騎士団長をクビになる 4
サイモンが去ってすぐ、憲兵の制服を着た男が三人現れた。憲兵たちはブレントを牢から出すと、重々しく告げた。
「国王陛下のご裁可が下りました。ブレント・フィリップ・ヘレンズ、あなたは第二騎士団長を罷免されました。以後、我々憲兵隊の取り調べを受けていただくことになります」
ブレントは憲兵たちを眺めた。憲兵隊と言っても、警備兵よりは少し身体つきが良い、といった程度だ。騎士として鍛錬を積んでいるブレントにかかれば、三人ぐらい簡単に倒せるだろう。
おとなしく従うふりをして、通路を歩く。そして一番後ろを歩いていた一人に、体当たりを食らわせた。残りの二人にも肘鉄と拳を繰り出す。三人全員が壁際まで吹っ飛んだところで、走り出した。建物の構造は単純だから、すぐに入り口にたどり着く。ブレントに気づいた警備兵が走ってきたが、こちらも体当たりと拳でかわす。
「逃走したぞーっ!」
叫び声が上がったが、ブレントはおかまいなしに走り続けた。
(ミミのところまで行けば、馬がいる)
昨夜はミミの家に泊まって、二日酔いだったから馬を置いてきた。その馬を取り戻すのが先決だ。
(婚約解消だと!? ふざけるな、アデレードがそんなことに同意するはずがない。これは俺を陥れるための罠だ!)
アデレードはいつも自分の周りをうろちょろしていた。貴族の令嬢であるというのに、洗い物や料理までして気を引こうとしていた。
(ストックポート伯爵と、アイルズベリー侯爵が勝手に決めたことだろう。アデレードに会って婚約解消のことを告げれば、きっと驚くはず。そしてストックポート伯爵に取りすがって泣くはずだ)
サイモンは、アデレードに甘い。アデレードが泣けば、必ず自分の罷免はなかったことになる。
走り続けているうちに、ミミの家にたどり着いた。下町のごちゃごちゃした場所にあり、厩や井戸は共同になっている。ミミは驚いた顔をして「ねえ、ちょっと!」と叫んだ。
「ご主人が兵隊に引っ張って行かれちゃったのよ! 何か知らない?」
ブレントは息を整えると、必死に笑みを浮かべてミミを抱き寄せた。
「心配するな。俺が全部解決してやる」
そして共同の厩から馬を引き出すと、ひらりとまたがってストックポート伯爵家の屋敷を目指した。激しく玄関を叩くと、怪訝な顔をした執事が顔を出した。
「これは、ブレント様。どうなさいました?」
「アデレードはいるか?」
執事は「いらっしゃいません」と冷たく言い放つと、玄関を閉めようとした。
「待て! アデレードはどこに出かけたんだ?」
「領地にお出かけになっています」
「領地だと?」
ブレントは愕然とした。ストックポート伯爵家の領地は広大で、屋敷と別荘を合わせれば、十を超えるはずだ。王都育ちのブレントには、どこにアデレードがいるのか見当もつかない。
「それでは」
執事は玄関を閉めて、内側から鍵をかけてしまった。そのまましばらく立ちすくんでいたが、自分が追われる身であることを思い出した。ここにいては、憲兵隊が追ってくるかもしれない。
「くそっ」
どうしてこんな時に、領地に出かけているのか――ブレントは舌打ちをしながら、再び馬にまたがった。幸いなことに、領地まではさほど遠くない。今から馬を急がせれば、夕方までには領地に着けるだろう。
そこからしらみつぶしに別荘や屋敷を当たっていけば、どこかでアデレードに会えるはずだ。そうしたら、サイモンとヘンリーの仕打ちについて話せばいい。きっとあの大きな目を見開いて「父とヘンリーがごめんなさい」と謝るだろう。そうすれば、すぐに第二騎士団長に返り咲くことができる。
ブレントは街道を走り続けた。幸い手配状が出回る前に、王都を出ることができた。あとはアデレードを探し当てるだけだ。
(手間をかけさせやがって)
自分が大変な時に、のんきに領地に出かけているアデレードが許せなかった。そもそもなぜ自分の罷免をアデレードが止めなかったのか、と腹立たしく思い(女だから、仕方がないか)と思い直した。ミミのような意志の強さや、何かを聞き出す力は、アデレードにはない。婚約解消も、自分の罷免も、アデレードは何ひとつ知らされないで話が進んだのだろう。
とにかくアデレードを見つけ出すことが先決だ。陽が暮れ始めた街道を、ブレントはひたすら馬を急がせていった。




