-Episode45-
「な、何……?」
一度に与えられた情報が多すぎて、僕の頭は一度思考停止してしまった。僕が何もせず、その場でぼうっとしていると、
「……久しぶり、だね」
ついさっき現れた黒髪のツインテール、杣が僕に話しかけてきた。
「ん? あんたたち、知り合いだったの?」
その言葉に反応したのは僕ではなく舞だ。僕は何も返せず、口をもごもごさせる。さっき、舞はなんて言った? 今、張本人――怜の存在を周りから認識できないようにさせ、彼女を孤独にさせた張本人だと、言った?
「今、なんて……?」
僕は混乱したまま、質問をしようとする。口を開きかけた舞を、杣が制止する。
「私が、怜を孤独にさせた張本人、だよ」
彼女は僕の目を見て、まるで見え透いているかのように答えた。彼女の目を見ているだけで、吸い込まれそうになる。
「ど、どう、して」
やっとのことで、それだけ絞り出す。彼女の言ったことが事実かどうかは分からない。しかしそこを聞くのは無意味に思えたし、それ以外に聞けることは彼女がそうしようとした動機しかなかった。少なくとも今の僕の頭の中に浮かんでいる考えの中では。
「一言で言うなら……彼女以外を、救うため」
怜以外を、救う? 僕が何を言っているのか分からないような表情を浮かべると、杣はまた口を開こうとする。今度は舞がそれを制止した。
「今はそこを議論している場合じゃないでしょ。あたしが杣をここへ連れてきたのは、彼女にやって欲しいことがあったからよ」
杣にやって欲しいこと。大体想像はついている。
「分かってる。私が怜にかけた『呪い』を解除すればいいんだよね?」
杣はどこか自虐的な笑みを浮かべ、僕の想像にあったことを言う。
「『呪い』……解いていいんですか?」
あまりにも自然に怜にかかった「呪い」というのを解こうとする呪いをかけた張本人に、僕は不自然さを覚えて尋ねる。
「実際、彼女に呪いなんてかけたところで、成果は何一つなかったから」
返答は、こうだった。彼女に呪いをかけても、望んだ結果は得られなかったらしい。もし彼女が杣でなかったら、僕は彼女を責めていただろうし、もしかしたら手を上げていたかもしれない。しかし、どうしてか、僕には彼女を責められない。今彼女が呪いを解こうとしているから? そうじゃないことは、なんとなく分かる。けれどその根っこの部分、僕がどうして彼女を責められないのかが、分からない。
「それにしても、怜に内緒でここに来なくちゃいけなかったのには、何か理由があるんですか?」
こんがらがった考えを煮詰めても、ろくな回答は得られない。僕は一度思考を切り替え、別の質問にシフトする。この質問には舞が、
「呪いを解いてくれる条件に、あんたが一人でここに来るって言う条件があったのよ。たしか、成果がなかったことを確認するため、よね?」
そう答え、杣の方を見る。杣は頷いて、レンガの壁によりかかった。
「あの呪いは『誰にも存在を認知できない』ことが重要だったからね。一人でもその存在が認知できれば、成果は零」
彼女は壁によりかかったまま、溜息を吐くように言う。
「えーと……話が見えてこないんですが」
ゆっくりと頭の中を整理しても、狐につままれたような気分になるだけだった。
「そうね。まぁ内容としては杣が呪いを解いてくれるってだけよ」
僕の一言に、なるべく分かりやすくしたらしい説明を舞がしてくれた。
「そんな話……都合が良過ぎるような……」
こんなのはまるで、一位に向かって努力していたのに、僕以外の人間が全員棄権してしまったようなものだ。目標は達成されるはずなのに、しこりが残ってしまう。
「そんなもんよ。この魔法だって、都合の良い代物じゃない」
舞はそう言って、右手から炎を出す。確かに、無から有を作れるなんて都合が良過ぎる。が、そういうことじゃないんだ。
「朔君、私は君がそういう性格だって知ってる。自分のした行動には何かしらの意味があるはずだって疑わない。その努力が報われないと自分自身の存在さえ意味のないものだって思いんでしまいそうで、どうしても納得できないってことを知ってる。だから言わせてもらうよ。今回、君が怜の存在を認知しているって、夏休みの半分をかけて証明してくれたんだよ。つまり、君のおかげで、怜は救われる」
ほんの数回しか会っていないはずなのに、杣は僕の心の内を見抜いて話をした。もしかしたら、僕が彼女を責められなかったのは、こういう所が彼女にあると、無意識に気付いていたからなのかもしれない。
「でも……まだ、この出来事には謎が多すぎるよ」
ただ、僕の頭はまだ納得していなかった。弥奈を襲ったあの少年、僕と優奈と弥奈にだけ見えた理由、色々明らかになっていないことが多すぎる。
「君が今何を考えているかもなんとなく分かるよ。……でも、そっちには何も答えられない」
杣は目を閉じると、何か言葉を呟き始めた。こうして、怜の呪いはうやむやの内に解かれていった。




