騎士団長をクビになる 1
話は四日ほどさかのぼる。
「団長、起きていらっしゃいますか?」
ブレントはドアを激しく叩く音で目を覚ました。いつものように第二騎士団の詰め所、団長用の寝室で眠っていたのだが、起きると同時に激しい二日酔いを感じて、不機嫌になった。
「何だ、こんな朝早くから」
ドアを開けると、部下の一人が青い顔をして立っていた。
「貴族院から召喚状が来ています。すぐさま出頭せよ、と」
「貴族院から?」
さすがのブレントも驚愕した。貴族院の召喚状で騎士団長が呼び出されるというのは、他国が進軍してきたか、国王が外征を決断したか、どちらかしかありえない。
(国王陛下が、外征を決められたとは思えない。まさか他国が?)
慌てて部下に手伝わせ、騎士団長の正装に着替える。帯剣しようとして、剣が少し刃こぼれしていることに気づいた。いい加減に扱っていたせいだろう。
(アデレードが気づきそうなものだが)
舌打ちしたい気分になって、ここしばらくアデレードの顔を見ていないことに気づいた。最後にやってきたのは一週間少し前だろうか。晩餐会を開く、と招待状をよこした前後だった、と思う。
晩餐会には、両親からも「必ず出席するように」と伝言が来ていたが、ミミを優先した。もう少しでミミが口説き落とせるのだ。アデレードに構っている暇はなかった。
(しかし、他国が進軍してきたとなると、厄介だな)
国境近くで迎え撃つことになれば、当分王都には帰れない。ミミにも会えなくなってしまう。いっそ金を払って同行させようかと考えつつ、まだ痛む頭を軽く振って、詰め所の建物を出た。愛馬にまたがり、貴族院の建物を目指す。
貴族院は、重厚な石造りの建物だった。すでに議員たちは議場に集まっているらしく、馬車寄せには警備に当たっている兵の姿しか見えない。ブレントは召喚状を取り出して、兵に見せた。
「第二騎士団長、ブレント・フィリップ・へレンズだ。この召喚状によって貴族院議会に出頭する」
ブレントは貴族院に召喚されたのは初めてだった。兵は召喚状を見ると「お通りください」と敬礼した。だが、その顔にかすかな嘲笑が浮かんだのをブレントは見逃さなかった。
(なんだ……? 警備兵ごときが、俺に向かってにやにやするなど)
騎士であれば、殴りつけているところだ。だが警備兵は管轄が違うので、うかつに手を出せない。
(まったく、教育がなっていないぞ)
貴族院の建物に入ると、役人が近寄ってきた。
「第二騎士団長のへレンズ様でいらっしゃいますね。どうぞこちらへ」
コツコツと足音を立てながら廊下を進む。控え室に案内されるのだろうと思っていたら、議場に通じる大きな扉の前にそのまま連れていかれた。当惑しているブレントをよそに、警備兵が扉を開く。
「お進みください」
役人に連れられて、議場の中を進む。貴族院議員たちは「やっと来たか」と言わんばかりの表情で、ブレントを迎え入れた。最前列に近い場所に座らされる。
当惑しながら議場を見回していると、一人の貴族が壇上に上がった。
(あれは、アデレードのいとこの……。ヘンリーと言ったか)
「アイルズベリー侯爵、どうぞ」
議長が重々しく呼びかけると、ヘンリーは頷いた。
「お集まりの諸君。大変お待たせした。第二騎士団長が到着したようなので、議事を再開させていただく」
どうやら貴族院は、ブレントの到着を待っていたらしい。
(……もしや他国の兵が、すでに国境を越えているのだろうか)
二日酔いで寝込んでいる間に、他国の侵攻を許したとなれば由々しき事態だ。ブレントが顔を青くすると、ヘンリーは言い放った。
「先ほども申し上げたように、緊急動議である。……第二騎士団長の罷免を、この場で採決したい!」




