-Chapter27-
「なぁ杣、さっきの舞の言った言葉、分かったか?」
俺は戦闘を歩く舞に聞こえないように、そっと杣の方に寄って聞いてみる。彼女はちらとこちらを見て、
「なんとなく。最後の方に変わらないって言ってたけど」
そう答えた。どうやら杣も明確な発言は聞き取れなかったらしい。俺は少し残念に思いながらも、舞の後を追った。――ちょうどそのとき。
「おう! 舞殿ではないか! 実は某、ここに迷い込んでな……ぬん!? そこに居るのは迅! まさか我と決闘しに来たのか!?」
聞き覚えのある声が、近く――というかすぐそばから聞こえてきた。
「な、なんでお前が……!?」
俺は驚きのあまりそんな声を上げた。なんで満がここにいるんだ? あの黒い奴に取りつかれているような様子はないが……。
「何、某は舞の忠実なる……下僕、ではないな。いや、部下? 違うな、同盟、同志、同族……そうだ! 分かった! 某は舞の友人だ!」
いろいろ迷った挙句、友人という平凡な位置に落ち着いたようだ。
「はぁ……」
舞は深いため息を吐く。どうやら、舞も彼のことをあまり快く思っていないらしい。
「ぬ? どうしたのだ舞殿? もしかして何か嫌なことでもあったのか? それならば某の胸を貸そう! 某の胸の中で泣くが良い!」
満はよく分からない解釈とともに、珍妙な発言をしていた。
「何言ってんのよ。馬鹿じゃないの?」
舞は呆れたように言うが、満には全くこたえていない。彼にはどんな説得も通じないような気がしてきた。――それに加え、あの怪力じゃ、誰も彼を従えたり命令させたりは出来ないんじゃないのか……? 彼は何か行動を起こすたび建物を破壊していくので、もし彼が犯罪に手を染めたら、彼を止められる人なんて――。
「ふふふ、照れなくてもよい! 某の心は海よりも広く、大地よりも――む、大地よりも、何だ?」
彼は妙なところで考え込み、頭を悩ませていた。
「どうでもいいでしょそんなの……とりあえずなんであんたがそこに居るのか教えてもらえないと困るんだけど」
舞はあまり関わりたくはないが、仕方なく話しているように感じていた。
「むん? そうだな……迷った! それだけである!」
すごくこざっぱりした回答だった。迷った……それだけでここにいるというのもすごいが、さらに今の今まで無事であったこともすごいと思う。なんせあの黒い奴等から襲われないほどの強運か、奴らを倒せるだけの力があるということなのだ。おそらく後者だと思うが。……彼の体格を見る限り。
「……はぁ」
舞は溜め息しかつかなかった。
「それよりも迅、決闘をするのではないか!? 某はいつでも準備が出来ているのだぞ! さぁ、決闘をしようか!」
……彼は人の話を聞かないのか。俺はやり場のない気持ちをどこへやればよいのか分からず、深く溜息を吐いた。
「――正直、今決闘をするのは控えてほしいのだけれど」
ふと、今まで何も言ってこなかった杣が、満に話しかけてきた。
「むん? それはなぜであるか……ああ、なるほど! さては貴様、某と迅の決闘を観戦したいのであるな?」
どこをどう解釈したらその答えが出てくるのか、俺には全く理解できなかった。
「え、いや、そうじゃなくて……」
杣もその答えは予想していなかったらしく、戸惑いながら返事をする。
「がっはっは! 任せろ! 某と迅の決闘はいつでも観戦可能であるぞ!」
そう言った瞬間、俺の脇腹が抱えられるような感覚を覚える。……ふと横を見ると、杣も同じように抱きかかえられていた。
「え、ちょ、ちょっとこれ……」
果てしなく嫌な予感がして、俺は必至で腕の中から逃れようとする。……ただ、彼から逃れるとするなら、それはきっとプロレスラー以上の腕力と、短距離走者並みのスピードがなければ駄目だろう。
「……これ、どうしようね?」
杣は冷静に俺に話しかけてくるが、多少焦りのようなものが見え隠れしている。こんな状況で冷静でいられる杣は十分すごいと思うが。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
今まさに跳び立とうとした満に、舞は声をかける。
「む、どうした?」
満はしゃがんでいる状態から膝を上げ、舞の言葉に反応する。
「今からあたしはそいつらと一緒に大事な用事を果たさなきゃいけないの。だからあんたと決闘している暇は――」
言葉の途中で、急に満が、大声を上げた。
「そうだ! 某、今日は大事な用事があるのであった! すまん、迅、決闘はまた今度にしよう!」
――と言ったものの、彼は俺たちを抱えたまま、しゃがみ、足に思い切り力を入れた。
「ちょ、まっ……!」
俺と杣は、呆れ果てている舞と、何が起こったのかさえまだ把握できていない弥奈さんを残して、上空に跳んで行った。
「さぁ、某と迅の決闘場へいざ行かん!」
俺と杣は満のそんな掛け声とともに、空を跳んだ。




