-Chapter15-
俺は図書室を回り、手ごろな本を探す。図書室には何度も通っている、という訳ではないが、俺が読む本は大体自分で買って手に入れてしまう。何か目新しいジャンルに挑戦しようとするときもあるが、そう言うのは当たり外れが大きい。
「お……これは」
俺はたまたまいいものを見つける。俺が毎月読んでいる小説の最新巻だ。この町は都会でないこともあってか、最新巻は売り切れるとなかなか入荷されない。一度入手を逃せば、次に手に入るのは半年後か、一年後か……とにかく長い期間待つ必要があるのだ。それが今、目の前にある。後で買っておくのは当然として、次の巻が発売される前にこれを読んでおきたい。
「これにするか」
俺は小説を手に取って、カウンターに持っていく。
「あの、この本を借りたいんですが……」
俺はフードを被った少女に話しかける。しかし、彼女は俯いたままで返事を返さない。
「あのー、もしもし」
軽く手を振ってみたり、何度か声を掛けてみたりするが、返事はない。一度顔を覗き込もうとしたら顔を逸らされたので、眠っている訳ではないようだが……。
「わ、わた……わた……」
しきりに彼女は何かを呟いていた。何かの呪文――いや、独り言だろうか? もしかしたら考え事に夢中になっているかもしれない。俺はそう思って、雰囲気的に図書室によく行きそうな朔に助けを求めてみる。
「さ、朔、ちょっといいか?」
何か考え事をしていた朔に、俺はカウンターから声を出して呼びかけてみる。
「ん? 何?」
朔は表情を読まれまい、というような表情をして、俺の方までやってくる。先程の考え事もそれなのだろうか。……そのことに関しては、朔は報われないな、と思う。
「本借りるの、手伝ってほしいんだけど」
俺がそう言った途端、朔は何を言っているのか分からない、と言うような表情をした。少し俺を軽視しているような……表情を読まれまいとしたあの表情は一体何だったんだ。
「なぁ朔、割と失礼なこと考えているだろ?」
俺は軽視されたことが不満で朔にそう言う。すると彼は驚き、少し落ち込んでしまった。その後すぐ気持ちを切り替えたようで、何があったのか聞いてきた。
「いや、それが……本を借りようと彼女に話しかけているんだが、返事がなくて」
俺は事情を朔に説明する。すると彼は、
「どんな風に?」
と聞いてきた。言葉で説明するより、実際にやった方がいいだろう。俺はそう思い、借りようとしている本をカウンターに置いて、
「これ、借りたいんだけど……」
と、再びフードを被った少女に話しかける。やはり返事はない。
「じゃあ僕が代わりに処理をしようか? 本はよく借りるから、簡単な本の貸し借りなら、僕でも――」
朔がそう言いながらカウンターに入ろうとしたとき、
「だ、駄目ですっ!」
フードの少女の大きな声が、図書館中に響いた。そのとき顔が一瞬だけ見えたのだが、彼女はひどく赤面していた。……もしかして、人見知りなのか?
「う、うぅ……」
彼女は何か大きな失敗をしてしまったかのように、フードを深くかぶって俯いてしまった。……これじゃどうしようもないな。朔もそう思ったらしく、アイコンタクトでこれ以上の尽力は無理だと伝えてきた。俺が諦めてこの本を立ち読みしようとしたとき、
「――五秒以内に伏せて!」
ふと、杣の、杣らしからぬ声が聞こえてきた。まるで他を威圧するかのような声に、俺は驚き、その言葉に従う。次の瞬間、轟音が図書室内に鳴り響いた。壊れるドア、割れるガラス、穴の開く本棚。風の衝撃でよろめき、地面に伏せた俺が見たのは、ドアから転がり出てきた赤い髪の少女。彼女は、舞によく似て――いや、舞本人だった。
「な……何!?」
ふと、朔が声を上げる。――まぁ、急に非現実的な出来事が起きたのだ。声を上げない方がどうかしている。もし朔が声を上げなければ、俺が声を上げていたかもしれない。
「あ、あんた、どうしてここに……!?」
ふと、舞が朔を見て驚きの声を上げた。――俺の方は見向きもしなかったが、それは一体どういうことなのだろうか。朔を見た後にちらと杣の方も見たような気がするのだが……。
「えっと、僕たちは杣の後を追ってここまで来たんだけど――」
朔は正直にこれまでのいきさつを話そうとする。俺は頭を抱えながら起き上がりつつ、周囲の状況を確認する。全員無事ではあるようだが、おそらく誰も状況を飲み込めていない。――ただ一人、冷静に立っている杣を除いては。
「……なんというか、奇跡ね。これだけの人数がいるのに、怪我人が一人もいないなんて」
舞は驚きながら言う。それは杣が言ったおかげで全員が伏せ、みな何かの障害物に隠れてやり過ごせたからであるが……そもそも、杣はどうやってこのことを知ったんだ? 俺が疑問に思っていると、図書室のドアの方向から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。




