騎士団長をクビになる 3
「ブレント・フィリップ・ヘレンズの、第二騎士団長罷免に賛成する議員諸君は、ご起立願いたい」
議場にいた議員全員が起立した。ヘンリーは「満場一致」と厳かに告げた。
「ま、待ってくれ! 国王陛下のご裁可が下りるまで、罷免はできないはずだ!」
悲鳴のような声をあげたブレントに、議員たちは冷ややかな視線を送った。
「これから国王陛下のご裁可を仰ぐことになっています。それまでお待ちになりますか?」
「待つ! 国王陛下なら、必ずお分かりくださるはずだ!」
「では、お待ちいただこう。ご案内せよ」
警備兵がやってくる。ほっとしたのもつかの間、ブレントが連れていかれたのは貴族院の中にある牢だった。
「ここは牢獄ではないか! なぜこのようなところに!」
「罷免、とのご裁可が下り次第、間諜との密通について、憲兵隊による取り調べが行われることになっております。それまでここでお待ちいただくようにとのこと」
罠だった、と歯がみしても遅かった。脱力して椅子に座り込む。
(どうすればいい……。どうすれば、罪に問われずに済む……?)
不意に、こちらに視線を送っていたサイモンの顔が脳裏をよぎった。
(そうだ!)
アデレードに頼んで、サイモンからヘンリーに口利きをしてもらえばいい。娘の婚約者なのだから、必ず助けてくれるはずだ。
「おい!」
警備兵に声をかける。兵はうさんくさそうに振り向いた。
「ストックポート伯爵を呼んでくれ! 私はストックポート伯爵の娘の婚約者だ!」
「はあ」
もう一人の兵を呼んできて、警備兵は耳打ちをした。新しく来た兵が首を振る。
「どなたもお会いになりませんと、申しつかっております」
「そんなはずはない! もう一度確認してくれ!」
やれやれ、と呟いた警備兵は、牢から出ていった。だがすぐに戻ってくる。
「お会いにならない、とのことです」
「馬鹿な! 俺は息子も同然なのだぞ!」
わめくブレントに、警備兵は冷たく言い放った。
「ストックポート伯爵に、ご令嬢とあなたの婚約は解消されている、とうかがって参りました」
「は……?」
言葉の意味がわからなかった。アデレードと自分の婚約が解消されているなど、思いもよらないことだった。
「どういうことだ!」
「ストックポート伯爵ご自身がおっしゃいました。あなたとご令嬢の婚約は、一週間ほど前に解消されている、と。正式な手続きも済んでいるそうです」
「馬鹿を言え!」
牢の鉄格子を掴んでブレントは暴れはじめた。警備兵たちが一斉に武器を構える。その時だった。
「見苦しいぞ、ブレント」
サイモンが姿を現した。ブレントは救われたとばかりに「ストックポート伯爵!」と声をあげる。
「俺は嵌められたのです! どうかここから救い出してください!」
媚びるような笑みを浮かべるブレントに、サイモンはため息をついた。
「君は、本当に酒場に入り浸っていたようだな。ヘレンズ伯爵家から第二騎士団には、何度も使いをやったと聞いているのだが」
「えっ」
「少し前に、晩餐会の招待状を出したことを覚えているかね。あれは君の意向を問う場だったのだが、君は姿を現さなかった。つまり、我が家と親族になる意思はない、と判断せざるをえなかった。ご両親も納得してくださったよ。すぐに婚約解消の書類にサインをしてくださった」
「何ですって?」
救いは、絶望に変わった。ブレントは全身から冷や汗が吹き出すのを感じた。確かに何度も両親から使いは来ていた。だが二日酔いだったり、ミミのいる酒場に繰り出す直前だったりしたために、いつも「あとにしてくれ」と追い返していた。まさかあれが婚約解消についての話だったとは。
「私も、アデレードにはたった一人の父親なのでね。間諜が経営する酒場に入り浸り、女と家を構えようとする男に口利きをしてやるほど、愚かではないよ。国王陛下の裁可を待って、憲兵隊の取り調べを受けることだ」
サイモンはブレントに背を向けた。ブレントは茫然とその背中を見送ることしかできなかった。




