたらしいんですよ。困ったことになったな、と」


「……お嬢様とやらに、直接会って申し開きをすればいいのではないか」


「私のようなものが、お嬢様に会うことなどできませんよ。向こうから会いにきてくだされば話は別ですが」


 マイクのため息を聞き、ブレントはすぐさま(これだ)と思いついた。


「そうなのか。私は一応貴族だから、お嬢様に頼むことができるかもしれない」

「おや、そうですか。お嬢様に取り次いでくださると?」

「可能かどうかはわからないが、一度面会を申し込んでみよう。で、どこの屋敷にいるのだ?」


 今だ。ブレントはたたみかけた。マイクは微笑んで、アデレードがいる屋敷を教えてくれた。この村から半日もかからない。


「そうか、助かっ……いや、明日にでも私が行って、善良な村人が困っていると申し出てみよう」

「それはありがとうございます。助かります」


 マイクはもう一杯エールを勧めてきた。気持ちよく飲み干し、おかわりを頼む。


(待っていろ、アデレード!)


 次から次へとエールを飲み干すうちに、マイクは「それでは失礼」と勘定を払っていなくなった。ブレントはマイクが酒場の外に出た後、呟いた言葉を知らないままだった。


「第二騎士団長の正装で来るとは、相当馬鹿な男だ。お嬢様も修羅場に巻き込まれれば、報奨金どころではなくなるだろうよ」

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