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政略結婚を先延ばしにしていた婚約者が騎士団長をクビになりました  作者: 三尾めいこ


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15/23

騎士団長をクビになる 4

 サイモンが去ってすぐ、憲兵の制服を着た男が三人現れた。憲兵たちはブレントを牢から出すと、重々しく告げた。


「国王陛下のご裁可が下りました。ブレント・フィリップ・ヘレンズ、あなたは第二騎士団長を罷免されました。以後、我々憲兵隊の取り調べを受けていただくことになります」


 ブレントは憲兵たちを眺めた。憲兵隊と言っても、警備兵よりは少し身体つきが良い、といった程度だ。騎士として鍛錬を積んでいるブレントにかかれば、三人ぐらい簡単に倒せるだろう。


 おとなしく従うふりをして、通路を歩く。そして一番後ろを歩いていた一人に、体当たりを食らわせた。残りの二人にも肘鉄と拳を繰り出す。三人全員が壁際まで吹っ飛んだところで、走り出した。建物の構造は単純だから、すぐに入り口にたどり着く。ブレントに気づいた警備兵が走ってきたが、こちらも体当たりと拳でかわす。


「逃走したぞーっ!」


 叫び声が上がったが、ブレントはおかまいなしに走り続けた。


(ミミのところまで行けば、馬がいる)


 昨夜はミミの家に泊まって、二日酔いだったから馬を置いてきた。その馬を取り戻すのが先決だ。


(婚約解消だと!? ふざけるな、アデレードがそんなことに同意するはずがない。これは俺を陥れるための罠だ!)


 アデレードはいつも自分の周りをうろちょろしていた。貴族の令嬢であるというのに、洗い物や料理までして気を引こうとしていた。


(ストックポート伯爵と、アイルズベリー侯爵が勝手に決めたことだろう。アデレードに会って婚約解消のことを告げれば、きっと驚くはず。そしてストックポート伯爵に取りすがって泣くはずだ)


 サイモンは、アデレードに甘い。アデレードが泣けば、必ず自分の罷免はなかったことになる。


 走り続けているうちに、ミミの家にたどり着いた。下町のごちゃごちゃした場所にあり、厩や井戸は共同になっている。ミミは驚いた顔をして「ねえ、ちょっと!」と叫んだ。


「ご主人が兵隊に引っ張って行かれちゃったのよ! 何か知らない?」


 ブレントは息を整えると、必死に笑みを浮かべてミミを抱き寄せた。


「心配するな。俺が全部解決してやる」


 そして共同の厩から馬を引き出すと、ひらりとまたがってストックポート伯爵家の屋敷を目指した。激しく玄関を叩くと、怪訝な顔をした執事が顔を出した。


「これは、ブレント様。どうなさいました?」

「アデレードはいるか?」


 執事は「いらっしゃいません」と冷たく言い放つと、玄関を閉めようとした。


「待て! アデレードはどこに出かけたんだ?」

「領地にお出かけになっています」

「領地だと?」


 ブレントは愕然とした。ストックポート伯爵家の領地は広大で、屋敷と別荘を合わせれば、十を超えるはずだ。王都育ちのブレントには、どこにアデレードがいるのか見当もつかない。


「それでは」


 執事は玄関を閉めて、内側から鍵をかけてしまった。そのまましばらく立ちすくんでいたが、自分が追われる身であることを思い出した。ここにいては、憲兵隊が追ってくるかもしれない。


「くそっ」


 どうしてこんな時に、領地に出かけているのか――ブレントは舌打ちをしながら、再び馬にまたがった。幸いなことに、領地まではさほど遠くない。今から馬を急がせれば、夕方までには領地に着けるだろう。

 そこからしらみつぶしに別荘や屋敷を当たっていけば、どこかでアデレードに会えるはずだ。そうしたら、サイモンとヘンリーの仕打ちについて話せばいい。きっとあの大きな目を見開いて「父とヘンリーがごめんなさい」と謝るだろう。そうすれば、すぐに第二騎士団長に返り咲くことができる。


 ブレントは街道を走り続けた。幸い手配状が出回る前に、王都を出ることができた。あとはアデレードを探し当てるだけだ。


(手間をかけさせやがって)


 自分が大変な時に、のんきに領地に出かけているアデレードが許せなかった。そもそもなぜ自分の罷免をアデレードが止めなかったのか、と腹立たしく思い(女だから、仕方がないか)と思い直した。ミミのような意志の強さや、何かを聞き出す力は、アデレードにはない。婚約解消も、自分の罷免も、アデレードは何ひとつ知らされないで話が進んだのだろう。


 とにかくアデレードを見つけ出すことが先決だ。陽が暮れ始めた街道を、ブレントはひたすら馬を急がせていった。

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