↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたとまたもう一度逢えるなら  作者: 雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/8

(三)



「は…………?」


 腰に手を当てて得意げに話す神様の言葉を理解できず、思考が一瞬停止した。


(なん、だって……? ここには、いない? 異世界? 送り届けた……?)


 断片的な言葉が頭の中でぐるぐると回っている。

 その中で一つだけ、中心で留まっている言葉があった。


 確証が欲しくて口を開くが、喉が張り付いてしまったかのように声が出ない。

 聞いてしまえば、後戻りできなくなる。

 知りたかったことなのに、いざとなるとどうしても尻込んでしまう。


 池の底についた手に力を込めると、ぬるりとした感触が伝わってきた。

 木々が揺れる音だけが響くなかで、自分の心臓の音が嫌に大きく聞こえる。


『生きてますよ』


「え……?」


『夏海サン、でしたっけ? 生きてます』


 いっそ緊張感さえ孕んだ空気を、先程と変わらぬ神様の声が一瞬で破壊した。

 とても人の生死についての言葉だとは思わず、理解するのに数秒を要した。


 夏海が、生きてる。


 目の前の存在は、確かにそう言った。


 真偽はわからない。

 異世界の存在も、わからない。

 けれど、目の前の存在を否定することができないのも事実だ。

 それなら俺は、信じたい。


「はぁー……、よかった……」


 吐息と一緒に吐き出した言葉は、自分で思っていたよりも弱々しいものだった。

 張り詰めていた神経が、力が、ふっと抜ける。そのまま地面に身体を預けようとして、まだここが池の中であることを思い出した。


 それと同時に、ぶるりと身体が震える。

 凍死するほどでないとはいえ、ずっと浸かっていれば流石に寒い。

 それでも、まだここを離れるわけにはいかない。

 風邪を引く覚悟で、神様に向き直った。


「あの――」


『無理ですね』


「えっ、俺まだ何も言ってな――」


『思考を読み取っているので声に出さなくても問題ありません』


 現実離れした発言に、理解するのが一瞬遅れる。とはいえ神様ともなればそんなこともできるだろう、と早々に納得した。

 ただ、色々筒抜けだったことはちょっと、いや、かなりいたたまれない。


(この歳で泣きそうになったとか、知られたくなかった……!)


 神様が全く気にしていなさそうなのがせめてもの救いか。


『それ程切望されては私としても叶えてあげたいのですが』


 若干気にされていた。


『残念ながら彼女をこの世界に戻すことはできませんし、あなたをすぐに異世界へ送ることもできません』


「なっ……! なんでですか!? 神様ならなんでもできるんじゃ……」


『そこまで万能ではありません。異世界への道は一方通行でどうすることもできませんし、頻度は最低でも十年に一度と決められています』


「そんな……」


 どんなに早くても会えるのは十年後……?

 生きていた喜びが、急速に萎んでいく。

 一生会えないよりはマシ、と思えればよかったのだが、一度芽生えたものは、簡単に消えてくれない。


(――今すぐ、逢いたい)


 小説で得た知識を活用して何か方法がないか探すも、口に出す前に神様によって一蹴される。

 それを何度か続けた後にふと思った。


「そもそも、夏海はなんで異世界に……? 池に入ったから、ですか……?」


 思えば最初に池に入ろうとした時、神様に止められた。

 この池が異世界に通じる入り口で、今は閉じてあるのだとしたら納得がいく。


『半分正解ですね。確かにこの池が入り口ですが、無差別に送っているわけではありません。彼女にもきちんと説明した上で望まれました』


(望んで異世界に……?)


 なんで、と思考を巡らせようとして気付いた。

 十四年前、あいつがいなくなったのもこの池だ。

 まさか――


『そうです。あの時送った小さな彼に逢いたがっていました。あなたのように』


 頭を、バットで殴られたような衝撃に襲われた。

 あいつを追って異世界に? もう二度と、こっちに戻れないとわかってて?


 俺の存在は、足枷にもならなかった?


 血の気が引いていくのが、自分でもわかった。

 座っていなかったら、倒れ込んでいただろう。


 ぐらりと揺れる頭を膝に預けた。落ち着け、と自分に言い聞かせながら深く息を吐く。

 これは、当然の報いだ。


 夏海の行動に意見など言えるはずかない。

 俺ができるのは、異世界に行ったことを後悔することなく幸せに過ごせるように、祈ることだけ。


『あ、ありました』


「え?」


『こちらに戻って来る方法、一つだけありました』


「え!?」


 唐突な発言に、驚きよりも嬉しさが勝った。

 会えるのならば、すぐにでも逢いたい。

 だが、夏海の意志で異世界へ行ったのに、俺の意志で連れ戻すなんてことはできない。


 夏海がここに戻ってくるのではなく、俺が異世界へ行けるのであれば、すぐに行くことを決意しただろう。

 喜びもすぐに苦いものへと変わり、奥歯を噛み締める。


 そんな俺の様子を全く気にすることなく、『すっかり忘れていました』と言いながらその方法について話し始めた。


『まず初めに言っておきますが、成功する可能性はほぼゼロです』


 可能性がゼロと言われて、逆に安心した。気軽にできてしまえば、聞いた後十年も我慢できる自信はあまりない。


『ポイントは二つあります。まず一つは、彼女が出口に居ることです。ですが目的があって異世界へ行ったのに、留まっていたり戻って来ることなどないでしょう』


 そこで一度言葉を切り、ふわりと近づきながら人差し指を立てた。


『それだけでも難しいのに問題はもう一つです。本人がこちらに戻りたいと思っていなければいけないので、どう考えても――』


「やります」


 独り言のような呟きは、ほとんど無意識に口から零れていた。


 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。