騎士団長をクビになる 2
ブレントは一瞬ぽかんと口を開けて、それから大声をあげた。
「罷免とは?」
氷のように冷たい視線が、ヘンリーを始めとした議員から突き刺さる。
「クビ、ということですよ。お分かりになりませんか?」
「そのくらいはわかる! なぜなのか、理由を教えろ!」
わめくブレントに、警備兵たちが早足に近寄ってきた。取り押さえられることはなかったが、まるで罪人のような扱いに愕然とする。
「それは、これから説明させていただく」
ヘンリーはあくまで冷静に、ゆっくりと語りはじめた。
「第一の理由は、国王陛下にうかがいを立てることなく、一方的に外征を計画したこと」
「外征など、計画していない!」
「複数の貴族が『第二騎士団長から、外征の計画があるために結婚を延期したと聞かされた』と証言しています」
「それは……!」
結婚を先延ばしにしたくて「外征がある」と、あちこちで言い続けてきたのは事実だ。だが、それをこの場で言うわけにはいかない。ぎりりと歯がみをすると、ヘンリーは畳みかけるように発言した。
「外征の準備のために、あなたは家にも帰らず詰め所で寝起きする生活を送っている。ご両親にも婚約者にも、婚約者を伴って出かけた場でも『外征がある』と言っていた。あなたがここに到着する前に、いくつもの証言がありました」
うろたえて議場を見回すと、アデレードの父、サイモンと目が合った。サイモンは強い視線をブレントに向けている。怒りや憤りとは少し違う感情をぶつけられた気がして、ブレントは思わず目を逸らした。
「これにより、外征を計画したことは間違いないと認められます。次に」
話が一方的に進められていく。身体から体温がどんどん奪われていくように感じた。
「第二騎士団の機密を、間諜に漏らしたこと」
「間諜……だと!?」
今度こそ、身に覚えのないことだった。
「そのようなこと、決してない!」
「間諜を捕らえ、取り調べを行う過程であなたの名前を白状しました」
「では、間諜であると気づかなかったのだ!」
ブレントは必死だった。外征の計画は口から出まかせだと言い逃れできるが、間諜と接触したとなれば死罪もあり得る。
「気づかなかった、ですか。数年にわたり、毎日のように顔を合わせていても?」
「そもそも、本当に間諜なのか? 第二騎士団は、厳密な身元検査を行っている。間諜の入り込む余地などない!」
毎日のように会っていた相手と言われれば、第二騎士団員としか考えられない。間諜だと言いがかりをつけているのではないか、と言い立てるブレントに、ヘンリーは冷たく言い放った。
「第二騎士団に、間諜がいたわけではありません。……こちらへ」
後ろ手に縛られた男が、警備兵に連れられてきた。その顔を見たブレントは「まさか」と言葉を失った。
ミミの酒場を経営している主人だった。
「この者は、数年前に城下町に酒場を開いて、様々な情報を隣国へ流していた。その中でも最も大きな情報は、第二騎士団長、ブレント・フィリップ・ヘレンズから得たものである。間違いないか」
酒場の主人はうなだれて「……はい」と答えた。
「知らなかったのだ! この男が間諜だったなどと!」
ブレントは唾を飛ばしながら叫んだ。その様子を、議員たちは呆れた様子で眺めていた。
「第二騎士団長ともあろう人物が、身元の確かではない者が経営する酒場に出入りした挙句」
ヘンリーはもはや敬語を使わなかった。死刑執行前に罪状を述べ立てる執行人のように、議場へ朗々と声を響かせていく。
「酒場の女とねんごろになりたいからと、次々に機密を話してしまった。そのこと自体、第二騎士団長として不適格であると考えるが、議員諸君はいかがか」
議員の間から「異議なし!」という声が次々に飛ぶ。ブレントは追い詰められたねずみのように、ぶるぶると身体を震わせるしかなかった。




