見つけた 1
(どこにいる、アデレード……!)
二日が経った。領地の屋敷や別荘を探してみたが、別荘番や使用人の姿しか見当たらない。
(手間をかけさせやがって)
やむなくその日は、賑やかな村に宿をとった。酒が恋しくなり、隣にある酒場へ繰り出す。
女はいたが、ミミとは比べ物にならない。「酒だけでいい」と追い払って、ひとりでエールのジョッキを干した。
「どちらからいらしたのですか?」
中年のでっぷりと太った男が、ジョッキを片手に隣に座った。こんな田舎にふさわしくなく、日焼けもしていないし、言葉も丁寧だ。
「私が、よそ者だとわかったのか?」
ブレントが尋ねると、男は苦笑した。
「そりゃまあ、絹を着ている人間など、この村にはいませんから。剣も下げておられるし」
男はマイクと名乗り、エールを二つ取り寄せると、一つをブレントの前に置いた。
「お近づきのしるしに」
「うむ」
二人で乾杯したあと、マイクはブレントに世間話を始めた。
「私は、この村では成功した方でしてね。先代の領主様が『畑を切り開いたものに報奨金をやる』とおっしゃったので、皆で畑を切り開いて、報奨金をいただいていたんです。ただ……」
マイクの表情が曇る。
「ただ、何だ?」
「今の領主様のあとは、お嬢様が跡を継ぐという噂でしてねえ」
アデレードのことだ。ブレントははやる気持ちを抑え、マイクに質問した。
「その、お嬢様というのは、王都にいるのか?」
「それなんですよ」
マイクはエールを飲み、じゃがいもの茹でたものにバターをなすりつけて口に放り込むと、にやっと笑って見せた。
「一週間ばかり前に、突然領地にお嬢様がおいでになったんです。なんでも婚約が無しになったとかなんとか。それで領地の経営に本腰を入れるのだと聞きまして」
すぐさまアデレードの居場所を聞き出そうと思ったのだが、こんな田舎までもう婚約解消の噂が届いている。自分のいでたちからして怪しまれるかもしれない。ブレントは用心して、マイクの話に耳を傾けていた。
「領地の経営をしていただけるのはありがたいですが、ありがたくないこともありまして」
「何だ?」
じゃがいもを勧められ、ブレントもひとつ食べてみた。王都のじゃがいもよりはるかに美味だった。
「我々は、村全員で畑を切り開いているわけです。それで、働きに応じて報奨金を分けているのですが、それに不満を持つ奴が『マイクが報奨金を独占している』と、言いふらしていて。お嬢様のお耳にも届いたらしいんですよ。困ったことになったな、と」
「……お嬢様とやらに、直接会って申し開きをすればいいのではないか」
「私のようなものが、お嬢様に会うことなどできませんよ。向こうから会いにきてくだされば話は別ですが」
マイクのため息を聞き、ブレントはすぐさま(これだ)と思いついた。
「そうなのか。私は一応貴族だから、お嬢様に頼むことができるかもしれない」
「おや、そうですか。お嬢様に取り次いでくださると?」
「可能かどうかはわからないが、一度面会を申し込んでみよう。で、どこの屋敷にいるのだ?」
今だ。ブレントはたたみかけた。マイクは微笑んで、アデレードがいる屋敷を教えてくれた。この村から半日もかからない。
「そうか、助かっ……いや、明日にでも私が行って、善良な村人が困っていると申し出てみよう」
「それはありがとうございます。助かります」
マイクはもう一杯エールを勧めてきた。気持ちよく飲み干し、おかわりを頼む。
(待っていろ、アデレード!)
次から次へとエールを飲み干すうちに、マイクは「それでは失礼」と勘定を払っていなくなった。ブレントはマイクが酒場の外に出た後、呟いた言葉を知らないままだった。
「第二騎士団長の正装で来るとは、相当馬鹿な男だ。お嬢様も修羅場に巻き込まれれば、報奨金どころではなくなるだろうよ」




