-Chapter26-
「へぇ……こんなところがあったんだ……」
裏通りに着くと、朔は興味深そうに周囲を見渡した。俺もこの場所を知らないと印象づけたほうがいいのだろうか。素直にこの場所の感想を言えばいいか?
「随分薄暗いんだな。まだ昼だぞ?」
俺がそう言うと、ちらと怜が俺のほうを見た気がした。……いや、彼女は周囲を見渡しているだけか。ん、今彼女が何か見つけたみたいだが――。
「で、ここでさっきの黒いのを見たぬふぅ!?」
朔がそこまでいった所で、怜が朔の襟首を引っ張る。下手をすれば首が絞められかねない状況が発生し、俺が慌てて止めようとするが、
「朔君見て! 今猫ちゃんいた! ほらこっち見て……あ、逃げた! 朔君追いかけるよ!」
怜は半ば暴走し、俺たちを置いてけぼりにしてどこかへ行ってしまった。
「な、なぁ……大丈夫なのか? あの二人」
俺がそう言うと、
「まぁ、いいんじゃない? むしろあの二人にあたしたちの関係を気取られるのが嫌で初対面のふりをしてただけだし、好都合かもね」
舞はそう言いながら、先へと歩いていく。……この裏通り、なんだか嫌な予感がするんだよなぁ。何か得体のしれないものが潜んでいるような……。
「近づいて来てる。どうするの、舞?」
杣がそっと舞の方を向いて言った。近づいて来てる……一体何が?
「そう。じゃあちょっと前に行ってて」
舞は特に取り乱す様子もなく、立ち止まってそう言った。一体何が起こるのかと思い、舞の前に出てから後ろを向くと、そこには――。
「な、ん、だコイツ!?」
人と形容していいものなのか、全く分からないものが、そこに立っていた。黒く淀んだものが人の形を形成しているような……。奇妙かつおぞましいものがそこにいた。
「あんまり大声出さないで。集中できないの」
俺が叫び声を上げたことを、舞は注意した。いや、他の皆も驚いて……。そう思い他の皆を見渡すと、杣は全く動じることなく前を歩いていて、弥奈は驚きすぎて半分気絶していた。……声を出していたのは俺だけか。
「す、すまん……」
俺が誤っている間に、舞の周囲には、炎の球がいくつも集まってきていた。
「数は一体……なら問題ないわね」
舞はそう言うと、その黒い何かに向かって炎の球を何発もぶつけていった。それは断末魔のような叫び声を上げ、その場に倒れ込む。炎が消えると、そこには黒い染みのようなものが残っていた。
「今のは……一体……?」
俺がそう聞くと、
「裏通りにはああいう変なのが出てくるのよ。最初は驚いたけど、この魔法で倒せることも分かったし、もう慣れたわ。」
舞は小さく溜息を吐きながら言った。俺だったら、絶対にこの光景にはなれないと思うけどなぁ……少なくともここに一年以上住んでいない限りは。
「正直、今はもっと厄介なのがいるし……」
そう言う舞の表情は、黒い何かを目にしたときよりも、疲労がたまっているように見えた。彼女をそうさせるだけの人とは……。そこまで考えを巡らせたとき、あの黒い異形に一つ、刀祢の周囲に発生した黒い渦との共通点を見つけた。
「なぁ、もしかして……あの黒い渦って、奴等から発生したのか?」
俺が舞に聞くと、
「――少なくともあたしはそう考えてるわ。そう思ったってことは、気付いたのかしら?」
彼女も俺と同じ考えであることを示した。……やはり、俺の着眼点は間違っていなかったのか。
「ああ。あの黒い奴……足元に、かすかだが何か渦巻いていたんだ。あの渦に飲み込まれた奴は、皆ああなるのか?」
俺は見つけた共通点を舞に話し、彼女の意見を尋ねてみる。
「あんなふうに異形に変化するだけじゃないとは思うけどね……。それに、あたしが見たのは、それだけじゃないのよ」
舞がそう言うと、一呼吸おいて、
「実はあの少年――刀祢だっけ? 彼があの黒い渦に飲み込まれる場面を、あたしは見たの。その翌日に、彼がファミレスを襲撃したの。……多分、彼は黒い渦に飲み込まれたとき、彼の内面があの黒い何かに浸食されたんでしょうね」
彼女なりの見解を話してくれた。それを聞く限り、舞は彼の状況をよく知っているらしい。……ならばなぜ、あのとき容赦のない尋問を彼にしたのだろう? 俺がそのことを聞いてみると、
「もしかしたら黒い何かが内側に潜んでいて、隙を見せたら外側に現れてあたしたちを襲いかねない、なんて可能性もあったから」
舞は隠す様子もなくそう話した。まぁ、俺もあんな奇妙な存在が刀祢の中に隠れていたら俺も警戒する。すこしやりすぎではあったが。
「――どうせ、死んでもあんまり変わらないし」
ふと、彼女が何かを呟いた気がする。少しだけ物騒な言葉が聞こえてきたので、俺は顔をしかめて彼女を見る。彼女は俺の方を一瞥すると、視線をそらして歩き始めた。
「とりあえず、ここにあの少年――刀祢が潜んでいるかもしれないし……急いで探しましょ」
彼女はそう言うと、先陣を切るように前を歩いて行った。




