-Chapter12-
「変、っていうか……最近ちょっと調子が悪いのかもしれないな」
さすがに恋人を変だと言う訳にはいかないので、俺は言葉を変えながら怜の意見に同調する。
「だよね! やっぱり変だよね!」
変と俺は言っていないが、怜は大きく頷いていた。
「いや、私もよく分からないんだけどさ、あの杣って子、どこか雰囲気が周りと違うんだよねぇ~。」
怜は日頃から思っていたらしい杣の違和感を俺にどんどん話してきた。アイスにはほとんど口を付けていないが、いいのだろうか?
「そもそもさ、あの子、もとからあんな子だったか疑問なんだよね。いや、朔君も時々おかしくなって変なことを言う時があるけどさ。なんだかそれとは違うような気がするんだよねぇ」
怜は溶け始めたアイスをぼんやりと眺めながら言う。
「うーん……夏休み前なら普段通りだったような気がするんだが……」
俺はそう言ってから、頭を抱える。普段通り? いや、その言い方だとまるで今が普段通りではないみたいじゃないか。少し杣の行動が夏休み前と異なっているというだけで、普段通りじゃないというのは……少し言い過ぎなような気がする。ただ、俺が気付いていないだけで、何か別の見落としもあるような気がしてならないのだ。
「夏休み前、ねぇ。私と朔君が出会う前かぁ」
怜は半分ほど溶けているアイスをまだじっと眺めている。彼女は溶けているアイスの方が好きなのだろうか? ――というか、朔と怜は夏休み中に出会ったのか? おそらく初日に出会ったのだろうが、それにしてはとても仲が良さそうに見えたのだが……。とにかく、今は杣の話をしよう。
「何か原因があるんだろうが……俺もよく分からないんだ。いつも一緒にいるはずなんだけどな」
俺はそう言っている内に、いつの間にか溜息を吐いてしまっていた。杣のことについて、無意識の内に悩み過ぎていたのだろうか。
「まぁま、そんなに意識しなくてもいいんじゃない? 私も朔君一筋だし、杣って子のことはあんまり考えてないしね……まぁ、出来ることなら仲良くやりたいっては思ってるけど」
俺の溜息を聞いたからなのか、怜はそんなことを言ってくれた。俺が怜にお礼を言うと、
「え? 何? 急にお礼なんて……あ! 私のアイスが溶けてる! 一体誰がこんなことを――朔君!」
とぼけたのか、これが彼女の素なのか、今更アイスが溶けていることに気付き、さらにそれを他人のせいにしていた。
「な、何? 今ちょっと杣さんに事情を説明――へぶぅ!」
朔が下に降りてくると、怜は思い切り朔の顔面に氷塊を飛ばした。
「な、何をするんだ! 僕は何もしていない……多分!」
朔は顔面で氷塊を受け地面に倒れるが、すぐに起き上がってそう言った。ほぼ無傷であるところを見ると、うまく加減されているようだ。
「朔君、このアイスをよく見て」
怜は溶けきったアイスを朔に差し出す。
「ん? あぁ、うん、溶けてるね」
朔が目の前の状況をそのまま言葉にすると、
「そう! そしてその犯人は、朔君だぁー!」
とんでもない言いがかりを、怜は朔に突きつけていた。
「はい!? そもそも僕は杣と話をしていたんだから、アイスを溶かすなんてできるわけないでしょ! それにこの暑さなんだから、自然に溶けてもおかしくないからね! 怜がぼぅっとしててアイスを食べるのを忘れたんじゃないの?」
朔が至極真っ当な意見を言う中で、
「ええい静かにしたまえ朔君よ! 朔君がやったことは分かっている! おとなしく投降しなさい!」
怜は何の脈絡もなくテレビの影響を受けたような発言をしていた。
「――ま、魔法を使えばすぐに元通りなんだけど」
怜がそう言った頃には、アイスは確かに冷凍庫から取り出したばかりの状態に変化していた。
「……それならなぜ僕を呼んだんだろう」
朔は溜め息を吐いて、部屋から去ろうとする。
「あ、待って朔君」
怜はそんな朔を引き留める。すると彼女は、持っていたスプーンでアイスをすくい、それを朔の前に差し出すと、
「はい、あーん」
――おそらくこれをやるためだけに朔を呼んだのだろう。そう思わせるくらい満足げな表情で、怜は朔にあーんを求めていた。
「はい、あーん……ってなるわけないでしょ! あ、いや別に嫌とかアイスが食べたくないとかじゃなくて……普通に恥ずかしいし、そういうのは恋人とかでするものだと思うし」
朔の発言に、俺は少し違和感を覚える。朔と怜の仲の良さから見て、二人は恋人だと思っていたのだが、そうじゃないのか? 確かに、怜はさっき朔と出会ったのは夏休み中だと言っていたが……。
「え、それならむしろバッチリじゃない? 私と朔君ってほら、赤い糸で結ばれたカップルだし」
怜は自信満々に言う。……これは俺の推測に過ぎないが、朔と怜の間には、いくらか気持ちの差があるように見える。俺はそんなことを想いながら、二人のやりとりを見ていた。




